瓊玉膏
1.瓊玉膏(不老長寿の薬)の名称の由来
「瓊」の字は『玉篇』を見ると、「美玉」、「赤玉」と記録されている。また「瓊」を用いた単語としては「瓊樓(王の宮殿の意)」、「瓊杯(玉で作った杯の意)」がある。
 「瓊」の字は最上の美と大切の意味ををしている。昔から最高の美しい碧玉を表現する際に「瓊玉」の字が使われた。また「瓊枝玉葉」という言葉があるが、これは皇族の子孫のことである。かつて、皇帝に献上する貴重品を至宝の玉という意味を持たせるために、「瓊玉」と表現したこともあった。「膏」は「なめらかな味の良いもの」の意味もある。これにより「瓊玉膏」という名称は、薬の中でも最高の称号であることがわかる。
 瓊玉膏は皇帝の長寿のための補助薬として、応急薬の牛黄清心元と共に、皇室の2大名薬に数えられた。元の皇帝であるクビライ・カーンは、健康と精力のために好んで飲み、皇室の女子らと名門家の貴婦人達も美容のために瓊玉膏を愛用した。このように顔を玉のように手入れをするために服用したとの意味で瓊玉膏と名づけられてといわれている。
 瓊玉膏は南宋の医師である洪遵が編纂した『洪氏経験方』(1170年)に収載され、その内容をみると「人参」が「新羅人参」という名称で記載されている。これにより朝鮮の高麗人参が既に世界的薬剤として名声を得ていることが分かる。
 瓊玉膏は東洋の名薬として東アジアの国々が製造したが世界的品質の高麗人参で製造した瓊玉膏が最優秀品質だと評価されている。

2.瓊玉膏を構成している生薬
 不良長寿の薬の瓊玉膏を構成している生薬はどんなものなのであろうか。また現在でも多くの方に服用されているといえども、瓊玉膏という薬名の薬が、数百年間名薬として伝えられ、科学万能時代の現在でも愛用されているというのは不思議に思われる。この疑問を整理して説明する。
 瓊玉膏の基本処方:生地黄取汁16斤、人参24両、白茯苓48両、白蜜(蜂蜜)十斤である。また、瓊玉膏の基本処方に次の(1)、(2)、(3)の薬剤を加味して多角度に利用されている。(1)一方面(琥珀、沈香)各五銭(2)一方加(天門冬、枸杞子)各一斤(益壽永真膏という)(3)一方加(天門冬、麦門冬、地骨皮)各八両になっている。

1)神秘の霊薬人参
 人参は古来より東洋で愛用されてきた。西洋では東洋でいう「人参」が知られていなかったため、赤く甘い根を人参と呼んだ。甘い根はセリ科の植物、東洋でいう人参はウコギ科の植物で全く違う種である。人参の中でも高麗人参が最貴重品として昔から珍重されてきた。
 中国の皇帝に献上される最上品は朝鮮産高麗人参であった。また朝鮮時代には高麗人参が最高級の貿易品で、朝鮮の高麗人参と中国の名物である絹織物と物々交換された。人参は地域、土壌または気候によって品質が異なり、朝鮮産高麗人参を最高品として認めた。
 韓国の錦山が人参の最大栽培地であり、全生産量の70〜80%が集散される最大集散地である。またここに錦山人参の伝説が残る。
 1500年前、錦山邑南夷面城功里部落に姜姓の在野の学者(士人)がいた。姜氏は親孝行であったが、父親は既に亡く、母親と二人で貧相な暮らしをしていた。ある日、母親が動くことができないほどの重病を患い、苦しんでいた。色々とよい薬を使っても母の容態は徐々に悪化し、治らないため、悩んでいた姜氏は錦山の名山である進楽山の観音窟で、母の回復を祈って百日祈とう祷を行った。ある日、夢に仙神霊があらわれ、「進楽山の観音峰の岩壁に行くと赤い実が3つついている草がある。その草の根を煎じて湯にして飲ませれば、母の病気は治り、君の願いは通ずる」と言われたため、姜氏は不思議に思い、翌日の早朝、夢でみた岩壁へ行くと、赤い実が3つついている草があったので、その根を掘り、煎じて湯にして母に飲ませると、母の病気は全快した。その草は参(山参)であった。姜氏はその種子を庭に植え、根が人間の形をしていることから、参を人参を名付けた。その後、錦山が人参の栽培地を最大集散地になったとの伝説がある。そのため、人参を霊薬とも呼んでいる。
 植物あるいは穀物等の農作物は、田や畑に植えて毎年収穫するが、人参は1回の栽培期間が4〜6年を要する。人参を収穫した後10〜15年は、人参をはじめ、どのような農作物も栽培できない。その畑は空畑となり、堆肥等で土を肥やすと、穀物等の栽培が可能になる。それほど人参は土の栄養分を要求するものなのである。また人参は何処でも栽培ができるものではない。地域、土壌、気候等によって、人参の品質が異なる。著者は若い頃、『加賀藩の秘薬』という本を著した薬学者であり、薬史学者でおられた三浦孝次教授から生薬の活性を学ぶための薬理学を伝授された際、高麗人参に関するお話をお聞きしたことがある。江戸時代に長野県で人参を栽培していた藩役が、開城高麗人参の種子とその栽培法を得るために、あ者に変装し、長野県を出発して朝鮮元山を経由し、開城に到着して何とか人参畑での仕事についた。3年間一生懸命に仕事をしたことにより、種子と栽培法を得て長野県に帰り、長野県でも現地と同じ高麗人参が、元々栽培していた長野人参と同じような人参になってしまった事があった。このことは本には書けなかったと私の耳にそっとお聞かせ下さったことが思い出される。それほど人参は成長条件に敏感な農作物ともいえる。


2)人参の七大効能
(1)補気救脱:元気をつけ、虚弱した身体を救うと知られているが科学的研究結果によって、抗疲労、疲労回復作用、老齢動物の学習力改善、運動能力改善、記憶力改善の報告がされている。

(2)益血復脈:血液をつくり、循環をよくして、滞っている血液の流れを取り戻すという古書の記録から、赤血球、ヘモグロビン増加作用等を科学的に確認している。

(3)養心安神:心を養うというのは精神を安定させる意味になる。人参は抗ストレス、抗痙攣作用が報告されている。

(4)生津止渇:生津とは内分泌の意味を持ち、渇は糖尿の渇症を示す。静岡大学の矢内原教授は朝鮮人参から血糖降下作用を示す成分(DPG3-2)が得られ、その成分にインスリン分泌亢進作用が認められたという報告をしているが、糖尿病治療方剤には朝鮮人参が頻用されている。

(5)補肺定喘:肺と気管を補し安定させて喘息を治す。

(6)健脾定喘:消火器機能を強化し、下痢を止める。これの科学的根拠として、朝鮮人参には消化管ホルモンと類似したアミノ酸配列をもつペプチドの存在が強く示唆されている。これが他のタンパク質と結合することにより生理活性ペプチドが安定化され、そのほかペプチド腸管吸収を促進するのではないかと推測されている。朝鮮人参は脾胃を強くするのである。

(7)托毒合瘍:毒と結合して解毒し腫瘡を治す。
 世界の生薬学者や植物学者らは、地球上にある植物に対し、様々な研究をしているが、高麗人参ほど多岐に渡って研究された植物は他にない。また高麗人参より多くの成分と多様な薬効を持った植物は未だに発見されていない。人参は明薬中の明薬である。
 人参は不思議な植物で、一方的な効能を持っているだけでなく、相対する効能を同時に持っている。人参の成分であるginsenoside Rb,Rc群には中枢神経に対し、抑制的作用(精神安定、鎮痛、抗痙攣、血圧降下作用)があるが、逆にginsenoside Rg群は中枢神経興奮的作用(抗疲労作用、疲労回復作用、抗ストレス作用)があることが示されている。またginsenoside Rb1,Rg1においては共に血圧作用があるが、ginsenoside Rc,Rf,Rg1,Rg2等のtriol系のサポニンにはRb1、Rb,Rc,Rdのdiol系よりも強い血管拡張作用による血流量の増加が報告されている。
 即ち人参は効能を調節する両面性のある作用を持った植物であることが示された。後に、生命を持っているすべての植物には自身の代謝均衡のために、機能的に調節作用があることが知られるようになり、医薬品開発に役立っている。
 人参には肝臓でのタンパク質合成を促進する作用、血圧調節作用、糖代謝の調節作用、造血作用、抗ストレス作用、記憶力改善作用、免疫増強作用、抗痙攣及び鎮静作用、抗腫瘍作用(抗癌作用)、抗炎症作用等がある。即ち人体機能を調節する効能を持っている神秘的な霊薬であることが科学的研究によって立証されている。


3)白茯苓
 茯苓は赤松や黒松の伐採後3〜5年経過した切り株の根に寄生し成育するサルノコシカケ科(Polyporaceae)のマツホドWolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson(Poria Cocos Wolf)の菌核である。茯苓が配合された処方は極めて多く、甘草、芍薬に次ぐ処方数だといわれている。『神農本草経』に命を養うものとして分類されている上品に収録され、松の木の神霊がその根に集まったと考え、『伏霊』ともいう。また茯苓の中心に松の根が通っているものを『茯神』と名付けている。またマツホドという植物名は、松の陰部を意味している。動物において長寿といえば鶴、亀が代表的であるが、植物においては数百年生きる松が代表されることが多い。長寿である松の陰部の意味を意味することと、茯苓の効能が『水毒を追う』利尿剤であることと、松の木の神霊がその根に集まったと考えて『伏霊』と呼ぶことは、何にか関連付けられた意味があるのではないかと思われる。
 孫真人という人は養生銘を論したとされているが、その年代等ははっきりしていない。ただ唐時代に、102歳で他界した子孫はくが孫真人ではないかとみられている。大槻彰博士の『瓊玉膏の不思議』によると、真人曰く、茯苓を根気よく服用すれば、百日で諸病が除かれ、二百日にして昼夜眠らずとも良くなり、天女がやってきて侍ると書かれている。またこれは、伏霊の薬を表現していると思われる。
 茯苓は傷寒論では16処方、金匱要略では26処方等、その他、数多くの処方の中にみられる。茯苓は重校薬徴の中で『利水を主とする停飲、宿水、小便不利、眩、悸、煩燥、嘔、喝、不利、咳、短気の症状を治す』と利尿作用が茯苓の効能であることが書かれている。
 茯苓は利尿作用、腎障害改善作用、消化器系を強くし胃潰瘍予防、鎮吐作用、胃部の水分停滞感、心悸亢進、口渇乾燥、茯苓菌多糖体の免疫増強と抗腫瘍作用、卵巣組織の中のプロゲステロン量の増加により妊娠を助ける作用、海馬組織LTP増強作用による記憶力改善及び認知症予防等が科学的研究で示され、ネフローゼ、腎炎、尿毒症等に利用される漢方処方の効果が実験的研究で立証されている。
 人体の水分構成をみると、体液である細胞内液と細胞外液の適切な成分調節は生命維持に必須であえる。このような成分の決定にもっとも重要な因子のひとつに、水分代謝がある。なお、地球上のすべての生命体は水がなければ少しの間も生きることができない。それほど重要な水が体内でどんな役割をするのかを簡単に説明する。

 成人男性の場合、体重の約60%が水分であり、女性は50%程度である。乳児がもっとも多く、約70%ほどが水分である。成人の場合、体液の1/3は細胞外にあり、2/3は細胞内液を構成している。このような体内水分の約50%は筋肉に、20%は皮膚に、10%は血液内に、残りはその他の臓器に分布している。女性が男性に比べて水分量が少ないのは、女性は男性より体内脂肪組織が多いためである。
  健康のためには何よりも純粋できれいな水を多く飲むことである。ある面からみれば、生命維持するための栄養素より、重要なものはきれいな空気と水である。
 体の組織は、各々、生命維持に絶対的に必要で、かつ独特の役割を持っている。すべての組織は、水がなければその役割を全く行うことができない。水は血液、体液、リンパ液、唾液、内分泌系統の多様なホルモン、脳脊髄液等のもっとも重要な構成要素である。
 人間は毎日、飲食を通じて、水、ミネラル、炭水化物、タンパク質、脂肪、ビタミンなどの栄養素を吸収している。また人体は体重の約60〜70%以上の水分を保有し、新陳代謝により、生命維持と活動を行っている。その面からみると、小便、大便は最終の新陳代謝に該当するもっとも大切な水分代謝であり、健康と直結している。そのため、瓊玉膏に茯苓が配合されていることが理解される。


4)生地黄
 ゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)のアカヤジオウRehmannia glutionsa Liboschitz var.purpurea Makinoやカイケジオウ Rehmannia glutinosa Liboschitz の根で、生のままのものが生地黄あるいは鮮地黄、乾燥したものが地黄、蒸した後加工調整したものが熟地黄であると規定されている。同一の基原植物でも、加工調理法の差より、薬効や成分が異なるとして知られている。また水に入れた時に、水に浮ぶものを天黄、中間にあるものを人黄、水に沈むものを地黄と呼び、漢方処方には地黄が多く使われている。
 瓊玉膏には生地黄を洗った後、搾汁機で生地黄の汁だけを取り、使用している。瓊玉膏の製造には一滴の水も入れないため、地黄の効能が最大限に発揮される。地黄は『神農本草経』では生命を養するものである上品に収録され、鮮地黄は清熱生津、涼血、止血のの効能があり、熱風傷陰、煩渇、発疹、吐血、衄血、咽喉腫痛を治すと記載されている。一方、熟地黄は生地黄、乾地黄でみられる解熱消炎作用よりも、補血、補養滋養強壮の薬物として働き、体を潤し、口渇を止め、老化を防止し、強心作用や内分泌機能の調整作用が期待されると記載されている。
 漢方処方に八味地黄丸があるが、八味地黄丸は口渇等の糖尿病治療の代表的処方で、地黄を主剤にしている。
 古典文献に記載されている地黄の効能を要約すると、次の通りである。
 (1) 出血および貧血にともなう発熱に効果
 (2) 貧血による諸症状の改善
 (3) 補養、滋養強壮
 (4) 内分泌機能調節と糖尿病の口渇と煩渇、内熱消渇症状の改善
 (5) 跛行、靭帯損傷、打撲、骨折の改善
 (6) 血行不良改善により肌や肉づきをよくする作用
 (7) 肺結核の吐血、虚弱体質の改善
即ち、補血、血糖降下作用、抗血管内凝固作用、滋養強壮、解熱、利尿作用等があり、それに関わる症状を改善あるいは治療する。

5)蜂蜜
 蜂蜜の基原は、ミツバチ科(Apidae)のヨーロッパミツバチ Apis mellifera Linne 又はトウヨウミツバチApis cerana Fabricius がその巣に集めた甘味物を採集したものである。成分にはグルコースとスクロースが約70〜80%、その他の糖質(スクロース、デキストリン)、タンパク質、ミネラル、酵素、ビタミン、花粉、ミツロウ等が一般的な成分であるが、ハチの生活環境によって異なる多様な成分を含んでいるので、微量の特殊成分の研究はされていない。性味は平、甘であり、肺、脾、大腸に帰経する。
 蜂蜜は補脾、虚脾倦怠無力、潤肺止咳、肺虚咳嗽、潤腸通便、腸燥便秘、解烏頭毒止痛、胃かん疼痛に効能がある。主に脾胃虚弱、腸燥便秘、乾咳、腕腹疼痛、火傷、灸瘡、瘡瘍に使われる。
 東医宝鑑では性質が平、微温、甘、無毒、五臓を安じ、補気、補脾胃、痛症緩和、解毒すると記載されている。蜂蜜は山奥の岩壁の蜂房で2〜3年貯蔵した透明白色で油のようなものを石蜜といい、良質であるとされている。
 <本草網目>には5つの作用があると記載されている。
 1)熱を冷ます 2)中焦を調和させる 3)解毒作用 4)燥きを潤す 5)痛症を緩和する性質は生のものが涼で清熱潤肺し、熟したものは温になり補中、緩急止痛する。味が甘で解毒し、薬性を調和するので、心腹肌肉瘡瘍の疼痛を和らげる。
 ・薬理作用:抗菌作用、造血作用、止血作用、長寿効果、解毒作用、栄養作用、収斂作用、烏頭解毒作用等が認められ、咳嗽、灸瘡、喘息、慢性便秘、赤痢、夜尿症、膿化傷、癰疽、せつ腫、炎症、胃十二指腸潰瘍、火傷及び湯傷、凍傷、潰瘍及び外傷、皮膚炎、鼻炎、細菌性痢疾、便秘、貧血、トリコモナス症、神経衰弱、高血圧、肺結核、心臓病に有効であると言われているが、研究はそれほど多くはない。


3.瓊玉膏の適応症
(1)瓊玉膏の漢方文献的効能効果
@東医宝鑑:精髓充満、真気平温、元気補、若回(回春)、精神軽快、五臓六腑充実、毛髪黒化、歯牙蘇生
A方薬合編:鎮静、毛髪黒化、歯牙蘇生、百病除去
B洪氏集験方:乾咳効果
C医学入門:精髓充満、真気平温、虚損症補強疾病治療、精神軽快、五臓六腑充実、毛髪黒化、歯牙蘇生
D寿世保元に収録されている瓊玉膏の内容は、次の通りである。
『此膏填精補髓、腸化為筋、万神具足、五臓盈溢、髓実血満、髪白変黒、返老還童、行如奔馬。日進数服、終日不食亦不飢、開通強志、日誦万言、神識高邁、夜無夢想、人年二十七歳以前、服此一料、可寿百二十歳。六十四歳以上服者、可寿至百歳。服之十剤、絶其欲、修陰功、成地仙矣。一料分五処、可救五人癰疾、分十処、可救十人宜労疾。修合之時、沐浴至心,勿軽示他人と記載されている。
 瓊玉膏は漢方古書に明記されている通り、精を補い、腸管の働きを助け、すべての栄養素が備わっており、肝、心、脾、肺、腎の五臓を助けて機能を強化し、骨髄には血液が充満し、老人の白髪は黒くなって若返り、元気な馬のように走り回る。一日数回服用すれば一日中、何にも食べなくとも飢えず、すべてのことに記憶力がよくなり、1日万語を暗記でき、思考が抜きん出ており、就寝の時は夢を見ることなく熟眠する。27歳までに一料を服用すれば360歳まで生きられ、45歳までに服用すれば240歳まで生きる、63歳までに服用すれば120歳まで生き、64歳以降に服用した者は100歳まで生きられる。
 即ち、瓊玉膏を適時に適量服用すれば、いつまでも若さを保持することがでる。また白髪の老人も元気を取り戻して若返る効能があるということである。

 E瓊玉膏の構成生薬はすべて神農本草経の上品に収載
 中国における薬の始祖は何と言っても伝説的な人物の『神農』であると言える。神農はすべての薬草を直接なめたり、噛んだりして、その薬効を判定し、分類したと伝えられている。。上品120種、中品120種、下品125種という1年365日と同じ数の計365種を、薬効別に分類したものが『神農本草経』である。『神農本草経』は一世紀頃に出版されたといわれるが、それはただ整理されたものが出版されたという意味であり、実際に神農が活躍した年代は未知である。また神農の称号は、人類の健康と農事のことを大事にした時代に、皇帝に相当する称号として贈られたもので、神農は中国の三皇の一人である。この『神農本草経』の薬効分類の内容を見ると上品120種は生命を補養する君薬とし、中品120種は身体の病気を治す臣薬、下品1215種は毒劇物が含まれたもので治療薬であると記録されている。『神農本草経』の薬効別分類法は、科学万能時代の21世紀の図書分類法にもない分類である。
 ここで注目すべきことは『瓊玉膏』を構成している生薬はすべて、神農が『生命を補養する』と分類した上品(君薬)の生薬で構成されていることである。
 その昔に、中国を統一した秦始皇等を見てわかるように、皇帝の権力を持っていた者の不老不死・不良長寿への欲望は想像できないほどであったと思われる。すなわち、宮中で愛用され、瓊玉膏と名付けられたことは、瓊玉膏がどれほど重要な補薬であったかが想像される。

(2)瓊玉膏の許可の効能
@効能効果 次の場合の滋養強壮:食欲不振、肉体疲労、虚弱体質、病後の体力低下、胃腸虚弱、毛食不良、冷え性、発育期
A用法用量 成人:茶匙1杯量(約5g)、11歳〜15歳未満:茶匙2/3量、8〜11歳未満:茶匙1/2量 そのまま、または温湯でうすめて1日1〜2回服用する。

2)瓊玉膏の適応症
瓊玉膏の最近の研究内容と臨床を総合すれば次の効果が期待される。
(1)滋養強壮:食欲不振、肉体疲労、虚弱体質、病後の体力低下、胃腸虚弱、血色不良、冷え性、発育期
(2)骨粗鬆症(骨多孔症)
(3)精神的ストレス
(4)産後回復、不妊症
(5)発育期、老化防止
(6)免疫増強及び抗活性酸素
(7)糖尿病及びその合併症
(8)高血圧
(9)糖尿病性高脂血症
(10)胃潰瘍
(11)記憶力障害、認知症の予防効果と認知症進行予防
臨床では、以上の症状に瓊玉膏を広く利用している。

3)瓊玉膏適応症の裏付け
 瓊玉膏の適応症は、伝統文献の臨床経験と薬効研究を総合すると、次のように利用される。

(1)骨粗鬆症(骨多孔症)の治療及び予防に有効
 動物、植物、または動く生命体において、骨格は形態を維持するのに基本の支柱である。人間は若い頃は骨格が固くて強いために、精力的に活躍することができる。しかし、高齢になると脊椎、関節等が段々弱くなって挙動が困難になり、活動が不可能になると、骨粗鬆症(骨多孔症)と共に急速的に老化現象が起こる。また、関節リウマチになれば、不治の慢性病になる。これらは、体の支柱である骨の中の骨髄が不足、あるいは弱いことから起こるのである。この症状を治療するのに、漢方医学では精髓充満と言う単語で表現している。即ち、瓊玉膏を長期に服用すると治療できるということになる。

(2)何事にも消極的で、ストレスを受けている人が服用する
 人間は動物の中で、意志を持っているので、世を支配している。意志が弱いと、消極的で単純な事にもストレスを強く受け、自身を蔑視し、自身を失い、意欲がなくなり、うつ状態にまでつながることがある。この症状を治療することを漢方医学では、真気平温、元気補、と言う単語で表現している。即ち、瓊玉膏を長期に服用すると自信がつき、何事にも積極的で気持ちが軽くなる。

(3)食欲不振、胃腸虚弱、肉体疲労、病後体力回復に服用する
動物は飲食を通じて動くためのエネルギーを産生することで活動する。すべてのエネルギーは生産は、臓器の役割により変わる。食物を消化吸収する胃腸が虚弱になれば、食欲不振、肉体疲労感、意欲喪失が起こり、体が弱くなるという悪循環を繰り返すようになる。
 また、腸管には全身の免疫を司る免疫司令部があると前述したが、胃腸が虚弱になると多様な病原菌の侵犯を受け、疾病にかかるのは勿論、老化も進みやすく慢性病への近道をつくることになる。

(4)血色不良、冷え性改善、産後・病後の体力回復に服用する
 医師は内科的診察の際、最初に顔の血色や舌と目を観察する。貧血あるいは血液循環と内臓の状態を確認するためである。それより診察の方向をある程度予測してから診察が始まる。
 瓊玉膏の構成生薬には生地黄があり、この生地黄は瓊玉膏の製造工程において72時間蒸熟される。蒸熟工程は人参等の他の生薬と一緒に生地黄を熟地黄のように変える工程である。熟地黄は血液、特に貧血に著効がある生薬であることは科学的研究により究明されている。冷え性、産後及び病後の虚弱体質回復には、何よりも血を補充することが一番である。

(5)発育期及び老化防止に長く服用する
 瓊玉膏の効能は若返りである。古書によると、瓊玉膏の効能には毛髪黒化、歯牙蘇生、即ち、白髪の髪が黒くなる、老人になって抜けた歯が再生すると記載されているが、それは若返るという意味を極端ではあるものの説明していると思われる。
 古書には次のように記載されている。瓊玉膏を長期にわたって服用すると、填精、補髓、養生、若返りなどの薬膏として、百損を補い、百病を除去する。五臓(肝、心、脾、肺、腎)が充満しあふれ、白髪が黒髪になり、歯が再生し、元気な馬のように駆け回り、1日2〜3回服用すると1日中空腹を感じず、一料の五分の一を服用すると癰病を治し、十分の一を服用すると疲れが取れる、27年間服用すれば360歳まで長寿する。瓊玉膏の効果は、長期間服用することにより現れるを示唆している。

(6)免疫増強及び活性酸素除去に服用する
 瓊玉膏は最近、老化及び慢性病の根源になる抗酸化作用に対する研究がされている。また、瓊玉膏の構成生薬の人参、茯苓、地黄は免疫増強作用をもつ代表的生薬であることが知られている。
 瓊玉膏の老化遅延効果を確認するため、エラー説の中でも活性酸素と関連してフリーラジカルが成人病および老化促進の原因になると言われていることから、D-ガラクターゼを6週間注射した老化モデルラットに対し、瓊玉膏を経口投与した後、赤血球のSOD(superocide dismutase)活性を確認した所、抗酸化酵素であるSODの活性に、統計的に有意性が認められた。
 抗酸化酵素であるGSH-pxの活性を測定した結果、瓊玉膏投与群と非投与群との活性に、統計的に有意性があることが認められたという報告がある。地黄にはマクロファージの免疫複合体消化能に対して亢進作用を示し、また、活性酸素抑制酵素のSOD様活性が確認された報告もある。

(7)糖尿病及び合併症に有効である
 ストラプトゾトシンにより高血糖を誘発させ、瓊玉膏を300,600、1200mg/kg投与してその結果を比較した。

 正常群の血糖値 58.0mg/dl
 高血糖誘発群の血糖値 99.0mg/dl

 瓊玉膏600,1200mg/kg投与群では血糖値73.0、61.0mg/dlで、用量依存的に血糖値を低下させることを有意的に示した。また高麗人参に含有されるペプチド成分が、合併症を阻害すると示唆されている。

(8)糖尿性高脂血症に効果
@総コレステロール及びトリグリセリド抑制効果
 高糖尿病群は、総コレステロール値が64.4mg/dlに上昇
 瓊玉膏300、600、1200mg/kg投与群は、総コレステロール値が各々、46.8、 39.5、 33.0mg/dlで、用量依存的にコレステロールを低下させることを有意的に示した。
A血清トリグリセリド値の抑制効果
 高糖尿病群は、トリグリセリド値が93.9mg/dlに上昇し、瓊玉膏300,600,1200mg/kg投与群では、トリグリセリド値が各々、72.4、59.5、54.8mg/dlで用量依存的にトリグリセリドを低下させることを有意的に示した。

(9)高血圧の抑制効果
 高血圧を誘発したラット(SHR)に、瓊玉膏の溶液、または血圧降下薬のプロプラノロール溶液を、用量にあわせ、1日1回12日間経口投与したところ、次のような結果が得られた。
 高血圧誘発群の最初の血圧を100として換算した。
 対象薬物のプロプラノロール30mg/kg投与群では、3日目から血圧降下作用を有意的に示した。また瓊玉膏300,600mg/kg投与群では、9日後から血圧降下作用を有為的に示したが、1200mg/kg投与群では投与当日から血圧降下作用を有為的に示した。

(10)抗胃潰瘍作用
 対照群(生理食塩水100ml/kg)
 瓊玉膏水溶性エキス(100,200,400mg/kg)
 対照薬物群(シメチジン 50mg/kg)
 まず、36時間絶食後に、アスピリン100mg/kgを経口投与して胃潰瘍を誘発した。
 潰瘍誘発6時間後から、1日3回、3日間、各試料を経口投与し、36時間後に、開腹して潰瘍係数を算出した。
 対照群(生理食塩水)の潰瘍係数は6.4±0.55で、対照薬物群(シメチジン50mg/kg)の潰瘍発生抑制率が55%、55%、67.5%で、用量依存的に潰瘍発生抑制の効果を示し、瓊玉膏水溶性エキスは抗胃潰瘍剤シメチジン50mg/kgより有意に効果があった。

(11)結核菌への有効性
 瓊玉膏の結核菌に対する研究を紹介する。
 実験目的:結核治療に使用されている抗結核製剤は、薬剤耐性と肝毒性による肝炎、アレルギー反応による発疹及び消化器障害等、多数の副作用が起こる可能性があり、またこれらの副作用による服薬中断は、治療失敗の原因になっている。それで実験者らは、臨床で疲労及び労療治療に瓊玉膏が多く応用されていることに着眼し、抗結核剤の耐性を低下させ、副作用を減少させる目的で、結核菌に対する瓊玉膏の効果を濃度依存的に検討した。
 @結核菌(Mycobacteria tuberculosis,M.avium,M.intracellulare,M.gordonae)の耐性度
 A抗結核剤(RFP;リファンピシン、CFN;シプロフロキサシン)
 B瓊玉膏(500μg/ml、250μg/mll、25μg/ml)
 C耐性判定:結核菌を摂取した後、培養気で培養して、菌のコロニーのの耐性度を判定
 a.RFPと瓊玉膏の混合投与時における結核菌の耐性度
 対照群の結核菌は継続的に生存数が増加することを示した。これに比べ、RFP投与した培地における生存数は1日目以降、持続的に有意に(p<0.001)減少し、瓊玉膏を投与した培地における生存数は5日目以降持続的に有意に(p<0.001)減少した。またRFP+瓊玉膏を投与した培地における生存数も5日目以降、持続的に有意に(p<0.001)減少した。RFPの単独投与では、結核菌の抗結核剤に対する耐性により、18日め以降に生存数が急激に増加を示したが、RFP+瓊玉膏を投与した場合には18日目以降でも、生存数は持続的に減少を示した。

b.CFNと瓊玉膏の混合投与時における結核菌の耐性度
 対照群の結核菌は継続的に生存数が増加することを示した。これに比べ、CFN投与した培地における生存数は1日以降、持続的に有意に(p<0.001)減少し、瓊玉膏を投与した培地における生存数は7日目以降、持続的に有意に(p<0.001)減少した。またCNF+瓊玉膏を投与した培地における生存数も5日目以降、持続的に有意に(p<0.001)減少した。CNFの単独投与では、結核菌の抗結核剤に対する耐性により、18日目以降に生存数が急激に増加を示したが、CFN+瓊玉膏を投与した場合には、18日目以降でも、生存数は持続的に減少を示した。

c.瓊玉膏と抗生剤(CNF,RFP)混合投与時における結核菌の耐性度
 瓊玉膏と抗結核剤(CNF,RFP)の混合投与において、抗結核剤(CNF,RFP)の混合投与時に、さらに瓊玉膏を混合したものが、強い抗結核効果を示した。
上記の結果から結核患者治療時に、抗結核剤と瓊玉膏を同時に投与することによって、結核菌の薬剤耐性を減少させ、治療効果が期待される。

(12)記憶力障害改善及び認知症予防と認知症進行予防に有効
人間の最近の記憶は脳の海馬組織で記憶貯蔵されるが、古い記憶は大脳皮質で記憶貯蔵される。認知症患者は、昔の事は比較的記憶しているが、最近の事件やヒトの区別認知力、場所位置、時間的概念、自分の生年月日、家の電話番号等に対する記憶力がないのが特徴である。もっとひどくなると、食べものと排泄物の区別も出来なくなる。日頃から尊敬してきた祖父母、あるいは父母が一人で生活する事が不可能になり、家族や周囲の人達にとって精神的にも肉体的にも負担となるため、大きな社会問題になっている。
 認知症は完治しない病気であるが、病状は徐々に進行するため、発病初期に発見して進行を遅らせることが最善策である。
瓊玉膏の認知症に対する効果を確認するために、表で表した研究結果を紹介する。

@瓊玉膏の脳神経保護効果『実験例』
 a.実験動物:マウス(モンゴリアン・ジャービル) 
 b.実験モデル:全脳虚血モデル(BCCAO)
 c.実験群
 
 Sham               無処理群
BCCAO            全脳虚血誘発群(陰性対照群)
BCCAO+KOK(0.25)    全脳虚血誘発+瓊玉膏 0.25g/kg 經口投与群
BCCAO+KOK(0.5)     全脳虚血誘発+瓊玉膏 0.5g/kg 經口投与群
BCCAO+KOK(1.0)     全脳虚血誘発+瓊玉膏 1.0g/kg 經口投与群
BCCAO+KOK(2.0)     全脳虚血誘発+瓊玉膏 2.0g/kg 經口投与群
BCCAO+MK         全脳虚血誘発+N-methyl-D-asparate(NMDA)3.0mg/kg 腹腔注射群(陽性対照群)

A瓊玉膏の投与が脳の海馬のCAIの細胞死に影響
脳の海馬のCAI細胞死を起こしたマウスの脳を摘出して組織学的に評価した。
瓊玉膏(上記実験群)投与において、脳の海馬の生存細胞と死滅細胞をニッスル染色法で確認した。
 瓊玉膏投与群は瓊玉膏を投与しない群に比べ、用量依存的に生存細胞が多く、死滅細胞が少量で、瓊玉膏2.0g/kg投与群は正常群とほぼ同じぐらいまで死滅細胞が減少していた。

B瓊玉膏の投与が抗炎症に影響
 脳細胞死滅メカニズムに関係する炎症に対する瓊玉膏の影響を評価するため、炎症細胞や微細芽膠細胞、星状細胞及びこれらの細胞が放出する1L-1βを免疫染色法で確認した。
 微細芽膠細胞は無処理群で非活性状態であったが、全脳虚血誘発群では活性化された。また、瓊玉膏2g/kg投与群では、全脳虚血誘発群に比べ、微細芽膠細胞の数が著しく減少する結果を示した。瓊玉膏2g/kg投与群では、全脳虚血誘発群に比べ、星状細胞の数が著しく減少する結果を示し、また瓊玉膏1.2g/kg投与群では炎症性神経伝達物質であるIL-1βの数を著しく減少させた。
 すなわち、瓊玉膏の海馬組織への保護効果を示していると思われる。

C瓊玉膏の当夜投与が記憶力改善に影響
マウスに全脳虚血を誘発して記憶力損傷を起こした後、瓊玉膏を投与した場合の記憶力改善に及ぼす影響を評価した結果である。
 Y字迷路試験及び新規物体認知能評価の結果、瓊玉膏2g/kg投与群は対照群に比べ、記憶力改善効果を有意に示した。
 上記の結果から、瓊玉膏は、海馬組織保護、細胞死滅の原因である脳抗炎症効果及び脳細胞生存に対する効果があることが認知された。
 認知症の項で言及したが、認知症は進行は遅くなるという特徴があるので、瓊玉膏1回あたり5gを1日2回、長期的に服用して、認知症の進行をさらに遅らせることができれば、余生を充分におくることが可能と思われる。
 ここでは、慶煕大学校薬学大学の柳教授チームと廣東製薬研究所が共同研究で発表した一部を紹介した。

(13)酸化的損傷による心筋細胞枯死に対する瓊玉膏の防御効果
 心血関係の疾患は、発病後に深刻な合併症が起こる可能性があり、また持続的な治療が要求される疾患であるため、疾病の予防が治療よりも重要であると認識されている。
 研究者らは、心筋細胞の酸化的損傷に対する瓊玉膏の防御効果を究明するために、H9C2細胞にH2O2を用いて酸化的損傷を誘発した後、酸化的細胞毒性に対する瓊玉膏の効果を確認し、これに関与する抗酸化関連酵素であるヘムオキシゲナーゼ-1及び関連タンパク質の発現の様相を調査した。その結果を紹介する。

 @酸化的損傷によるH9c2心筋細胞の生存率変化
  酸化的損傷によるH9c2心筋細胞の生存率変化をみるために、複数の濃度のH2O2でH9C2心筋細胞を12時間処理し、MTT方法で測定した。
a.H2O2濃度処理群によるH9C2心筋細胞の生存率
 -0.05mM H2O2処理群:対照群より73%生存
 -0.1mM H2O2処理群:対照群より31%生存
 -0.2mM H2O2処理群:対照群より25%生存
 H2O2が高濃度になるにつれて、生存率は減少し、酸化的損傷を確認した。

b. 0.15mM H2O2処理後、時間経過によるH9c2心筋細胞の生存率
 -2時間後から徐々に減少
 -6時間後、約62%の細胞生存
 -10時間後、約38%の細胞生存
 -12時間後、約34%の細胞生存
 H2O2により、H9c2心筋細胞毒性は時間が経過するにつれて蓄積され、DNAの分節に関する典型的な細胞枯死であることが確認された。

AH2O2によるH9c2心筋細胞枯死に対する瓊玉膏の影響
 実験プロトコールにより、H9c2心筋細胞に対し、0.5mg/ml及び1mg/mlの瓊玉膏を同時処理、30分前処理及び12時間前処理した後、それらをH2O2(0.15mM)で処理して、細胞生存率の変化をMTT方式で調査した。
 -瓊玉膏で12時間前処理したH9c2心筋細胞生存率は39%
 -瓊玉膏を同時処理(1mg/ml)群では48%生存
 -瓊玉膏で30分前処理(1mg/ml)群は82%生存
以上の実験結果から、瓊玉膏の前処理群が同時処理群より高い生存率を示した。

BH2O2によるH9c2心筋細胞枯死に監に関し、心筋細胞の酸化的損傷に対する瓊玉膏の防御効果として、生体内抗酸化酵素であるヘムオキシゲナーゼ-1の発現を確認するため、ウエスタンブロット解析を試みた。
 H2O2単独処理時におけるヘムオキシゲナーゼ-1の時間依存的発現
 H2O2酸化的損傷に対する瓊玉膏の防御効果にとして、生体内抗酸化酵素であるヘムオキシゲナーゼ-1の発現を確認したところ、瓊玉膏を30分処理した場合に、明確に防御効果を示した。ヘムオキシゲナーゼ-1は、瓊玉膏の量に対し、濃度依存的に発現が増加し、対照群水準にまでH2O2酸化的損傷が回復した。

CH2O2によるH9c2心筋細胞枯死に関するFas/FasLのタンパク質発現に対する瓊玉膏の効果
 H2O2による心筋細胞の酸化的損傷に対する瓊玉膏の防御効果に関して、細胞枯死調節関連タンパク質であるFas/FasLの発現をしるために、ウエスタンブロット解析を試みた。
 0.15mMH2O2処理の4時間後からFas蛋白質の発現の増加が観察された。
 またFasに結合するFasLタンパク質も4時間後から発現が増加した。
 Fas/FasLの発現に関し、0.5mg/ml、1mg/mlのけいぎょくこうで30分前後処理した後、発現を確認すると、Fasは瓊玉膏の量に対し、濃度依存的に発現が減少し、対照群水準にまで回復した。
以上の結果から、瓊玉膏は酸化的損傷から心筋細胞を防御する効果を示したので、虚血性心疾患などの心血関係疾患に有効活用できることがわかった。
 また、瓊玉膏は発病してから服用するより、発病前から服用するのが有効であることが示された。

(14)不妊に効果がある。
 瓊玉膏は古書に効果として精髄充満と記載されている漢方である。精髄充満は男性の精子が元気で活発であると言う意味である。そこで、実験中ではあるが、筆者らが共同研究で不妊に対する実験をした所、瓊玉膏の投与により雄のラットの精子が活発になったため、メスのラットの受精や、補精に有効として、不妊治療に活用できるのではないかと期待している。

4.瓊玉膏の製法
 瓊玉膏には水を全く使わずに、蒸熟の特殊性により製造している。

1)文献的製造方法
 漢方薬の修治法が詳細に収録されている方薬合編には、瓊玉膏の製法に関して、次にように記載されている。
『左和均 入磁缸内 以油紙五重 厚布一重、 緊封缸口、置銅●内、水中懸、胎令缸口出水上、以桑火煮三書晝夜、如鍋内水減則、用煖水添之、日満取出、(換紙紮口 以りょう封固  懸井中一日取起)再入舊湯内、煮一晝夜、以出水気、乃取出、先用少許 祭天地神し 然後毎十二● 温酒調服、不飲酒、白湯下、日二三服、須於不聞鶏犬声、不令婦人、喪服人見之』

瓊玉膏の基本処方
 生地黄取汁  16斤
 人参       24両
 白茯苓      48両
 白蜜(蜂蜜)   10斤

上記の基本処方に次のような成分を加えることもあり、次にように記録されている。
(1)一方加:琥珀、沈香    各五錢
(2)一方加:天門冬、枸杞子  各1斤(益壽永真膏という)
(3)一方加:天門冬、麦門冬、地骨皮  各八両

 即ち、瓊玉膏の基本処方である人参粉末24両、白茯苓粉末48両、(一方加漢薬粉末包含)と生地黄の絞り汁16斤、蜂蜜10斤等をよく混合して均等にし、陶磁器に入れ、油紙5枚を重ね、その上に厚い布で陶磁器の口をきちんと封し、銅の水浴槽に入れ、陶磁器の口は水の上に出る様にして、桑の木を燃料にして火を焚き(温度を一定に)、三昼夜蒸熟する。
 もし銅の水浴槽に水がなくなると、温水を補充し、一定時間経った後、油紙を交換して再びきちんと封をして、井戸の水につけてぶらさげ、一日冷却した後、はじめの銅の水浴槽に入れ、また一昼夜蒸熟する。出来あがれば、まず少量を取り、天地神しに祈りをささげた後、1日1〜2杯を温水で服用する。
 製造する時に、ニワトリや犬の声が聞こえない山奥で、また、婦人や喪服を着た人を見ないようにと記載されているのはそれほど丹精をこめて製造するということをいっている。

6.瓊玉膏の製造工程
 生地黄は秋に収穫して1年間使用するので、品質を一定にするために、貯蔵に最も気を付けなければならない。そのための貯蔵費用が余計に掛かる。

1)生地黄の搾り汁の作製工程
 生地黄はそれ自体の新鮮度が大切である。即ち、生地黄を採取または保管の際、傷をつけず、一定の大きさで、収穫当時の水分をそのまま保持しているというような新鮮度が、製品の品質を左右する。
 生地黄の保管及び洗浄、生地黄の搾汁機での搾汁、生地黄の搾汁液の運搬、調製工程の時等には、一切、鉄製のものと接触しないようにする。また混合調製、蒸熟工程などの時にも一滴の水も加えないことが重要である。

2)混合調製及び蒸熟工程
瓊玉膏の製法は文献の製法を遵守して機械化し、GMP規定に適合するようにして製造する。
 蒸熟タンクに人参粉末、茯苓粉末、枸杞子粉末、沈香粉末と蜂蜜、生地黄汁を処方の通り入れ、攪拌しながら80℃で72時間蒸熟し、一晩放冷後、また24時間掛けて』完全に蒸熟する。瓊玉膏は、生地黄の搾り汁と蒸熟工程の蒸熟度で、品質が決定される。

3)充填工程
(1)洗瓶工程
瓊玉膏を充填する瓶の洗浄は次のように行う。
常水洗浄→洗剤洗浄→熱水洗浄→精製水洗浄→乾燥→検査→充填
(2)充填時、瓊玉膏には粘度があるので、充填量に注意して充填、包装する。

4)瓊玉膏の処方構成と蒸熟後の成分変化
瓊玉膏の製造工程で最も重要なことは、生地黄の搾汁工程と蒸熟工程である。東医宝鑑には瓊玉膏の製造場所は『須於不聞鶏犬声、不令婦人、喪服人見之』、即ち、犬やニワトリの声が聞こえない場所で、婦人と喪服を着た人は立ち入りを禁ずるとされている。これは瓊玉膏の製造蒸熟の際、製造条件に丹精を込めて製造することを意味している。それでは瓊玉膏の蒸熟工程後、成分がどのように変化するのかを考えてみる。

(1)人参の成分変化
 蒸熟後の人参の成分変化:72時間の蒸熟過程において人参は蒸熟される。
 人参を瓊玉膏のその他の構成生薬と一緒に蒸熟すると、人参単体では見られない新しい成分のピークが見られる。

(2)生地黄の成分変化
 生地黄の搾り汁を瓊玉膏のその他の構成生薬等と蒸熟すると、生地黄単体では見られない新しい成分のピークが見られる。

(3)製剤学的観点から生地黄を搾り汁にし、その汁を用いたことで水を一滴も使うことなく蒸熟により膏剤化を可能にした。
瓊玉膏の製剤において蒸熟することは、単純に人参や生地黄の成分変化があるというだけではない。数百年前に瓊玉膏の処方構成やその時代は温度計がなかったにも関らず、桑木の根を火に焚いて蒸熟の温度を一定にし、72時間蒸熟して、一晩放冷後、再び蒸熟するという特殊醗酵概念を得ていたことや、また蒸熟することで生薬の成分を変化させて薬効を増加し、瓊玉膏と命名したことは、本当に瓊玉膏が霊薬であることを示しており、50年以上漢方の製剤や漢方薬の活性を研究してきた著者も、この先祖の知恵に感嘆し、頭が下がる。



慢性病(生活習慣病)

@老化の構造と慢性病
 生老病死の人類法則がある。人間をはじめ、すべての動物は生老病死の必然的不変の法則の中で生きている。即ち人間は父母を通じて生命を持って生まれ、自然環境の中で生命を維持しながら成長し、最後には病気にかかって死亡」することである。
 人間は大昔から、健康で長寿でありたいという欲望がどの動物より強く、自然環境に適応し、知恵を発達させて地球を支配してきたと推測される。
 地球上の人類は、科学を発展させ、月、火星まで征服しようとする現在といえども、絶えず健康的に活動し、寿命をいかにして延ばし、長生きするかを最大の課題として努力してきた。人間が長寿と健康のために投資したものを金額で換算するとすれば、人類が使用している数字では表現できないほどの金額を長い歳月に渡って投資してきたが、生老病死の法則を屈服させることはできなかった。
 しかし経済的生活向上と医療の発展によって、平均寿命は多少延びるようになった。日本人の平均寿命は明治、大正時代には男女ともに50歳を超え、昭和22年、昭和25年には男性59.6歳、女性63歳に、昭和59年には男性74.5歳、女性80.2歳となり、名実ともに人生80年時代を迎え、高齢化社会になったわけである。しかし今日、科学の発達に加えて経済的開発によって最大寿命が延びてはいるものの、環境破壊、空気汚染、水不足と汚染、オゾン層破壊による紫外線増加等の環境変化は、高齢化時代に『QOL』(quality of life:生活の質)の点からは、深刻な社会問題となっている。
 老化とは何か、また老化はどのように起こって死亡するのかは、誰もが疑問に思っていることである。昔から多くの学者達によって、老化学説が提唱されてきた。Strehlerは、老化の特徴として普遍性(universality)、内在性(intrinsicality)、進行性(progressiveness)、時間依存性(time dependency)、有害性(deliteriousness)の5つを提示している。
 人のように多細胞動物においては、再生系細胞より非再生系細胞の老化が、個体の老化に大きく影響を及ぼすと報告されている。非再生系細胞中でも、神経細胞の老化が個体の寿命と密接に関係があると言われている。哺乳動物では、脳の重量と個体の最長寿命との間に一定の関係式が成立するというSacherの科学的報告があるだけでなく、老化に対する機序等が明らかにされている。
 老化の最も基本的な形態的特徴は、実質細胞数の減少と、生理的変化による疾病の増加で、特に表には現れにくい臓器機能低下の背景を持つ疾病が多い。また臓器の障害を惹起し、多くの臓器不全を起こしやすい症状は一定でなく、回復も遅く、慢性化もしやすい。また回復した後でも、日常生活の活動がよくないのが老人病疾患の特徴である。特に人間は直立歩行動物(homo erectus)でありながら、頭を使って思考する動物(homo sapiens)であるため、機能損傷によって挙動ができない時や、認知症、脳中風等でひとりで生活できない時に、家族や周辺の人々にも負担をかけることになる老人病疾患は、高齢化社会において最も深刻な問題である。特に共働きが一般的になっている現代人にとって道徳的な観点から必ず父母と一緒に暮らしながら親孝行をしなければならないことが昔話となってしまった現在では、高齢化比率が高くなるほど労働力が減少するので、結果として国が高齢化するのと同じ事になる。したがって高齢化を迎える国は、単純に長寿化するだけでなく、老人福祉施設の設置、身寄りのない高齢者の対策、またいかにして自立的で健康に老年期を迎えるかの対策に苦心しているが、何よりも老化と関係する認知症、高血圧病、糖尿病、関節炎、骨粗鬆症(骨多孔症)等の老人性、慢性病の予防対策が、人類の最大課題である。
 したがって、21世紀の地球人類の健康は現代医学だけでは守ることができないことから、伝統医薬あるいは自然健康食品で病気にかからないようにする予防医学を提唱している未来を見据えた医学者達と同様に、天然薬物及び天然健康食品で病気を予防していく必要がある。そのため本書は、伝統医薬処方と慢性病との関係を絡めて記述したい。

1.慢性病と生活習慣
 老化と慢性病は夫婦のように切り離せず、同時に進行する。老化は決して元に戻らない不可逆性のものであり、何人も避けることのできない不可避的なものである。
 しかし、高齢者はヒトによって差異がある。高齢で気力は劣るけれども慢性病なしに一生を平穏に暮らす人もいれば、老年期に慢性病を煩い、本人はもちろん家族にまで苦労をかけて一生を終える人、また中年期から高血圧、糖尿病、癌、痛風等の慢性病にかかり、不幸に余生を暮らす人もいる。
 一般的に慢性病は遺伝性だと思う人が多い。勿論、遺伝的要素もあるが、それよりも平素からの生活習慣により慢性病が発生することが知られるようになってから、慢性病は生活習慣性の疾患であるという学者達がおおくなった。それほど慢性病は平素の生活習慣と密接な関係があるため、慢性病予防のために正しい生活習慣が必要であると解釈される。
 本書では、慢性病にかからないように自分自身が前もって予防することを目的として、発病原因と発病原理を詳しく説明することで、本人自身の知識を通じて生活習慣の改善と予防効果が高められるよう、予防的な観念を中心に記述した。また慢性病にかかれば専門医の治療を受けるため、治療法はなるべく簡素に書いている。


2.健康のための正しい生活習慣
1)食生活 2)性生活 3)精神的ストレスの解消 4)適度な運動などは、基本的生活習慣である。

1)食生活
 動物は食べることそのものが生きていることである。動物は行動する生き物で、食べることと身体の新陳代謝と運動は、必須的行動であり、吸収排泄のバランスを維持しながらエネルギーを産生することが、基本条件である。この吸収排泄のバランスが崩れると、身体は非正常状態の肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧、痛風等の慢性病にかかりやすくなる。
 ひとつの例になるが、食べものが沢山ある精米所のニワトリは土を掘りながらエサをさがして生きる放育ニワトリより不幸であるという古いことわざがある。精米所のニワトリは周辺に米が沢山あるので、おもに米を捕食しながら楽しく暮らすようにみえるが、放育している一般のニワトリの方が、食べ物をさがして活動をしながら様々な食べ物を食べるため、耐因性が強く健康である。人の生活も同じく、食べたい時に食べ、食べたくない時は食べない、、また美味しいものだけを好んで食べる、運動や活動を嫌がる生活をすると、慢性病の近道になる。
 このような食生活習慣、労易主義による運動不足、競争社会、職場ストレス時代に向き合っている現代人の生活では、肥満、糖尿病、高血圧、痛風、関節炎等の慢性病にかかるのは当然だと思われる。最も問題となるのは、病気にかかれば現代医療に依存する、またダイエットの目的で欠食や無理な節食をしたりする、運動はフィットネスクラブやゴルフのような楽しい運動に依存する傾向が多くなっていることである。また生活向上により、日常の食事では美味しいものだけを追求し、多色するので、肥満、糖尿病、高脂血症が21世紀の人類の脅威となっている。
 人は動く動物であり、1日3食食べるのが正常で、偏食と過食をしない規則的な食生活と適度な運動は生命維持の基本である。人体活動のエネルギー供給源となる食物は、腸管を通じて栄養分が吸収され、代謝過程を経てエネルギーが各臓器細胞に供給され、その事によって人は活動できる。したがって、このエネルギーに対する運動と消耗のバランスが取れた生活習慣が、健康を左右する。
 食生活習慣において喫煙と過飲、過度なトランス脂肪の摂取は、有害無得であり、また肉類の大量摂取を適切に調整する生活習慣が望ましい。
 食欲が旺盛で多色する人は、しょくじの前あるいは食事の最初に、適度に甘いものを食べるのが良い。甘いものは食べた時の満足感が大きく、先に甘いものを食べるとその後、沢山食べなくても満腹になりやすいため、これを利用するのも良い方法だと思われる。甘いものは砂糖が代表的である。砂糖は肥満、糖尿病には望ましくないものであるが、日常生活で完全に禁食するのも困難である。砂糖を利用するときには、精製した白糖より、粗精製したキビ砂糖の方が良い。精製していないキビ砂糖の黄色物質にはフェニルグルコシドが沢山含まれており、このフェニルグルコシドは腸管において炭水化物の吸収を抑制する作用があるため、食べた砂糖や穀類中の炭水化物の吸収が抑制されるからである。

2)菜食と肉食の比
(1)人は菜食と肉食の雑食動物である。では野菜と肉を食べる比率はどの程度が良いのか、疑問が出てくると思われる。それは人によって差異があるが、人体構造的に考えてみると、人間の歯牙の構造は32本になっている。
 門歯-8本(細切)
 犬歯-4本(細切補助)
 臼歯(奥歯)-20本(粥状に細磨)
 8本の門歯で細切、犬歯は細切補助、臼歯(奥歯)は粥状に細磨する役割をする。
牛、馬、象、羊等の草食動物は門歯の8本で細切し、臼歯を上下左右に動かしながら植物類を細かい粥状にして消化する。ライオン、虎、犬、猫等は犬歯が発達しており、犬歯で肉に噛み付き臼歯(奥歯)を上下に動かして肉類を消化する。人間は歯牙の構造から雑食動物である。人の歯牙は門歯と臼歯を合わせて28本、対する犬歯は4本で、『7:1』の比率で構成されている。したがって、人は身体構造からみて、日常の食事の比率は、菜食87〜88%、肉食12〜13%で摂取するのが適切であるとみられる。即ち、肉類は1週間に1回程度、野菜類と一緒に食べるのが、望ましいと思われる。

(2)旬のもの
 人間は自然環境の中で暮らしている。地球は1年365日、春夏秋冬の四季があり、春は万物が蘇生する季節で、植物は芽を出し花が咲く、夏は成長、秋は成熟、冬は貯蔵と冬眠の季節である。それらの季節を繰り返す環境の中で、すべての動物は自然と共存しながら、生老病死法則の下で生命を維持し、最終的には自然に帰化する。人間も同じように自然環境の中で共存しながら生命を維持するので、季節に合った食べ物、つまり旬のものを摂取するのが健康に良いと考えられる。特に旬の野菜類は輸入品よりも、自身が日頃居住している地域で生産されるものが健康に最も良いと言われている。『産地地消』、『身土不二』といった言葉があるが、自然と生活の摂理ともいえよう。
 すなわち、春にはヨモギ、タケノコ、山菜やその乾燥品、夏にはトマト、スイカ、イチゴ等の夏の野菜、秋には各種の成熟した果実類、穀類、野菜類、冬には穀類、醗酵食品(キムチ、味付け)、茶類などや、その季節に多く取れる魚介類の料理、また体を強くする旬の素材を摂取するのが良い。

3)家庭の生活習慣と性生活
 『三つ子の魂百まで』と言うことわざがある。子供の頃の生活習慣は人の一生の人格形成に関ることは勿論、自身の人生において健康的に生きられるかどうかを左右するといえる。
 社会活動は家庭から始まり、家庭の平和は社会生活を円満にする。また家庭の平和は夫婦の円満な性生活と密接な関係があり、健全な性生活は健康にも大きな影響を与える。
 性生活も食生活と同じく、節制の上、若い時から夫婦の生活環境に合わせ、規則的に性生活をすることが、老化防止や疾病の予防と健康に良い。即ち、乱れた性生活は老化と慢性病を促進すると共に、職場生活においても集中力が落ちる。食事の量と日頃の性生活は8文目に調整するのが長寿の秘訣だと言われている。鶴と亀は夫婦間で性生活を調整し、食べ物は活動の合わせて量を減らすので、長生きすると言われている。日常生活において夫婦が互いの人格を尊重し合い、譲歩し合う、真心の愛も大事な性生活の一部であり、家庭の平和の鍵となる。反面、無節制な性生活や不倫による性生活で家庭の不和等を起こすと、家庭は不幸となり、慢性病を引き起こすだけでなく、老化が早く、短命で人生の末路がよくないことは当然である。

4)精神的ストレスの解消と適度な運動
 現代人は、職場、社会、国家間等、激しい競争の中で生活をしている。21世紀になって科学の発達により、物があふれた豊かな生活をしているが、時代にあった経済水準にすべての人が達しているとは言えないため、就職難、子供の教育費、職場の上司や同僚間、または業務等で受ける精神的ストレスの累積は、その度を越えている。精神的ストレスの累積は高血圧、心疾患、糖尿病、うつ病、関節炎、癌等の慢性病の根源になるとの学会報告は、もはや新しいことではない。社会生活において避けることができない精神的ストレスを、薬や医師に頼って解決しようという考えは間違ったことである。自分が日常生活において受けるストレスは、まず自身で解決する方法を探し出し、習慣化して治すべきである。

 精神的ストレスを解消することは簡単にはできないが、すべてにおいて肯定的思考を持つ、職場の同僚たちと打ち解ける、趣味生活を通じて自身を持つ、家族とは会話により家庭を平穏にする、宗教生活、尊敬する先生または先輩、親友、恋人との会話を持つ、目的を完成した時の達成感を増大する、仕事の際はこの仕事があるから自分が必要であると考える、また仕事があるから家族の幸福があると肯定的に思うことで、ストレスを解消する。あるいは適度な運動などで、精神的ストレスを解消する方法が何よりである。


A生活習慣病
 成人病は加齢の病変であり、病勢の進行を止めることはできないとされてきたが、現在では生活習慣病と称される成人病の過半数が、生活習慣を変えることにより、病気を確実に予防ができることから『健康日本21』が厚生労働省により策定された。
生活習慣病予防としては、健康と栄養を考えた食生活、運動を通じた肥満、動脈硬化、高血圧症、脳出血などの循環器病病の防止、睡眠によるストレス緩和と休養、節煙および禁煙による心臓病のリスクの低減、適度なアルコール摂取による心身のリラクゼーション、歯の健康、糖尿病予防、そして癌の早期発見などが挙げられている。以上をみると、いずれにしても、生活習慣を通じた予防が求められる。結局、自然との親和する生活を意味している。

癌(Cancer)
 癌は手足の爪、毛髪をのぞく、身体中どこにでも発生する恐怖の疾病である。
 世界人口の約1/4が癌によって死亡している。また勧告の死亡原因の1位が癌による死亡であり、毎年7〜8万人が癌により死亡している上、、癌患者は毎年増加している。治療中の患者が10余万人で、新しく発生する患者数も10余万人に達すると専門家達は推測している。
 20世紀にめざましい発展をとげた現代医薬であるが、癌は今も難攻不落で、癌退治のために医、薬、生物学者たちは、昼夜兼行で研究している。

1.癌の正体は何か
癌は正常細胞が何らかの原因で突然変異を起こし、発生する。
1)癌は60兆に達する正常細胞の中、最初はひとつの細胞が突然変異を起こし、発生する。(Initiation Promotion)

2)突然変異細胞は細胞死滅がなく、無限に増殖する。

3)癌細胞は多くの栄養分を要求し、無秩序に正常細胞へ機能障害を与える。

4)癌細胞は不可逆的で、正常細胞に戻ることなく、全臓器に転移拡大する。

5)増殖速度が非常に早い。

6)癌は始めに発生する原発巣癌と、転移癌がある。
原発巣癌は早期に発見すれば手術や薬物治療により治癒できるが、転移癌は全身に転移するため、免疫が低下し急速に増殖速度を増す。

7)難治病である。
 ヒトは誰でもオンコジーン(Oncogene)という不活性の癌因子を持っている。ヒトが身体的、あるいは精神的ストレスを継続的に受け、刺激が累積すると、不活性Oncogeneが活性化されて癌を誘発するとの学説がある。Oncogeneを活性化する条件は日常生活習慣が鍵になっていると言える。
 即ち、環境汚染、疲労、過度な紫外線及び放射線の照射、または累積されたストレス等により、呼吸代謝で発生した活性酸素が体内に蓄積されることによって、免疫力が低下して正常細胞が破壊され、Oncogeneの活性と共に細胞の突然変異が起こるとみられている。この突然変異は慢性的刺激(promoter)と変異源(initiater)によって起こる。
 慢性刺激実験のひとつの例を挙げると、ウサギの耳の毛を削り、皮膚をコールタールで擦ることを繰り返すと、皮膚に傷ができて出血し、皮膚や肉がふくれ、修復増殖作用が起こる。このような操作を1年間繰り返すと(動物の癌自然発生は1年以上の期間が必要)、修復増殖作用により修復された皮膚および肉が突然石のように固くなる。細胞に突然変異が起こって癌になる癌は、このような原因などにより、発生する。この実験の通り、慢性刺激(promoter)が突然、変異源(mutagen)になって癌になるのがわかる。


2.癌の予防
 癌は遺伝病であると言われてきた。しかし、最近では生活習慣病であると考える方が説得力を得ている。癌の遺伝性は結果で、原因は生活習慣にあると考えるのである。人類の進化は遺伝子の変化からではなく、環境に適応するために体質の変化から進化している。
 癌を予防するには、まず癌が発生する原因を知ることが望ましい。癌を誘発する変異源の原因は何かを考えてみよう。

進化と人体質変化
人体遺伝子は30億構成→蛋白質生産

人間遺伝子は不変化
環境による人間体質変化
遺伝子校正体質50%-環境50%

 癌の発生原因となる放射線、紫外線、ブレオマイシン(bleomycin),テトラサイクリン系の抗生剤、農薬、除草剤、殺虫剤等が、植物や昆虫の細胞核遺伝子のDNAに、活性酸素(Free Radical)を発生させ、DNAを溶解したり、破壊したりする。即ち、放射線、紫外線、抗生剤等が、人を含めた動植物の細胞核に、大量の活性酸素(Free Radical)を発生させると、DNAが破壊されて死亡する。
  段簿に散布した農薬が米や野菜に吸収されたり、ゴルフ場に散布される農薬や殺虫剤が雨と共に川へと流れたりすると、その農薬や殺虫剤は川の石や砂によって浄化されるが、微量ずつ水道水に混入する。そのため日常生活の飲料水や食物を通じて、我々の体に蓄積される際に、前述した通り、微量ずつ発生する活性酸素(Free Radical)によってDNAが損傷を受け、遺伝子の伝達命令が少しずつ変化しながら、細胞の突然変異を起こし、癌を誘発すつ子とになる。以上のような事実からみると、遺伝子変異の原因は、結果的に環境と生活習慣にあることがわかる。
 癌の字を見てもよく理解できると思われるが、癌の字はやまいだれに、くち(口)が3つあり、その下に山の字がある。癌の字を解析してみると、やまいだれの中の口のひとつは食物を食べる口、もうひとつは呼吸する口、残りのひとつは目には見えない七情(ストレス)を感じる口で、下の山の字は自然を表している。言い換えると、日常生活において自然から遠ざかり、汚染した空気や食べ物を食べ、ストレスを連続して受けることにより、癌にかかると考えると、生活習慣の改善が癌の予防に役立つと思われる。
 一般的に癌にかかるのは遺伝子によるものだと決めつけて言う人が多い。しかし、人の遺伝子は30億個で構成されていると言われ、遺伝子が変化することは滅多にない。もし簡単に変化する遺伝子であったとすれば、先祖から子孫へと遺伝子が伝わってくる間に、癌にかかってしまい、今まで遺伝子を伝えてくることができなかったはずである。癌は遺伝性のものではなく、生活習慣による体質変化が癌を誘発するため、予防できると主張する学者達が増えてきた。したがって親が癌で亡くなったので、遺伝子の関係で自分も癌にかかるのではないかと心配する方がいるかもしれないが、それは杞憂で、環境や生活習慣に気をつけていくのが大事なことであると、学者たちは言っている。


3.癌の転移と早期発見
 ヒトの体には外部的に『ほくろ』あるいは内部的に子宮筋腫、脂肪腫等があるが、これらはある程度成長すると停止して転移しないため、生命には支障がなく、良性腫瘍とよばれる。
 一方、悪性腫瘍(癌)は正常細胞と異なる非正常的な分裂細胞で、ヒトの正常な新陳代謝とは無関係に早い速度で無限増殖し、正常細胞が摂取するべき栄養分を、癌組織の増殖に比例して奪取するので、正常細胞は次第に栄養不足状態となり、癌組織の増殖は加速される。なお重要なことは、初めに発生した癌組織を原発巣癌というが、この原発巣癌がseedとなり、癌細胞から解離及びリンパ離脱されて、血管やリンパ管を通じてからだの各臓器に移転し、早い速度で新しい癌組織を新生拡大することを、癌の転移と言う。この転移した癌細胞に対する治療法は、未だに困難である。

 癌転移に対して、いくつかの過程(process)に分けて、特徴を解析してみると
1)原発巣の増成による周囲組織の融解と血管新生の誘引
2)原発巣からのseedの解離と離脱
3)seedの脈管(血管、リンパ管)への移動
4)seedの脈管内への侵入
5)seedと脈管内の体液成分(リンパ管、血糖タンパク)、細胞成分(リンパ球、マクロファージ、血小板)との相互作用
6)seedの標的臓器(soil)の脈管壁への付着と脈管外への浸出
7)seedによる標的臓器(soil)の組織融解
8)seedによる標的臓器(soil)内への侵入
9)seedによる標的臓器(soil)での血管新生の誘引
10)seedの標的臓器(soil)での増成

以上、癌転移の過程(process)を整理して説明したが、癌転移に最初の段階、癌細胞の腫瘍塊からの離脱に関与する細胞間接着低下に関するカテニンタンパク群の研究、癌細胞の標的臓器への接着浸透過程、Lance Liottaの提唱した血管リンパ管規定膜接着分解運動における3段階での分解に関与するマトリックスメテロプロテアーゼの研究、seed and soil説に対する研究、癌のseedが臓器に安着した後の栄養補充のための血管新生誘引の抑制等、部分的に活発な研究は行われているが、未だに確実な治療法は確立されていない。


4.癌の早期発見
 癌は原発巣癌と転移癌とを区別しており、これらは癌の進行過程を表している。
 上記で胆の発生原因を説明した通り、最初は1個の細胞から変異が起こり、潜在期を経て転移する以前までを、原発巣癌という。この原発巣癌の潜伏期間は相当な期間がある。ただ症状がなく、本人が感じられないため、長い期間、癌の成長を待ったまま生活しているのが一般的な癌患者たちの実態である。この原発巣癌の段階で病院に行って検診を受け、癌を発見するのを癌の早期発見と言う。癌を早期発見すると、手術や放射線療法、薬物治療などによって簡単に治療できる。癌転移に対しては上記過程(process)で説明したように、全身の臓器に転移することにより免疫が急低下し、急速に癌細胞が増殖するため、最先端の現代医療でも未だにほとんど治癒が不可能である。そのため、検診を通じて早期発見するよう、医療機関では受診勧告を行っている。この受診勧告を積極的に利用するのも、癌を予防する方法である。


5.がん予防の勧奨事項
1)次はがん予防医療機関におけるがん予防の勧奨事項を紹介する(大韓癌協会)
(1)偏食しないで栄養分はバランスよく摂取する
(2)緑黄色野菜を中心に果実や穀物など、繊維質を多く摂取する
(3)牛乳と、みそ、しょうゆを多く摂取する
(4)ビタミンA、C,Eを適切に摂取する
(5)適切な体重を維持するため、過食しないで、脂肪質を少量食べる
(6)あまりにも塩分の多いもの、あまりにも辛い食べ物を熱い食べ物を避ける
(7)かびがついたものや、腐敗した食べ物を避ける
(8)火で直接焼いたり、燻製にした肉類や魚介類は避ける
(9)酒は過飲したり、習慣的に飲んだりするのを避ける
(10)禁煙する
(11)太陽光線、特に紫外線に当たり過ぎることを避ける
(12)あせを流すほどの運動はよいが、運動し過ぎる事は避ける
(13)ストレスを避ける、嬉しい気持ちで生活する
(14)沐浴やシャワーを適度に、体は清潔にする

2)日本の公益財団法人癌研究振興財団では、生活において、癌を防ぐための12か条(Twelve Points Precaution For Cancer Prevention)を推奨している。

(1)バランスのとれた栄養をとる(彩り豊かな食卓にして)
 毎日食べている食品の中には癌を誘発する物質と癌を抑制する物質が共存している。
 例をあげると、乳房癌、大腸癌、子宮内膜癌等は脂肪の過量摂取が発ガンと関係ある。反面、ビタミンA,C,E等と食物繊維は、発癌を防ぐ抑制効果があることが知られている。食べ物はヒトが選択するもので、偏食を禁じ、バランスのとれた食事を通じて、食物中の発癌物質の作用を相殺するのが食予防法言えよう。

(2)毎日、変化のある食生活を
  多くのヒト達は好きな食べ物を繰り返し食べることが多い。例を挙げると、精米所のニワトリは米ばかり食べて、一見、幸福に見えるが、産卵率はよくない。また体も弱い。これはいつも米だけを食べるため、免疫が落ちるからである。人参がヒトに良いからといって、人参だけを連続して食べるのもよくない。また肉類を多く食べるをよくないからといって禁食すると、栄養素のバランスが崩れるため、週に1回程度、緑黄色野菜と一緒に食べるようメニューを調整して欲しい。

(3)食べすぎをさけ、脂肪は控え目に(美味しいものも適量に)
 長寿の秘訣は毎回の食事を8分目程度に維持することと言われている。動物実験でラットに好物を制限なしに食べさせた郡と、食事量を60%に制限した郡とを比較した結果、60%に制限した郡は発癌率が低く、長生きしたのが確認された。特に過食の中でも、脂肪の量が問題となる。

(4)お酒はほどほどに(健康的に楽しもう)
 WHO(世界保健機関)の調査により、過度の飲酒は口腔癌、咽頭癌、食道癌と関係があると報告されたことがある。フランスのノルマンディー地方の住民たちは、アルコール濃度が高いブランデーを多く飲む習慣があり、昔から食道癌が多かった。またアルコール度数の高いお酒は、口腔や咽頭、食道等の粘膜細胞に傷を与え、それが癌の原因となると究明された。

(5)たばこは吸わないように(特に、新しく吸いはじめない)
 たばこと癌との関係は知られている事実である。がん研究振興財団によると、男性12万人以上に対して、長期に渡って調査した結果、1日25本以上喫煙した人は、喫煙しない人に比べて、咽頭癌が90倍以上、肺癌は7倍の死亡率を表していた。また最近は喫煙する人だけではなく、家族や職場同僚等の周辺の人にまで害を与える事が知られている。たばこから直接出る紫色の煙より、喫煙した人の口からはかれた煙の方が、発癌物質を多く含んでいる。また喫煙する夫よりも、喫煙しない妻の肺癌死亡率が高いとの報告もある。

(6)食べものから適量のビタミンと繊維質のものを多くとる(緑黄色野菜をたっぷり)
 ビタミンは人の体の潤滑油と同じで、その中でも、ビタミンA、C、Eは癌発生を防ぐ作用があることが知られている。例を挙げると、ビタミンA(β‐カロテン)はニンニク、ホウレンソウ、小松菜、春菊、ニラ、太刀魚、バター、チーズ等に、ビタミンCは、イチゴ、カキ、レモン、ホウレンソウ、キウイ等に、ビタミンEは、落花生、豆、ゴマ油、えごま油、太刀魚、イワシ、卵類等に、多く含まれている。繊維質:植物の繊維質は、大腸の活動と通便を助け、便が腸に溜まる時間を短くするだけでなく、繊維成分が大腸内にある発癌物質の濃度を希釈し、大腸癌にかからないように助ける役割をする。昔からある食品は植物性が多いので、繊維食品が多いが、最近は、繊維質の足りないインスタント食品を好んで食べる傾向があるため、繊維食品が減少する状況と反比例して、大腸癌が急増している。

(7)塩辛いものは少なめに、あまり熱いものは冷ましてから(胃や食道をいたわって)
 韓国には塩辛い食品が多いので、代表的な癌として胃癌を挙げることができる。最近は食生活の改善で減少をみせているものの、今も肺癌や子宮癌に比べて圧倒的に多い。日々の塩の消費量を10グラム以下に勧奨しているが、守られていないようである。環境と生活改善で、胃癌による死亡率は減少したが、地域差があるのは塩分摂取量と関係があるためだと知られている。また熱い茶、スープ等を飲む習慣がある地方では、食道癌が多いという報告もある。

(8)焦げた部分はさける(突然変異を引きおこす)
 魚介類や肉類を焼くと、黒く焦げた炭化部分に突然変異を起こす物質が生じるとの報告がある。料理温度が高く、料理時間が長いほど、突然変異する量が増加する。特に魚介類や肉類、野菜等を直火で焼くと、加熱で焦げた場合、多く発生する。また砂糖や炭水化物の炭化物にも、細胞の変異を引き起こす物質が含有されている。

(9)かびの生えたものに注意(食べる前にチェック)
 かびには人に良いものも多いが、その反面、有害なものも多い。有害なかびは固いピーナッツや米に付いており、このかび等に発癌性が認められている。また東洋人に肝癌が多いことから、B型肝炎等の他に、このかびが肝癌の原因ではないかとみている学者達もいる。

(10)日光に当りすぎない(太陽はいたずら者)
 太陽光線には強い紫外線があり、この紫外線は皮膚に有害であることがわかった。適度な紫外線の照射が続くと炎症ができ、この炎症が継続すると細胞の遺伝子が損傷を起こし皮膚癌を誘発するようになる。理論的には紫外線に過敏反応を起こすメラニン色素によるものである。したがって熱帯地方の白人達は皮膚癌や悪性黒色腫が多いと知られている。

(11)適度にスポーツをする(いい汗、流そう)
 栄養と運動は健康的な生活の基本条件である。1日中椅子に座って仕事をするヒトに大腸癌が多いとの研究結果もある。発癌物質を投与して、光の照射や高温下においた動物は、発癌物質だけを投与した動物より、癌の発生率が高いという実験結果からすると、疲労とストレスは大敵とも言える。気分転換や健康のために、適度なスポーツをすることを勧奨している。

(12)体を清潔に(さわやかな気分で)
 毎日シャワーや沐浴をし、体を清潔にした場合、皮膚癌や子宮癌、陰茎癌等は、ある程度、予防できる。200年前に、イギリスであった話だが、煙突清掃をしている人達の間で陰嚢の皮膚癌の発生が問題となった。その後、煙突のススの中に皮膚癌の原因となる物質が発見されたので、作業が終われば体を洗うようにした後からは、皮膚癌がなくなった。これは体を清潔にすれば、皮膚癌の予防になる良い例と言える。
 以上のように、日本や韓国の癌専門協会では、癌は生活習慣によって起こる疾患であると、積極的に警告し、生活習慣を通じた予防法を提示している。


6.癌の危険信号

1)胃:腹部不快感、食欲不振または消化不良が継続する時
2)子宮:異常分泌物または不定出血がある時
3)肝:右上腹部鈍痛、体重減少及び食欲不振の時
4)肺:継続的に空咳や血痰が出る時
5)乳房:無痛の腫塊または乳頭出血が出る時
6)大腸、直腸:血液や血便がでたり、排便習慣に変化がある時
7)舌、皮膚:難治性潰瘍ができたり、ほくろがより濃くなったり、大きくなったり、または出血する時
8)泌尿器:血尿や排尿不良がある時
9)咽頭:声が持続的に変化した時
以上は癌学会で癌の予防と早期発見のための啓蒙活動として広報された内容である。癌を含めた慢性病は、環境と生活の改善により病気にかからないように予防することが何より良い方法で、早期発見のため、上記の癌の危険信号に、平素から関心を持つことが必要である。


7.抗癌化学療法剤と免疫増強剤

 最近、抗癌治療は外科的手術、放射線治療と共に、多くの化学療法剤の開発により、治療が進んでいる。しかし、副作用がなく完治する抗癌治療剤(chemotherapy)は、未だに期待するほどの抗癌剤は開発されていない。
 抗癌化学治療剤の開発の歴史をみると、アメリカの化学兵器(毒ガス、細菌)研究チームの一人であったエール大学のゲルマン博士がナイトロジェンマスタードと言う毒ガスの殺人実験をしている時に、同じ実験室で実験中であった悪性リンパ腫のマウスが誤って少量の毒ガスを吸ってしまったところ、悪性腫瘍が縮小されたことが確認され、これが抗癌化学治療剤の開発の契機となった。現在では使用されていないが、医学の専門書には毒ガスであるナイトロジェンマスタードが、抗癌剤のひとつとして記録されている。他の科学治療剤も癌細胞と正常細胞を同時に攻撃するので、正常細胞をも死滅あるいは損傷を与えるだけではなく、免疫力も急激に低下させ、細胞を保護したり防御したりする能力を失わせる。このような副作用を化学治療剤は持っており、使用目的が異なるだけで、毒性の面から見れば同じ事になる。抗癌化学治療剤の問題点と言える。
 免疫増強剤は、科学的薬物治療、放射線治療、外科的手術の前後に、副作用を解消し、活性を高め、正常細胞を保護するための補助剤として、治療に必須だと言う専門医達が増えるにつれて、免疫増強剤の開発が活発になっている。
 ヒトを含めた動植物は、生命を維持するために、免疫力が必要である。
 したがって、日常生活の食事の大部分を占める家庭料理には、免疫力を増加する成分を、量的、質的差異はあれども、充分に含んでいる。子供の頃、好き嫌いせずに食べなさいと言った大人達の言葉は、免疫と言う意味を知らなかったとしても、経験から発した知恵だと思われる。
 例を挙げると、韓国の家庭料理の味付けの原料に多く使われている。唐辛子、ニンニク、植物油、ゴマ油、発酵食品のキムチ、タケノコ、魚介類、各種の野菜等は、慢性病の原因となる活性酸素を消去すると同時に、免疫を増強させる重要な食物と言えよう、また、著者が開発したキノコのメシマコブには、タンパク複合多糖体が多く含まれていて、癌治療免疫増強剤の医薬品として販売されている。
 癌治療に用いる免疫増強剤の製品として、コプラン、メシマ、それ以外に類似製品としてピシニバール等がある。漢方薬では、人参、鹿茸、当帰、熟地黄等、神農本草経の上品薬(君薬)に収載された120種の生薬が含まれる漢方処方の瓊玉膏、牛黄清心元、十全大補湯、鹿茸大補湯、双和湯等、多くの研究報告で免疫増強作用及び抗酸化作用がみられる。
 このような免疫増強剤は、癌治療の時だけ服用するのではなく、体が衰弱した時や過労の時、疾病の予防薬として服用するのが良いと思われる。


8.癌療法と漢方製剤
 現代の癌治療には外科的手術療法、抗癌化学療法剤、放射線療法、免疫療法、その他として代替療法等を挙げることができるが、これらは癌の種類と部位によって使い分けられている。
 漢方製剤や生薬製剤には
 ・直接的なin vitroあるいはin vivoにおける抗癌作用
 ・インターフェロンや腫瘍壊死因子(TNF)の誘起作用
 ・マクロファージ活性等、免疫能の調節作用に対する研究は進んでいるが、現代医薬の抗癌化学療法剤に比べて、天然薬物の単独投与では限界があるので、現代医療系では抗癌剤として認めない実情がある。しかし、臨床あるいは患者当事者らに、化   学療法剤と併用して良い効果を得ている。
 ・小柴胡湯の癌の進展予防効果、人参(ginsenoside Rh2)は癌化された細胞を機能的、形態学的に正常細胞の方向に形質変換(再分化)させる可能性があることが報告されている。
 ・人参、桑黄、当帰等に含有されるポリサッカライド、瓊玉膏、十全大補湯、双和湯等は、免疫増強剤として抗癌化学療法剤、放射線療法および手術の前後に、副作用の軽減または相乗効果を期待して、臨床ではよく併用投与されている。


9.抗癌療法の補剤としての漢方製剤応用
 ・胃癌・乳癌:マイトマイシンC、アドリアマイシンと瓊玉膏、十全大補湯併用療法
 ・卵巣癌:シクロホスファミド、シスプラチンと瓊玉膏、補中益気湯併用療法
 ・消化器癌:テガフール、マイトマイシンCと瓊玉膏、小柴胡湯併用療法
 ・癌術後患者(88例):消化器症状に対する瓊玉膏、十全大補湯の併用効果
 以上は臨床でよく利用されている。

参考文献
1.三浦二三夫等:外科診療、26.PP.825-828(1985)
2.足立勇:pharma.medica.6(2.臨増).PP.46‐50(1988)
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4.木村昌之:和漢医薬学会誌、2(3)pp.60-603(1985)
5.黒川P臣等:漢方医学.10.pp27-31(1986)
6.宮元宏等:診断と治療、73(7)pp1487−1493(1985)
7.S.Odashima,Y.Nakayabu,N.Honjo,et al:Idution df phenotypic reverse transfomation by ginsenosides in cultured Mirris hepatoma cells.Eur.J.Cancer,15,pp.885-892(1979)
8.新津洋司郎等:Mebio癌治療の制御、MEDICAL VIEW(1999)
9.谿忠人:現代医療と漢方薬、医薬ジャーナル社(1991)
10.      (2005)
11.      (1999)
12.日本がん研究振興財団:癌 知識(平成10)


認知症(Dementia)
1.高齢者の認知症の増加
 高齢者が増えることは、病気の高齢者が増えることである。特に認知症高齢者の増加は重大な社会生活の低下をもたらす。日本では人口の10%が高齢者で、そのうち約5%が認知症で占められる。即ち、65歳以上の高齢者20人あたりに1人いることとなり、また徐々に増える傾向を示しているので、社会問題になると言われる。

2.老人性認知症
 老人性認知症とは臨床的対概念であり、症候群である。その原因には様々なものがあり、その発症機序も様々である。認知症の多くは老年期にみられ、その大きな原因のひとつが脳の血管障害による脳実質の破壊である。また脳の老化と関係した認知症は、アルツハイマー型老年性認知症である。

1)アルツハイマー病と脳血管性認知症
 認知症は老齢になるにつれた、脳神経への持続的損傷によって、認知力、思考力、理解力、言語力、計算力、判断力等が長期間にわたって徐々に低下する。後には自分の年齢、位置、時間、親族の区別や記憶などができなくなり、社会生活は勿論、日常生活の維持が不可能になる脳皮質機能疾患である。
 認知症は高齢化になるにつれ、先進国であるほど認知症患者が増加する傾向にあり、社会問題になっている。
 発病率は認知症患者数と比較すると、65〜74歳で約10%、75〜84歳で19%、85歳以上で50%に達する。特に認知症に対する治療法がないだけではなく、発病原理が未だに完全には究明されていない。したがって先進国では多くの予算をかけ、認知症患者の療養福祉施設及び治療施設の設置に力を入れ、社会問題を解決しようと努力している。
 認知症を発病原因別にみると
 (1)アルツハイマー病(Alzheimer disease)
 (2)脳血管障害
 (3)1)、2)疾患の混合型認知症に分類される。この混合型認知症は認知症全体の70〜90%を占めている。
 アルツハイマー病は1906年にミュンヘン大学の精神科医師 Alois Alzheimerが、51歳の女性患者の健忘症に対する臨床経路と病理所見を報告した後に、アルツハイマー病と命名された。
 脳血管性認知症の命名については以下の流れがある。Alzheimerが発表する以前の19世紀後半に、Kippelによって、認知症の原因は脳血管性、梅毒性、またその混合性に分類された。その後1894年にBinswangerが,脳血管性認知症を脳卒中後動脈硬化性及び脳炎性大脳皮質の慢性進行(encephalitis subcorticalis chronica progressiva)であるとして、Binswanger病に分類した。またHachinskiらによって、脳血管性認知症の本態は多数の脳梗塞に起因するため、多発梗塞性認知症という概念が提唱され、脳動脈硬化性認知症の呼称は使用しないようになった。しかし、その後、梗塞性も脳血管性認知症の原因になるので、最終的には脳血管性認知症と呼ぶようになった。したがって認知症は、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の2つの代表的概念が確立された。

3.アルツハイマー型認知症の病理と成因
 アルツハイマー病の原因は確かではないが、患者の大脳にはβ-アミロイドタンパク(β-amyloid pretein)からなる老人斑が大量に蓄積し、神経細胞にはタウタンパク(tau protein)からなる神経原繊維変化が出現し、シナプス(sinaps)の減少と神経細胞死(Apoptosis)が共通して認められている。

4.認知症の診断と治療
1)アルツハイマー(Alzheimer病)型認知症
 アルツハイマー病は老年期の認知症患者の多くを占める進行性の神経変性疾患である。
 疾患の病態は3〜4病期にわけられ、病期は病態によって症状の変化により、区分することができる。
 また主に行動観察で診断する
(1)前駆期;初期には認知機能(記憶、判断、思考など)の障害が始まる前から、神経衰弱症状(頭痛、めまい、不安感、自発性減退、不眠等)をみることができる。また軽い人格変化(自己中心的傾向)が現れる。この前駆的変化は認知機能障害が起こる2〜3年前から現れる。

(2)初期-第1期:記憶(特に近時記憶)障害が現れ、時間的障害(日時、季節などの認識)や自発性の低下などを随伴する。新しい経験に関する知識情報の記憶が困難になり、このような段階になれば、その日の年月日がわからなくなる。

(3)中期-第2期:近時記憶だけではなく、自分自身または社会においた過去の記憶ができなくなる、外出すると家に戻ることができなくなる、自分の家にいても他人の家にいると考え(場所に対する意識障害)、判断力低下、日常生活の簡単な問題解決も困難になる。時には被害妄想を現し、運動面においては多動、徘徊、行動混乱が多くなり、時には攻撃的な傾向もみられる。時には失語、失行、失認等の神経心理症状もみられる。

(4)後期‐第3期:記憶障害が最も顕著になり、自己の出生地、両親、兄弟の名前も記憶できない。また人物認識障害が起こり、ひどい時には鏡を見てうつる自分の顔も誰であるのかわからない時がある(鏡微候)。食事、排泄、着衣は助けがなければ困難で、特に視覚障害、視線の変換障害、情動の喪失、性的機能の亢進、異食等が出現する。このような過程は数年かけて徐々に進行するのが特長で、数年を経過すると、大脳皮質症状が起こり、後には挙動ができなくなって死亡するようになる。
認知症の医学的所見では、患者の大脳にはβ‐アミロイドタンパク(βamyloidprotein)からなる老人班が大量に蓄積し、神経細胞にはタウタンパク(tauprotein)からなる神経原線維変化が起こり、シナプス(Synapse)減少と神経細胞死(Apoptosis)が起こると、結局は認知症(Dementia)になると言われている。


2)アルツハイマー病(Alzheimer disease)の治療
 アルツハイマー病の認知障害に対する根本的治療は、残念なことに現在のところ、不可能である。アルツハイマー病の治療薬としてコリンエステラーゼ阻害薬が市販されているが、臨床においてはアルツハイマー病患者の感情、意欲障害等、周辺症状に対する治療をする場合が多い。言い換えると、周辺症状の行動面からの障害、例を挙げると多動、徘徊、攻撃的傾向等の精神症状の妄想や幻覚等の周辺症状に対して治療剤を使用している。
 最近ではBPSD(behavioral and psychological signs and symptoms of dementia)が認知症治療薬として提唱されている。また対症療法としてハロペリドールを中心とした抗精神病薬やベンゾジアゼパム系抗不安薬を使用して鎮静を図る場合がある。その他に、ムスカリン性アセチルコリン受容体刺激薬、β作動薬、神経伝達改善薬等の対症治療と、記憶を回復するための心理療法および物理的療法を試みている程度である。


3)脳血管性認知症
脳血管性認知症の原因となる脳血管障害は病理的に多様である。
(1)虚血性病変による認知症
(2)出血性病変による認知症に大別される
 虚血性病変による認知症は、大脳梗塞や認知機能全般に重大な影響をおよぼす部位の梗塞による認知症、多発梗塞認知症及びBinswanger型脳血管性認知症と低灌流による認知症に区別されている。
 出血性病変による認知症は、脳内出血発作後の認知症とクモ膜下出血(SAH:subarachnoid hemorrhage)が代表的である。
 ・クモ膜下出血は脳梗塞脳出血等と同じく、脳血管障害(脳卒中)のひとつで、発作率は脳血管障害の5〜10%を占め、発作時に突然、ひどい持続的頭痛が起こるのが特徴である。


4)脳血管性認知症の危険因子
 脳血管性認知症の危険因子は、高血圧、糖尿病、高脂血症、心疾患等が挙げられる。
 特にBinswanger型脳血管性認知症は、ゆるやかな進行と大脳白質の広範囲な変性が特徴である。Binswanger型脳血管性認知症は、高血圧と活性酸素が大きく関与しているとの報告がある。

(1)認知症を診断するために行動を具体的に観察
 アルツハイマー病の臨床診断基準として、アメリカのNINCDS-ADRDA(nacional istitute of Neurological and Communikative Disorders and Strokes (NINCDS)及びAlzheimer‘s Disease and Related Disorders Association(ADRDA)基準がある。その他に、1994年にアメリカの精神医学会DSM-IV(精神医学診断基準)があり、1984年にReisbergらが提唱したFASTの基準等がある。これらは専門医の診断基準であるため、前述した行動が観察された場合は、早期発見のために専門医の診察を受ける必要がある。

(2)脳血管性認知症の診断
 診断の第1歩は、患者の症状が認知症によるのかを判定することである。認知症とは、発達して完成された認知機能が後天的要因で障害された状態を言う。
 アメリカ精神医学会の脳血管性認知症の診断基準を参考として紹介する。

アメリカ精神医学会の脳血管性認知症の診断基準
A 下の1)2)の項目により多発性の認知機能障害が進行する場合
 1)記憶障害(新しい情報の学習障害と過去に学習した情報の想起障害)
 2)次の認知機能障害が1つ以上の場合
 a.失語(言語の障害)
 b.失行(運動機能は障害されていない場合に、運動行為に障害がある場合)
 c.失認(感覚機能は障害されていない場合に、対象物の区別ができない場合)
 d.統括遂行する能力の障害(立案、組織化、配列、抽象能力)
B 上記基準A1)A2)の各々の原因により、社会活動または職業活動に重要な障害を起こし、病気の前と比較して活動の程度が顕著に低下することを言う。
C 認知機能障害の病因に関係があると判断される脳血管性障害(例:大脳皮質と皮質下の白質に及ぶ多発梗塞)を現す局所神経症状や検査データに異常がある場合(例:腱反射亢進、バビンスキー徴候、仮性球麻痺、歩行障害、四肢筋力低下)
D 上記の障害は意識障害期間だけに現れるわけではなく、意識清明である時でも、その症状を確認することができる。

 上記の診断基準中A,B,Dの3項目が認知症の診断基準に該当する。認知症の病態には上記Aに表す認知機能障害を含む。その中でも記憶障害としては、新しい記憶や学習が困難であることを含めた想起障害、常識的な知識の妄想や、失語、失行、失認と判断力低下の症状が現れる。
 このような症状が現れると専門医に相談しなければならないので、これ以上の専門的な診断方法は省略する。

(3)脳血管性認知症の治療
 脳血管性認知症は血管性病変の回数が多くなるほど、病変の体積が大きいほど、また発作回数が増加するほど、認知症の度合いが高くなる。したがって治療の第1歩は脳血管障害の発症の予防と再発の予防である。脳血管性疾患の原因を早期治療あるいはコントロールし、動脈硬化や血管の老化を予防する必要がある。
 脳血管性認知症の原因疾患の治療や是正の可能な危険因子としての高血圧、糖尿病、一過性脳虚血発作、脂質異常、多血症、肥満、過量の飲酒、喫煙、心疾患に対し、食生活と生活習慣をあらかじめコントロールしなければならない。
 不幸にも脳血管障害が発生した場合、専門医によって気危険因子をコントロールし、血栓や塞栓を予防する薬物(血栓には抗血小板薬、塞栓には抗凝血薬)を投与して再発を予防しなければならない。また脳卒中が起こった場合、できる限り早期に動けるように、物理治療を通じて身体麻痺の発生を予防することや、意欲向上と認知症防止を目的とする作業療法や言語心理療法も必要となる。そして認知症を随伴した場合にも、継続的に機能維持訓練をしなければならない。
 患者にうつ症状がある場合には、抗うつ薬と脳循環代謝改善薬を投与することになるが、これは専門医の治療指示によるのて、これ以上詳細なことは省略する。しかし認知症は多くの学者達によって研究が行われているものの、認知症に対する特効薬や治療法はまだ開発されていない。

(4)脳神経細胞死滅(Apoptpsis:アポトーシス)
 神経細胞死には、正常なプログラムによる細胞死と、成熟脳における神経細胞死(病的な細胞死)がある。
 @自然神経細胞死は神経発生のシナプス形成時期に引き起こされる。即ち、正常なプログラムによって神経回路網を形成する過程中に、シナプス形成ができない神経細胞は栄養シグナルを得られないため、細胞内の細胞死機構が発動して細胞死に至るのである。この現象は自然神経細胞死と呼ばれ、正常な細胞死である。
・神経回路網形成プログラム⇒シナプス形成できなかった神経細胞の脱落⇒神経細胞死
A成熟脳における神経細胞死は、神経回路網が構築した後に引き起こされる。成熟した動物脳では既に神経回路ができあがっており、神経細胞はもはや分裂脳を失っているため、この時期に神経細胞死が起こると神経回路網の崩壊により、脳機能に障害を引き起こす(病的神経細胞死)
・何らかの原因で偶発死⇒アポトーシス⇒ネクローシスによる神経回路網破壊⇒神経疾患
認知症はアルツハイマー病型認知症(Dementia)にしても、脳血管性認知症にしても、最終的には脳神経細胞死滅(Apoptosis)により認知症になるとみられている。(ネクローシス:細胞の膨張と細胞膜の破壊)

(5)成熟脳神経細胞死の原因
 アルツハイマー病、中風、パーキンソン病、レビー小体病、ハンチントン病発病患者認知症に共通的に見られる病理的監査の結果として、脳細胞日正常現象(Tangles)であるプロテインブラーク、破壊神経細胞、レビー小体、脳特定細胞破壊等がある。

認知症
正常機能脳細胞 →脳細胞死滅(アポトーシス)→認知症(dementia)
    ↑
   疾病後 ・アルツハイマー病・中風・パーキンソン病・レビー小体病・ハンチントン病
 ↑
病理的・脳細胞非正常現象(Tangles)、大脳プロテインプラーク・破壊神経細胞・レビー小体・脳脳特定細胞破壊

5.おわりの言葉
 近年、多くの学者達により、認知症の根本的治療法と天然物からの認知症改善薬の開発に関する研究が数多く進められているので、近い将来、良い成果が得られると思われる。しかし、何によりも若い頃から生活習慣を改善して慢性病にかからないように予防することは言うまでもなく、認知症高齢になり認知症になったとしても、認知症は徐々に進行する特徴があり、前駆期、初期に前述した行動観察で区別が可能であるため、家族が関心をもって早期に発見すれば、充分に症状の進行を抑えられる。あるいは深刻な症状までは予防することができるのである。
 また高齢になってからの急激な生活環境変化は、認知症を引き起こすきっかけになることがある。例を挙げると、とある農村の農夫が妻を亡くし、単身で苦労しながら息子を都会の学校に行かせて、立派な法官にさせた後、父親は高齢になったので農村での生活を止めて、息子の家出生活するようになった。これは父親にとって、すべての生活環境が急変することになった。父親にとって変化したもの、息子の嫁や孫との新たな関係が生じたこと、都会の寝室やトイレ、浴室に馴染みがないこと、話のできる友人が身近にいないこと、外出に慣れないこと、自身の人生への終息感があること、亡くなった妻のことを考えてしまうこと等、生活環境の急変によって認知症が引き起こされることがある。それを予防するには、農村の生活から都会の生活へ移る前に、息子の家を何度も訪ね、都会の環境に慣れ、嫁や孫との関係を築いた後で、自信がついた頃に、農村の家を整理して出てくることが必要である。

参考文献
1.平井俊策:老化のしくみと疾患.pp.187、羊土社(1998)
2.Natural Product Sciences 15(3),pp.115-120(2009)
3.J.Korean Oriental Med 23(3) pp.145-163(2002)
4.ジャーナル of Ethnoparmacology 138,pp.723-730(2011)



肥満(Obesity)
1.栄養代謝
 飲食を通じて、食物は消化吸収され、糖質、脂質、たんぱく質等の栄養素として肝臓で代謝される。糖質は解糖系により、脂肪は脂肪酸の酸化により、各々アセチルCoAになり、クエン酸回路を経由してエネルギーとなり、活動に消費される。この栄養代謝は消費とのバランスを維持するのが正常であるが、そのバランスが崩れると体は非正常となって病気を起こす。
 肥満は、高血圧症、高脂地血症、糖尿病、高尿酸血症などの内科疾患に限らず、変形性関節炎、腰痛等の整形外科疾患、または女性の月経異常、睡眠時無呼吸症候群とも関係があると言われている。
 肥満は皮下あるいは内臓に脂肪が過剰蓄積する状態を言う。したがって、肥満は皮下脂肪型肥満と、内臓脂肪型肥満に区分される。

1)皮下脂肪型肥満
 皮下脂肪型肥満は、脂肪が皮下に多く、ボディマス指数(BMI)が基準値を超える肥満のことで、単純性肥満ともいう。肥満の中には合併症が全くない人が約40%いるという報告もあるが、これは単純性肥満に当たると思われる。しかし、皮下脂肪型肥満であっても正常体重者と比較すると合併症の確立は高いので、指導を行う必要がある。また体重だけを考えて、単純にボディマス指数(BMI)が基準値を超えることを肥満ということもあるが、背は低いものの、運動等によって、骨格あるいは筋肉を鍛えて健康で、そのために体重が重いヒトの場合は、BMI算定法による肥満度の判定は適していない。

2)内臓脂肪型肥満
 内臓脂肪型肥満は病的な意味を有するので症候性肥満ともいう。
 症候性肥満は内分泌疾患に起因する肥満、中枢性疾患を随伴する肥満(脳腫瘍頭部外傷、視床下部性疾患)、ステロイド使用の場合の薬剤性肥満等がある。また内臓脂肪型肥満は脳卒中、心臓病、糖尿病や高血圧、心筋梗塞の合併症がよく起こる通過点でもある。

2.メタボリックシンドローム
 腹周囲が男性85cm以上、女性90cm以上で、飲酒、喫煙、過食、運動不足などのよくない生活習慣の累積による内臓脂肪型肥満の内、
1)中性脂肪が多い(150mg/dl以上)HDLコレステロールが少ない(40mg/dl未満)
2)血圧が高い(最高血圧130mmHg以上、最低血圧85mmHg以上)
3)血糖値が高い(空腹時の血糖値110mg/dl以上)等
 軽度であっても二つ以上の生活習慣病が合併している状態をメタボリックシンドロームと呼び、動脈硬化(体の各所に血液を運ぶ動脈が、もろくなる、硬くなる、血栓ができる等の血流障害が起きる)ができて、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、神経症、腎症などの合併症が発症しやすくなる。

3.痩瘠(やせこけ)emaciation
 体がやせこけているヒトは、皮下あるいは内臓の脂肪が極度に減少している状態や、筋肉量が減少した状態である。BMI指数が18.5未満の場合、低体重と判定される。
 食欲低下によるやせこけは、神経性食欲不振症やうつ病等の精神的要因、悪性腫瘍、慢性感染症、肝胆道系疾患、腎疾患、内分泌疾患などでよくみられる。
 吸収障害によるやせこけは下痢、糖尿病によるやせこけは栄養利用障害などが上げられる。

4.肥満の基準
 肥満の程度は肥満度によって算定する。肥満度は一般的にボディマス指数(BMI)を用いて計算する。
 {BMI=体重(kg)/身長(m)2}
 BMI(ボディマス指数)が25以上の場合、肥満と判定している。(国際合意基準)
日本肥満学学会では日本国民の体力を考慮してMBI=22を標準と設定した。

5.肥満はなぜ悪いのか
1)肥満と糖尿病
 糖尿病の遺伝素因があり、それに誘因が加わって、糖尿病が発生すると言われている。その誘因の一番が肥満である。2型糖尿病の60%以上に肥満が存在するといわれている。肥満細胞はインスリン抵抗性を持ち、高血糖の状態になる。インスリンは脂肪組織において脂肪合成を促進するので、肥満が更に進む、最終的に、インスリンが枯渇すると、インスリン注射による治療が必要になる。

2)肥満と高血圧症
 肥満に伴うインスリン抵抗性が基盤となって、高血圧が起こるといわれている。また、体重の減少は、食塩摂取量とは無関係に血圧を下げるとの報告もある。

3)肥満と高脂血症
 肥満に伴う高脂血症もインスリン抵抗性が基盤となる。特に内臓脂肪は皮下脂肪に比べて脂肪分解能が悪く、内臓脂肪過多肥満では肝臓への遊離脂肪酸の流入が著しい。
 この肝臓の遊離脂肪酸が中性脂肪を合成する基質になるとインスリン抵抗性を生み、中間型リポタンパクが増加すると言われている。

4)肥満と高尿酸血症
 肥満では過食によって代謝機能が低下する。プリン体等の過剰摂取により、体内で尿酸が過剰生産されると共に、尿酸の排泄も低下すると、高尿酸血症になる。尿酸が関節等の組織に沈着すると痛風(発作)を起こす。痛風は心臓、腎臓にも悪影響を及ぼす。

5)肥満と虚血性心疾患
 肥満は冠動脈硬化症の独立した危険因子であるとの報告がある。さらに、肥満は高血圧、脂質代謝異常等、動脈硬化の要因となる疾患を合併していることが多いので、虚血性心疾患を起こしやすい。男性において、肥満度が10%増えると、虚血性心疾患の発症が30%増加するとも言われている。

6)肥満と睡眠時無呼吸症候群
 肥満の約10%に睡眠時無呼吸症候群(SAS:sleep apnea syndrome)が合併すると言われている。肥満になると、上気道の軟部組織に脂肪が沈着し、上気道の抵抗が大きくなる。同時に胸壁の脂肪沈着により、その組織抵抗も大きくなり、肺胸部のインピーダンスが増加する。さらに、末梢や中枢の化学受容体感受性や呼吸中枢出力の低下も加わり、睡眠時の無呼吸が起こると言われている。

7)肥満と整形外科的疾患
 肥満による加重のため、膝関節等への負荷が増え、関節症を引き起こす。また脊椎を支点とすると、この原理で、腹が出れば出るほど、背筋に負担がかかり、腰痛が悪化する。

8)死の四重奏
 1989年 Kaplanは、上半身肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧症の4つは合併することが多く、これらは心筋梗塞等の危険率を著しく高めることから、死の四重奏として論文に発表した。

6.肥満の改善方法
 肥満症の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法、外科的治療法がある。
 食事摂取カロリーと運動消費カロリーのバランスにより体重が変動する。純粋な脂肪は1g当たり9kcalの熱量を有しているが、体脂肪は水分やその他の不純物を含有しているので、1g当たり7kcalの熱量を有すると言える。
 つまり、1sの体脂肪は7000kcalの熱量を有するので、1ヶ月に1sの減量を行う場合、1日当たり7000÷30=223kcalのエネルギーを食事で控えるか、運動によって消費するか、または両者を併用することになる。
 肥満を改善する方法として、、食事療法、運動療法を『知的エリートのための生活習慣病と検査』から紹介しようと思う。その内容は日本人に適したもので、実践できるよう具体的に説明されている。

1)食事療法
 食事療法は肥満改善の基本になる。例えば、摂取カロリーが1日当たり600kcal以下の、低カロリー療法といった特殊な方法がある。しかしこの方法は短期的には効果があるが、長期的には中断するとリバウンドが起きて逆効果になることもあると言われている。すなわち、低カロリー療法は食生活の改善に成功しても継続しないと意味がないので、自身が『QOL』(quality of life:生活の質)を考慮して継続できる方法を選択し、厳守しなければならない。
2)食事指導
(1)食事回数及び食事時間について
・1日3食、可能な限り一定の時間に、また同じ場所で食事をする。
・夕食は早めに、食事量は8分目、朝食はしっかり摂る、間食を控える、職場の関係で夕食が夜遅くなる場合は、夕方に何か軽食を摂って、空腹を抑えて帰宅し、その分の食事は控えめにする。また、ダイエットをするといって、1日1〜食にすることにより食事の回数が一定でない場合に起こるリバウンド現象は、逆に肥満を増大させる可能性がある。

(2)食事内容に対して
・ご飯は一膳、全ての食品群からバランスよく摂ることを基本とする。
・脂肪はカロリーが高いので、できるだけ少なくするのが基本である。植物性食品はコレステロールや中性脂肪を抑える不飽和脂肪酸の含有量が多く、また、体脂肪になりにくいといわれる食品である。
・緑黄色野菜と一杯の牛乳は、毎日メニューに添える。野菜は満腹感を炒る得るのに有効である。
・できるだけ肉類は朝食、昼食にし、夕食には魚類あるいは軽く野菜を摂取する。
・菓子類は動物性脂肪の含有量が多く、また甘いものが多いので、肥満や糖尿病によくない炭水化物がたっぷりと含有されているだけでなく、好んで食べることがあるので、無制限に間食として習慣する可能性が高くなる。
・アルコールはカロリーが高い。また肥満になりやすい中年期に仕事の後で友人とストレスを解消する目的でお酒を飲む歳には、カロリーが高い肉類等を一緒に食べることが多く、お酒に酔えば体の調整ができなくなり、問題になる。ビール中瓶1本や酒1号のカロリーは、ご飯一膳分に相当する。
・水を摂取しても太ると誤解しているひとがいるが、アルコールやジュースのカロリーに対して、水やお茶は問題がない。また水分摂取は満腹感が得られるため、肥満のヒトは食事調節として食前に軽く水を飲むのも望ましいことである。
・食事の摂取方法
ヒトは食事を始めてから約10〜15分すると満腹中枢が刺激され、少量でも満腹感が得られるので、食前に水を軽くのみ、よく噛んでゆっくり食べる習慣をもつのも、よい方法といわれる。

3)運動療法
 運動の効果はエネルギーを消耗することである。しかし運動による消費エネルギーはそれほど大きくない。
 エネルギー代謝率(Relative Metabolic Rate:RMR)は、その運動によって消費される1分間当りのカロリーの概略を示している。平常歩(70〜80m/分)のRMRは約3であるので、たとえば、前述の233Kcal(ご飯160g)を平常歩で消費しようと思うと、233÷3=78分間歩かねばならないことになる。
  運動にはインスリンの感受性を改善するという効果もある。要するに、運動によりインスリンの抵抗性が緩和され、高インスリン症が治れる。また運動により筋肉が賛成されると基礎代謝も高まり、安静時でもエネルギーが消耗されることに繋がる。
 運動処方は運動強度、運動時間、運動頻度を三本柱とする。一般的に健康のための運動とは、最大酸素摂取量(O2max)の40〜60%の運動を最低20分間、週3回以上行うべきだといわれている。最近、アメリカでは、単に脂肪を燃焼させるだけであれば、8〜10分の断続的な運動を合計30分以上行うのも効果的であると発表された。
(1)運動を行う上での工夫
・労働者は帰宅時間が遅く、時間がないと訴えることが多いので、通勤時間の利用を勧めやすいマイカー通勤から徒歩あるいは自転車に切り換える。またバスの停留所、地下鉄の最寄り駅が近ければ1停留所分あるいは1駅分を歩くようにし、1日の運動量を維持するようにする。
・遠方からのマイカー通勤なら、駐車場を事業所の建物から遠くに設定する。
・エレベータの代わりに階段を利用する。
・家事労働も立派な運動である。買い物も車でなく、徒歩か自転車で行く。
・運動は自分の環境に合わせ、楽しく、またできる範囲の運動を選択して長く続けるようにする。『例』卓球、テニス、水泳、ゴルフなど。

(2)運動を行ううえでの注意点
・肥満は運動時、膝にかなりの負荷がかかる、初期から無理なジョギングや階段の昇降は避けた方が良い。
・運動時の発汗により一時的に体重が減少するが、これを体重を減らす方法だと錯覚し、水分の補充を怠ると、脱水症状を引き起こすので、注意を要する。
・運動を行うと筋肉がつくので、最初は体重が増えることがあるが、継続して行うと徐々に体重が減ってくるので継続を促す。
・運動したあとは食欲が増すので、間食あるいはビールなどに注意する。
生活習慣を改善するには、自分自身の健康と家族の幸福を考えた上で、決心して行うのが何よりである。

(3)減量した状態を継続するために
 肥満指導までいかなくとも、検診の場での簡単なアドバイスが、肥満解消の動機付けになることもある。また糖尿病、高脂血症、高血圧症を併発していて、通院するようになれば、生活習慣の改善を継続でき、減量状態が維持できることが多い。しかし単なる肥満の場合、それを持続することが困難であることも少なくない。
 行動療法は減量を長期に維持することを目的に開発された。肥満症のヒトは、間食や早食い、残さず食べるなど、食行動に『くせ』がある。また実際の食行動と認識との間に『ずれ』があることも多い。行動療法はこの『くせ』や『ずれ』を食行動質問表やグラフ化生活日記、グラフ化体重日記などにより気付かせ、修正するように働きかけるものである。禁煙や節酒でも同じであるが、その行動を起こすのはたやすくとも、それを継続するのは難しい。継続するためには、家族やメディカルスタッフのサポートが必要であり、重要である。生活習慣改善がある程度、長期間続いて習慣化すれば、完全に生活習慣が改善されるのである。



糖尿病(Diabetes)
 糖尿病:Diabetes Mellitus(DM)は膵臓のインスリン(insulin)産生細胞(β細胞)がインスリン分泌不足、またはインスリン標的細胞からの作用不全によって起こる、高血糖、たんぱく質合成障害、高脂血症、電解質異常等の代謝異常疾患である。
 このような症状は複数の遺伝子異常に起因するが、感染性肥満、運動不足などの環境因子が加わって発症する。共通点として多飲、多尿、体重減少、精力減退等の症状が現れる。糖尿病は40歳以上の成人の10%程度を占める。
 糖尿病は、病態学的には、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病に分類される。

1-1.1型糖尿病
 1型糖尿病は膵臓のインスリン産生β細胞が破壊され、インスリン量が絶対的に不足することから発生する。
 1型糖尿病は小児で多く発生し、治療にはインスリンを必要とするため、小児糖尿病、インスリン依存型糖尿病(IDDM;insulin dependent diabetes mellitus)と呼ばれている。また1型糖尿病はウイルス感染により自己反応性T細胞が制御性T細胞による制御を受けることができなくなって、自己の膵臓に対する自己抗体が産生され、その自己抗体がインスリンを産生するβ細胞を攻撃破壊するため、インスリン産生が障害される。感染したウイルスが膵臓の細胞へ急激に障害を起こすので、劇症 1型糖尿病あるいは免疫性糖尿病ともいう。これは25歳以下の若いヒトに多く発症し、糖尿病全体の5%以下に相当する難治病である。
 1型糖尿病の血糖値(血液中血糖blood sugar:BSまたはBlood glucose;BGという)は、288mg/dl以上である。しかし、2型糖尿病の特徴である糖化値(ヘモグロビンAlc(HbA1c)は正常である。

1-2.2型糖尿病
 動物の三大栄養素である炭水化物、タンパク質、脂肪は、代謝を通じてエネルギーとなる。炭水化物代謝の例を挙げると米、麦、野菜、果物等を食べると、その主成分であるグルコース(Glucose)はTCAサイクル(人体工場)での代謝によって、力(エネルギー;Energy)に変化し、活動する。
 代謝によって血液に70〜110mg/dl程度の糖を維持するようになる。それ以外の残りの糖は、グリコーゲンとして肝臓や筋肉に貯蔵され、基礎代謝や運動により糖が消耗されると、供給調整されるようになる。しかし、運動不足の場合、過剰の飲食を維持すれば、血中グルコースの濃度が基準値以上に上昇し、特に平素運動をしないために筋肉が弱くなり、グリコーゲンの貯蔵力が限界に達して、血液内のグルコースが食前70〜110mg/dlの基準値を越え、111〜120mg/dl以上、食後126mg/dl以上を維持するようになれば、2型糖尿病と診断される。

2.治療
 1型糖尿病治療は自己反応性T細胞抑制剤とインスリンを用いるしか他に方法がない。1型糖尿病は絶対的に専門治療を必要とする。
 2型糖尿病(NIDDM:non insulin dependent diabetes mellitus)は糖尿病全体の95%以上を占め、40歳以上から徐々に進行する。生活習慣性肥満、老化ストレス等により発病する後天的糖尿病である。
 2型糖尿病はインスリン分泌量が減少して起こるものと、肝臓や筋肉などの細胞がインスリン作用を認知できないためにインスリンの分泌量が正常または増加されてもインスリンの作用が低下する状態のものをいう。即ち、2型糖尿病はインスリン感受性の低下等、インスリンの相対的作用不足に起因するため、インスリン非依存性糖尿病あるいはインスリン抵抗性糖尿病ともいう。
 インスリン抵抗性は肥満を伴う脂質代謝障害(高インスリン血症、動脈硬化高脂血症)によって起こると考えられ、肥満、高脂血症、動脈硬化による高血圧等と伴う状態を、代謝症候群(metabolic syndrome)ともいう。
 その結果、肝臓から糖放出の抑制がされなくなり、筋肉や脂肪組織における糖貯蔵の障害を受けるようになる。
 高血糖症により血中の糖が腎臓の再吸収機能を超えると、尿糖排出、浸透圧性利尿、脱水等が起こる。また高血糖が長期間維持すれば、血管壁の変性や血管腔の狭窄を起こし、細胞内ではソルビトール代謝を促進させ、糖尿病性網膜症、腎症、末梢神経障害、心筋梗塞、脳梗塞などの血管合併症を引き起こすようになる。

3.妊娠糖尿病
 妊娠糖尿病は妊娠中に発生した糖尿病で、巨大児等の新生児が出生することがある。

4.妊娠糖尿病の症状
 インスリンの作用が低下すると、高血糖と尿糖になり、浸透圧利尿効果が現れる。浸透圧利尿によって尿量が増加すると、多飲、口渇、多食、頻尿、多尿、体重減少等の症状が急速的に現れる。このような症状等は1型糖尿病においてもよく見られ、2型糖尿病では自覚されないことが多い。このような症状は自覚症状が徐々に現れるので、症状があっても軽く考え、治療をしない時がある。

5.糖尿病合併症
 糖尿病において、最も注意すべきことは合併症である。網膜の血管変化による糖尿病性網膜症であれば、朝起きると目に霧がかかったように感じられる症状が現れる。このような症状が進行すると失明する。糖尿病性網膜症は、失明原因の第1位である。また、この血管変化が腎臓で起これば、糖尿病性腎障害が起こる。糖尿病性腎障害も発症頻度が高く、進行すれば尿毒症が起こり、腎臓透析をする必要がある。透析導入原因の第1位が糖尿病性腎障害である。
 また糖尿病性神経炎では手足がしびれる感覚障害が起こる。知覚鈍麻や自発痛は患者にひどい苦痛を与える。特に、糖尿病背では血管の粥状硬化が起こり、心筋梗塞脳出血が起こりやすい。
 このような症状などが複合すると、糖尿病性足手病変が起こる。手足の爪や足の指が変形して、足の潰瘍や壊疽にまで進行すると、長期入院や下肢切断しなければならない者も少なくない。

6.糖尿病の検査
 糖尿病患者達の血糖コントロールに参考となるよう、検査値について説明する。

1)糖化ヘモグロビン(HbA1c)
 血液の赤血球中にあるヘモグロビンは、細胞に酸素と栄養分を供給する役割をしている。血液中に過剰の糖があれば、筋肉や肝臓でグリコーゲンを貯蔵しておき、エネルギー(Energy)が必要な時に、血液中に放出するしくみになっているが、運動不足でエネルギー源である糖の消費ができないまま、筋肉や肝臓に残っていると、筋肉や肝臓は段々弱くなって貯蔵力が落ち、血液中で行き場を失った過剰な糖と赤血球のヘモグロビンとがポリオール代謝により結合して、巨大分子を作るようになる。
 ヘモグロビンは酸素や栄養を運搬する貨物バスのようなものだが、そのヘモグロビンと糖とが結合すると巨大分子になり、酸素や栄養分を持って細胞内に進入することができなくなる。そのため、酸素や栄養分を細胞に充分供給できなくなるので、末端細胞では糖尿病性神経炎等の合併症が起こるようになる。ヘモグロビンと結合した糖は、赤血球の寿命から、HbA1cの検査数値は1〜2ヶ月間前の平均血糖値を反映するので、血糖調整状態が正確にわかる様になる。
・血糖値(朝空腹)65〜109mg/dl
・糖化ヘモグロビン(Hb-A1c)(%)は、正常な人:5.8未満〜6.5、糖尿患者:6.5〜8.0以上

2)糖化アルブミン(フルクトサミン)
 糖化アルブミン(フルクトサミン)は、血清タンパク質とグルコース(糖)が非酵素的反応によって結合したものである。2週間前の平均血糖値を表し、基準値は210〜290μmol/Lで、糖尿病のときは上昇する。

3)C-ペプチド
 C-ペプチドは尿中の排泄量を測定することでインスリンの分泌機能を見ることができる。C−ペプチドは膵臓のランゲルハンス島のβ細胞からインスリンと同時に分泌される。尿中C−ペプチドの基準値は21〜198μg/日で、20μg/日以下の場合はインスリン治療が必要である可能性が高い。

4)抗GAD抗体
 抗GAD抗体はグルタミン酸脱炭酸酵素(Glutamic and decarboxylase)に対する自己抗体であり、抗GAD陽性は膵臓のβ細胞の障害を反映している。
 1型糖尿病では抗GAD抗体値が高くなる(基準値は1.5μ/mL未満)。したがって自己抗体が陽性であると、1型糖尿病になる可能性が高い。


7.治療方法
 糖尿病治療法は過食と肥満の解消、運動によるインスリン感受性の亢進作用を基本とし、必要に応じてインスリン製剤または経口血糖降下薬を用いて糖代謝を正常化する。また合併症の予防を心掛けなければならない。

1)食事療法
 大部分の場合、食事療法が治療の基本になる。
 血糖値や体重、性別、エネルギー(Energy)消費量等により摂取カロリーを決定する。3大栄養素(糖質、タンパク質、脂肪)のバランスがとれた食品構成を食事療法で決める。
 食事療法は摂取量を身体の必要とする最低限のカロリーに制限することである。
 食事療法の原理は、肝からの糖の放出を抑えて、その分空腹時血糖を下げることで、余分なエネルギーが筋肉や肝臓にグリコーゲン(glycogen)として貯蔵されるのを減らし、脂肪やアミノ酸からの糖新生を減らすことにより糖の放出を低下させることである。
 余分なカロリーは脂肪として蓄積され、血中遊離脂肪酸の増加によりインスリン抵抗性が悪化することから、血糖値は更に上昇する。慢性の高血糖状態はそれ自体が膵臓のβ細胞数の減少やグルコースの感受性を低下させ、インスリンの分泌不全とインスリン抵抗性を悪化させる(糖毒性:glucose toxicity)。逆に血糖値を低下させると、膵臓のβ細胞の負担を軽減し、反応性を回復することで、インスリン抵抗性の改善がみられる。
 BMI(ボディマス指数)から標準体重を求め、活働内容から1kgあたりの1日総エネルギー必要量を掛けることで、必要エネルギーを算出する。三大栄養素のエネルギー比はタンパク質15〜20%、脂肪20〜30%、糖質55〜60%を目安とする。
 食事内容は1回の食事に偏らないように分散して摂取し、朝食を抜かないこと、また限られた食事量で満足できるようによく噛んで食べること、寝て食べるのではなく起きて食べること、種々の清涼飲料水等にも注意する。
 カロリー中心主義からから血糖上昇反応指数が見直されてきた。これはブドウ糖を摂取した時の血糖値曲線を100%とした場合に、その食品を食べた時、血糖値がどのように、どれ位上昇するかを評価した指数である。同じカロリーでも食品により、血糖値の上昇は異なるため、ゆっくり上昇し、ゆっくり下降する食品が望ましい。糖尿病予防の食事療法は肥満食事療法の項を参考にして欲しい。

2)運動療法
 運動療法の意義はエネルギーの消費だけではなく、肥満の改善、ひいてはインスリン抵抗性の改善にある。筋肉細胞膜にある糖輸送担体の数が運動により増加することから、細胞膜から糖を取り込む回転が速くなり、血糖値が低下する。つまり運動した骨格筋でのグルコースの取り込みを増加させることでインスリン抵抗性を改善するもので、この効果は運動後1〜2日間持続するため、少なくとも週に3回の運動が必要とされる。20分以上持続する速歩、ジョギングなどの有酸素運動が効果的である。高齢者の階段の昇降、なわどび等は心肺機能や関節への過重負担等のリスクを伴うので、初めての人には勧められない。その人ができる葉に範囲で、好みにあわせて具体的に運動の種類を選択し、生活習慣として持続させることが大切である。膝が痛い人への歩行指導や、近隣にプールのない人にプール内での歩行を勧める等、実行苦難な指導はかえって患者に不信感を持たせ、運動から遠ざける結果となる。脂肪の摂りすぎや、運動不足から内臓脂肪型肥満となれば、腸管膜脂肪組織は脂肪が沈着し、門脈血中FFA(遊離脂肪酸)の上昇、肝ではTG(中性脂肪)合成亢進、VLDL(超低密度リポタンパク)合成亢進、HDL(高密度リポタンパク)の低下となり、また糖新生の亢進、糖放出の亢進、糖の取り込み機能低下となり、高血糖の出現から高インスリン血症となり動脈硬化につながる。


8.高齢者と糖尿病
 高齢者の糖尿病は多臓器障害がすでに発症している可能性が大きく、症状が非定型的、薬への反応性が過剰であること、社会的要因、頑固な性格等個性が強いこと、偏食等による食事療法の困難、運動不足による基礎代謝量の低下等が特徴的である。加齢による糖尿病有病率は、インスリン分泌の低下でなく、筋の糖取り込み機能が落ちていることから、運動不足が最も大きな原因になっている。高齢者の運動療法は最も効果的であるといわれている。
 糖尿病の運動療法により、血管系の危険が減少するため、2型糖尿病では血糖コントロールの改善とインスリン感受性向上のために運動療法をしなければならない。運動の種類は長時間できる徒歩、水泳、ウォーキング等の運酸素運動が良い。
 消費カロリーは160〜230kcalを目標にする。薬物療法を併用するときは、運動時間によって低血糖を起こすことがあるので注意しなければならない。

1)薬物療法
 食事療法、運動療法だけでは血糖コントロールがうまくできない時に行われる。治療に使用する薬剤は、経口血糖降下剤とインスリン注射に大別される。
 ・経口血糖降下薬はインスリンの分泌を促進するスルホニル尿素薬(SU)等
 ・インスリン注射は不足しているインスリンを注射で補充する。
 1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)はインスリン注射での補充が必須である。
 2型糖尿病は経口薬で効果を得られないときにインスリン注射で血糖コントロールする。
 薬物療法を行う場合は低血糖が起こることがあるので、血糖コントロールに注意しなければならない。
 補充療法が実用化され、2型糖尿病患者の昏睡死が減少し、最近では遺伝子技術を利用して抗原性が低いインスリン製剤が利用されるようになった。
 経口血糖低下剤スルホニル尿素剤等により、血糖管理ができるようになり、食事療法や運動療法等が基礎療法の指針も定着されている。糖尿病治療と糖のコントロールは、必ず専門医の指示を受けなければならない。

2)漢方療法
 漢方製剤は現代医療のインスリン補充療法や血糖降下療法には届かないが、糖尿病状態での血管症、神経症による症状を軽減して、『QOL』(quality of life:生活の質)を改善し、自覚症状の改善を通じて患者の苦痛を除去し、合併症予防と治療の補助をする。または漢方薬は西洋治療に併用すると良い効果を見る例が多く報告されている。
 漢方薬に現代医薬のような血糖降下作用を期待するのは多少無理があると言えるが、漢方診療は症候の経過によって処方を選択する経過弁証の治療法であるので、自覚症状の改善を通じて患者の苦痛を除去あるいは減少し、食生活を助け、合併症予防と治療に寄与して、糖尿病患者が楽に治療あるいは健康に暮らせるようにする治療法だと言えよう。
 2型糖尿病初期の高脂血症を随伴する肥満症には
 高脂血症改善薬:大柴胡湯(高脂血症改善)、防風通聖散等の清熱瀉下剤(大黄剤)
 抗血小板製剤に相当する:桂枝茯苓丸(血管症予防)等の駆お血剤や黄連解毒湯等の清熱剤を使用する。
 2型糖尿病の初期の肥満傾向にある患者の血液に、過剰の糖や脂質が存在して血液の流動性に異常が認定された場合、実証で、病理的には血お、血熱が想定される。このような証は、裏熱症や熱症の血おである体力に余力がある患者の実証状態で、消渇の前段階と考えられる。
 糖尿病の慢性期に疲労感、四肢のしびれ感がある場合は、裏寒症に虚熱症を随伴する症候(体力の虚証傾向)である。この時には消渇の症候が現れる。
 四肢不実 体力虚症:八味地黄丸、補中益気湯、牛車腎気丸
 皮膚枯燥(血虚陰虚):手足が乾燥感等、虚熱症の症状を表す段階には、六味丸、十全大補湯、滋陰降火湯、麦門冬湯、灸甘草湯(合白虎加人参湯)、人参地黄剤(補気補血剤)を使用する。
 ・口渇改善:人参剤の白虎加人参湯を利用する。
 ・漢方では糖尿病に八味地黄丸を代表的に汎用している。

9.糖尿病性神経障害
 八味地黄丸や牛車腎気丸は糖尿病性神経障害の症状軽減や予防に汎用されている。それ以外に桂枝加朮附湯、当帰芍薬散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯等の温剤(寒症を改善する方剤)等も適応される。
 特に八味地黄丸は、金匱要略によると、口渇、多飲、多尿(特に夜間尿)、四肢や腰の冷感、脱力感等の消渇病に由来した症候に利用するしょほうである。
1)人参の糖尿病病態に対する臨床効果と薬効薬理
・臨床効果:人参は糖尿病患者の上下肢のしびれ感等の神経障害改善に有効である。
・薬効や栗:人参は腸管細胞に存在しているインクレチン(incretin)を刺激してインスリン分泌を促進し、血糖降下作用(人参の成分中ginsenoside Rb2多糖類)が認められた。
 また人参のペプチド成分に、血液中の過剰な糖と赤血球のポリオール代謝による糖化ヘモグロビン生成に関与する酵素であるアルドースレダクターゼ(AR)を阻害し、グルコース(glucose)とヘモグロビンの結合を阻害して、HbA1c値を7以下に効果させ、糖尿病慢性合併症を予防する作用が発見された。臨床で糖尿病に用いる漢方処方には人参配合処方が多い。

2)生活習慣と糖尿病
 すべての慢性病は食生活と運動が関係するが、特に肥満と糖尿病の予防や治療は生活習慣と密接な関係がある。糖尿病は遺伝病だという人達もいるが、そういった人達は、自分自身の生活習慣を考えずに逆恨みする人、やけくそになった放棄する人、そして病気にかかれば病院に言って医師や薬剤師に依存する人等によくみられる。
 上述した内容は糖尿病に対する発病原因、症状、治療法、合併症等の知識を参考にしてもらえれば幸いであるとの考えて記述した。

3)糖尿病は遺伝病であるのか
 人間は仕事をしながら動く動物である。したがって、働くためにで、足があり、飲食を通じてエネルギーの原動力である栄養分を供給するようになっている。動物は動かなければ栄養素とのバランスが崩れ、発病が起こるような構造になっている。言い換えると、糖尿病はエネルギーを消費する運動不足によって、吸収排泄のバランスが崩れた結果、栄養分が体内に過剰蓄積されて起こる病気である。
 前述した通り、糖尿病の95%を占めている2型糖尿病は、40代以降、後天的に起ころ疾病である。生活が困難であった時代は、特に農村の農夫の中にはさがしにくい病気で、消渇病と呼んで、お金の多い富裕層に起こる病気だと信じていた時代もあった。
 1型糖尿病も母親の妊娠糖尿病やウイスル感染によって発病することがわかるようになった。そのため、生活習慣病の代表的疾患である糖尿病を、遺伝病だと断定するのは間違っていることである。
 糖尿病の予防や治療において大切なことは、糖尿病が一升の生活習慣による結果であることを心することである。特に物質万能時代に生きている現代人は、子供の頃から日常生活において、美味しい加工食品を好んで食べ、また喫煙、過飲そして自動車等の便利なものを使う生活を追求したために、運動量が絶対的に不足しているので、吸収排泄のバランスが崩れ、糖尿病が発生するのである。
 親を糖尿病で亡くした後、子も糖尿病にかかる人をよく見る。そのため、糖尿病は遺伝性であるという人達が多いが、それを遺伝病だと断定するよりも、運動、生活環境、食生活を改善することが必要だと専門医達は口を揃えて提唱している。

4)糖尿病と生活習慣
 ある家庭で塩辛いもの、唐辛子、肉類、油の多い料理が、その家庭の家庭料理になる。すると、家族全員が太って運動を嫌がり、便利で楽な生活を楽しむことを持続すると、その家族が同じように、肥満、糖尿病、高血圧等の慢性病にかかることは必然的である。これにより、遺伝性だと断定する例も少なくない。
 また糖尿病を意識して、過剰な運動と無理な食事制限は、ストレスを増やし、かえって害になることがある。

参考文献
1.山田幸宏等:病態ハンドブック糖尿病、pp310-315、医学藝術史(2005)
2.李宗哲:糖尿病の治療、新一商事(1995)
3.Zhang T.et al:Ginseng root:evedence for unmerous regulatory peptide and insulinotropic activity.Biomed Res 11:pp.49(1990)
4.Aida K, et al:Clinical significance of erythrocyte sorbitol-blood glucose ratios in type 11 diabetes mellitus.Deabetes Care 13:pp,461(1990)
5.谿忠人:現代医療と漢方薬:糖尿病、pp.205-217、医薬ジャーナル(1991)
6.木村正康等:漢方薬、pp.254-278、中山書店(1992)
7.Zunz E,LaBarre J:Contribution a I etude des variation physiologiques de al secretion interne du pancreas:relations enter les secretions externe et interne du pancreas.Arch Int physiol Biochim,31:pp.20(1929)
8.日野原 重明 監修:知的エリートのための生活習慣病と検査、克誠堂出版(2003)




高血圧((hypertension)
 高血圧症患者は、成人3人中1人に見られる。生活習慣病のうち、発病率が最も高い。最近は医療の発達で、治療と血圧コントロールがよくなっているものの、高血圧は、死亡率がガンに続く上位の疾患である脳卒中、心筋梗塞を引き起こす重要な原因になっている。
 高血圧患者が降圧薬を服用して血圧を正常に維持していても、高血圧患者だといわれる。それは高血圧が完治されたのではなく、薬をもって血圧をコントロールしているからである。
 
 1.高血圧の定義と分類
 成人の正常血圧は収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧90mmHg未満である。
 高血圧患者の血圧は収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上で、どちらか一方でも該当すれば高血圧となる。
 血圧は加齢と共に増加するため、高血圧の基準は年齢によって異なる。

小児・青年期の高血圧判定基準(mmHg)成人の高血圧判定基準と病期分類(mmHg)
  分類      収縮期血圧      拡張期血圧      分類      収縮期血圧      拡張期血圧
  幼児      120以上        70以上      正常血圧      130以下       85以下
小学校低学年  130以上        80以上      正常高血圧    130〜139      85〜89
  高学年     135以上       80以上      軽症高血圧    140〜159       90〜99
 中学生男子   140以上       85以上      中症高血圧    160〜179      100〜109
  女子      135以上       80以上      重症高血圧     180以上        110以上
  高校生     140以上       85以上     収縮期高血圧     140以上        90以下
                                                   WHO/ISH分類 (1999)

一般的に高血圧は大循環系の高血圧を言うが、専門医達の分類では、肺疾患等から見られる肺動脈高血圧の高血圧症、肝疾患等から見られる門脈血圧の上昇、門脈圧亢進症の門脈高血圧症等も高血圧だと言われる。








高血圧((hypertension)
 高血圧症患者は、成人3人中1人に見られる。生活習慣病のうち、発病率が最も高い。最近は医療の発達で、治療と血圧コントロールがよくなっているものの、高血圧は、死亡率がガンに続く上位の疾患である脳卒中、心筋梗塞を引き起こす重要な原因になっている。
 高血圧患者が降圧薬を服用して血圧を正常に維持していても、高血圧患者だといわれる。それは高血圧が完治されたのではなく、薬をもって血圧をコントロールしているからである。
 
 1.高血圧の定義と分類
 成人の正常血圧は収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧90mmHg未満である。
 高血圧患者の血圧は収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上で、どちらか一方でも該当すれば高血圧となる。
 血圧は加齢と共に増加するため、高血圧の基準は年齢によって異なる。

小児・青年期の高血圧判定基準(mmHg)成人の高血圧判定基準と病期分類(mmHg)
  分類      収縮期血圧      拡張期血圧      分類      収縮期血圧      拡張期血圧
  幼児      120以上        70以上      正常血圧      130以下       85以下
小学校低学年  130以上        80以上      正常高血圧    130〜139      85〜89
  高学年     135以上       80以上      軽症高血圧    140〜159       90〜99
 中学生男子   140以上       85以上      中症高血圧    160〜179      100〜109
  女子      135以上       80以上      重症高血圧     180以上        110以上
  高校生     140以上       85以上     収縮期高血圧     140以上        90以下
                                                   WHO/ISH分類 (1999)

一般的に高血圧は大循環系の高血圧を言うが、専門医達の分類では、肺疾患等から見られる肺動脈高血圧の高血圧症、肝疾患等から見られる門脈血圧の上昇、門脈圧亢進症の門脈高血圧症等も高血圧だと言われる。しかし、運動、情動等による一過性高血圧は単純な反応性の血圧上昇であるので高血圧ではない。
 高血圧患者の場合、専門医(主治医)の相談の上、生活習慣の改善と血圧コントロールを行い、主治医の指示に従って薬物治療を行うことが重要である。
 筆者は、正常血圧であっても加齢によって変化するので、運動、情緒、食生活等の生活習慣の改善を通じた高血圧の予防を記述したい。

2.高血圧の病態
 高血圧患者の90〜95%は原因不明の本態性高血圧である。原因が確かな場合は2次性高血圧と呼ばれ、治療上の相違がある。高血圧の原因は、血液を押し出す心拍出量の増加と押し出された血液を受け止める血管抵抗の増加である。
 血圧は心拍出量と末梢血管抵抗の積として算出する。血圧に関する因子は年齢、遺伝体質、食習慣、運動習慣、社会習慣、ホルモン異常等、様々なものがある。
 血中に塩分ナトリウム(Na)の量が増加すると、水分(H2O)の量も増加するので、循環血流量が増加する。血流量が増加すれば静脈還流量が増えるため、心拍出量も増加する。このため、高血圧になる。
 循環血液量は副腎皮質ホルモンの分泌が増加するクッシング症候群(Cushingsyndrome)でも増加する。副腎皮質ホルモンのコルチゾール(糖質コルチコイド)が過剰分泌になれば、電解質作用によって腎臓からのナトリウム(Na)再吸収が増大し、循環血液量が増加して、高血圧になる。
 原因、病因にかかわらず、高血圧状態が持続すると、脳や心臓、腎臓で動脈硬化等の血管病変が進行するようになる。このような病変は脳出血、心筋梗塞、腎不全等、重要な病気を起こす危険性がある。
 ・クッシング症候群(Cushing syndrome);30〜40代の中年女性によくみられ、副腎腫瘍等による慢性のコルチゾール過剰が原因の高血圧が起こり、高血圧全体の0.2〜0.3%に該当すると言われている。
 ・高血圧の原因
 高血圧の原因は心拍出量と末梢血管抵抗の大きく2つに分けられる。
@心拍出量:心臓のポンプ作用によって動脈血を組織に灌流させ、役割が終われば血液は静脈血として心臓に環流される。静脈血が心臓に戻ることを静脈還流という。心臓のポンプ作用の過程で、収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上の場合、心拍出量の増加が高血圧の原因になる。

A末梢血管抵抗:何らかの原因で血液の運搬路と言える血管の動脈が硬化され、弾力性がなくなって固くなったり、血管壁に脂質が付着して狭くなった結果、弾力性が減少したり、血液粘度が高くなったりした場合に、塩分の過剰摂取による血液容量の増加や血管平滑筋のカルシウムイオンによる収縮等により、血管抵抗を受けると、これが高血圧の原因になる。

3.心臓の機能と高血圧の原因
・心臓のポンプ機能
@血液を通じて肺から摂取した酸素を全身の組織に運搬し、末梢組織では代謝によって発生する二酸化炭素を肺に運搬する。
A消化管から摂取した栄養を全身の組織に運搬して、各体内臓器から発生する老廃物を腎臓に運搬して排泄させる。
B内分泌腺から分泌されるホルモン(Hormone)を運搬する等の役割をする。
 心臓はポンプ機能があるため、心臓が収縮して動脈を通じて血液を細胞組織に拍出する際の正常な成人の収縮期血圧は140mmHg未満、また心臓が拡張によって静脈血液を心臓に還流させる際の拡張期血圧は90mmHg未満である。このような心臓のポンプ作用は生命が維持する限りひっきりなしに持続する。

・血液拍出量
 心臓の血液拍出量増加の原因のひとつは、日常食生活における塩分の過剰摂取による体内水分量増加で、心拍出量が大きくなる。体内でナトリウム(Na)は水分を保持する役割をする。
 自律神経である交感神経の興奮と精神的興奮、そして高脂血症による冠状動脈硬化および心臓肥大により心拍出量が増加する。したがって心臓にこのような影響が繰り返されれば、高血圧の原因になる。

4.血管の機能と高血圧の原因
・血管の機能
 欠陥は心臓から各組織に血液を運送するために、心臓→大動脈→動脈→細動脈→毛細管→組織→毛細管→細静脈→大静脈→肺→大静脈→心臓という流れの循環系をなし、肺から摂取した酸素と消化管から摂取した栄養を全身の組織に送る。また組織から発生する二酸化炭素を肺に、体内から発生する老廃物を腎臓に運送し、その他、内分泌物であるホルモン、免疫細胞等を運送する重要な役割をする。

・血管の抵抗
@血管の狭窄(脂質)A血管平滑筋収縮(カルシウム)B血液粘度(糖等)C血液量増加(塩分のナトリウム(Na))等を挙げることができる。
 高脂血症(hyperlipidemia):高脂血症は高血圧、動脈硬化、心疾患等の疾病を起こすだけでなく、原因が複雑であるため、詳細に説明する。
 高脂血症は血液中の脂質が増加する病態をいう。そのため、脂質が血管壁に付着して血管を狭くし、血管の弾力性がなくなるため、血管に抵抗を与えることとなり、高血圧の直接的な原因になる。血中脂質にはコレステロール(Cholesterol),中性脂肪(triglyserid;TG;トリグリセリド)、リン脂質(phospholipid),リポタンパク質(Lipoprotein;リポプロテイン)等がある。
 高脂血症は血中の中性脂肪150mmg/dl以上、または総コレステロール220mmg/dl以上の場合をいう。
 最近生活環境がよくなり、30〜60代の男性の50%以上が高脂血症の数値を持っている。女性は更年期前後からコレステロール値、中性脂肪値が上昇し、50代からは60%が高脂血症になっている。

・病態
 高脂血症患者の増加の原因は、動物性脂肪に多く含有されている飽和脂肪酸の摂取の増加だといわれている。
 高脂血症の場合、血液に脂質が多く含有されているので、血液の濁度が高くなり、血管が抵抗を受け、脳血管が詰まる血栓症と、血管壁に脂質が付着して血管が狭く、また固くなり、ちょうど朽ちるゴムホースのように弾力がなくなって、動脈硬化になる。そのため血管が破裂し、脳卒中にまで悪化することになる。
 WHO(世界保健機関)の高脂血症の分類(Fredrickson分類)
 高脂血症はT、Ua、Ub、V、W、X型の6種類に分類され、また増加する脂質の種類によって次の3つ型に分類される。
 @高トリグリセリド血症(高中性脂肪血症)150mmg/dL以上『W型』
 A高コレステロール血症 総コレステロール220mmg/dL以上『Ua型』
 コレステロールはLDL(Low Density Lipoprotein:低比重リポタンパク)
           HDL(High Density Lipoprotein:高比重リポタンパク)
           VLDL(Very Low Density Lipoprotein:超低比重リポタンパク)
総コレステロールはLDLとHDLコレステロールを合わせた数値である。
LDL(悪玉)コレステロール値が140mmg/dL以上であれば、高コレステロール血症である。
 総コレステロール値が高くなくてもLDLコレステロール値が高ければ高脂血症である。特にLDLコレステロール値が高いと動脈硬化症になりやすい。HDL(善玉)コレステロールは40mmg/dL以上でなければならない。HDL40mmg/dL以下は高脂血症ではないが、動脈硬化を起こす脂質代謝異常である。

B混合高脂血症は@とAの混合型『Ub型』で、上記数値のどれかひとつでも高ければ、高脂血症である。
 『Ua型』の高脂血症は、家族性高コレステロール血症だとみられている。
 家族性高コレステロール血症は、LDL受容体の異常により発生する疾患である。
これは若いヒトでも動脈硬化を発生しやすい。500人に1人の比率で現れる。
 『T型』高脂血症等においては、中性脂肪を分解するリポタンパク酵素のリパーゼに異常があり、顕著な高トリグリセリド(triglyceride)になる。
 また分解酵素が活性化して組織破壊されると、膵炎(pancreatitis)の急性膵炎黄色腫等が現れる。

WHO(世界保健機関)のFredrickson分類(高脂血症)  
検査    Data           T型      Ua型      Ub型     V型    W型   X型
分類   TG血症        Cho血症   混合脂血症  混合脂血症  高TG血症   高    TG血症
血清総 Cho mmg/dL  220無変    220高昇   220中昇    220中昇  220弱昇 220弱昇
血清   TG mmg/dL  150強昇    150無変   150中昇    150中昇  150中昇  150強昇

5.コレステロールと中性脂肪の役割
 コレステロールは細胞膜ホルモン(Horumone),胆汁酸の重要な原料であり、肝臓で生成または食物からも摂取される。LDLコレステロールは肝臓で作られ、コレステロールを体内の組織に運搬する役割をしている。LDLコレステロールが血液中に過剰増加すると、血管壁の細胞内に蓄積して動脈硬化を起こすようになる。血管内皮細胞から内膜に侵入したLDLコレステロールが酸化されれば、より動脈硬化を起こしやすい酸化LDLコレステロールになる。傷を受けた血管内皮細胞には単球が接着し、内膜に侵入してマクロファージ(macrophage)になる。酸化LDLコレステロールはマクロファージに貧食されると、泡沫細胞になって血管内膜が肥厚し、粥腫が形成される。粥腫が破壊されると、血小板が集まって血栓が作られ、血管内腔が狭窄または閉塞され、血管の弾力性が減少して血液の流れが悪化される。このような状態を動脈硬化という。動脈硬化は血管抵抗を上昇させるだけではなく、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などの原因になる。
 中性脂肪(triglyceride:トリグリセリド)は糖質を材料に肝臓で生成あるいは食物から摂取され、皮下脂肪や内臓脂肪に貯蔵される。この中性脂肪を過剰摂取したり、運動不足でエネルギーの消費が少なくなると、血液中の中性脂肪が増加されて高中性脂肪血症になり、高血圧を引き起こす。

6.閉塞性動脈硬化症 arterisosclerotic obliteration(obstruction)(ASO)
閉塞性動脈硬化症は腹大動脈、腸骨動脈、腹部臓器動脈、鎖骨下動脈、総頸動脈、四肢動脈等がアテローム性(粥状)動脈硬化のために狭窄または閉塞を起こし、阻血状態にあることをいう。閉塞性動脈硬化症は40〜50代以後の高齢者に多く発生する。
7.病態
 動脈硬化には大動脈に起こる粥状動脈硬化(アテローム性動脈硬化)と、細動脈に起こる細動脈硬化がある。動脈硬化は動脈内膜の浮腫線維性肥厚により始まり、内臓へのアテローム沈着、中膜弾性線維破壊、石灰沈着を起こし、内腔狭窄になる。この内腔狭窄が増加するとアテロームの潰瘍化が起こり、閉塞性血栓が形成され、血液の流れが遅くなり、分岐部分や狭窄部分では動脈硬化が起こりやすい。特に肥満、糖尿病、高脂質食、高糖質食、ストレスなどは悪化要因になる。動脈硬化は30〜40年に渡って徐々に現れる。
・内膜へのアテローム沈着:内臓にコレステロールなどの脂質が沈着してアテローム(粥腫、粥状硬化巣)が形成される。

8.高血圧の症状と治療
 高血圧は血圧測定をした後にはじめて分かる場合が多い。普段は症状を感じないが、高血圧の程度が増加すれば頭痛、頭重感、倦怠感等の症状がみられる。また高血圧に脳出血、心梗塞、腎臓障害等が合併するようになれば、これらに随伴する症状が起こる。高血圧は脳卒中、心筋梗塞等、様々な疾患がおこるので予防と治療が必要になる。
 高血圧治療には心拍出量を減少する方法と末梢血管抵抗減少の方法がある。高血圧の診断を受けた場合、すぐ様、血圧のコントロール(Control)方法と生活習慣、特に飲食習慣に対する指導を受け、血圧降下剤を服用する。
以下は担当医師から説明があると思われるが、前もって理解しているのが良いと思うので簡単に説明する。

1)血流量減少薬剤:利尿薬は尿量を増やし、体内から水分とナトリウム(Na)を排出して血液量を減少し、血圧を降下する作用がある。
 薬剤:ヒドロクロロチアジド、スピロノラクトン、フルセミド(血流量減少)等がある。

2)カルシウム拮抗薬:カルシウム(Calcium)のカルシウムイオンが血管平滑筋を収縮させるのでカルシウムイオンが血管平滑筋に入ってくるのを抑制し、血管収縮を防ぐ作用がある。
 薬剤:ニフェジピン(末梢血管を拡張)

3)アンジオテンシンU受容体拮抗薬:アンジオテンシンUは血管を収縮させる作用があるため、その受容体(receptor)に結合するのを抑制する。血圧降下効果と臓器障害の改善効果が良い。
 薬剤:オルメサルタン(末梢血管を拡張)

4)α遮断薬:α遮断薬(blocker)は末梢血管抵抗を減少する作用がある。自律神経である交換神経が興奮すると、血管壁に存在するα受容体が刺激を受け、血管が収縮する。α遮断薬はα受容体の作用を遮断して、血管抵抗を減少する作用がある。
 薬剤:塩酸プラゾシン(末梢血管収縮抑制)

5)ACE阻害薬:ACE(アンジオテンシン変換酵素:angiotensin converting enzyme)阻害薬(inhibitor)には、アンジオテンシンUが血液中や血管壁から作られるのを抑制する作用がある。タンパク尿を減少させ、腎臓保護作用がある。
 薬剤:カプトプリル(末梢血管抵抗を減少する)

6)β遮断薬:β遮断薬は心臓の収縮力、心拍数を低下させる作用がある。心臓では交感神経が興奮すると、β受容体が刺激される。β遮断薬はβ受容体を抑制するので、心臓の活動を弱くして血圧を低下させる。
 薬剤:塩酸プロプラノール(心臓収縮を抑制して血液拍出量を低下させる。)以上の薬剤の使用方法と用量等は医師の指示により使用する。また副作用に対しては説明を充分に理解しなければならない。

9.漢方医薬学的治療
 漢方治療は西洋治療法と異なり、高血圧の数値を急に降下させることはできない。しかし、高血圧症に適用する処方は高血圧及びそれに随伴する症状を指標に選択する。そのため、薬理学的作用の基盤は現代医学と同じ血圧降下作用、中枢神経抑制作用、抗高脂血症、抗動脈硬化作用、血小板凝集抑制作用に対し、主に12処方が高血圧症に利用されている。その内、牛黄清心元、瓊玉膏、大柴胡湯、黄連解毒湯、柴胡加龍骨牡蠣湯、釣藤散等は臨床における有用性が報告されている。一方、12処方を構成している生薬46種中、32種は含有成分の薬理作用が研究されているものも多い。
 特に釣藤鈎に含有される成分ヒルスチン(hirusutine)は、カルシウム流入阻害作用(anti Calcium)による血管弛緩作用で血圧を降下する等、天然薬物の漢方薬は経験による伝統薬物として薬理作用が研究されていないまま、臨床に利用されてきた事例が多い。
 漢方医学には元来、高血圧という病名がないだけでなはく、高血圧症の概念が存在していなかった。しかし高血圧症に随伴する頭痛、頭重感、めまい、耳鳴、顔面紅潮改善等とその他の精神神経症に随伴する頭痛、頭重感、めまい、耳鳴、顔面紅潮改善等とその他の精神精神神経症状(精神的興奮、不眠、心悸亢進)の改善を目的とする処方があるが、これらは高血圧症に有効であるとみている。

 10.高血圧症とその随伴症状に処方される漢方方剤
 実証体質患者:三黄瀉心湯、大柴胡湯、防風通聖散、桃核承気湯、桂枝茯苓丸、通導散、黄連解毒湯、柴胡加龍骨牡蠣湯、釣藤散等。
 虚証体質患者:真武湯、七物降下湯、八味地黄丸を使用している。
 大柴胡湯は大黄、黄ごん、枳実を含む柴胡剤である。高脂血症を随伴する高血圧患者にエキス顆粒剤を投与して、めまい、不眠の症状を改善するのに利用されている。一方、高脂血症改善については、多くの実験を通じてその効果が確認されている。
 このような結果はm、動脈硬化の予防と高血圧を含む循環器系疾患の治療において、臨床的に利用されている。
 黄連解毒湯は臨床において多く利用され、基礎研究では摘出血管に対する弛緩作用と血小板凝集抑制作用が確認され、末梢循環改善効果があると報告されている。
 柴胡加龍骨牡蠣湯は心身症性高血圧症患者に七物降下湯や釣藤散は老年者高血圧症に有効であるとの臨床報告がある。
 釣藤散は本態性高血圧患者に投与した時、血圧の改善は認められないが、『QOL』(quolity of life:生活の質)を上げるのに有効であると報告がある。
 また釣藤散にアルカロイドのリンコフィリン、ヒルスチン、ジギドロカダンビン等の成分によるカルシウム流入阻害作用からの血管弛緩作用により、血圧降下作用が認められた。
 高血圧症に使用された12処方(46種の生薬で構成)中に、黄耆、黄連等、32種の生薬の薬理学的基礎研究において、高血圧疾患と関連した薬理作用が確認された。
 牛黄清心元は、伝統的に脳卒中の応急薬として、臨床で最も広く利用されている薬物である。牛黄清心元の実験的報告や臨床報告は多い。
 基礎研究において牛黄清心元は脳卒中の原因、病的脳神経細胞死(アポトーシス)を起こすシトクロムCに対して、Bc12を増加させて細胞内流出を抑制し、カスパーゼ-8の減少によるカスパーゼカスケードの活性抑制とアポトーシスを促進するBaKを減少させ、ミトコンドリアPTPの生成を低下させ、カスパイン-Iの活性を低下させてタンパク質分解を減らし、PKCaの活性を増加させるので、脳神経細胞死を減少させる等、脳損傷によって発生する疾患に効果があるという報告がある。また牛黄清心元が糖尿性ラットの血液粘度を低下させ、血小板凝集能抑制作用や抗血管抵抗作用があるという報告もある。
 牛黄清心元の薬理学的報告は牛黄清心元の項と総合論文の項を参考にされたい。

11.生活習慣
 高血圧の治療と予防は、子供の頃からの生活習慣と密接な関係がある。特に性格が短期で血の気の多い人、即ち、漢方で実証体質の人は平素から注意する必要がある。
 自身が平素から、生活習慣である飲食習慣、生活態度、対人関係等を反省して改善点をさがしてみるのも生活改善の第1歩になる。
 1)酒の過飲と連続飲酒は必ず調節するか、避けるべきで、特に飲酒しながら肉類を多く食べる習慣は肥満を起こし、高脂血症、動脈硬化を起こしやすい。
 2)喫煙家達の喫煙理由のひとつが精神的ストレスの解消であるというのは、多少理解できるが、喫煙は肉体的に血液を濁化させ、毛細血管に抵抗を引き起こし、血圧を上昇させるので注意しなければならない。
 3)過食と早食いの習慣は、食後眠くなって運動するのを嫌がり、腹部肥満になって、間接的に高血圧を誘導する結果になる。
 4)塩分と刺激物の飲食習慣は、高血圧患者や高血圧を予防する場合には注意しなければならない。
 家庭料理というものは、家庭の味があり、調味料や食塩の量はその家庭によって異なる。毎日の過剰な塩分摂取は、体内の過剰水分貯蔵による血液量増加を起こし、刺激物の飲食は、血管を収縮する等、血圧に直接的な影響を与える。したがって家庭料理により血圧に影響があったとすれば、その家族に高血圧患者が多いのは当然である。このような現象を一般的に遺伝性であると誤認して生活習慣改善の努力を放棄する人が少なくない。これもひとつの家庭の食生活習慣にあたる。
 5)日頃から適度な運動で汗を流し、塩分を排泄する。エネルギーを消費して体の代謝バランスをとる。特に運動後の入浴は気分転換に良いので、生活習慣として最も重要である。
 6)精神的ストレスは高血圧と直接関係がある。焦燥と緊張の継続的ストレスは、交感神経を習慣的に刺激し、高血圧症状を起こす。
 7)苦悶とストレスの解消のためには、家庭の安定が重要であり、心を許せる親友、恋人または尊敬する方との会話を通じて、ストレスを解消する方法も良いと思われる。
 8)日常生活において肯定的思考の生活、趣味生活、宗教生活はストレスを解消する方法として良いことである。社会的、道徳的、精神的不条理は、ストレスの原因になるのでなるべく早く解決して、安定して生活を送ることもストレス解消方法であろう。

参考文献
1.山田幸宏:高血圧高脂血症動脈硬化症.病態Hand Book, pp.106〜322、医学藝術社(2005)
2.谿忠人:高血圧症.現代医療と漢方薬.pp.221〜221、医薬ジャーナル社、大阪(1988)
3.中山三郎平:代謝-metabolism and disease Vol.29.臨時増刊号
(通巻388号、pp.198〜205(1992))
4.谿忠人:全面改訂 現代医療と漢方薬 pp.119〜230 医薬ジャーナル社、大阪(1991)
5.Won-Chul Lee,Cheol−Hwan Won等:The Effect of Woohwangcheongsim−won for Delayed Neuronal Death in OGD J Korean Oriental Med 2002,23(4):pp.125〜139
6.Won−Chul Lee Min−Seod Kim等:The Effect of WHCW on Delayd Neuronal Death in Hypoxin J Korean Oriental Med 2002:23(3):pp.145〜163
7.Seong−Rok Hwang Won-Chul Lee等:The Effet of WHCW on Circulatory Disturbance in Diabetes J Korean oriental Med 2002:23(2):pp.164〜179


関節炎(arthritis)
1.変形性関節症 osteoarthritis(OA)
 変形性関節症は関節に慢性退行性変化と増殖性変化が同時に起こり、関節が変形する疾患で、関節症(炎)または骨関節症(osteoarthrosis)ともいう。変行性関節症一次性関節症と二次性関節症がある。
 一次性関節症は中年以後にみられ、老化現象に加えて関節に力学的ストレスを加えることで発症する。軽度の変行性関節症は75歳以上で80%を超えるほど多くのヒトに見られる。
 二次性変行関節症は若い青年にもみられ、関節の外傷や形態異常、運動器系疾患、代謝異常等、明らかな原因を有するものに続発して生じる。

2.病態
 高齢によって関節液中の酸性ムコ多糖類(mucopolysaccharide)であるヒアルロン酸の濃度が低下すると、関節軟骨がこすれ合う度に磨耗し、その破片(関節鼠と呼ぶ)が滑膜に炎症を引き起こす。変形性関節症(炎)は進行すると骨が露出するようになり、直接摩擦することによって関節の変形と疼痛が起こる。

1)変形性膝関節症
 膝関節が障害された変形性膝関節症では軟骨が磨耗されるため、大腿骨と脛骨が摩擦する際、疼痛が起こる。一次性変形性関節症が多く、高齢者、特に肥満女性に多い。

2)変形性股関節症
 変形性股関節症では関節軟骨の変性磨耗が起こる。二次性変形性関節症が90%以上を占め、トーマステストが陽性になる。
 トーマステストは仰臥位で片足ずつ膝を曲げながら、大腿部前面を胸に近付ける。膝を抱えた時に、もう一方の伸ばしている膝がひとりでに曲がる、すなわち膝が持ち上がれば、股関節屈曲拘縮が示唆される(トーマステスト陽性)。

3)変形性指関節症
 変形性指関節症では遠位指節間関節(Distal Interphalangeal Joint(DIP関節))にヘパーデン結節(Heberdens’node)ができる。屈曲変形、腫脹、疼痛を随伴することがあるが、症状は比較的軽い。ヘパーデン結節は閉経期以後の女性に多い。初期には疼痛があり、発赤を示すことがある。結節は、始めは軟らかいが、慢性になるうちに骨や軟骨が肥厚し、硬い結節になる。硬い結節になると、疼痛は消失する。また、遠位指節間関節は屈曲し、斜指になることが多い。

4)変形性肘関節症
 肘関節は股(大腿骨)関節、膝関節、足関節等の体重がかかる関節(荷重関節ともいう)に比べると、関節軟骨への負担は少ない。しかし、手関節や肩関節に連動して動くため関節軟骨が磨耗して変形性関節症を起こしやすい。したがって振動工具使用者や野球選手等、同じように肘関節を酷使する人達によくみられる。

3.治療
1)変形性膝関節症は炎症が起こり、それにより腫脹、関節液減少といった悪循環が起こるので、優先して炎症を止める必要がある。治療には理学療法としての局所温熱療法、筋肉強化や関節拘縮予防を目的とした運動療法、装具療法、薬物療法等がある。
 薬物療法としては関節液中へのヒアルロン酸の注入と服用、非ステロイド性消炎鎮痛剤投与、ステロイド(Steroid)の関節腔内への注射等がある。機能障害を示す場合は手術療法を行う。
 手術として関節固定術、関節形成術、半月板除去術、骨切除術、人工関節置換術等がある。最近では内視鏡で関節内部をみながら手術する関節鏡視下手術も行われている。

2)変形性膝関節症の局所温熱療法
 関節軟骨の磨耗は急性炎症→腫脹→関節液減少→慢性痛というように進行する。
 急性炎症は冷やすのが有効である。膝に布をあて、その上に氷袋をあて冷やす。炎症は温めると逆効果になる。
 慢性痛症は、炎症は治癒されたが痛みが継続する状態のことで、蒸した布をあてる、または入浴であたたくするのが効果的である。
 薬物療法と漢方療法は関節リウマチの療法を参考にされたい。


4.関節リウマチ rheumatoid arthritis (RA)
 関節リウマチは自己免疫の機序によって起こる慢性関節炎である。
 男女比は1:4で女性に多い。30〜50代の中年層から多く発生し、高齢化するにつれて、動けないほど悪くなる。韓国の全人口の約0.5%、日本の全人口の約0.7%程度と推定されるが、その他にも挙動がよくない老人病がある関係で、確実な統計がないため、患者数はもっと多いと推測される。関節炎は滑膜に対する自己免疫がすべての関節に起こり、多発性、対称性の傾向を現す無菌性炎症である。この無菌性炎症は免疫担当細胞が炎症性サイトカイン(cytokin)(腫瘍壊死因子:tumor necrosis
factor)であるインターロイキンー1(IL−1)を産生し、T細胞が自己組織を障害するために起こる。
 ・免疫担当細胞には好中球、単球(マクロファージ)、好酸球、好塩基球(組織肥満細胞)、ナチュラルキラー(NK)細胞、肥満細胞、樹状細胞がある。
関節炎発症初期には滑膜の炎症だけであるが、進行すれば軟骨、骨の破壊が起こり、関節は変形脱臼し、また骨性剛直によって可動性を失う。特に手指や足趾は変形しやすい。
 関節炎以外には血管炎、心外膜炎、皮下結節、肺線維症等を随伴することもある。血管炎を随伴する型には結節性動脈炎に類似する予後不良の場合があり、悪性関節リウマチ(malignant rheumatoid arthritis)と呼ばれている。

5.症状
 朝起きると、関節を動かすのが苦しく、固い感じがする。このような症状を朝のこわばり(morning stiffness)ともいう。朝のこわばりは診断や治療効果の進展を観察するのに重要な症状である。

6.関節リウマチの診断
 現代医学では各種検査(CRP,血沈、血清γ-グロブリン量)とX線によるRF軟部組織の破壊度の確認、日常生活機能障害度、そしてリウマチ米国学会の診断基準が広く利用されている。1987年改正の基準は、朝のこわばり、多発性対象性関節炎、皮下結節、他の関節X線
 所見等の7項目中、4個項目以上あれば関節リウマチと診断される。

    1987年度改正関節リウマチの診断基準(米国リウマチ学会)
基準項目                  定義
1)朝のこわばり         1時間以上こわばりが持続する
2)3関節以上の関節炎     3個以上の関節に炎症による腫脹
3)手の関節炎          手首、手指のつけ根の関節や第2関節に炎症による腫脹
4)対称性関節炎         対称性に関節炎が発生
5)リウマトイド結節        肘や膝に皮下結節
6)血液リウマトイド因子     正常者では5%以下の陽性率を示す方法で異常値
7)X線上の変化         X線画像で手指関節がRAに典型的な形に変化

 7項目中、4項目以上が陽性であれば関節リウマチと診断され、第1〜第4項目は少なくとも6週以上持続される。関節滑膜への免疫異常により、炎症性サイトカインが異常に放出され、また骨の破壊が起こる。

7.関節リウマチの治療
 関節リウマチの治療では、薬物による内科的治療と、滑膜切除術、関節形成術、関節置換術等の整形外科的手術、温熱療法等の理学療法、運動療法、装具、補助具等によるリハビリテーション治療を、病状、病期によってうまく組み合わせて行う。
 内科的治療ではメトトレキサート、ベニシラミン、金チオリンゴ酸ナトリウム(商品名:シオゾール)等の抗リウマチ薬、ステロイド薬、免疫抑制薬、非ステロイド系抗炎症薬等を使用する。
 
 
          抗リウマチ直接作用薬                   間接作用薬 
 金チオリンゴ酸ナトリウム(商名:シオゾール)    ステロイド薬(プレドニゾロン)
 ペニシラミン(商名:メタルカプターゼ)         免疫抑制薬
 メトトレキサート(商名:リウマトレックス)        タクロリムス(商名:プロトピック)
 シクロスポリン                       アザチオプリン(商名:アザニン、イムラン)
                                 シクロホスファミド(商名:エンドキサン)
 サイトカイン阻害薬                     非ステロイド性炎症薬
 インフリキシマブ(商名:レミケード)           ジクロフェナクナトリウム(商名:ボルタレン)
 エタネルセプト(商名:エンブレル)           インドメタシン(商名:インフリー)
                                 ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン)

8.漢方医学的治療
 漢方製剤は西洋薬剤のステロイド製剤及び合成薬品の副作用を軽減するため、また、補助剤等の併用療法として多く利用される。
 関節リウマチは、経時的に変化する炎症性疾患であるため、漢方の経過弁証により初期の発熱炎症期(陽病期)と慢性期(陰病期)に区分して薬剤を選択するようになる。
 経過弁証:関節の疼痛、運動障害の程度、そして全身症候の病性弁証(寒症と熱症)に対し、初期の『熱症』に対しては、石膏麻黄剤の越婢加朮湯(桂枝二越脾一湯)、慢性期の『寒症』に対しては、附子当帰剤の大防風湯(疎経活血湯、五積散)や牛車腎気丸を段階的に使用するのが原則である。
 体力弁証:体力の余力程度(体力の『虚実』)を考慮して方剤が選択される。
 関節リウマチの管理には麻黄、よく苡仁、当帰、防已、附子等が配合された処方である麻杏よく甘湯、よく苡仁湯、大防風湯、その他に柴胡剤(小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴苓湯)、活血剤の駆お血剤(桂枝茯苓丸、疎経活血湯)、人参湯(補中益帰湯、六君子湯、十全大補湯)や紅参末等も利用されている。

9.併用療法
 最近、合成医薬剤の使用量を減量して副作用軽減するために、合成医薬品と漢方薬製剤を併用して使用する例が増えている。特に日本の場合には医療一元化で西洋医薬と漢方製剤を自由に使用することができるので、その例が多い。韓国においても慶熙大学校属医療院をはじめ大学病院で洋方、漢方合同診療が増えており、良い例をみることができる。

 例1関節炎に多用されているステロイドホルモンを長期間にかけて過量投与すると副作用が起こることはよく知られている。このような副作用を減らすために、ステロイドの化学構造式と、成分の平面化学構造式が類似している甘草を、ステロイドと併用投与すると、ステロイドの量を減量しても効果は増加し、副作用が減少する臨床報告がある。
 ※慶熙医療院 趙教授、斗教授の臨床報告
 例2関節リウマチに漢方製剤療法を、ステロイド剤または非ステロイド剤と一緒に、抗炎症剤(清熱剤)として利用された時から、漢方製剤が併用されてきた。
 よく苡仁湯、、麻杏よく甘湯、防已黄耆湯、桂枝茯苓丸、補中益気湯、柴苓湯、六君子湯、十全大補湯等と西洋薬剤(合成医薬剤)の併用投与に関する報告がある。

参考文献
1.新薬と臨床、30(2).pp.309-316(1981)
2.Current Therapy.3(7),pp.88-94(1985)
3.漢方診療,7(3).pp.88-94(1985)
4.日本東洋医学雑誌,40(2),pp.73-77(1989)
5.現代東洋医学,7(臨増),pp.70-74(1986)
6.漢方診療,7(3).pp.24-29(1988)
7.臨床成人病,18(4),pp.569-572(1988)
8.新薬と臨床,31(9),pp.1555-1557(1982)
9.『現代医療においての漢方製剤』(東洋学術出版社,1986)pp.225-236
10.山田:病態ハンドブック医学芸術者pp.394-405(2005)
11.七川歡次:慢性rheumatoid.代謝,27(6),pp.537-548(1990)
12.谿忠人:現代医療と漢方薬、医薬ジャーナル社.pp.246-260(1991)



骨粗鬆症(osteoporosis,骨多孔症)
 骨粗鬆症は加齢と共に増加し、骨量減少により骨が脆くなって、骨折しやすくなる病態である。骨粗鬆症は女性に圧倒的に多く発生する。特に閉経後に起こる骨量減少により、骨折の危険性が男性より早期に多くなる。したがって骨粗鬆症(骨多孔症)は、認知症と共に女性の老後の『QOL』(quality of life:生活の質)に大きな影響を与える疾患で、老年医学の最大課題とも言える。
 骨は骨の実質と骨髄腔で構成されている。骨の実質は骨の基本となる類骨(骨基質)とリン酸カルシウム等の塩類(骨塩)からなる。これらの全体の絶対量を骨量という。
 ・リン(P)は骨を構築するための素材として不可欠な成分である。
 骨量が減少しいるが、骨の質的変化を伴わない状態を骨粗鬆症(osteoporesis)という。即ち、骨粗鬆症では類骨の量と塩類の量が同じ比率で減少している。また、塩類の量の減少により、骨の強度が減少して骨折しやすい疾患である。
 ・絶対量:類骨の量と塩類の量を合わせて、絶対量という。

1.病態
 骨は絶えず骨吸収(溶解)と骨形成を繰り返している。これを代謝回転(remodeling)という。骨吸収とは、骨に沈着しているカルシウム(Ca)が血液の中に溶け出すことで、骨形成とは骨にカルシウム(Ca)が沈着することを言う。正常な代謝回転は骨吸収と骨形成が平衡を維持していること(coupling)を言う。
 しかし、骨の吸収率と形成率に差異ができると、骨形成率も減少し、骨粗鬆症(骨多孔症)が起こる。原因は加齢による閉経、内分泌性、薬剤性などであるが、遺伝的要因も考えられる。また運動不足、栄養不足、生活習慣等の外的因子の影響も大きい。
 骨粗鬆症はインターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-1(IL-1)、腫瘍壊因子(TNF)等のサイトカイン(cytokine)が関与している。このIL-6、IL-1,TNFは骨吸収(resorption)を行うサイトカインである。これらのサイトカインの産生はエストロゲン(Estrogen)によって抑制される。骨粗鬆症ではエストロゲン(Estrogen Hormone)の分泌率が低下しているため、サイトカイン産生に対する抑制が喪失するため、IL-6,IL-1,TNFの産生が亢進することになる。

2.骨吸収(沈着カルシウム溶解)による骨粗鬆症
1)骨吸収亢進による骨粗鬆症
 閉経後骨粗鬆症(postmenopausal osteoporosis)は、骨代謝(骨吸収)が亢進するために起こるもので、高回転型の骨粗鬆症と呼ばれる。高骨代謝回転型骨粗鬆症、1型骨粗鬆症ともいう。エストロゲンは骨成長因子の感受性を高める役割を持つ。このため、エストロゲンの分泌量が減少すると、骨成長因子の作用が弱くなって骨形成が低下すると同時に、副甲状腺ホルモンに対する反応の亢進が起こる。即ち、エストロゲンの分泌低下により副甲状腺ホルモンを抑制する作用が弱まると、副甲状腺ホルモンの作用が強くなるため、骨吸収(溶解)が亢進する。
 骨形成の低下と骨吸収(uncoupling)の亢進により、骨量が減少して骨粗鬆症が起こる。

2)骨形成低下による骨粗鬆症
 骨粗鬆症で最も頻度の高いものは老人性骨粗鬆症(senil osteoporosis)である。
 加齢に伴い、腎臓での副甲状腺ホルモン(PTH)の反応性が低下すると、骨成長因子の作用が低下する。これが原因となり、骨吸収と骨形成の不平衡を引き起こす。老人性骨粗鬆症(特に高齢女性)は、骨粗鬆症の中で最も高い頻度で起こる。
 骨量は小児期、思春期に増加し、20〜30歳頃に頂点に達する。その後、段々減少し、50〜60歳頃には女性は男性に比べ、閉経後のエストロゲンホルモンの分泌量減少により、骨量が減少する速度が早くなるので、閉経期以後の女性は老人性骨粗鬆症(骨多孔症)が多くなる。

  閉経後の骨粗鬆症
    エストロゲン不足
     ↓      ↓
骨形成因子作用  骨のPTH反応性
  の低下       亢進
   ↓           ↓
骨成長の低下   骨溶解の亢進
      Uncoupling
          ↓
      骨量の低下


  閉経後の骨粗鬆症
       高齢化
    ↓        ↓
骨のPTH反応低下 骨成長因子作用低下
     ↓             ↓
活性VD3生産減少 骨芽細胞の作用低下
     ↓             ↓
腸管Ca呼吸減少   
     ↓
血清Ca値減少
     ↓
PTH分泌量増加
     ↓
骨溶解の増加 骨形成の低下
          ↓
      骨量の減少


3.骨粗鬆症の検査
 骨密度検査は若年者(20〜44歳)の平均骨密度(YAM:young adult mean)を基準にして、その70%未満を骨粗鬆症、70〜80%未満を骨量減少症、80%以上は正常とする。

4.診断法
 骨粗鬆症の診断は、各国ごとの骨粗鬆症の診断基準による。その基準は骨量減少の評価と他の骨疾患との鑑別が基本になっている。
 世界保健機関(WHO)では、脆弱性骨折の既往歴と低骨量を基本とした診断基準を提唱している。

1)X線検査:脊椎老化の骨粗鬆症の鑑別疾患には、変形性脊椎症と脊椎周囲人体硬化症がある。これはX線検査によって鑑別できる。椎骨の側面像で骨萎縮の程度を判定する。

2)骨量測定検査:骨粗鬆症では骨塩量の減少を起こすため、様々な方法により、骨量を定期的に測定している。現在では多くの骨塩定量法が開発されている。

(1)二重エネルギーX線骨密度測定法
 DXA(dual energy X-ray absorptiometry)
 SXA(single energy X ray densitometry)法が使用されている。
(2)単純X線測定法
 MD(micro densitometry)法、CXD(computed X-rayabsorptiometry)法、DIP(digital image processing method)法が開発され、広く利用されている。
(3)最近CTスキャンを利用したQCT(Quantitative computed tomography)法や、超音波によるQUS(Quantitative ultrasound)法も行われている。測定法には各々特性があり、DIP法とCXD法は骨量を定量し、SXA法は骨密度を測定する。

3)血液尿検査
 骨の代謝を把握するための骨代謝マーカー(bone metabolic marker)の測定が可能になった。骨代謝マーカーの測定は簡便で再現性がよく、定量的であるので、今後の臨床で期待されている。

(1)骨吸収(骨からのカルシウムの流出)マーカー
 骨吸収マーカーは、骨の代謝回転状態を高感度で特異的に判定できるので、診断や治療の有力な指標となる。
 尿中カルシウム量の測定は、骨代謝(骨吸収と骨形成)を確認する方法で、その他の尿中無機物(鉄(Fe)、IP(無機リン)、ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、尿素窒素(BUN)量測定は、骨粗鬆症の総合的診断の資料となる。またカルシウムの排泄と加齢、骨粗鬆症との関係性が研究報告によって明らかになった。
























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