第13章 ステロイドの被害は自分自身で防ぎましょう
…実際によくある例
(1)産婦人科で出産すると「赤ちゃんのおむつかぶれに効く」といってステロイド外用薬、それもリンデロんVG軟膏などの強いステロイドが処方」されている場合がしばしばみられます。極端な場合”退院のお祝い”のようにわたされ、この薬は「何にでも効くから」と説明されて、赤ちゃんのおしりや顔にぬって、おしりにカビ(カンジダ)を生やしたり、びらんを生じて皮膚科を受診されます。ただでさえ赤ちゃんの顔は赤いのに、さらに顔が赤くなったり、ニキビ様の発疹を作って来院されます。おしりは治療薬がありますが、顔は何ともなりません。自然にまかせる他ありません。どうか赤ちゃんには極力ステロを使用しないでください。また、乳幼児検診を受けた際、「湿疹」があると、ステロイドが処方される場合が多いので気をつけましょう。
子供の時に軽い皮膚炎があり、思春期にひどく悪化する人は、たいていステロイドの使用歴があります。自分の子供を守るのは親しかできません。決して医者まかせにしてしないで子供が使用する薬は何か関心を未持ってください。
(2)病名がはっきりしないにもかかわらず、医師から「ステロイド外用薬を使って様子をみよう」といわれ、実際に使用したところ、さらに悪化してしまい、しかたなく私の医院に来る患者さんが多いのですが、患者さんへの説明に困ってしまいMす。やはり、現在のところは、患者さん自身の自己責任で医師を選ぶのですから、よく調べてから受診する医師を決めましょう。
(3)多くの皮膚科医院、および多くの外科、内科、産婦人科、小児科などと併記して皮膚科の標榜もしてある医院では、「皮膚病=ステロイド外用薬」と考えて、皮膚炎に炎症(かゆみ、赤み、ブツブツなど)があればみんなステロイド外用薬を処方して、なおられば水虫の薬(抗真菌剤といいます)を処方するという、一定のパターンで診察(?)を行っています。また、皮膚病でも、真菌検査をして菌が証明されないと、実際は白癬でも、真菌検査をして菌が証明されないと、実際は白癬であるにかかわらず、ステロイドが処方されている場合がしばしばあります。
 これはとんでもないことです。なぜなら、病院や医院で使用する薬は市販されている薬より強い薬が多く、さらに悪いことに患者さんは医師を信頼しているからです。
 日本では「医師免許証」さえあれば、「皮膚病」という看板を自由にかかげられるところに問題があります。
 しかも、皮膚病専門医のあいだでもアトピー性皮膚炎などにステロイドを使用するかどうかは、いろいろな考え方があって現在のところ統一されていません。現時点ではステロイドを使用しないというのは極めて少数派です。
(4)”初診の時に処方してもらった薬”の名前を知って、同じ薬を薬局で買って、自分の判断で勝手に使用することは大変です。なぜなら、ステロイド外用薬というのは、使用するとしてもたいていの場合、診察を受けた日からほんの数日間のみしか使用してはいけないからです。医薬分業(院外処方せん)や最近の薬剤情報提供(薬の名前や副作用を患者さんに知らせること)の悪い面ともいえます。
(5)市販薬(薬局で販売されている薬)の中にはステロイド(副腎皮質ホルモン)が入っているにもかかわらず、薬の箱には「ステロイド(副腎皮質ホルモン)外用薬」と書いてない薬がたくさんあります。箱の中の説明書を読めば書いてあると思いますが、小さい字でしかも専門用語で書かれているので、ほとんどの人は読みません。あるいは、読んでもわからないといわれます。
 また、知識不足か故意かはわかりませんが、ステロイドが入っているにもかかわらず、「ステロイドは入っていない」といって販売している薬局もあるようです。患者さんが持参した薬と、患者さんが薬局で買う際に受けた説明から判断すると、実際にそのようなことがあるといわざるをえません。
 つまり、多くの人が「ステロイド」という知識なしにしようしています。最近の薬局はスーパーマーケットのような大型店が多く、昔のように薬剤師から直接説明を受けて買うのではなく、普通の日用品のように買うのが一般的になっています。そして、ステロイドの入った薬も、ステロイドが入っていない薬と同じ所に陳列されていて区別できません。
 さらに驚くことには、ステロイドが入った薬を「アトピー性皮膚炎に良いとか、赤ちゃんからお年寄りまで」という、あたかも”ステロイドは万能薬”のような宣伝がしてある場合もあります。なお、このようなことは日本だけでなくあめりか、ブラジルなど海外でも同じです。
 なぜこのような事態が生じるかというと、[第11章ステロイド外用薬の副作用の出る本当の理由」の所で述べたように、ステロイド外用薬はほとんどの皮膚疾患に使用してもすぐ悪化することはなく、むしろ、”かゆみ”などの自覚症状は、一時的にせよ改善した様に感じられることが多いためです。つまり、副作用はすぐに現われず後から現われてくることが多く、また、”依存症”の性格があるためです。
 ”餅屋は餅屋”ということわざがありますが、あまりにもひどすぎるステロイドの乱用を見たとき、患者さんに思わず言ってしまう言葉です。
 患者さんに「あなたは内科や産婦人科で白内障の手術を受けますか?」…患者さんいわく、「受けません」と。
 それでは「どうして皮膚の病気にはステロイドを使用されたのですか?」…患者さんいわく、「医者がだしてくれたから使った」と。
 私は皮膚科専門医の一人として、いまこそステロイドの副作用を一人でも多くの人に伝える義務があることを痛感しています。


第14章
脱ステロイドについて
 脱ステロイドとはステロイドの使用を中止することをいいます。アトピー性皮膚炎で脱ステロイドを行うにあたって最も重要なことは、他人から勧められた行うのでは成功しないということです。自分自身で情報を集め、自らステロイドを使用したくないという強い決心がなければ成功しません。脱ステロイドに理解のある医師の診察を受けながら行ったほうが良いでしょう。入院が必要な場合もあります。
 仕事によっては休職する必要があります。特にサラリーマンの場合は、衣服やストレス、睡眠不足、付き合い、職場の環境などの関係から、どうしても仕事を休まなければならないことがあります。学生の場合も制服や運動、クラブ活動、ストレス、睡眠不足などの関係から、休学をせざるをえない場合があります。
 内服ステロイド(セレスタミン、ベタセレミン、プレドニン、リンデロン、メドロールなど)を使用していた場合は、急に中止すると副腎機能不全といって、発熱、全身倦怠感、食欲不振、乏尿、ショック状態などの重い全身症状が出て、最悪の場合死に至ることがあり、大変危険ですので、生活習慣の改善を行ってから徐々に減らして行く必要があります。ステロイド外用薬の場合も、体の広い範囲に塗布していた場合や、狭い範囲でも強いステロイド外用薬を使用していた場合には、内服ステロイドのときと同じように徐々に減らして(塗布間隔を空けて)行きます。
 いきなり脱ステロイドを行うと、ステロイドが皮膚炎の悪化の原因になっていた場合は別ですが、一般的にはステロイド依存の状態ですので、リバウンド現象といって、ステロイドを使用していた時よりひどくなってきます。
 リバウンドの経過は個人差が大きいのですが、一般的には、ステロイドを中止して数日または数週間を経て、今まで皮疹が見られなかった部位に、強いかゆみを伴う紅斑、浮腫(特に顔にでやすい)、浸出液、ぶつぶつ、貨幣状湿疹様の丸い皮疹などがどんどん出てきます。ステロイドを塗布していた部位には、猛烈なかゆみを伴う紅斑、浮腫、浸出液、耐えがたい痛みを伴う亀裂、落屑(皮が剥げ落ちること)などの皮膚症状に加え、発熱、悪寒戦慄、倦怠感、発汗異常、乏尿、生理不順、口渇などの全身症状が出る場合があります。皮疹は軽快、悪化を繰り返し、次第に浮腫、浸出液、亀裂はおさまり、紅斑は赤茶色〜赤黒い色素沈着になり、さまざまな大きさの落屑をくり返すという経過をたどることが多く、次第に正常な皮膚または軽度の乾燥や色素沈着を伴う皮膚になって行きます。ステロイドを塗布したこと(何年前でも)がある部位は、浸出液、亀裂、丘疹、落屑、カサカサ、紅斑などの症状が長期に渡って出没する場合があります。頚部などの色素沈着や、顔面の毛細血管拡張に基づく赤みは長年続く場合があります。
 リバウンドの際は、基本的には薬を使用しなくても、早い遅いの差はありますが約3カ月から1年位で安定してきます。どうしても必要な薬というのは意外にも少ないものです。

 次の場合は薬が必要だと考えられます。
@カポジ水痘様発疹症…多発性の小水疱、発熱、リンパ腺の腫脹などが特徴です。痛みやかゆみがあります。通常成人の場合はゾビラックス(200mg)を1日5錠内服します。妊娠や腎機能異常の際意外は特に問題がない薬(まれに過敏症の方があります)ですので、早めに使用してください。重症の場合は入院が必要です。外用薬は水疱蓋が残っていればイソジン液を使用します。水疱蓋がなくなって、びらんになった場合や痛みの強い際は抗生物質の軟膏またはアラセナA軟膏を使用します。

A細菌感染を伴う場合…石けん(シャボン玉石けんなど)を用いて毎日洗うこと、排膿すること、時に消毒療法(イソジン液、ヒビディール液、紫水、強酸性水など)が有効です。培養すれば細菌は検出されますが、それだけでは抗生物質や消毒液を使用する必要はありません。安易に使用すると耐性菌の問題や、皮膚刺激性、自家感作性皮膚炎の誘発などの問題がありますので、必ず医師の診察を受けて使用してください。特にマキロンなどの市販の消毒液はいろいろの成分が含まれているので危険です。皮膚の悪化に伴い、発熱(普通は38度以上)がみられる場合、抗生物質(内服または注射)を使用する場合があります。抗生物質を3日間使用しても改善しない場合は、その薬は変更するのが良いと考えます。使用期間は3から6日間くらいが目安です。細菌感染がある場合は保護・保湿剤は使用しないほうが良いと考えます。

 必須ではありませんが、使用したほうが良いかと思われる役について述べます。
 内服薬を使用するなら、ビタミン(B2、B6,C、ビオチンなど)、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、整腸剤、睡眠薬などです。
 外用薬はステロイドを中止して当面のあいだ(数ヶ月〜数年)は、いかなる外用薬も大変かぶれを起こしやすいので、充分気をつける必要があります。何も塗布しないのも重要な選択肢です(脱保湿・脱軟膏・乾燥ガビガビ療法と呼んでいます。)その理由として私は細菌感染と関係があるのではないかと考えています。軟膏を塗布すると皮膚が傷つきやすいという考え方もあります。
 紅斑、丘疹(湿疹のブツブツ)、汁などの炎症がある部位には炎症を抑える外用薬(亜鉛華、グリパスC、モクタール)などが良いでしょう。亜鉛華の製品はかぶれを起こすことが希なので効果は弱いのですが、安心して使用できます。亜鉛華軟膏(ボチ)、ボチシート、亜鉛華単軟膏(サトウザルベ)、亜鉛華油、亜鉛華でんぷん、アトピー膏(院内処方)、ラ・ワセ(院内処方)、青ボチ(院内処方)などがあります。これらを皮疹によって使い分けます。グリパスCはそのまま使用したり、亜鉛華軟膏やワセリンやアズノールと混合して使用します。患部のかゆみが強く、汁が多く出るなど湿潤傾向が強い場合に使用します。モクタールは亜鉛華軟膏(ボチ)や亜鉛華単軟膏(サトウザルベ)やアズノール軟膏(AZ)やワセリン(プロペト)などと混ぜて使用します。皮疹の湿潤や乾燥に応じて基剤を選びます。貨幣状湿疹様の円形の皮疹や湿潤傾向がある紅斑、丘疹、苔癬化病変などにとても効果があります。今まで何を使用しても改善しなかった人が驚くほど効果があります。また、ステロイド使用歴があっても比較的かぶれにくく、脱ステロイドの際に使用するとリバウンドを楽に乗り切れます。グリパスCとモクタールはかぶれを起こす場合もあります。また、臭いがあり、下着の汚染や日光過敏症などの問題がありますので、さらしや包帯を巻いて、患部の状態をみながら慎重に使用してください。体質に合う場合は塗布したその日からかゆみが減ります。
 細菌感染に対しての外用薬はしばしば有効です。ブツブツ(小膿疱)を目安にアクアチムクリーム、またはアクアチム・ニゾラールクリーム、ゲンタシンクリーム、イソジン液、紫水などを使用します。
 びらんや亀裂、引っ掻き傷にはアズノール軟膏や紫雲膏を使用することもあります。単純ヘルペス感染に対しては軽症ならイソジン液またはアラセナA軟膏などを使用します。カポジ水痘様発疹症では外用は補助です。あまり湿潤傾向がないかゆみの強い紅斑、(落屑)、ニキビ様のかゆみを伴うブツブツに、アクアチム・(ニゾラール)・グリパスCの混合クリームが有効なことがありますが、かぶれる場合も多いので、皮疹の状態をみながら使用します。使用し始めたころは有効に思えても、しばらく使用すると効果がなくなったり、かぶれる場合もあります。判断に迷ったら何も塗布しないほうが良いと思います。特に汁が多い場合や落屑が多い場合は、かえって何も塗布しないほうが早く改善する場合がしばしばあります。なおアンダーム軟膏などの非ステロイド剤は、効果が大きいので基本的には使用しません。
 もし、乾燥に対して保湿剤を使用するなら、リバウンド現象がかなり改善してから(汁も止まり、紅斑や丘疹もほぼ消失してから)、ワセリンやアズノール、馬油などの油性の軟膏は避け、ローション系またはクリーム系の保湿剤が良いでしょう。炎症のある部位や細菌感染があるような部位には保湿剤は使用しません。
 リバウンドの際は、目の合併症やカポジ水痘様発疹症の合併に注意が必要です。まれですが、重篤な合併症に壊死性筋膜炎があります。
 また、リバウンドの際、水分の摂取量が多いと、顔面、下腿から足背にかけて浮腫(むくみ)がでますので、水分量をやや控え目(1日1000ml以内が目安)にしてください。頭部を高くして寝てください。なおリバウンドの際はしばしば低蛋白血症の傾向がみられますので、腎機能に異常がなければ新鮮な魚、卵、牛乳などは充分に摂ってください。アルコールはもちろんのこと、甘いものや刺激物、あぶら(リノール酸)、パン(特に顔面の紅斑、落屑が改善しないことと関係があるようです。)などは避けてください。夕食だけでなく、朝食、昼食にも新鮮な野菜(特に緑黄色野菜)を充分に摂ってください。果物はデザート程度とし、少なめにしてください。また間食を控えてください。リバウンドが早く改善するかどうかは食生活が”鍵”です。タバコも止めましょう。適度の運動(ウォーキングなど)も必要です。
 良くなったり悪くなったりの波はありますが、なるべく規則正しい生活を続ければより早く改善していきます。現在の自分の病状を冷静に受け止め、あせらずに、ある意味では開き直って、いつかは必ず治るのだという自身を持てば、必ず良くなります。プラス思考が大切です。つらくなったら、医師、家族、友人に相談したり、リバウンドを乗り越えられた方の体験談が役に立つでしょう。また、毎日の生活の中に楽しみを見つけてください。子供の場合はしっかり遊びましょう。

第15章
プロトピック軟膏について
 プロトピック軟膏は1999年11月に日本で発売されたアトピー性皮膚炎の治療薬です。プロトピックの有効成分であるタクロリムスは、リンパ球の一種であるT細胞に作用し免疫抑制作用を発現する薬剤で、国内では経口剤および注射剤(商品名プログラフ)が肝移植、骨移植、腎移植などの領域において発売されています。タクロリムスの作用はペルパーT細胞によるサイトカイン産生を抑制するだけでなく、炎症性細胞であることが明らかになっています。これらの薬理作用から、タクロリムスのアトピー性皮膚炎に対する治療効果が期待しえると考えられ、1999年6月、プロトピック軟膏がアトピー性皮膚炎に対して承認されました。

禁忌(次の場合は使用してはいけない)
(1)びらん、潰瘍面(ひっかき傷を含む)への使用
(2)新生児、乳児、幼児、小児(16才未満)の患者
(3)高度の腎障害、高度の高カリウム血症のある患者
(4)妊婦および妊娠してる可能性のある婦人、授乳婦
(5)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
(6)PUVA療法などの紫外線療法を実施中の患者
(7)皮膚感染症を伴う患者

副作用
(1)皮膚刺激感(ヒリヒリ感、しみる、ほてり感、灼熱感、かゆみなど)
(2)皮膚感染症(細菌性感染症、ウイルス性感染症、真菌性感染症)
(3)その他の皮膚症状(ニキビ、皮膚乾燥、刺激性接触皮膚炎など)
(4)皮膚以外の症状(頭痛、頭重感、上気道炎やリンパ節炎などの皮膚以外の感染症)
(5)タクロリムス経口剤、注射剤を投与された移植患者において副作用として腎障害、高血糖、高カリウム血症、胸痛、振戦、感染症などが認められている。特にびらん、潰瘍面(ひっかき傷を含む)に使用した場合には、血中濃度が高くな可能性があるので注意すること。
(6)外国において、本剤を使用したアトピー性皮膚炎患者に皮膚がんが発生したとの報告がある。
以上は、輸入元発売の藤沢薬品工業(株)の添付文書(能書)に基づく説明dす。

 プロトピック軟膏は発売されて日が浅く、現在時点では、ステロイド以上に慎重にならなければいけない薬だと考えます。その理由@皮膚刺激性が強いこと、A皮膚感染症を誘発しやすいこと。腎臓など内臓への副作用が心配なことC発ガン性など未知の副作用の可能性があること、D目の周りに生じる奇異な皮疹の報告があること、などです。
 もちろん、ステロイド同様、一時的に皮膚炎が改善する可能性がありますが、アトピー性皮膚炎の根治的な治療薬ではないこと、中止の際リバウンド現象がみられること、およびアトピー性皮膚炎が悪化した場合に、ステロイド以外で一番有効な治療薬は、抗生物質や抗菌剤や消毒療法などの細菌を減らす薬である場合が多いことを考えあわせると、免疫抑制剤であるプロトピック軟膏はお勧めできません。

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