婦人科

産婦人科系-1
産婦人科疾患の漢方治療について

 産婦人科領域ではおそらく2つの点から、漢方医療が大切になると考えられる。
 @は女性の生殖器の解剖・生理・局在の面、ならびに日常生活習慣の変化(少産、立位)と関係し、女性の生殖器疾患の増加がみられ、下半身に血のうっ滞(お血)が起こりやすいこと。
 Aには、高齢化社会、また環境の変化の影響、さらには薬剤による高度先進医療などで、免疫能、体力の変化などとも関係した疾患も問題となる。
 したがって産婦人科領域では、@に対する駆お血剤やAに対する体力を補う補剤、さらに特定の疾患に限るなら不定愁訴症候群の更年期障害などへの漢方の利用が有用となると考えられる。これら、方剤は産婦人科疾患の予防医学的側面も有している。

◆お血
概念
 気血水説の血の異常のうちの一つにお血がある。血の流れが滞っている状態をお血という。その治療薬方を駆お血剤という。
 女性にはお血が起こりやすく、とくに下腹部を中心とするお血、すなわち骨盤内うっ血が好発する。その病態は生殖器の血流障害に基づくうっ血性変化からくるものであり、それに附随する精神神経症状の存在が特徴となる。例えば、月経異常(過多、過長月経、月経困難症)、痛覚愁訴(骨盤内不快感、重圧感、下腹部痛、腰痛、性交痛)、帯下痛、直腸膀胱症状(便秘、排尿障害、残尿感)、乳房痛、疲労、倦怠、脱力感などが挙げられる。
 また皮膚のさめはだ(甲錯)、毛細血管拡張(細絡)や粘膜の暗紫色、下腹部〔左側(小腹急結)・右側(回盲部圧痛点)・正中部(臍傍圧痛点)〕の抵抗・圧通がみられる。
 この原因は以下のように理解できる。人類が地上に出現し、四足歩行していたときは、子宮は前腹壁に向かって傾いていたが(前傾・前屈)、やがて立ち上がって歩くようになり、そのときに子宮が後傾・後屈になった。そのため骨盤内血管系からすると非生理的となり、血流障害が生じやすくなったということである。
 とくに子宮静脈系は、子宮側壁で複雑な網状叢をつくって動脈管を包む。これは子宮が妊娠による変化に対応できるような構造をとるためと考えられる。したがって、非妊娠時には子宮周辺の血管は回旋状にたたまれていて、うっ血が起こりやすい状態であるといえる。
 女性生殖器は性ステロイドホルモン、とりわけエストロゲン、さらにプロゲステロンによりその発育をコントロールしている。その血流はエストロゲンにより増加し、プロゲステロンにより減少する。慢性の骨盤内疼痛は排卵後の黄体期に、すなわち、プロゲステロンが分泌されているときに強いことから、プロゲステロンによる血流障害とも関連することが考えられる。
 産婦人科疾患は骨盤内の閉鎖腔に生じ、骨盤内うっ血と、それより発生する症候群を惹起するものが多い。


◆補剤
概念
 とくに補剤は総合すると虚を補うもので、気の異常でも気虚に補気剤(四君子湯を原方)、血の異常でも血虚に対する補血剤(四物湯を原方)が用いられる


産婦人科系-2
冷え性

概念
 西洋医学を基本にする現代医学に「冷え症」の用語はないが、漢方では「冷え」と、それに関連した病態を重視し、多数の処方を使い分けて治療が行われる。「冷え性」は漢方療法の効果がよくみとめられる領域の一つである。
 「冷え」には新陳代謝の低下による全身の「冷え」、胃腸機能の低下に伴う「冷え」以外に、更年期にみられるお血による「冷え」や「冷え」のぼせなどがある。


産婦人科系-3
骨盤内うっ血症候群

概念
 骨盤内うっ血症候群は症状の複合体であり、その病態は生殖器の血流障害に基づくうっ血性変化からくるものであり(お血)、それに附随する精神神経症状の存在が特徴となる。それには、月経異常(過多・過長月経、月経困難症)、痛覚愁訴(骨盤内不快感、重圧感、下腹部痛、腰痛、性交痛)、帯下感、直腸膀胱症状(便秘、排尿障害、頻尿感)、乳房痛、疲労・倦怠・脱力感などが挙げられる。
 この症候群のうちでも下腹部通が最も重要で、続いて腰痛である。
 内診による疼痛や、子宮頸部の可動により起こる疼痛が特徴的な所見である。この内診時の骨盤内疼痛は骨盤内の血管うっ血によると考えられている。このとき膣・子宮頸部は青みがかり、うっ血し、しばしば頸部びらんや分泌過多がみられる。また、しばしば子宮体部は後屈し、軟らかく肥大しているように思われる。


産婦人科系-4
更年期障害

概念
 更年期障害は、西洋医学的解釈では老化現象に伴うものであり、エストロゲン低下〜欠乏が更年期障害の原因となり、事実、エストロゲンを投与すれば、更年期障害の治療・予防はかなりの程度できる。しかし、器質的障害に至ってしまったもの、例えば骨粗鬆症はエストロゲン単独療法でも治療困難である。
 一方、漢方医学的には、更年期障害は閉経期の女性に特有の多種多様ならびに身体的愁訴を伴う疾患とされ、多くの漢方処方は『傷寒雑病論』に基づいていて、その便法が現代では更年期障害に用いられている。
 その当時は、閉経後の女性は少なく、更年期障害も問題にならなかったと思われるが、現在では平均寿命も延び、閉経後30年も生きられ、それだけ、更年期障害ならびにエストロゲン欠乏による器質的障害がみられることになる。幸い、漢方処方の74%に植物エストロゲンを含む甘草が含まれており、漢方薬は基本的には、エストロゲン補充に少なからず役立ってきたと考えられる。


産婦人科系-5
婦人科疾患

◆子宮筋腫
概念
 漢方からみた子宮筋腫の基本的概念は「気滞とお血」である。すなわち、子宮筋腫およびその随伴症状は「七性:喜・怒・憂・思・悲・恐・驚」が侵襲を受けると「気」のうっ滞が起こり、気血が円滑にめぐらなくなり、その結果、血のお滞が生じ、ここにお血と気滞が相まって「ちょうかの病」として現れる。したがって、子宮筋腫の随伴症状は精神的背景に子宮を中心としたお血という機能的変化を病態としているため、そこに漢方療法が有効である可能性が考えられる。


◆子宮内膜症
概念
 子宮内膜症の治療においては、病変の縮小〜消失が基本的な治療目的となり、その結果から通常、問題となる月経困難症と不妊症も治癒されると考えられる。漢方に病変の縮小〜消失を期待することは困難である。
 子宮内膜症による不妊の理由は、大きく解剖学的変化と機能的変化とに分けられるが、解剖学的変化をきたした不妊症に漢方の有効性を求めるのも困難である。
 一方、症状としてとらえた月経困難症や不妊症(機能的部分)を漢方によって治療しうる可能性は残されている。
 そういった理由により、漢方単独療法や西洋医学的療法(内分泌療法)に漢方を併用した補充療法が用いられている。
 漢方療法は、子宮内膜症の月経困難症の軽減で内分泌療法に劣るが、排卵障害を起こさず、投与中も妊娠が可能である。


◆月経困難症
概念
 月経困難症は月経時に、程度の差はあるが、下腹部痛などの苦痛を訴えるものをいい、頭痛、背部痛、気だるさ、吐き気、嘔吐を伴う症状の複合体である。これらの症状を感じる程度は個人差が大きい。
 初経以来みとめられる月経困難症を原発性、初経以来無症状であったものが器質的疾患(骨盤内子宮内膜症、子宮筋腫、Allen-Master症候群)の発現により起こる月経困難症を続発性といい、2つに分類している。
 器質性月経困難症に対して、器質的疾患のない機能性月経困難症が分類され、さらに特殊なものに骨盤内うっ血症候群の一分症である月経困難症もあり、互いにオーバーラップしている。
 器質性月経困難症を起こす場合、局所での病態と全身レベルでの病態との相互関係は明らかでないことが多い。
 この月経困難症の治療には西洋医学的治療がなされてきたが、多くの場合、症状に対して局所病変に対する薬理作用に基づいた治療であるため、困難である場合もある。そこでは全身治療、とくに体質改善などに主眼を置いた漢方に生きる道もあると考えられる。
 漢方では月経に関する異常を月経病と総称し、この月経異常は、外因としての寒暖、湿の病邪、内因としての内傷(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)、房事過多、飲食・労傷(疲労)などによって、五臓六腑(肝・心・脾・肺・腎・胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)と気(気虚、気滞)・血(虚血・お血)、水(躁、湿)との不調をもたらし起こるとされている。
 〔三焦:上焦(咽喉から胸隔、循環器)、中焦(脾胃、消化吸収)、下焦(肝・腎・膀胱・小腸・大腸、分別・排泄)〕
 月経病の一分症に月経困難症があり、月経困難症は痛経、経痛、経行身痛、経行腹痛、血歴痛などとよび、中医学では月経異後諸症とよぶ。月経困難症の原因は、寒湿、肝気うっ結(肝の疏泄失調の一種で、精神的抑うつ・気機の失調・胆汁分泌の失調を示す)、気血不足によるものが多いといわれている。


産婦人科系-6
不妊症

女性側因子と男性側因子、すなわち、排卵障害と乏精子症に対する治療が挙げられる。

◆排卵障害
 概念
 排卵障害に漢方が適応となるのは軽症に対してである。薬効薬理には、西洋医学的解釈がなされている。すなわち、漢方は中枢性に働き、ゴナドトロピン分泌亢進やGnRHに対するゴナドトロピンの反応性の亢進をおこすと考えられる。
 血流循環動態が改善され(駆お血)、その結果、内分泌機能が賦活されることも考えられる。これは脳内で病的状態に抵抗する積極的な生体内防衛機構、つまり自然治癒に基づく力が活発に働いて、脳内で内因性の自己治療物質が生体へ放出される可能性を示している。

◆乏精子症
 概念
 乏精子症は不妊の原因の20〜30%を占め、その治療は困難なものの一つである。
 近年、漢方薬が注目を浴びてきている。十分な薬理作用は解明されていないが、中国の古い漢方医学の歴史的背景により、男性不妊に漢方薬が用いられ、西洋医学的評価が与えられるようになってきた。


産婦人科系-7
産科疾患

 妊娠中の疾患である切迫流早産、妊娠悪阻(小半夏加茯苓湯)、妊娠中毒症、頻度の高い便秘(小建中湯)、痔核(乙字湯)などの症状、乳汁分泌調節などに対する治療薬には、西洋薬のほうが優れている。
 ただ、妊娠中毒症の予防に利水剤、駆お血剤と産褥期の体力改善に補剤とが有用と思われる。
 妊娠そのものによって、プロゲステロンは相対的に過剰に分泌され、骨盤内から発育する妊娠子宮は解剖学的に血液のうっ滞を起こす。これらはお血の原因そのものである。

◆妊娠中毒症
概念
 妊娠初期の子宮傍結合織の静脈血管は怒張する。妊娠そのものによって、プロゲステロンは相対的に過剰に分泌され、さらに骨盤内から発育する妊娠子宮は解剖学的に血液のうっ滞を起こす。これらは、お血の原因そのものであると考えられる。
 妊娠中毒症が発症してくると、主たる産生源である胎盤でのプロスタサイクリン(PGI2:プロスタグランジンI2)産生が減少する。この原因は胎盤血流量の減少による低酸素症である。PGI2は血小板凝集阻止や血管拡張促進などをする。一方では、トロンボキサンA2作用が増強される。トロンボキサンA2は血小板のアラキドン酸代謝物の最終産物で、血小板の凝集と血管攣縮を促進する。さらに胎盤はトロンボキサンA2産生を妊娠中毒症では増加させる。これらの現象は西洋医学的にみたお血の現象でもある。
 妊婦では四つん這いの姿勢や腹這いになって浮く水泳は、お血の解除に貢献すると推測される。一方、四足歩行で行動していた時期とは異なり、直立し行動しはじめてからの時間はそれほど長くなく、順応も十分できていない面があることが、ヒトのみに存在する妊娠中毒症の発症から推測できる。

▼水毒として
 妊娠中毒症は、漢方医学的には症状からとらえられ、水毒の「証」を表すが、病因としては、脾虚(腎腸機能低下)のために水湿が運化されずに停滞したり、もともと腎虚(腰以下の下半身の各種機能低下)で、化気行水つまり水分代謝がうまくいかず発症するとされている。

▼お血として
 立位により、大きく発育してくる妊娠子宮は腹腔内で、周辺を圧迫し、生体の順応が悪いとお血が生じ、その結果、妊娠中毒症になることも考えられる。そのため病態からとらえられるお血の概念から、妊娠中毒症を治療することが妥当な面もあり、当帰芍薬散をはじめとして駆お血剤が予防的〜軽症に有用であろうと考えられる。
 水分の代謝障害、すなわち水毒と血液の循環障害、すなわちお血とは表裏一体をなしているため、水血二毒としてとらえ、治療を行う必要がある。


◆習慣性流産
概念
 習慣性流産の原因の60%は染色体異常による胎児死である。
 抗リン脂質抗体(自己抗体)と関連する習慣性流産(抗リン脂質抗体陽性、活性化部分トロンボプラスチン時間異常)の原因として以下に説明できる。
 リン脂質は細胞膜接着分子として機能する。抗リン脂質抗体は妊娠初期にLanghans細胞(cytotrophoblast)のsyncytium細胞(syncytiotropho-blast)への分化を阻止し、妊娠後期には、脱落膜血管異常、血栓症、胎盤梗塞を起こす。抗リン脂質抗体は胎盤トロンボキサンA2(血管収縮、血栓形成)を増加させ、子宮・胎盤の境界の血栓症を起こす。
 そのほか、血栓症は血小板の凝集、蛋白Cの活性化低下、組織トロンボプラスチン因子の増加、血小板活性化因子合成の増加で起こる。


◆産褥期の体力改善
補剤(体力を補う)に、人参と黄耆を含む補中益気湯、十全大補湯が随証療法に基づかず(虚証としてとらえられる)用いられる。


◆感冒様症候群
妊婦の感冒様症候群には西洋薬剤投与を避ける傾向にあるため、漢方薬を用いる例も多い。とくに、妊婦咳に麦門冬湯が有用である。


◆妊娠の副作用・禁忌
 甘草を含む処方では、甘草成分(グリチルリチンなど)がまれに偽アルドステロン症(浮腫など)をきたすことがある。
 大黄を含む処方〔実証の駆お血剤、柴胡剤(柴苓湯)〕では緩下が強いと子宮収縮を誘発することがある。


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