鍼灸診断

問診
年齢、性別、職業、既往歴、家族歴、現病歴、嗜好、便通、生理等々西洋医学とほぼ同様であるが、東洋医学が証の診断に重点が置かれている故に、患者の自覚症状は、最も重要視される。この中には五味をはじめ、次にあげるような症状の有無に注意する。又、病は必ず経路の異常を伴うため、経路に沿った痛み、しびれ、緊張感等の訴えは特に見落とせない。
 次に、臓腑経路の異常を表わす症状の主なものを列記するが、これ等を適当に問診に組み入れて診断の参考にすると便利である。

1) 木
 「木は胸脇痛、心下満を主とし、春、風、弦、涙、目、青、呼、角、怒、酸、筋、視、燥、握、爪に特徴を現わし、木の流注をよく診る」と言われている。
 
(イ)肝実:怒りっぽく、逆気して時として頭眩、眼球結膜の充血、流涙、腋下から側腹部にかけての痛みや張り。口内が苦み酸味、あるいは口渇。精神不安著しく煩々として安眠出来ない。手足の筋肉の強直、後弓反張、腓腹筋痙攣、耳鳴り、月経不順、陰       部の痛み、肝経にそった痛み等々。

(ロ)肝虚:目がかすみ、視力減退、眩暈、目疲れ、両側側胸部から側腹部にかけて筋攣。うつ症の傾向にあり、いつも人から追いかけられているような不安感。陰嚢が引っぱられるような鈍痛、下腹部が張り、頻尿の傾向にあり遺尿し易い。耳鳴り、立ちくら       み、気力減退、性欲減退等。

(ハ)胆実:頭痛、特に側頭痛、頭重、発熱、発汗、口中の苦味。舌が粘り、赤黄の舌苔、酸水の嘔吐、鼓腸、怒り易く勇敢。不眠又は好眠、眩暈、耳鳴り、胸腹側痛等。

(ニ)胆虚:溜息をつき、手足の脱力感あり、目に力が無く、物がかすんで見える。眩暈ありよろめく。球結膜に黄疸、顔面に汚い色素沈着、不眠。力無く煩悶(もだえる)する。舌は白滑で粘るか淡紅。舌苔は少ない。


2) 火
 「火は身熱を主とし、夏、熱、暑、洪、汗、舌、赤、笑、言、徴、喜、苦、血脈、歩、焦、憂、面に特徴を現わす。 火の流注をよく診る」。

(イ)心実:狂気のように譫語し、顔面赤く、火が燃えるような訴え、時として喜笑して止まない。火の経路が痛み、特に心胸部が針で刺されるように痛む。微熱あり、尿の色は黄赤。吐血、鼻出血、口渇、四肢重く、大便不利。口苦く、舌が赤い。

(ロ)心虚:不安著しく憂愁で驚悸、恐怖の夢多し。睡眠不安、健忘、心中騒然とし側胸部から背部にかけてひきつれて痛む。盗汗等。

(ハ)小腸実:腹痛、特に下腹部痛、あるいは腰背部へ睾丸が引きつけられるように痛む。排尿すると気分が良い。胸苦しく、咽喉痛あり、口中に可能性疾患を生ず。頸が腫れて痛み回わせない。舌は黄で周辺部は赤。

(ニ)小腸虚:偏頭痛、特に後頭部、耳後部痛。耳鳴り、排尿は頻回で不利。舌は薄白。


3) 土
 「土は体重筋痛を主とし、土用、湿、緩、涎、口唇、黄、歌、宮、思、甘、肌肉、坐、香に特徴を現わす、土経の流注をよくみる」。

(イ)脾実:筋肉痛、特に下肢の筋肉痛。脱力、筋肉萎縮、萎えて起立出来ない。胸胃部に膨満感あり。腹痛時に臍周囲の間歇的腹痛。皮膚は黄色がかり時に下痢、嘔吐。

(ロ)脾虚:下痢、腹痛、鼓腸、嘔吐著しく、力無く四肢の運動のままならず、唇・皮膚は乾き、疲れ著しいために臥位を好む。四肢が冷え、食物に味がない。

(ハ)胃実:心窩部膨満し痛み、胸やけして止まず、食欲旺盛で肥満。顔面がほてり鼻出血、歯根の腫脹、上歯痛、舌は赤く厚い。特に飲食少なくしてしかも肥る。

(ニ)胃虚:体・腹が冷、下肢特に脛骨外側部が冷える。腹痛、食欲減退著しく四肢が疲れ易い。胃部が膨張し、胃液を吐き、しゃっくり、舌は白滑で舌苔は淡い。


4) 金
 「金は喘咳寒熱を主とする。秋、燥、浮、毛ショク、涕、鼻、白、哭、商、悲、辛、皮、伏、腥、咳、毛を特徴とする。金経の流注を診る」。

(イ)肺実:発作性の咳をして上気する。同時に肩背痛、側胸痛あり。咳に粘稠性の痰を喀出し、時に膿性痰を出し、なま臭い悪臭。咽喉痛。鼻出血等。

(ロ)肺虚:慢性の気管支喘息、呼吸困難、慢性の咳嗽、痰は少なく白い。身体が冷たく、冷汗・盗汗をかく。両頬は紅色で色白、声がかすれて痩せる。舌は淡く薄い。

(ハ)大腸実:痔疾、腹膨あり、下歯痛、鼻出血、咽頭の乾燥感、面疔等顔面の急性下痢、裏急後重、時として便秘、膿血便。舌は黄色で乾燥。

(ニ)大腸虚:慢性下痢、肛門脱出、腹痛、腹鳴、腹部膨満あり。但し腹部は柔軟。四肢の厥冷、下歯痛、舌は白滑。苔は少ない。


5) 水
 「水は小腹痛み逆す。冬、寒、沈石、唾、耳、黒、呻、羽、恐、驚、骨髄、志、立、腐、慄、髪を特徴とす。水経の流注を診る」。

(イ)腎実:体全体の浮腫。盗汗をかき、顔色浅黒い。腹部膨満感あり。下痢。胸騒ぎがして恐れる。生殖器痛あり、足底部の燥感。

(ロ)腎虚:腰・背部・下肢が冷え、顔面頭部は逆にのぼせる。疲れ易く根気が続かず物音等に驚き易い。精力減退、インポテンツ、精液精子少なく記憶力低下。声がかすれ、舌下咽喉痛。顔面はどす黒く下眼瞼が黒紫色。

(ハ)膀胱炎:頭痛、後頭痛、項背痛、眼痛・流涙等眼疾患。癲癇、発熱、頻尿・排尿痛等急性膀胱炎症状。尿路結石、下腹部痛等。

(ニ)膀胱虚:腰痛、下肢後側痛、肩こり、後頭痛、背腰下肢の冷え。冷えからくる婦人の頻尿及び排尿痛等。


6) 心包経と三焦経
 「心包経は心に同伴するもので相火と言われ、心にほぼ同じと考えてよい」と言われているのでここでは略す。

(イ)三焦実:顔面頭部の煩熱、著しい発汗、耳鳴り、難聴、後頭痛、耳後の腫脹・痛み。胸部膨張感あり呼吸が荒く短い。腹部膨張、舌が乾き、大小便不通等。

(ロ)三焦虚:精神不安定で物事が手につかない。音声が出にくい。呼吸困難、呼吸微弱。腹部が冷え、腹痛、水様性下痢あり腹部圧迫されるのを好む。



月経困難症
 月経時の随伴症状としての障害、とくに疼痛が強く日常の作業を妨げるような程度を月経困難症という。この分類は種々あるが次のような分け方もある。
〈原因〉
 (1) 機能性月経困難症・・・・・子宮発育不全などのために子宮腔が小さく、または子宮筋の発育が不良であるために伸展性に乏しく、月経血が一時に貯留するために子宮壁が強く拡張されることが原因という考えもある。
 (2) 機械的月経困難症・・・・・子宮口の狭小、子宮口の癒着、頸管の狭窄、子宮の強前屈、後屈、子宮内腫瘍などのばあいに、月経血の流出が妨げられて起こる。これは全く機械的な血液流出障害を意味する。
 (3) 神経性月経困難症・・・・・神経質の婦人、ヒステリー性の婦人、そのほか感受性の強い人に多い。月経初潮の頃に受けた性的無知による月経来潮に対する恐怖心、などが潜在意識となって、月経困難症を招致することもあるといわれている。
 (4) 模様性月経困難症・・・・・通常月経時に剥脱した子宮内膜は、細片となって融解せられて子宮外へ血液とともに流出するものであるが、まれにこの内膜が融解されないで原形を保ったままで、または大片として排出されることがある。この際、しばしば                    激しい下腹部痛をともなうものである。
 (5) 炎症性月経困難症・・・・・子宮内膜炎、子宮筋層や附属器などの炎症、卵管や卵巣の膿瘍、骨盤腹膜炎や骨盤結合織炎といった炎症によっておこる。
 (6) 腫瘍性月経困難症・・・・・子宮筋腫、附属器腫瘍、子宮壁内の子宮内膜症などによっておこる。

〈症状〉
 疼痛は下腹部痛が最も多く、次に腰痛である。陣痛様あるいは痙攣性または発作性の痛み、鈍痛などもある。また疼痛の程度も種々であり、一定していない。多くは月経前12〜24時間前からくる。機能性のものは月経初日か2日目で症状は軽快するが、それ以外のいわゆる器質的月経困難症では月経修了まで疼痛が持続することが多い。

〈治療〉
 原因療法を第一とし、対症的に治療してゆく。つまり、たとえば腫瘍に対しては外科手術的に、炎症性のものは消炎療法というふうにである。

〈針治療〉
 除痛、止痛効果としての針治療は極めて効果的である。定期的に行えば予防としても効果がある。

*針刺点
 背面・・・・・上リョウ(膀胱経) ○次リョウ(膀胱経) ◎腎兪(膀胱経) ○大腸兪(膀胱経) 志室(膀胱経) 
 腹部・・・・・水道(胃経) ◎関元(任脈) ◎中極(任脈) 
 手(内)・・・・・尺沢(肺経) ○孔最(肺経)
 足(内)・・・・・築賓(腎経) ◎三陰交(脾経) 復瘤(腎経)
 足(外)・・・・・三里(胃経) ○金門(膀胱経) ○崑崙(膀胱経)
 (耳) 子宮、交感、内分泌、神門


過少月経と稀発月経
 過少月経とは、月経の周期が正常であっても、毎月の月経出血量が少ないものをいう。また月経周期の異常に長いものを、稀発月経というが、ともに卵巣および子宮内膜の機能低下によって起こるとされている。
〈原因〉
 原因として、卵巣および子宮の発育不全、小児様体質、脂肪過多、栄養障害、貧血、結核、伝染病、内分泌疾患、全身衰弱などがある。ハリがとくに効を奏する場合、その原因として精神作用によるものや慢性的な冷え症によるものが多い。ここでいう精神 作用は東洋医学的な考え方で、大脳皮質より間脳を経て、脳下垂体あるいは卵巣に精神作用が伝達されて、それが月経に影響を及ぼすというものである。
〈治療〉
 それぞれの症状に応じた原因治療をする。たとえば貧血の患者には貧血の、あるいは栄養改善の処置をほどこすなど。また卵巣機能および性器発育不全の患者には種々のホルモン療法が試みられている。
〈針治療〉
 東洋医学的立場から、次のような部位に施針するが、これも経験および患者の個人差に合わせて、有効なツボを選んで治療すべきである。

*針刺点
 手(外)・・・・・合谷(大腸経)
 腹部・・・・・曲骨(任脈) 大巨(胃経) ○中極(任脈) ○関元(任脈) 竜門(奇穴)
 背面・・・・・○肝愈(膀胱経) 関元愈(膀胱経) ○次リョウ(膀胱経) 長強(督脈)
 足(内)・・・・・崑崙(膀胱経) 陰包(肝経) ◎血海(脾経) ○三陰交(脾経)
 腰部・・・・・○腎兪(膀胱経) 志室(膀胱経) 
 足(内)・・・・・地機(脾経) 照海(腎経)
 (耳) 子宮、腎上腺、卵巣、内分泌、腎


頻発月経と過多月経
 頻発月経とは、周期が異常に短い月経であり、また過多月経とは異常に生理出血量が多い月経をいう。この2つはともに同じ原因に基づくことが多く、交互または同時に起こることも少なくない。また頻発月経は過多月経と合併することもあるが、そのときし ばしば凝固を混じえ、持続日数が長いことなどもあり、貧血に陥ることも珍しくない。
〈原因〉
 原因としての分類は種々あるが、次のようなふうにも考えられる。
 (1) 子宮骨盤内うっ血を起こす疾患、たとえば子宮、卵管、卵巣などの炎症があるとき。あるいは子宮筋腫、子宮の慢性肥大、子宮後屈や子宮脱など。
 (2) また時には骨盤内に炎症があったり、腫瘍があったりしたばあいや、常習便秘や、子宮内の避妊器具が原因であったりすることもある。
 (3) 子宮筋の収縮不全、たとえば発育不全や炎症、あるいは筋腫など。
 (4) ホルモン障害、たとえば脳下垂体、甲状腺、卵巣その他の内分泌腺の機能障害で、思春期や更年期における月経過多などはこれに属する。
〈治療〉
 原因の除去に努めることはいうまでもないが、対症的には、子宮の収縮剤、たとえば麦角剤、脳下垂体後様ホルモン剤、血液凝固促進剤、エストロゲンやアンドロゲンの投与などが試みられている。
〈針治療〉
 次の部位から患者に合った最も有効な部位を選択して、施針する。ハリ治療はあくまで補助手段として用い、その効果を高めるように思われる。

*針刺点
 腹部・・・・・関元(任脈) ○中極(任脈) 
 背面・・・・・腎兪(膀胱経) 関元愈(膀胱経) ○次リョウ(膀胱経) 命門(督脈)
 手(内)・・・・・尺沢(肺経) 
 足(内)・・・・・陰谷(腎経) ○三陰交(脾経) 復瘤(腎経) 太衝(肝経)
   (外)・・・・・陽陵泉(胆経)
 足(背)・・・・・○太敦(肝経)
  (外側)・・・・然谷(腎経) ○隠白(脾経)


機能性子宮出血
 内分泌腺、主に卵巣の機能の障害に基づくものを機能性子宮出血といっている。しかし、直接の原因は卵巣にあっても、さらにその上位の視床下部―下垂体軸に機能失調があり、その結果卵巣に対する調節機能が混乱して卵胞ホルモンの過剰、あるいは エストロゲン作用の長時間の持続、あるいは黄体機能不全などをきたして子宮出血の原因となっているものが多い。
〈原因〉
 脳下垂体視床下部の機能障害が、卵巣特にエストロゲン生成機能を過度に刺激し、または調節不十分の結果として出血を起こしたり、あるいは卵巣が脳下垂体の性腺の刺激に対して反応しないことのために出血が起こると考えられる。
 私たちがここで機能性子宮出血と呼んでいるものの中には、排卵性のものと、無排卵性のものとがある。
(1)無排卵性機能性子宮出血……これは古くから、出血性メトロパチーといわれたものが含まれる。
(2)排卵性機能性子宮出血……これは過多月経、過長月経といわれるものである。過長月経といわれるものは、内膜の不規則な剥離がある。つまり内膜の剥離がのびて、不十分なものをいうが、原因はいまのところ定かではない。が、黄体形成、内膜分泌形が不十分なため、あるいは黄体の委縮が延長して、その機能の退行の結果であるとも考えられている。

〈治療〉
 無排卵性出血に対しては、エストロゲン、プロゲステロン療法などが行われ、また排卵性出血に対しては、プロゲステロン療法、エストロゲンとプロゲステロンの混合療法が試みられている。

〈針治療〉
 主として止血作用の薬剤の補助的手段として用いる。

*針刺点
 頭部・・・・・身柱(督脈)
 背面・・・・・腎兪(膀胱経) 関元愈(膀胱経) 次リョウ(膀胱経)
 腹部・・・・・中カン(任脈) 大巨(胃経)
 足(外)・・・・・○陽陵泉(胆経)
 足(内)・・・・・○三陰交(脾経)
 手・・・・・・・孔最(肺経)
 足(背)・・・・・○隠白(脾経) ○太敦(肝経)


自律神経失調症
 一般には自律神経失調症とは、体質的な自律神経の失調の上に、種々の因子が積みかさねられてできた一つの病態であると考えられている。しかし一方では個体全体の自律神経機能の歪みと疾患についても、自律神経失調症という名称も用いられており、果たして神経症なのか、純然たる身体疾患なのか、また別には精神身体医学的な病気なのか、必ずしもその定義は明確ではない。しかし筆者は冒頭の見解を正しいとし、精神身体症の一つと解釈している。

〈原因〉
 自律神経とは、意思とは無関係に、内臓すなわち胃腸、血管、心臓、子宮、膀胱などを支配し、その働きを調整する神経であるが、それは交感神経と副交換神経で成り立っている。この交感神経と副交換神経は互いに独立して働くものの、時として相互に変調をきたし、総括的な反応の偏位により、いわゆる自律神経症は引き起こされる。その誘因となるものに、生活環境、過労、季節的変化、各種疾患経過の影響などが考えられる。

〈症状〉
(1)全身的愁訴……全身的倦怠感、異和感、易疲労性、体重減少、盗汗、微熱。
(2)神経筋性愁訴……下肢倦怠、不眠、めまい、しびれ感、肩こり、背痛、腰痛、頭重、頭痛。
(3)心血管性愁訴……動悸、呼吸促迫、胸内苦悶、胸部圧迫感、浮腫。
(4)胃腸性愁訴……食欲不振、心窩部痛、悪心、便秘、下痢など。

〈治療〉
 心因性のものであれば、良好な医師患者関係の中で治療してゆくが、心身症のばあいであればトランキライザーのような薬剤が併用されている。

〈針治療〉
 個人の素因や体質を調べ、対症的に部位を決め施針してゆく。原則として全身治療。

*針刺点
 頭部・・・・・天柱(膀胱経) ○完骨(胆経)
 背面・・・・・○心兪(膀胱経) 天リョウ(三焦経) 次リョウ(膀胱経)
 手(内)・・・・・ゲキ門(心包経) 神門(心経)
 手(外)・・・・・三里(大腸経)
 足(外)・・・・・○血海(脾経) 三陰交(脾経) 太谿(腎経)


更年期障害
 更年期にはいり、卵巣機能の低下にともなうことによる健康上の障害を、一般的に更年期障害といっている。つまり比較的早期にその機能を失うよう運命づけられている卵巣の、その機能低下や脱落が、他の内分泌腺に一時的な混乱を与え、自律神経に影響をもたらした状態を、更年期障害とよんでいる。

〈原因〉
 卵巣自体に変性が起こってくることにより、それまで間脳や脳下垂体に密接に影響を及ぼしていた卵巣ホルモンが減少し、まず脳下垂体前葉はその抑制勢力がなくなったことを契機に、さかんにゴナドトロピンの生産をはじめる。続いてホルモンのバランスが崩れ、その他の内分泌腺、たとえば甲状腺、脾臓なども影響を受け、その機能に変調を起こす。前葉と密接な関係にある間脳も平静でいられるわけもなく、こうして自律神経のバランスに動揺が起きることになる。こうした混乱が種々に組み合わせられ、更年期障害が生まれてくると考えられる。

〈症状〉
(1)知覚異常、不眠症、偏頭痛、肩こり、心悸亢進、めまい、耳鳴りなど。
(2)やたらと神経質になったり、憂うつ症、健忘症になったりする。
(3)疲労感、関節痛、血圧の動揺、新陳代謝障害。
(4)食欲不振、便秘といった消化器障害、尿意頻数(特に夜間に頻繁)や、かゆみといった皮膚症状。
(5)子宮出血、膣内殺菌力が低下することによる膣炎など。

〈治療〉
 女性ホルモン、つまりエストロゲンの投与によるほかアンドロゲン療法や、男女両性混合ホルモン療法などもあり、対症療法のほか最近は有効な薬物療法を試みる例も少なくない。

〈針治療〉
 かなり長期にわたって、根気よく続ける必要がある。つまり急激な体内の変化を緩和せしめるという点で、針治療は効果的である。実際には他の薬剤療法と併用して対症的に用いることにより、効果がある。

*針刺点
 頭部・・・・・○天柱(膀胱経) 風門(膀胱経) ○心兪(膀胱経)
 手(内)・・・・・ゲキ門(心包経) 陽池(三焦経)
 足(内)・・・・・築賓(腎経) 復瘤(腎経) 太衝(肝経)


冷え症
 婦人の約半数は冷え性である。19歳以下の思春期と産後、そして、不妊症婦人や更年期に多い。季節は冬が圧倒的に多いが、四季を通じて冷えを訴える人も少なくない。夏でも毛糸の下着をはいている人も案外いる。冷える場所は腰40%、足28%、膝から下にかけて18%、手は5%という統計もある。

〈原因〉
 血管の運動神経の故障、強くちぢみすぎたり、ちぢまなくていいのに、ちぢんだり。皮膚の毛細管に血が通いにくくなるためと推定されている。しかし、自律神経の働きそのものがよくわかっていないのだから、この説明は気休めである。

〈症状〉
 月経のはじまる前後の年令と、なくなるころに多いし、性器の発育がおくれているひとにもよくみられるから、卵巣ホルモン療法は必ずしもきかないので、今は無効という説が強い。
 貧血の人に多いというので鉄などを飲ませるときもあるが、これも全部にあてはまるわけではない。ただ血管運動神経の失調説が有力なのは、同時に他の自律神経失調の症状が多いほど冷え症だからである。
 たとえば、めまい、立ちくらみ、汗かきがいっしょにあらわれることが多い。
 冷え性の人はアレルギー体質だという。骨盤内にアレルギー性の炎症が起こると、うっ血し、少しずつ器質的な変化も起こしているという。その人たちの血液を調べると、低血色素の貧血を示し、蛋白も減っている。
 一般には、はっきりした原因がわからないのに、からだのある一部だけが、程度も強く、時間も長く、冷たさを感じ、何となく調子がおかしいのを冷え症といっている。家庭の主婦と職業婦人の間にも差はないし、太っているとか、やせているとかにも無関係である。
 冷え性の人が風邪をひくときは九嶋教授らの研究によると、腰の冷え症の人は、まず腰のあたりから、ぞくぞくしてくると答えるのが98%、足の冷え症では、足から風邪をひくというのが91%。冷え症の冷える場所が、とくに寒さに弱いことは確かなようである。
 大言海によると「腰部ヨリ下ノヒユル病」とあり、また「冷性。貧血・神経衰弱ナドニ因リテ、手足・腰ナドノ冷ユルモノ。コノ性ノ人ハ、寝ツカレズト。コレ身体ノ虚弱、脂肪ノ不足、貧血、一般栄養不良ナドニ起ルトゾ」とある。
 腰や臀部にスースーと風が吹き込むように感じるというもの、膝がいつも冷たいというもの、手足や足裏が氷の中に入れたように冷たいというものなど、症状はさまざまである。
 現代医学ではこれに対する治療法がほとんど見当たらないが、針療法はこれに適応する場合が多い。

*針刺点
 足(外側)・・・・・三里(胃経) 大巨(胃経) ○大赫(腎経) ○腎兪(膀胱経) 大腸兪(膀胱経) ○次リョウ(膀胱経) 腰兪(督脈) ○血海(脾経) 梁丘(胃経) ○三陰交(脾経) 太衝(肝経) ○臨泣(胆経) 崑崙(膀胱経) 


帯下
 帯下(こしけ)とは女性性器管よりの分泌物をいうのであるが、通常これが異常に増量し、外陰部を潤して、不快感あるいは帯下感を起こす程度までに増量したのを帯下という。

〈原因〉
 帯下を大別して2種類あり、生理的分泌増加と、病的分泌の2つである。このうち病的分泌の原因として考えられるのは、性器の癌、その他の腫瘍、淋疾その他膣や子宮頸管の炎症、潰瘍、糜爛、創傷、原虫(トリコモナス)、カンジダ、膣内異物挿入(ペッサリウムなど)、膣内異物(タンポンなど)の刺激や腐敗などである。

〈症状〉
 子宮膣部にできた癌腫は、腐敗性肉汁状の帯下を出し、これを検鏡すれば癌細胞をみることもできる。このような特殊の例を別とすれば、帯下はその色状によって、逆に原因をつかむ手がかりともなりうる。
(1)白帯下……子宮体または頸内膜の分泌亢進期、膣、頸管の慢性炎症、子宮内膜増殖症などは、帯下が白濁するか淡黄色となるし、膣トリコモナス寄生の際には、乳白色で微細な泡沫の多い帯下カンジダ症は豆腐カス様帯下をみる。
(2)黄帯下……多核白血球が多量に混入したもので、黄いろ、膿様となる。急性淋疾などでは純膿性で、黄緑色を呈する。
(3)血性帯下……性器より少量の出血が帯下に混じるもので、性器出血と区別するのは出血量の差である。
 そのほか帯下はそれぞれ独特の臭気を放つ。

〈治療〉
 原因治療を第1とする。そのあと対症的に治療してゆく。

〈針治療〉
 生理的分泌が異常なばあいと、帯下が慢性化したとき針治療は思わぬ効果をあげることがあるが、そのほかのばあいでも、西洋医学と併用して用いると効果的である。

*針刺点
 背面・・・・・○肝兪(膀胱経) ○腎兪(膀胱経) ○次リョウ(膀胱経) 下リョウ(膀胱経) 志室(膀胱経) 小腸兪(膀胱経) ○曲泉(肝経)
 腹部・・・・・○大赫(腎経) 大巨(胃経)
 足(外)・・・・・○三里(胃経)
 手(内)・・・・・尺沢(肺経)
 足(内)・・・・・陰谷(腎経) ○血海(脾経) 復瘤(腎経) ○太衝(肝経)
 腹・・・・・・・帯脈(胆経) 曲骨(任脈) 窈漏(奇穴) 泉門(奇穴) 玉門頭(奇穴)
 (耳) 子宮 卵巣 内分泌 盆腔


膀胱炎
 とくに産婦人科外来で多く見かける膀胱炎をあげると、大腸菌などの感染により、膀胱が炎症を呈し、排尿痛、尿意頻発、排尿頻度を訴えることを一般に膀胱炎といっている。

〈原因と症状〉
(1)単純膀胱炎……大腸菌の感染で、軽度の発熱をともなう。一般には症状も軽く、排尿痛、尿意頻発、排尿頻数などがある。
(2)新婚膀胱炎……新婚婦人にしばしば単純膀胱炎を引き起こしやすいところから、この名称はつけられた。つまり性交による処女膜の損傷、膣壁、膀胱壁に加わる機械的刺激および局所の感染によりおこる。
(3)淋菌性膀胱炎……これは淋菌が尿道を経て膀胱へ侵入し、そこで激しい炎症を呈するもので、尿も強く混濁して膿尿となる。
(4)結核性膀胱炎……結核もしばしば婦人科疾患と合併する。排尿障害や膿尿が長く永続し、治療によって軽快しないばあいは、この結核性膀胱炎の疑いもある。
(5)膀胱三角部の炎症……婦人にはなはだ多い膀胱炎の一種で、とくに頸管炎に合併することが多い。主なる症状は尿意頻数と排尿週末痛であるが、膀胱鏡検査によると、三角部にしばしば顆粒状腫脹、小さい腫瘍、肉芽、静脈瘤などが認められることもある。

〈治療〉
 原因の明らかなものについては対因的療法をし、たとえば淋菌性膀胱炎にはペニシリン、クロロマイセチンなどといった抗生物質投与を試みる。こうした薬剤のほか、膀胱炎には、膀胱部(下腹部)の温湿布、懐炉をあてること、超短波照射などの方法もとられることがある。慢性症に対しては、1日1回2%の硼酸水、カメレオン水などで数回膀胱を洗浄する方法も試みられている。

〈針治療〉
 対症的、対因的な針治療を、西洋医学に併用し、ことに慢性的なものについて施針すると効果的である。

*針刺点
 背面・・・・・大腸兪(膀胱経) ○膀胱兪(膀胱経) 腎兪(膀胱経)
 腹部・・・・・○関元(任脈) 大横(脾経) 
 足(内)・・・・・三陰交(脾経) 中封(肝経) 然谷(腎経) ○太衝(肝経)
 腰部・・・・・会陽(膀胱経) 承扶(膀胱経) ○命門(督脈)

尿意頻数
産後の膀胱弛緩や子宮腫瘍による膀胱圧迫にもとづく尿意頻数。実際には産後の尿意頻数に試みて効果がある。
〈治療〉
*針刺点
 背・・・・・肝兪(膀胱経)
 腰・・・・・腎兪(膀胱経) ○次リョウ(膀胱経)
 腹・・・・・中カン(任脈) 水分(任脈) 中極(任脈) 
 足・・・・・曲泉(肝経) 陽陵泉(胆経) 築賓(腎経) 京骨(膀胱経) ○太衝(肝経)
 頭・・・・・○百会(督脈)   


外陰掻痒症
 外陰掻痒症とは、外陰部の掻痒感を訴えるものを主なる症状とする。

〈原因〉
(1)慢性の外陰清掻痒感では、慢性的なこしけ、あるいはアレルギー体質や糖尿病などが考えられる。
(2)トリコモナス、カンジタによるもの。
(3)自律神経失調によるもの。

〈症状〉
 激しい掻痒感で、特にベッドへはいったとき、あるいは歩行時など、体温があがったときに感ずる。自律神経失調によるばあいは、特に外陰部に病変を目で認めることはできない。こしけによるばあいは外陰部が湿潤で、汚れている。またトリコモナスやカンジタであh、豆腐のカス(カンジタ)や、石鹸の泡(トリコモナス)状のこしけも観察でき、また痛みを伴うことも多い。従って診断としては、尿の糖を調べ、トリコモナスやカンジタの検査をするということになる。

〈治療〉
 治療はその原因に応じて、それぞれの原因治療を行う。

〈針治療〉
 針治療は、上記の原因治療に合わせて、補足的に行われる。特に慢性化したものについて、補足的に行うとしばしば顕著な効果がみられるようである。

*針刺点
腹部・・・・・関元(任脈) 中極(任脈) ○曲骨(任脈) ○脾関(胃経)
背面・・・・・大腸兪(膀胱経) ○次りょう(膀胱経) 長強(督脈) 会陽(膀胱経)
手・・・・・・○曲池(大腸経) 合谷(大腸経)
足・・・・・・血海(脾経) 三里(胃経) ○窈漏(奇穴)


性交痛(会陰部の痛み)
 外来では、いわゆる抜去不能といった典型的な膣痙攣はまずないが、疼痛のため性交困難あるいは不可能といった悩みで相談にくる患者をみかける。

〈原因〉
 外陰部、膣入口部に病変があるばあい、および精神的心因性により起こる場合がある。前者では処女膜の肥厚、強靭、膣入口の狭少、あるいは潰瘍、炎症などで局部的に過敏となり、そのため性交時のときの激痛が刺激となり、その刺激が求心性に伝達され、さらに遠心性に運動神経を通って筋肉の緊張や痙攣を起こすと考えられる。これは真の意味における膣痙攣ではなく、偽膣痙(Vaginismus spurium)と呼ばれている。これに対し、後者では外陰膣口などに何ら病変がなく、膣痙を起こすのは、精神型といわれ、神経過敏の婦人、ヒステリー、あるいは精神病質の婦人に多くみられるものである。これは外陰部の過敏性とは全く無関係で、大膨皮質に支配されて、ある種の観念から精神的反射となって起こるものと考えられる。たとえばはじめての性交、妊娠の恐怖、疼痛に対する不安、性交に対する不潔感、嫌悪の情が潜在的観念となって起こる。つまり十分な性交に対する理解がなかったりしたために、その恐怖と不安が精神内部でふくれあがり、性交痛や緊張痙攣を導くことになる。

〈治療〉
 まず原因治療し、性交に対する理解を深めることからはじめる。

〈針治療〉
 局所の器質的疾患が除外される性交痛に試みられる。患者の精神的側面における対話は、このばあい大切なこととして強調されるべきである。針治療において、患者との意思疎通が重要であることは、いまさら言うまでもない。

*針刺点
陰部・・・・・・V点 玉門頭(奇穴) 長強(督脉)
腹部・・・・・・大赫(腎経) ○中極(任脈) ○章門(肝経) 中かん(任脈) 大巨(胃経)
菅面・・・・・・○次りょう(膀胱経) 中りょう(膀胱経) ○大衝(肝経)



子宮内膜炎
 病原菌が子宮膣内に侵入するときはまずその内膜を侵して、子宮内膜炎を起こす。これがさらに進んで子宮筋層を侵し、子宮筋層炎となったり、ついには子宮外のいわゆる骨盤腹膜炎へと発展する可能性もある。

〈原因〉
 病原菌の子宮腔内感染による。主なる病原菌として、連鎖球菌、淋菌、そのほかブドウ球菌、大腸菌、嫌気性菌などがあげられるが、分娩および流産後などに起こることが多い。

〈治療〉
 子宮の腫大、軟化、圧痛の検診、子宮内分泌物の性状およびその培養、または検鏡により化膿菌、あるいは淋菌を証明し、対症的な治療を行う。一般的には安静、下腹部に氷のうをあて、、局所処置はなるべく避ける。頸管の閉鎖があるときは、頸管を拡張して、分泌物の流出を十分にして、滞留を防ぐことも必要である。また子宮筋の収縮剤を与え、便通を整え、感受性のある抗生物質やサルファ剤を与える。

〈針治療〉
 炎症をおさえ、和痛するという意味において、西洋医学との併用は効果的である。

針刺点
背面・・・・・・肝兪(膀胱経) 腎兪(膀胱経) ○志室(膀胱経) 次りょう(膀胱経)
腹部・・・・・・中かん(任脈) 大巨(胃経) 中極(任脈) 帯脈(胆経) 曲骨(任脈)
足(内)・・・・・◎血海(脾経) 陽陵泉(胆経) 太谿(腎経) ○照海(腎経) ○三陰交(脾経)
足(外)・・・・・○三里(胃経)
腰部・・・・・・・膀胱兪(膀胱経)
足・・・・・・上巨虚(胃経) 下巨虚(胃経)
(耳)子宮 外生殖器 腎上腺、内分泌



乳房痛
 乳房痛とは乳房の疼痛という一つの症状名である。乳腺炎、乳腺症、乳汁分泌異常といった疾患の随伴症状としておこってくる。

1)乳腺炎
 乳腺炎というのは、乳腺の炎症性疾患をいうのであるが、ここでは主に産褥期の乳腺炎について述べる。

〈原因〉
 もともと乳腺炎が妊娠中に起こることは稀であり、産後の哺乳期にみられ、それも初産婦に特に多い。原因となる病菌は、黄色ブドウ球菌が多く、白色ブドウ球菌や連鎖球菌は少ない。またその感染原因は、乳房の皮膚や、悪露中の細菌、また新生児の口腔内の菌、細乳間にすでに存在する細菌などが深く侵入し、炎症を起こすものである。またそこで乳汁の排泄が障害されると、たまった乳汁は菌の発育に格好な栄養となり、さらに症状が悪化しやすくもなる。そのほか、リンパ道を伝って感染することもあり、これが比較的多いようである。つまり哺乳によって生じた乳頭のこまかな亀裂から菌が侵入し、リンパ管を経て、乳腺の間質内に侵入して炎症を起こす。

〈治療〉
 治療の目的は、炎症をすみやかに消失させ、膿瘍の形成を防ぎ、かつ授乳力維持を図ることにある。そのとき、
(1) 抗生物質の投与を早期に開始する。
(2) 必要とあれば切開療法をする。
(3) 炎症の乳房をあげ、氷のうをあてる。
 が、マッサージや搾乳は避ける。

〈針治療〉
 針治療のみにこだわらず、炎症の場合は早期に抗生物質の投与を試みることが肝要であり、針を併用することによる効果は大である。経験的には、早期であればあるほど、針による効果は大きく、また針のみによる治療も可能である。

*針刺点
背面 ○肺兪(膀胱経) ○天宗(小腸経) 肩井(胆経) 肝兪(膀胱経) 胆兪(膀胱経)
腹部・・・・・・欠盆(胃経) 屋翳(胃経) 天谿(脾経) 乳根(胃経) 極泉(心経) ○たん中(任脈)
(耳) 腎上腺、内分泌、枕、乳腺


2)乳腺症と乳房痛
この際、乳癌は除外されなければならない。
 疼痛部またはしこりの部分の浅刺
 胸部・・・壇中(任脈)胸骨正中線上で左右第4肋間の中央。
      中府(肺経)前胸壁の外上部で第2肋間の高さ。
      期門(肝経)乳頭線上で第9肋軟骨付着部下。
 背面・・・天宗(小腸経)肩甲棘下窩の中央で棘下筋部。
 足・・・・・太谿(腎経)足の内果の後側で後脛骨動脈博動部。
  (耳) 乳腺、枕、内分泌、腎上腺


不感症
 不感症というのは性欲はあり、性感もある程度はありながら、最後の頂点、すなわちオルガスムスだけを欠いているものと定義されている。この不感症に対して冷感症があるが、これは性交願望はあるものの、性交あるいは性的行為に際して快感が少ないか、それを全く欠くという点で区別される。

〈原因〉
 婦人のオルガスムスは複雑な因子に影響されるが、ないからといってただちに不感症というのは正しくない。真の不感症とはいかなる場所においても、いかなる方法を用いても、そしていまだかつて一度もオルガスムスを経験したことがないものをいうのであって、その原因として次のようなものがあげられる。
(1) 原発生不感症・・・・・外陰発育不全、膣入口狭小、処女膜の先天的奇形、処女膜強靭、処女膜過敏、外陰無毛症。
(2) 膣の異常・・・・・膣欠損症および奇型。
(3) 子宮の異常・・・・・子宮位置異常、子宮発育不全。
(4) 卵巣機能異常・・・・・月経困難症。
(5) 心因性・・・・・妊娠恐怖、性的罪悪感、愛のない結婚、心理的外傷など。

〈治療〉
 原因の改善がまず必要である。一般に男性ホルモンなど性ホルモンを投与したり、心理的には催眠術を用いたり、ときには高温膣洗浄法などを用いたりする。

〈針治療〉
 原因を確認した上で、針治療を施したり、併用したりする。

*針刺点
陰部・・・・・・(図中の各点)×印
背面・・・・○身柱(督脈) ○膈兪(膀胱経) 腎兪(膀胱経) 関元兪(膀胱経) ○次りょう(膀胱経) 下膠(膀胱経) ○長強(督脈)
腹部・・・・・○章門(肝経) 中かん(任脈) ○大赫(腎経) ○中極(任脈)
足(前面)・・・陰廉(肝経)
足(内)・・・○曲泉(肝経) 太敦(肝経)
足(外)・・・・三里(胃経)


貧血症
 一般に血液中の血色素量、赤血球数などが異常に減少した場合をいう。
 諸出血の際の失血の結果、または腸寄生虫、癌などの際にも起こる。皮膚や眼の結膜、口唇などの粘膜が蒼白色になり、疲労倦怠感があり、思考力減退、頭痛、めまい、耳鳴、肩こり、視力障害などをともない、また呼吸促迫、動悸、息切れを訴えやすくなる。その他、手足の冷えをともない、尿量が増加したりなどする。産婦人科領域では思春期、妊娠中、産後などにしばしばみかける。なお、冷え性を訴えてくる女性の背景にはその多くに貧血を認める。

〈治療〉
 鉄剤、ビタミンB12剤など薬剤治療と併用して長期(1ヵ月以上)にわたって継続治療を行う必要がある。

*針刺点
背・・・・・・心兪(膀胱経) ○肝兪(膀胱経)
腰・・・・・・○腎兪(膀胱経) 志室(膀胱経)
腹・・・・・・中かん(任脈) 気海(任脈)
手・・・・・・○曲池(大腸経)
足・・・・・・○足の三里(胃経) ○曲泉(肝経)
耳・・・・・・腎、肝、脾、小腸膈、卵巣、内分泌


じんましん
 とつぜん皮膚に掻痒感を覚え、掻くと局所に充血、浮腫をおこし、間もなく消える。皮膚の血管運動神経の障害で起こるが、種々の誘因(寒冷、温熱、機械的刺激、特定の食物など)が加わって発病するものと考えられている。
 治療発疹と同時に発熱、疼痛、嘔吐、下痢などをともなうこともある。

〈治療〉 
 慢性化したものに試みてしばしば効果をみることがある。

*針刺点
背・・・・・・肩井(胆経) ○肺兪(膀胱経) 脾兪(膀胱経)
腹・・・・・・中かん(任脈) 天枢(胃経) ◎肩ごう(大腸経) 
手・・・・・・○曲池(大腸経) 三里(大腸経)
足・・・・・・三里(胃経) ○地機(脾経)
耳・・・・・・神門、肺、枕、内分泌、腎上腺



頭痛
 産婦人科領域での頭痛はたとえば月経の随伴症状の一つとして、あるいは貧血、低血圧、更年期症候群の一症状として現われる。ほか、各種の炎症によってもひきおこされる。
 頭痛の詳細な分類は省くが、おおざっぱに分けると、産婦人科領域では、片頭痛を含めた血管性頭痛、症候性頭痛、心因性頭痛が対照になることが多い。これらにはハリを試みて著効をみることが少なくない。

〈治療〉
 *針刺点
   針はその原因が血管性であろうと、心因性のものであろうと、分類は
  @頭全体が痛む、A頭頂部が痛む、B側頭部が痛む、C前頭部が痛む、D後頭部が痛む、E眉毛の下が痛む、といったふうに分けて治療したほうが便利である。

@全体が痛む場合
  @百会(督) 足の三里(胃) 合谷(大腸経) 風池(胆) 陽陵泉(胆) 列欠(肺)

A頭頂部が痛む場合
  @百会(督)  列欠(肺) 頭維(胃) 太衝(肝)

B側頭部が痛む場合
  @百会(督) 頭維(胃) 天衝(胆) 太陽(奇穴)
  A懸鐘(胆)

C前頭部が痛む場合
  @上星(督) 百会(督) 印堂(奇穴) 列穴(肺) 合谷(大腸経) 太陽(奇穴)

D後頭部の痛み
  @風池(胆) 百会(督) 昆侖(膀胱経) 列欠(肺) 脳空(胆)

E眉の下の痛み
  @攅竹(膀胱経) 陽白(胆) 神庭(督脈) 糸竹空(三焦経)

頭・・・・・・百会(督脈)
頭・・・・・・風池(胆経)
頭・・・・・・上星(肺経)
頭・・・・・・頭維(胃経)
頭・・・・・・天衝(胆経)
頭・・・・・・脳空(胆経)
頭・・・・・・糸竹空(三焦経)
頭・・・・・・攅竹(膀胱経)
頭・・・・・・神庭(督脈)
手・・・・・・合谷(大腸経)
手・・・・・・列欠(肺経)
顔・・・・・・印堂(奇穴)
顔・・・・・・太陽(奇穴)
顔・・・・・・陽白(胆経)
足・・・・・・陽陵泉(胆経)
足・・・・・・足の三里(胃経)
足・・・・・・太衝(肝経)
足・・・・・・崑崙(膀胱経)


不眠
 更年期障害に限らず、女性はしばしば不眠を訴える。実際には心配しすぎたことの原因が多い。しかし、疼痛、掻痒、咳嗽、呼吸困難などのために睡眠がさまたげられて不眠となることもあるが、針は神経性不眠の治療の対象とされる。
 例えば実際には“ねつかれない”、“ねむりが浅い”、“夢をみて眼がさめやすい”、“翌日疲労倦怠感が強い”などといった訴えの患者に試みられる。

*針刺点
頸・・・・・・○風池(胆経)
顔・・・・・・客主人(胆経)
背・・・・・・心兪(膀胱経) ○膈兪(膀胱経) ○肝兪(膀胱経) 胆兪(膀胱経)
足・・・・・・○外丘(胆経) 築賓(腎経) 足三里(胃経)
足・・・・・・○三陰交(脾経)
手・・・・・・内関(心包経) ○心門(心経)
耳・・・・・・神門、腎心、枕

めまい
 内耳の迷路、小脳など身体の平衡を維持する器官や、これと大脳とを連絡する伝導路に障害がある場合にも起こるが、産婦人科領域では、貧血、低血圧、更年期障害、自律神経失調症の症状の一つとしてみられ、針は内耳、脳疾患が除外されるものに試みられる。

*針刺点
頭・・・・・・上星(督脈) ○完骨(胆経)
頸・・・・・・天柱(膀胱経)
背・・・・・・身柱(督脈) ○肝兪(膀胱経)
手・・・・・・外関 ○液門
足・・・・・・復溜(腎経) ○きょう谿(胆経)
頭・・・・・・○百会(督脈)
足・・・・・・足三里(胃経)
手・・・・・・合谷(大腸経)
手・・・・・・○神門(心経)


下痢
 婦人科外来で接する患者の下痢が多くは月経との関連性を忘れてはならない。実際多くは食事の不摂生、胃腸内の消化不良のために起こることが多い。急性・慢性の腸炎では、そのほとんどに下痢をともなうが、脹以外に原因がある場合も少なくない。例えば、感冒性下痢、その他精神性、神経性におこる下痢、アレルギーによるものなどがある。
 針は細菌感染を除き、とくに神経性下痢には有効である。申脈の温灸針は卓効がある。

*針刺点
頭・・・・・・顋会(任脈)
背・・・・・・脾兪(膀胱経)
背・・・・・・大腸兪(膀胱経)
腹・・・・・・中かん(任脈) ○天枢(胃経)
腹・・・・・・府舎(脾経)
足・・・・・・○梁丘(胃経)
足・・・・・・◎申脈(膀胱経)
足・・・・・・上巨虚(胃経)
手・・・・・・○孔最(肺経)
手・・・・・・○合谷(大腸経)


便秘
 産婦人科領域にみられる便秘は月経、妊娠分娩などと関連し、腸管に特別の変化がなくて起こる場合が多い。
 一般には脹筋の障害により脹の弛緩、麻痺を起こし、あるいは脹の痙攣が起こると常習的な便秘をきたす。
 腹部の圧重、膨満感のほか、頭痛、めまい、疲労感、悪心、嘔吐、不眠または嗜眠、心悸亢進、神経痛などを発するようになる。これらの症状を訴えるものを調べると、便秘をともなっていることが多い。
 便秘症の人の腹部を手で圧すると、多くは左腸骨窩の直腸やS字状結腸の付近に糞便のかたまりが触れるちょうど左府舎あたりである。そこに直刺(2〜3cm)すると、下腹部から肛門にかけて針のひびきを感じる。森秀太郎氏の便通穴も常用しているが、なかなか効果がある。この穴は左腰部で腸骨の上縁のもっとも高いところの骨際に取穴し、やや下内方に向けて直刺し、下腹部にひびきを得るまで刺し進める。4〜5cmの深さでひびきを感じる。
 (例) 左右府舎に直刺し(2〜3cm)省啄をくり返し支講と照海に通電刺激を20分加える。その際気海に置針しておくと効果がある。

〈治療〉
*針刺点
背・・・・・・三焦兪(膀胱経) ○支溝(三焦経) ○大腸兪(膀胱経)
腹・・・・・・中かん(任脈) ○天枢(胃経) ○腹結(脾経) 気海(任脈) ○府舎(脾経)
足・・・・・・三里(胃経) 三陰交(脾経) 照海(腎経)


肩こり
 僧帽筋の緊張感、疼痛などが主となっている。しかし実際には、肩甲部にある他の筋の緊張感や疼痛も含まれている。骨盤うっ血の随伴症状として肩こりをみることも少なくない。産婦人科領域での肩こりの針治療は、内科、整形外科的疾患を除外した場合に試みられる。
 従って、実際には筋肉の疲労、精神的、肉体的疲労の後に起こる肩こりの症例が多い。

〈治療〉
*針刺点
頸・・・・・・◎風池(胆経) ○天柱(膀胱経)
背・・・・・・○肩井(胆経) ◎肩外兪(小腸経) ○肺兪(膀胱経) ◎膏盲(膀胱経) 巨骨(大腸経)
背・・・・・・膏盲(膀胱経)
手・・・・・・げき門(心包経)
背・・・・・・◎天宗(小腸経)
背・・・・・・膈兪(膀胱経) 脾兪(膀胱経) 
腰・・・・・・腎兪(膀胱経)
腹・・・・・・中かん(任脈) 天枢(胃経)
手・・・・・・曲池(大腸経) 尺沢(肺経)
足・・・・・・三里(胃経) 三陰交(脾経)

 
痔核
 肛門および直腸下部に分布している静脈の静脈瘤性拡張で、局所のうっ血がその起因となる。産科領域では妊娠中の外痔核の疼痛、とくに産後の痔核などの応急処置として試みてよい。
 初期には局所に圧迫、灼熱感があり、出血を起こす。やがて肛門の内外に結節(痔核)を生ずるようになる。
 内痔核が肛門外に脱出すると疼痛がはげしくなる。また外痔核は刺激をうけて炎症を起こし、疼痛を」ともなうようになりやすい。

〈治療〉
*針刺点
頭・・・・・・◎百会(督脈)
背・・・・・・風門(膀胱経) ○肺兪(膀胱経)
腰・・・・・・腎兪(膀胱経) 大腸兪(膀胱経) 下膠(膀胱経) ◎腰兪(督脈)
腹・・・・・・天枢(胃経)
手・・・・・・孔最(肺経)
足・・・・・・三里(胃経)
足・・・・・・上巨虚(胃経)
○疼痛の激しい時は
腰・・・・・・中膠(膀胱経) 下膠(膀胱経)
○出血の場合
手・・・・・・◎孔最(肺経)
足・・・・・・陽陵泉(胆経)


腰痛
 腰痛の頻度は高いが、実際には婦人科疾患以外の脊柱、骨盤の骨、関節、筋肉、筋膜、腱といった整形外科領域の疾患が原因となって、腰痛を訴えてくることが少なくない。従って、まず整形外科は診断を行なったあとで婦人科領域の面からの診察を行なうのが順序と考える。
 婦人科外来でみかける整形外科領域の疾患としては、側彎症腰仙移行椎、脊椎すべり症、椎間軟骨ヘルニア、骨粗鬆症黄、靭帯肥厚、カリエス、仙骨の異常前傾、などがあげられる。
 産婦人科領域での腰痛は子宮後屈、骨盤うっ血、子宮付属器小骨盤内の炎症や癒着、妊娠分娩による骨盤関節の弛緩などが考えられる。
〈治療〉
原因治療が第一である。その他対症治療として、ビタミンB1剤、B12剤、消炎鎮痛剤、筋弛緩剤などが投与される。

*針刺点
針の劇的な疼痛効果で、正常な関節や筋活動を回復させるというのが目的である。従って、治療は早期ほど効果的である。
◎腎兪(膀胱経) ◎志室(膀胱経) 大腸兪(膀胱経) 次りょう(膀胱経) 秩辺(膀胱経) 環跳(胆経) ○承扶(膀胱経) 殷門(膀胱経) ○承山(膀胱経) ○委中(膀胱経) 崑崙(膀胱経)


こむらがえり(腓腸筋痙攣)
 不意におこるふくらはぎの痙攣である。分娩中に下肢に力を入れ続けたり、力みすぎたりしたときにおこってくる。
〈治療〉
*針刺点
承山(膀胱経) 陽陵泉(胆経) 殷門(膀胱経)



産婦人科領域における常用奇穴
関寸:(子宮充血、子宮発育不全、月経不順)。
絶孕:(陣痛誘発)。
育門:子宮発育不全。
泉門:子宮発育不全、子宮前屈、子宮充血。
龍門:子宮発育不全、子宮充血、月経不順。
経中:子宮充血、子宮発育不全、骨盤うっ血。
子宮:子宮発育不全。
子戸:冷え性、骨盤うっ血。
胞門:冷え性、骨盤うっ血(腰痛をともなうもの)。
窈漏:陰部潰瘍、外陰掻痒。
GM点:陰部潰瘍、骨盤うっ血、不感症。
玉門頭:陰部潰瘍、外陰掻痒。
















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