小児科系-1
小児科疾患の漢方治療について
(とくに服用法と服用量について)


 小児科疾患で経験する疾患の大半はウイルス、細菌による急性期の疾患だが、発熱疾患も含め、かなり漢方治療が有効であることはあまり知られていない。なかでも今回述べているが小児の下痢性の大半は漢方治療でも速やかに改善をみることが多い。しかし、漢方治療は一般に慢性の疾患に適応する。今回各論で述べている各疾患は漢方が得意とする分野である。
 さて、小児の漢方治療を始めるにあたって、最も困る問題は服用の問題である。味の工夫と飲ませ方の工夫が大切だが、乳児はまだほかの味をしらないことが多く、飲ませやすい。エキス剤をつぶしたパウダーを直接口の中につけてミルクや母乳を飲ませる方法が最も一般的である。2歳から4歳にかけては第1反抗期なので、これらの幼児への対応が最も難しい。この時期は母親の熱意に頼るのが最もよいが、これは医師が母親への働きかけを積極的にすることによりほかにない。
 リンゴ、オレンジジュース、ヨーグルト、乳酸菌飲料などと混ぜたり、フルーツゼリーをつくる方法も面白い。医師が幼児を前にして漢方薬を飲む仕草をすることで、乳児がすすんで飲むことも少なくない。
 服用量は一般に成人を1として中学生は1、小学生の高学年は2/3、低学年は1/2、3歳児は1/3、1歳児は1/5〜1/4とする。体重1sあたりエキス剤であれば、0.1〜0.2gの服用方法もある。上記の方法で処方すれば、所期の目的を達成するが、急性期の場合は、規定の1.5〜2倍量を飲ませるか、やや回数を多くして(4〜5回)飲ませることも一つの方法である。


小児科系-2
小児の微症状

[概念]
 小児の微症状は、一般に自律神経の不安定、心身のアンバランス、感染症などをきっかけに発症し、比較的長期間持続することがある。症状としては不定期な微熱、頭痛、腹痛、関節痛、易疲労感、食欲不振、盗汗などがあげられる。
 これらの症状に対しての一般諸検査では、とくに異常所見がみられない。漢方治療はこれらの微症状に対して有効な治療法である。


小児科系-3
虚弱児

[概念]
 虚弱児に対する定義はとくに定まっていないが、一般に過敏性体質の傾向があり、一般の小児に比べて食欲不振、易感染、発熱の反復などを頻繁に繰り返す小児と考えればよい。
 近年、気管支喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患が増える傾向があるが、これらの小児にも虚弱児の傾向がみられることも多く、ネフローゼ症候群などの慢性難治疾患にもこの傾向がある。
 本疾患に対してふだんから漢方治療を併用すると基礎疾患の改善を含めて虚弱傾向が明らかに減少する。


小児科系-4
乗物酔い

[概念]
 ふだんから神経過敏の傾向のある小児にしばしばみられるが、小児の心身の成長、自律神経機能の発達に伴いやがて徐々に改善していく。


小児科系-5
小児の下痢症

[概念]
 小児の下痢は一般にウイルス感染によって起こることが最も多く、次いで細菌感染もしばしばみられる。離乳食開始時期にみられる下痢症はこれといった原因もないのに起こることも多く、食事指導や漢方治療により比較的速やかに改善される。
 学童期から思春期にかけてはしばしば過敏性腸症候群がみられるが、持続下痢型、便秘と下痢を繰り返す型などがある。こういった例は桂枝加芍薬湯や四逆散などによく反応する。
 ウイルス性下痢は漢方治療により、比較的速やかに改善することが多く、従来の止痢剤による便秘などの副作用もない。
 このように小児の下痢症は従来考えられている以上によく奏効することが多い。


小児科系-6
小児の神経症、てんかん

[概念]
 小児の自律神経機能の未発達が起因して起こる症状を一般に小児神経症とよんでいる。いわゆる夜泣き、寝ぼけ、憤怒痙攣(息止め発作)、チックなどは日常よくみられる疾患だが、現在のところ確立された治療法がない。漢方的には肝気の亢ぶりとしてとらえることが多く、この状態を抑制する治療法を選択することによって比較的速やかな治療効果を得ることができる。
 てんかんは明らかに脳波異常を伴う神経疾患で、前者の小児神経症とは病態が異なり治療法も抗けいれん剤が主体となる。漢方療法は抗けいれん剤が無効のとき、 減量療法がうまくいかないときなどに併用療法を試みるとよいが、初期からの併用療法も効果が期待できる。


小児科系-7
小児の気管支喘息、喘息性気管支炎

[概念]
 気管支喘息は自律神経機能のアンバランスが体質的にあり、そこに感染の関与、アレルゲンの摂取、吸入などが加わって発症するのではないかと考えられる。喘息性気管支炎は臨床上前者と鑑別することは大変難しいが、病態としてはアレルギー因子の関与の少ないものと考えられる。いずれも気管支の攣縮による呼吸困難や頑固な咳を伴い、長期間の管理を必要とする疾患である。
 近年各種の治療法が確立し大発作が軽減する傾向にあるが、ふだんから発作を予防する治療法の一つとして漢方療法は大変有効である。小児はアトピー型が多く、次いで感染型が多い。いずれにしてもふだんからの体質改善療法を行うとカゼをひきやすいなどの易感染も少なくなり、周辺効果の向上とあいまって喘息発作の軽減につながることが多い。


小児科系-8
小児の腎疾患

[概念]
 小児の腎疾患では、近年急性腎炎などの急性期の腎疾患がほとんど姿を消している。慢性腎疾患ではIgA腎症をはじめ、膜性腎症やアレルギー性紫斑病から発症した紫斑病性腎炎などがあり、いずれも治療に難渋することが多い。またネフローゼ症候群は大半が微少変化群でステロイド剤に反応するが、再発を頻回に繰り返す例やステロイドの抵抗性のものもあり、しかも長期にわたってステロイドや免疫抑制剤を服用するためにその副作用に悩むことも多い。
 漢方治療はこれらの疾患に対して補助的な役割を果たすことができる。ステロイドとの併用はステロイド増強作用と合わせて副作用の軽減、頻回再発の予防に十分な効果を発揮しうるし、近年話題になっているIgA腎症の増悪因子である咽頭常在菌ヘモフィールスパラインフルエンザの活動に柴胡剤がブレーキをかけることも期待できる。いずれも長期服用が望ましい。


小児科系-9
小児の起立性調節障害

[概念]
 小児の自律神経機能の発達が未熟なために、小児が小学校の高学年や中学校の低学年の年齢に達したとき、朝の低気圧や起立性の低血圧などの循環障害が著明となって朝起きられない症状のほかに、めまい、立ちくらみ、動悸や腹痛、頭痛などの自律神経機能の障害が多くみられるようになる。本症には循環障害を主とする大症状型と頭痛や腹痛などを主とする小症状型がある。
 漢方的にはこれら所見は気虚や水毒としてとらえて、その対応をしている。小児医療では一般に昇圧剤や頭痛薬などを使うが、これらの対症療法に比べれば漢方はより根治療法となりうる。


小児科系-10
夜尿症

[概念]
 夜尿症とは睡眠中尿意で覚醒できないため排尿してしまう現象で、何らかの原因で尿意刺激に反応できない覚醒障害ともいえる。竹谷によればパターンを大きく分けると@生来睡眠が深く、かつ夜間尿回数が多い典型的な夜尿症(夜尿群)、A種々の要因により尿回数が多くなり、夜尿が持続する夜尿症(尿保持群)、そのほかB睡眠が浅く、夜間自覚覚醒するが種々の要因によって起きられなくなって生じる夜尿症(自発覚醒群)、C睡眠、尿回数とも正常に近い夜尿症(正常群)がある。
 @は治療に難渋するが、A、Cは比較的漢方治療に反応する。


小児科系-11
小児の自律神経失調症

[概念]
 小児期の自律神経機能はアンバランスをきたしやすく、わずかのストレスで発症することが多い。具体的な所見として興奮、発熱、頭痛、嘔吐、腹痛などが多い。疾患としては夏季熱、反復性臍疝痛、周期性嘔吐症、習慣性頭痛、過敏性腸症候群などがあげられる。
 これらの疾患をふだんから予防するには漢方治療が大変優れていて効果も十分期待できる。これらの疾患に共通した効果のある生薬は芍薬、甘草で、これらを含む方剤が先述の疾患に適応することが多い。ただ、小児の自律神経失調症と神経症、小児の微症状は症状も病態も大変よく似通っていて、オーバーラップすることも多く、実際の臨床の場で厳重にこれらを鑑別することは難しい。


小児科系-12
小児の肥満

概念
 一般に標準体重の20%をオーバーしたものを肥満と定義している。近年小児の肥満が成人の生活習慣病へと発展する危険性が指摘されているが、現に肥満傾向のある小児は着実に増えている。一般に小児肥満は乳児肥満、幼児肥満、学童肥満に分類されるが、彼らの大半は特定の疾患を除いたもので、遺伝、栄養、運動などの面から肥満へと発展したものと考えられる。
 乳児肥満の多くは解消されることが多いが、幼児肥満から学童肥満、学童肥満から成人肥満へと発展していくことが大変多い。肥満は各種の生活習慣病と密接な関係があり、これを小児期に改善することは生活習慣病のみならずアレルギー疾患などの予防にも役立つ。
 小児肥満の解消のためには、まず食生活なかんずく食事内容を改めて検討しなければならない。漢方の面からみれば肥満は虚実の関係からは実、寒熱の関係からは熱、気血水の面からは血(お血)、水の考え方が大切である。
 しかし、いずれにしても漢方は本症に関していえばあくまでも補助的な治療にすぎない。
 西洋医学の薬物療法では小児肥満に対しては皆無な点から、逆に漢方にその効果が期待されているといえよう。


小児科系-13
 概念
 アトピー因子が存在し、慢性に経過し、特有な広がりをもつ湿疹をアトピー性皮膚炎とよんでいる。乳児では数ヶ月以上、幼児から学童にかけては年余にわたってがんこな湿疹が四肢を中心として広がり、季節や環境によって増悪を繰り返すことが多い。睡眠障害を伴うほどの重症から軽微な湿疹のみの軽症まで幅は広い。
 本性はドライスキンを主体とする疾患で、治療は一般的に外用剤が中心となるが十分な治療とはいえない。抗アレルギー薬も補助的な治療にすぎない。
 漢方はある程度本症の根本的な治療になりうるが、臨床の実際では病態の見分け方が難しい。
 一般に局所の治療を優先し全体の治療との併用により、よりよい効果を期待できる。漢方的には清熱、滋潤の考えを基に治療方針を組み立てていくことが大切である。




外科系-1
外科系疾患の漢方治療について
 
 外科的疾患は外科手術による治療を主な選択とする治療である。外科手術の特徴は、人体にメスを加えて病巣を切除し、あるいは人体の構造を変更して改善をはかる治療法である。その発展は比較的近代のことであり、麻酔法、栄養管理法、治療器械の開発によってめざまし進歩を遂げ、癌に対する拡大手術や臓器移植も行われている。しかし、一方では手術に伴う術後合併症、愁訴の出現もあるため、quality of life(QOL)を考慮した合理的治療の要望は大きな課題となっている。
 漢方は古代中国に起源をもつ経験医学で、その当時には今日のような外科的治療はなく、この病態に漢方治療を導入することは全く新しい分野ともいえる。しかし、漢方の陰陽、虚実、気血水などの調和をはかるという治療の基本理念は、外科手術の侵襲によって起こる全身状態、機能の低下を修復するのに有用な治療法といえるのである。すなわち、術前・術後における全身状態の修復には多くの補剤が用いられ、術後の電解質代謝異常は水毒と考えて利水剤が用いられ、術後のうっ血はお血として駆血剤を、貧血には血虚の補剤を、精神不安、無気力、不眠などについては気剤、補剤を選択して用いられるのである。
 さらに外科的疾患のなかにも、QOLの立場から合理的治療ということで考えるとき、従来外科手術を優先した疾患でも、漢方治療の適応となる疾患があることに注目したい。


外科系-2
術前・術後の異常

概念
 手術を安全に行うには、術前・術後を通して人体諸機能を維持すること、手術侵襲からの速やかな全身状態の回復が望まれる。術前・術後の異常に対する対応としては次のように考えられよう。
▼術前管理
 手術の安全性は局所所見にもよるが、全身状態によるところが大きく、手術に耐えられる諸機能の改善が必須である。近年、栄養管理の進歩は著しく、輸血、輸液、とくに中心静脈栄養法の効果は大きいが、漢方でも、副作用の少ない補剤の併用、精神不安定状態に対する眠剤の併用が望ましい。
▼術後管理
 術後は体力の低下からの速やかな回復のため、輸血、輸液が主となるが、経口食開始後は、補剤の併用が有用である。
▼術後愁訴
 手術侵襲の影響がなくなった時期においても、術後肝炎、貧血、下痢、便秘、頭痛、眩暈、不眠、そのほか多彩な不定愁訴があるものである。随証治之の漢方が期待される分野である。


外科系-3
打撲傷

概念
 鈍的外力を受けた場合に、皮膚は外力に対する抵抗が強いので破れずに、皮下組織、深部組織が損傷されたもので、非開放性損傷ともよばれるものである。
 皮下の浅い打撲傷としては、皮下出血、皮下剥離、皮下気腫がある。皮下出血のなかで少し広がりをもった出血を溢血、腫瘤を形成したものを血腫という。皮下剥離は強い外力で皮膚が広範囲にわたって剥離した状態であり、血液、リンパ液が貯留する。皮下気腫は気道系損傷によって、漏れた空気が皮下に侵入したものである。深部組織の筋肉、血管、神経、さらに骨の損傷も起こることがある。打撲傷は外力の程度によって軽重があるが、いずれも疼痛、出血、浮腫によって損傷部位の機能障害を伴ってくることが多い。
 漢方では、『金匱要略』に「馬墜および一切の筋骨を損じたるを治するの方」として馬墜一方がある。特異な構成であるが、そのなかの大黄、桃仁、甘草は今日でもよく打撲傷に用いられる処方に含まれる生薬である。


外科系-4
熱傷・火傷

概念
 高熱の気体、液体、固体に触れることによる局所の皮膚、粘膜の損傷の総称である。焚き火などの乾熱による損傷を狭い意味で火傷とも称する。受傷後、局所症状としての変化と全身症状としての異常が認められる。
 熱傷は受傷皮膚の深度から、第1度-表皮のみの熱傷(紅斑性)、第2度浅在性-表皮と基底層までの熱傷で、瘢痕を形成しない(水泡性)、第2度深在性-基底層をこえて真皮に達する熱傷で、瘢痕、色素沈着を伴う(壊死性真皮熱傷)、第3度-皮膚全層にわたって損傷され、皮膚再生は困難である(壊死性深部熱傷)に分類される。熱傷の重傷度は熱傷深度と熱傷面積(一般には9の法則)の両因子によって判定されるが、このほかにも熱傷の部位、年齢、合併症の有無などによって重傷度は異なってくる。2度20%以上、3度10%以上の熱傷は重症熱傷に分類され、専門施設での入院加療が必要である。気道熱傷は面積が小さくても重篤である。
 合併症としては、循環血液量減少による急性腎不全、蛋白漏出による栄養障害、創感染に続発する肺血症、ストレスによる胃潰瘍、精神障害、肺水腫などが発生するので、局所創傷の治療とともに全身管理は重要な課題である。
  漢方では、江戸時代の華岡青洲の創製した紫雲膏が外用薬として有名である。一方、熱傷に随伴する精神不安、不眠、動悸、疼痛、のぼせ、乏尿、全身倦怠感、食欲不振などの全身症状に対しては、早期から漢方を併用することにより改善がはかれるので経口摂食の時期から使用したい。


外科系-5
化膿性疾患、下腿潰瘍

概念
 抗生物質の著しい進歩によって、化膿性疾患は大いに減少した。すなわち、抗生物質の感受性試験によって、適切な抗生物質が選択されるようになったからである。一般に皮膚の化膿性疾患は、黄色ブドウ球菌によって発生するもので、せつ、ろう、面疔などがある。せつは毛嚢炎の深部が膿瘍をきたしたものであり、ろうはせつが多数集合した大きな膿瘍である。面疔は顔面にできたせつである。さらに、皮下に膿が限局せた貯留したものを皮下膿瘍、結合組織の化膿性炎症は蜂窩織炎とよばれ、皮下、粘膜下、筋膜下、縦隔、肛門周囲などに発生する。手足の指の化膿は○疽とよばれる。
 これら化膿性疾患に特有な症状は、発赤、腫脹、疼痛、発熱があり、全身的に疲労倦怠感、食欲不振などがみられることである。また、抗生物質の長期投与が行われた場合は、免疫抵抗力の減少がみられ、創傷治癒の遷延が起こる。
 下腿潰瘍は下腿に発生する慢性難治性潰瘍の総称で、下腿の血行状態が不良であることが主因と考えられている。これらの潰瘍は肉芽形成が不良であり、化膿性疾患における創傷治癒の遷延に似ているので、同じように治療される。
 漢方では、同一の病原微生物に感染しても、発症は患者の体力、抵抗力によって大いに異なることから、消炎、排膿作用をはかるとともに、患者の免疫抵抗力を増強させる処方も重要な適応と考えている。


外科系-6
虫垂炎

概念
 虫垂炎は特殊な菌によるものもあるが、一般には腸内細菌による急性化膿炎症である。臨床病理学的病型として、カタル性、蜂窩織炎性、壊疽性、穿孔性に分類され、途中経過で慢性化したものを慢性虫垂炎と称する。近年、抗生物質の進歩によって手術対象は大いに減少したが、カタル性以外は早期手術の適応とされている。その理由として、反復再発する虫垂炎では、根部が瘢痕狭窄をきたして穿孔性になり、虫垂炎性汎発性腹膜炎を起こしやすいためだとしている。しかし、諸般の事情で手術せずに経過し、限局性腹膜炎から虫垂膿瘍を形成しても腸管内に穿孔して自然治癒する例も経験されている。
 漢方では、古くは『金匱要略』に腸ろうの文字があり、今日の虫垂炎に相当するものと思われる。そのなかに、虫垂膿瘍を形成したものはよく苡附子敗○散の適応であり、膿瘍のまだ形成されないものは大黄牡丹皮湯の適応であるとの記載がある。当時すでに病態に応じての処方選択の指示が述べられていることはすばらしい。虫垂炎に対する漢方治療の適応については、手術か漢方か、いずれが安全で後遺症なく治療できるかを、患者の病態に応じて選択すべきと考えている。


外科系-7
イレウス

概念
 いわゆる急性腹症に含まれる疾患で、このなかには緊急手術を要するものが含まれ、診断治療方針を誤ると重篤になりうる疾患である。機械的なイレウスと機能的なイレウスに大別され、機械的なイレウスのなかでも、絞扼性イレウス、腸重積症、ヘルニア嵌頓、腸捻転症などは血行障害をきたすので緊急手術の対象となる。単純性癒着性イレウスと、機能的はイレウスは保存に適切な治療を選択する。イレウスではいずれにしても腸管内容の搬送が障害されるため、腹満、腹痛、嘔気、嘔吐、排ガス、排便の停止などの症状が特徴的である。
 漢方では、腹満のほか腹腸満の文字もみられるが、これは虚証の人にみられる腹満をさす場合が多く、張っているが底力のない虚満ともいうべきものである。これに対して、腹力の充実した腹満は実満というべきで、この虚実の判定が処方の選択にきわめて重要である。実満には大黄、芒硝を含む処方が用いられるが、虚満には山椒、乾姜などの熱薬を含む処方が用いられる。嘔吐などによって水分・電解質の異常をきたしやすいので、輸液による補正を併用することが望ましい。


外科系-8
腫瘍

概念
 腫瘍には良性、悪性の別がある。良性腫瘍では発生組織、臓器による特徴があり、またその腫瘍による出血、圧迫、通過障害、さらに悪性化の危険性がある場合に外科的治療の対象となる。消化管ポリープ、乳腺腫瘍、子宮筋腫なども、治療の適応は随伴症状によって異なるところである。
 一方、悪性腫瘍では進行度のほか発生組織、臓器によって治療法の選択が異なるものの、進行癌では外科的治療、化学療法、放射線療法の併用が一般的である。しかし、これら治療法では、治療後にしばしば合併症、副作用の発生をみる場合が多く、その対策は重要課題である。
 さて、漢方における腫瘍の概念は、『素問』において隔証が今日の食道癌、胃癌に相当するものとして表現され、痼か、ちょう痼、ちょうかは胃癌を含む腹部腫瘍を意味する概念であった。悪性腫瘍に対する漢方の役割は、随伴症状、全身状態の改善および癌の化学療法、放射線療法の副作用(別項にあり)に対する緩和、防止が主なものといえよう。今日、漢方補剤をはじめとするいくつかの処方について、実験的に免疫賦活作用、直接抗腫瘍作用のあることが報告され、漢方の役割は大いに期待されている。


外科系-9
癌の化学療法と放射線療法の福作用、癌患者のターミナルケア

概念
 癌の化学療法と放射線療法の副作用は、共通する面もあるが必ずしも同一には論じられない。癌の化学療法の主な副作用を挙げてみると、@骨髄障害-白血球数減少、血小板数減少、貧血など、A胃腸障害-食欲不振、悪心・嘔吐など、B腎障害-蛋白尿、BUN上昇、血清クレアニチン上昇など、C肝障害-GOT,GPTの上昇など、D肺毒性-肺機能低下から間質性肺炎、肺線維症への進行、E心障害その他が発生する。また、放射線療法に伴う副作用では、@骨髄障害、A胃腸障害、B皮膚障害が主なものである。これらの副作用に対しては、対症療法が主体となり、水分・電解質補給、鎮痛、利尿、整腸剤などが病状に応じて用いられる。
 癌のターミナルケアでは、社会的にもきわめて重要な問題であり、癌の告知のあり方、身体的苦痛の軽減、全身状態の改善をはかる緩和医療を優先すべきであると考えられる。末期癌では随伴する疼痛緩和と経口摂食が最も望まれる対策である。
 漢方では、基本理念である随症治療の立場から、前述の副作用の内容に対応する処方を選択する。病態としては陰虚証になっている場合が多く、一連の補剤が用いられる。最近の研究では、これらの補剤が免疫能を賦活し、生体の防御機能を調節するなど、癌化学療法と放射線療法による体力の低下を回復させることが知られている。


外科系-10
リンパ炎、リンパ節炎、リンパ浮腫

概念
 組織内に細菌が侵入して感染すると、リンパ流を介して炎症が広がっていく。リンパ管炎は赤い線条としてみとめられることがある。炎症は局所のリンパ節にまで進み、リンパ節炎を起こすと発赤、腫脹、疼痛を伴ってくる。多くは溶連菌か黄色ブドウ球菌が多く、炎症を抑えきれないと敗血症に進展することがある。
 

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