膠原病系

膠原病疾患の漢方治療について

膠原病は、1942年Klempererによって提唱された病理形態学的疾患概念にその起原をもつ。現在臨床的には、膠原病は多臓器性の全身性炎症疾患の中で自己免疫病に属する一連の疾患群を指す。その真の原因はいまだ不明といわざるをえないが、免疫学的検査の診断への応用などにより早期診断も比較的容易となり、軽症例も増加しつつある状況となっている。治療においてはステロイド剤、免疫抑制剤、腎透析、腎移植、抗生剤、降圧剤などの導入、使用方法の改良により、生命予後も飛躍的に改善されている。
 無論漢方医学には膠原病という疾患概念はない。しかし漢方医学的理念に基づいた治療方法が膠原病に対して一つの有力な治療手段となりうる。軽症例に対する漢方薬単独治療、重症例に対する併用療法にて良好な経過をたどるものもまれではなく、症例ごとの漢方医学的診断治療方法の慎重な吟味が期待以上の効果をもたらすこともある。
 膠原病に漢方薬治療を試みる場合、一つ一つ病名単位よりはむしろ全身的な漢方医学的状態、ステロイド剤をはじめとする西洋薬治療の状況を考慮した病態把握がより重要となる。すなわち、六病位、気血水、寒熱、陰陽などの基礎理論を見据えた治療が必要である。さらに疾病の本質、より根源的な部分を治療対象と考えた本治法、現在もっとも表面に現われた症状を治療対象としようとする標治法など治療の効率化の手段を縦横に駆使した治療が要求される。


膠原病系-2
シェーグレン症候群

概念
 シェーグレン症候群(Sjogren's syndrome,以下SjS)は、涙腺や唾液腺を中心とする全身の外分泌腺に慢性炎症性変化をきたす自己免疫疾患の一つである。眼乾燥症状や口腔乾燥症状が特徴的症状であり、乾燥性角結膜炎・唾液腺分泌機能低下が認められる。
 Sjogrenの報告以来多数の症例の蓄積があり、1972年にはわが国においても診断基準が発表されているが、いまだその発病原因、病態など解明に至っていない。
 臨床症状としては発熱、多関節炎、レイノー現象、耳下腺腫脹、紅斑などの頻度が高い。臨床検査所見では免疫グロブリンの上昇、リウマトイド因子、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体、抗サイログロブリン抗体、抗マイクロソーム抗体、抗リンパ球抗体などの自己抗体が高頻度に出現する。また種々の臓器病変が知られており、腎尿細管性アシドーシス、悪性リンパ腫の合併、慢性甲状腺炎の合併、薬剤アレルギーなどは比較的高頻度である。およそ半数の症例では慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、混合性結合組織病とのoverlap群である。
 SjSを漢方医学的に考えると羅病期間が短く、腺組織の破壊が軽度の場合、病期は太腸病期から少陰病期までみとめられ、実証、虚証、お血、水毒、気虚、気滞とこれもさまざまである。乾燥症状そのものをみれば、これは、一種の燥証と考えられ滋潤剤とよばれる一群の漢方薬が適応する。進行して腺組織に破壊がすすむとお血、腎虚などの症候が顕著となり八味地黄丸に代表される補腎剤が適応となる場合が多い。SjSを疾患全体として治療の対象にした場合には、漢方医学的な証の精密な診断を必要とする。
 SjSの腎障害など器質的内臓病変の進行が懸念される場合、副腎皮質ステロイド剤が使用される場合がある。このステロイド剤投与時には、効果の増強と副作用防止を目的に柴胡剤が使用される。


膠原病系-3
慢性関節リウマチ

概念
 慢性関節リウマチ(以下RA)は多関節炎を主病変とし、表面的には関節滑膜というきわめて限定された部位の疾患と思われがちであるが、実は全身性の消耗性疾患である。RAの臨床症状は多彩であり、その根底にある全身の免疫異常を見逃してはならない。
 RAに対する西洋医学的な薬物治療として、第一に滑膜炎に起因する関節炎の緩和を目的とした非ステロイド剤系抗炎症薬(NSAID)や高度の疼痛、炎症に対する副腎皮質ステロイド剤などがある。免疫異常という面からはメソトレキセートを代表とする免疫抑制剤のほか、寛解導入剤とよばれる一群の薬剤があり、近年RAの薬物療法中心的存在の位置付けが与えられ、かなり早い段階から使用されるようになってきた。
 一方漢方医学では古来痺証、歴節病などどよばれ、さまざまな治療が試みられている。関節症状が軽度の場合、漢方薬単独にて効果が期待できるが、炎症症状が激しい場合には西洋薬との併用が必要となる。とくに寛解導入剤との併用には、相乗効果と副作用の低減に寄与する組み合わせも、しだいに明らかになりつつある。


膠原病系-4
全身性エリテマトーデス(SLE)

概念
 全身性エリテマトーデス(以下SLE)は、多臓器障害性の代表的な自己免疫性疾患である。SLEの臨床症状として、活動期には発熱、関節痛、皮膚の紅斑、口腔潰瘍、大量の脱毛などの臨床症状のほかに、低補体血症、白血球減少、抗dsDNA抗体高値、赤沈亢進などの免疫血清学的異常が出現することが知られている。
 本疾患の西洋医学的治療方法は、活動期にあると判定されれば、副腎皮質ステロイド剤の大量投与が治療の基軸となっている。さらに症例によっては本剤のパルス療法、cyclophosphamide,azathioprinなどの免疫抑制剤の使用、また血漿交換療法も試みられている。また臨床症状、検査値ともに鎮静化した非活動期、すなわち寛解期には副腎皮質ステロイド剤の少量維持投与が一般的である。
 一方SLEの病態を漢方医学理論に照らしてみると、急性の発病時期の漢方医学理論としては、主に発熱性の失陥に応用される六病位の概念を当てはめるとわかりやすい。この時期は、悪寒、発熱、顔面紅斑などの症状が出現し、明らかに六病位の太腸病期から陽明病期、少陽病期に相当すると考えられる。また、寛解状態からの再燃時にも同様の病態を呈することが多い。


膠原病系-5
混合性結合組織病、強皮症

概念
 強皮症(以下PSS)は皮膚硬化にとどまらず滑膜、筋肉および消化管、肺、心、腎などの内臓諸臓器の線維化と変性を特徴とする。検査所見としては赤沈亢進、CRP陽性、抗核抗体(90%以上)、中でも核小体型、Scl-70(トポイソメラーゼI)抗体などがPSSに比較的特異性が高い。臨床症状として皮膚硬化、レイノー現象が高頻度にみとめられ、多関節炎、食道蠕動運動低下、間質性肺炎、強皮症腎などがあるが、いずれも現在の西洋医学では治療に難渋する場合が多い。
 混合性結合組織病(以下MCTD)は、1972年G,C,Sharpらによって提唱された疾患概念である。全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎などの病態が混在し、血中抗RNP抗体が高値であることを特徴としている。臨床症状としては、とくにレイノー現象、ソーセージ様手指の出現頻度が高いが、ほかの膠原病の症状はほぼこのMCTDでも出現する。西洋医学的治療としては多発性筋炎、全身性エリテマトーデス様の症状に対してはステロイド剤によく反応するが、レイノー現象、強皮症、肺線維症、肺高血圧症は種々の治療に抵抗性であることが多い。
 このような疾患に対しての漢方薬治療の効果はいまだ確定されたものとはいいがたい。確かに漢方薬治療のみによって改善をみとめた報告もあるが、自然経過を否定するに足る臨床成績の集積が待たれるところである。


膠原病系-6
ベーチェット病

概念
 ベーチェット病は口腔粘膜のアフタ性口内炎、皮膚症状、眼のブドウ膜炎、外陰部潰瘍を主たる症状とするが、ほかにも多関節炎、副睾丸炎、回盲部潰瘍に代表される消化管の病変、血管病変、中枢神経病変などをもつ全身性炎症性疾患である。病変部組織では、好中球、リンパ球、形質細胞の浸潤が著明であり、好中球と血小板の機能亢進が知られている。いまだ原因は明らかではないが、遺伝的素因として、HLA-B51の存在が疾患の発病に関与していると考えられている。
 西洋医学的治療法としては、症状発現時には非ステロイド剤系消炎剤やステロイド剤が使用されるが、根本的治療とはなりえない。また、好中球機能亢進に着目して眼発作、陰部潰瘍に対してはコルヒチンに一定の効果がみとめられる。
 ベーチェット病を漢方医学的にみると、『金匱要略』の孤惑の病という病態がその一部の象徴のように読み取れる。孤惑の病とは発熱性疾患であり、精神障害、口腔潰瘍、陰部潰瘍を併せもつ疾患と表現されている。ベーチェット病の特殊病型の一つである神経ベーチェット病に近似した病態をいったものであろうか。


膠原病系-7
膠原病に関連した肺症・腎症

概念
 膠原病自体に由来する肺病変としては、間質性肺炎、肺胞出血、肺高血圧症、胸膜炎、BOOP(bronchiolitis obleterans organizing pneumonia),肺塞栓症、誤嚥性肺炎など多彩であり、生命予後に重大な合併症の一つである。一方、免疫抑制剤、ステロイド剤などの長期にわたる治療に由来する日和見感染、治療薬物に由来する薬物性肺炎も十分考慮されなければならない。いずれも軽症のものから、非常に重篤なものまで存在し、十分量のステロイド剤やほかの治療にても救命しえない場合もある。
 漢方薬治療の対象となるものは初期の間質性肺炎、胸膜炎、誤嚥性肺炎、日和見感染症などである。漢方医学的治療にあたっては、咳嗽の程度、喀痰量、呼吸困難、発熱、発汗状態、消耗状態、さらに全身の漢方医学的証を考慮して方剤を選択する必要がある。
 多くの膠原病では予後を左右する因子として、腎障害がとくに重要である。慢性関節リウマチでは、これに合併するアミロイド腎、抗リウマチ薬で出現する膜性腎症、急速進行性の半月体形成性糸球体腎炎などが知られている。全身性エリテマトーデスではループス腎炎の合併頻度が高く、予後に大きく影響する。強皮症では強皮症腎クリーゼが知られ、一部の抗好中球細胞質抗体(P-ANCA)関連腎症が注目されている。
 漢方治療の対象となる腎障害は、蛋白尿、血尿などの出現初期がよい適応となる。急速進行性の腎障害や高度の腎機能障害に対しては確立されたものはなく、「末病を治す」が重要といえる。漢方治療の実際では口渇、尿量の多少、浮腫などの水毒や口乾、皮膚の枯燥、静脈の怒張などのお血、さらに気虚なども考慮して方剤を選択する。




心療内科系-1
心療内科疾患の漢方治療について

 心身症の病態、つまり心理社会的ストレスによる身体反応を漢方の概念で考えるとき、特に重要なのは五臓では肝の病理、気血水では気の病理であろう。
 急性の心理社会的ストレスによって生じた生体反応のうち、消化管、気管、血管平滑筋のスパスム状態は気滞と考えられ、柴胡、香附子、蘇葉などを含む処方、つまり柴胡剤や、半夏厚朴湯や香蘇散などの理気剤によって治療される。スパスムの結果、疼痛を生じた場合には、柴胡、芍薬、さらに甘草を配合した処方がよく用いられる。不安感により身体症状が修飾される場合は肝のみならず心の病理も考慮に入れなければならないことが多い。
 慢性的な心理社会的ストレスによる生体反応は、患者の普段の体質、体力や準備状態によって異なっているが、2つに大別して考えることができる。1つは熱証を呈するパターンで、もともと疲れ知らずの人がストレス状況下で血圧が上がったり、頭痛がする場合、黄連解毒湯、三黄瀉心湯などの清熱作用のある処方の適応となる。お血を伴いやすく、しばしば駆お血剤が併用される。その一方で、もともと体力がない場合、消耗性疾患が長期間続いた後にストレッサーがかかった場合、あれこれ考え気を使う性格傾向の場合には、ストレス状況下で容易に全身倦怠感、食欲不振を訴えるなど、気虚の状態を呈しやすい。人参、黄耆、甘草などが含まれる四君子湯、六君子湯、補中益気湯などによって治療される。気虚の状態の患者は気逆、水毒(水滞)、寒証を伴いやすい。
 患者の呈しているストレス反応パターンをよく観察し、より適応となる漢方処方を探し出してゆくこと(方証相対)が重要である。
 また、心身症患者は、見方を変えれば、心理的負荷によって身体反応が出現しやすい患者群ともいえる。例えば、誰でも緊張すれば腸管の蠕動運動は亢進し排便回数が増えるが、過敏性腸症候群患者のように、うずくまるほどの腹痛を生じることはない。そのため、患者のいかんを問わず、従来、精神症状の改善を主目的として投与される甘麦大棗湯、加味逍遙散、香蘇散などのなどの漢方製剤が、広く身体症状に対して有効性を発揮することが多い点も、心身症患者の漢方治療を考える際の特徴である。


心療内科系-2
チック

概念
 不特定の筋肉群が不随意的に速い攣縮運動を繰り返す状態をさす。チックの発症、増悪には心理的要因が関与していることが多く、緊張する場面では、実際に出現頻度が高まる。治療は薬物療法(抗不安薬やハロペリドール、ピモジド)と心理療法が併用される。しかしながら、ほとんどの患児は年齢的に負担に感じている心理的要因、葛藤を言語化することが難しい。そのため、患児に対して言葉を介した心理療法を行うことはあまり適切ではなく、チックを意識させることなく、緊張をほぐしていくような働きかけが望ましい。
 患児のなかには見るからに神経質で緊張の強いものもいるが、逆にニコニコして笑みを絶やさず、一体何に困っているのだろうと思わせるものもいる。後者の場合、過剰適傾向が強いことが多く、周囲のものから患児の置かれている状況をよく聞き「何も、そこまで頑張る必要はないんだよ」というメッセージを伝えることで緊張をほぐしていく。養育者が過剰に干渉的であったり、支配的であったりする場合には、養育者の行動変容を促す働きかけも必要になる。
 漢方の概念では、チックは肝の陽気の病的亢進状態と考えられ、それに対して抑制作用をもつ抑肝散を中心とした処方が用いられる。


心療内科系-3
過換気症候群

概念
 過換気症候群は心理的要因の関与することの多い疾患である。過換気発作時には、ペーパーバッグ法や鎮静剤の筋注により対処する。非発作時には、薬物療法として、不安感の強いものに対しては抗不安薬を、抑うつ状態のものに対しては抗うつ薬を投与する。また本疾患は、交換神経β受容体の感受性が亢進していることから、β遮断薬の投与も有効である。また心理療法や自律訓練法を併用することによって、発作頻度の減少が期待できる。転換ヒステリー患者にみられる過換気症候群は難治性であることが多く、心理療法を行うことが必須である。
 漢方製剤では、鎮静作用の強い竜骨、牡蛎を含む処方が中心となる。


心療内科系-4
思春期摂食障害

概念
 摂食障害は、神経性食欲不振症(拒食症)と神経性大食症(過食症)に大別される。神経性食欲不振症は、標準体重の15%以上のやせ、体重増加や肥満に対する強い恐怖、やせていても太っていると思うボディイメージの障害、女性では無月経がみられることが診断基準(DSM-W)として挙げられている。
 過食症は、むちゃ食いが週に2回以上3か月以上みられる、むちゃ食いのとき、食べることを抑制できないという感覚がある、体重増加を防ぐために自己誘発性嘔吐や、下剤や利尿剤を濫用する、などの特徴が挙げられる。拒食症が過食症に転じたり、逆の場合もある。
 拒食症は、放っておけば死に至る病である。治療としては、体重減少が著しい場合には入院治療が原則であり、経管栄養や中心静脈栄養により全身状態を改善した後に、身体療法と心理療法が併用される。体重が回復してくると、体重が増えることに対する強い恐怖感(肥満恐怖)が現れてくるのが普通であり、この点で虚弱体質やうつ状態でみられる食欲不振、やせ状態とは異なっている。



心療内科系-5
神経性胃腸炎

概念
 慢性的に腹痛などの腹部症状を訴えるものの、消化器臓器にその症状の原因となる器質的病変が認められない病態をさす。消化管運動機能異常が病態の中心をなしており、患者の性格、心理社会的ストレスが、発症、症状の持続、遷延化因子として働いていることが多い。non‐ulcer dyspepsia(NUD)、胆道ジスキネジー、過敏性腸症候群がこの概念に含まれる。本症患者の特徴として、@消化管由来の症状のほかにも、頭痛、全身倦怠感などさまざまな全身性の身体症状を訴える、A身体症状のみならず、しばしば抑うつ感、不安感などの精神症状を訴える、B身体症状と精神症状との間には心身相互作用による悪循環(腹痛が生じると不安感が強まり、その不安によって、さらに腹痛の程度、頻度が増す)がみられることがある。したがって、漢方治療にあたっては、病態の主座は裏(消化管)であっても、表裏、寒熱、虚実をよく考えて処方を決定する必要がある。とりわけ、過敏性腸症候群に対する処方選択にあたっては寒熱の見極めは大切である。また心身相互作用による症状の悪循環がみられる場合、患者が不安を感じる場面で、前もって抗コリン剤、抗不安剤、芍薬甘草湯を服用させ、不安を惹起する状況でも腹痛が生じなくなるように、患者に少しずつ自身をつけさせてゆくことが大切である。


心療内科系-6
口腔内異常感症

概念
 口腔に疼痛、灼熱感、乾燥感、知覚過敏、味覚異常、麻痺感、異物感などを訴えるものの、それに見合うだけの身体的病変が認められないものの総称であり、診断は口腔外科、および内科疾患の除外診断によってなされる。治療は、向精神薬の投与と心理療法の併用によってなされるのが一般的である。口腔内異常感症患者は、訴えが執拗で心気的なものが多いが、心気神経症のほかにも、セネストパシー、うつ病に相当するものもみられる。心気的な患者に対しては、癌などの重篤な疾患ではないことを、一貫した姿勢で、辛抱強く、繰り返し説明する必要がある。うつ病患者に対しては、無理に励ましたりせず、支持的に接し、抗うつ薬を投与して経過を観察する。
 本症は漢方の概念では、気の滞り(気鬱、気滞)と考えられ、柴胡剤を中心とした下記の処方を試みてみるとよい。その際、気滞はお血を伴いやすいので、お血の有無を評価しておく必要がある。


心療内科系-7
起立性調節障害

概念
 起立性調節障害(OD)は小児によくみられる自律神経失調である。診断は、表に示した診断基準を満足した場合に、ODと診断する。OD児は、周囲から「根性がない」「ずる休みをしている」などといわれ、傷ついて病院を受診することが多い。そこで両親や学校の先生に対しては、ODという自律神経失調状態であること、しかし治る病気であること、を説明すると同時に、患児に対しては、心因の関与に関する質問を、信頼関係が深まるまでは「学校は楽しい?」「症状さえなければ、学校に行けると思う?」などの最低限のものとし、薬物療法による経過を観察するのが賢明である。
 薬物療法は、起立による血圧低下が顕著で、それに伴って立ちくらみが生じる場合は、西洋薬の昇圧剤(リズミック、メトリジンなど)による治療を優先することが望ましい。ODの診断基準を満たすものの、起立試験では明らかな異常が認められない場合は、漢方処方がより有効である。漢方の概念では、気虚、特に脾胃気虚(消化機能の気虚)が中心をなす病態であり、水滞、気逆の有無、気虚の程度により、漢方処方を使い分ける。薬物療法により体調が改善すれば、当初、病態に関与しているであろうと考えられた心理社会的要因は、おのずから解決することがあり、その場合は、心因に関して詮索する必要はない。しかし、治療抵抗性である場合、症状が改善しても学校に行けない場合には、心療内科ないし精神科に紹介したほうがよいと考えられる。



痛み・ぺインクリニック系-1
痛み・ペインクリニック系疾患の漢方治療について 
 
 痛みはその原因疾患の治療を的確に行うことによって軽減してくる。痛みに対する治療は西洋医学的治療(NSAIDSをはじめとする消炎鎮痛剤、神経ブロック、手術など)の有効性は高いが、原因疾患の治療が容易でなかったり、鎮痛効果が少なかったり、原因不明の痛み、心因性の痛み、加齢による変形のための痛みなどで長期にわたって痛みが持続する場合には、胃腸障害・腎障害・肝障害などの副作用や処置や手術そのものに対する恐怖心や手術の後遺症に対する不安など、治療の選択に苦慮する場合がしばしばある。また痛みは自律神経系、免疫系などへ影響を及ぼすため痛みの治療は大切である。
 老齢人口が増加しているが、高齢患者は多臓器の機能低下に伴い病態が複雑化しているので、副作用の少ない治療の選択を行う必要がある。帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、顔面痛、頭痛、変形性疾患などではとくに漢方治療の併用がQOLの向上のためには有用である。
 鎮痛作用のある処方としては麻黄、附子、当帰、呉茱萸、細辛などがあり、麻黄を含む麻黄剤、附子を含む附子剤、新陳代謝の衰えた場合に賦活させるための人参や黄耆を含む参耆剤、浮腫などのある場合には水分の代謝を改善する利水剤、また血液のうっ滞により循環不全を起こしているような場合には駆お血剤などが使用される。熱症の強い場合には石膏、黄連などが使用される。複雑な病態を十分にみきわめ、証を十分に認識したうえで処方を選択する必要がある。
 また、鍼灸治療は局所ばかりでなく全身状態の改善に効果的で、痛みに対して即効性がある場合も多く、積極的に採用すべき治療法である。


痛み・ペインクリニック系-2
胸痛、背部痛

概念
 胸痛・背部痛は狭心症、心筋梗塞、肺梗塞、気胸、食道炎など胸部に存在する臓器や胸郭組織などの疾患のほかに上腹部に存在する臓器の異常によっても起こる。例えば胃炎、胃潰瘍でも背部痛が起こってくる。どのような部位にどのような条件下で発症するのか、痛みの持続時間や発生頻度などを詳細に把握して、鑑別診断を行う必要がある。心筋梗塞や気胸など疾患によっては西洋医学的治療が最も優先される。
 繰り返される症状や原因がはっきりしない場合などには漢方治療が適応となることも多い。東洋医学的な診断においては、自覚症状を冷えや気のうっ滞や上衝、水毒(水分代謝異常)などとの関連においてその原因を据え治療を行う。


痛み・ペインクリニック系-3
顔面痛、歯痛

概念
 顔面痛・歯痛の原因となる眼、耳・鼻、歯などの器質的疾患の有無の検索は必要であり、明らかな疾患がある場合にはまずそれらの治療を要することはいうまでもない。これらの痛みに対しては消炎鎮痛剤が用いられるが、治療を行ったあとも痛みが持続したり、とくに明らかな器質的疾患が認められず疼痛を訴える場合には漢方薬はよい適応となる。
 そのほか心理的ストレスに関係する舌の痛み、歯や歯肉の痛みなどがあり、時に咀嚼、会話などの障害を生じることも少なくない。咀嚼時などの開口咬合時の顎関節の痛みを訴える顎関節症は精神的ストレスが関与することも多く、漢方薬の適応となる。
 これらの痛みに対しても全身の体力の強弱、筋肉の弾力性やこわばり、食欲、便通、水分の偏在、精神的不安定さなどを考慮して処方を決定する必要がある。対症療法としての処方と全身治療としての処方がある。


痛み・ペインクリニック系-4
頭痛、三叉神経痛

概念
 頭痛:頭痛を主訴とする疾患は脳腫瘍、脳動脈瘤などの脳外科的手術が必要なものと、保存的治療を行う片頭痛、群発頭痛、筋緊張性頭痛などの慢性頭痛がある。頭痛に対しては、頭蓋内や歯眼鼻耳などの疾患についてCT,MRIなどの検査により器質的疾患の有無について検索が必要であり、慢性・亜急性の疾患が存在すればそれらの治療が優先されることはいうまでもない。慢性頭痛に対する保存的治療は主に鎮痛剤、抗痙攣薬、筋肉弛緩薬、安定剤などが使用されるがその治療は難渋することも多い。
 慢性頭痛は長期間の薬剤の投与が必要であり、また薬剤による胃腸障害、不安定感、眠気などの副作用もしばしば出現する。慢性頭痛に対して漢方薬はよい適応となりその治療効果も西洋薬と異なり、単に痛みのコントロールではなく漢方薬の連続服用が原因治療となることも多い。漢方薬はとくに筋緊張性頭痛に効果を発揮しやすい。
 三叉神経痛;三叉神経痛は脳腫瘍・脳動脈瘤、炎症などによる症候性と明らかな病変を伴わない特発性とがある。症候性については原疾患の治療を行うことはいうまでもない。特発性では頭痛や歯痛によって発症することが多く、発作期と緩解期を繰り返し、時に抜歯などを繰り返して行われてしまう場合も多々ある。また歯磨きや洗面などで疼痛発作が誘発される。
 かつて難知性の激しい痛みとして考えられていたが、薬物療法や神経ブロックなどの治療が行われ、また三叉神経根の神経血管減圧術が施行されるようになり治療効果が上がるようになってきた。しかし神経ブロックや内服治療を希望する患者も多い。三叉神経痛に対してカルバマゼピンの有効性はよく知られているが、長期の服用により白血球減少など重篤な副作用もみられ用量の減量が必要であり、また効力の減退もみられる。そのためにも漢方薬の併用は補助療法としての効果を有する。また時に漢方薬によって劇的な効果が発揮される場合もある。
 頭痛や三叉神経痛に対して漢方薬を使用する際には、漢方医学的判断により処方を決定する必要がある。すなわち身体の状態(冷えやすいか、顔色、食欲、便通、体力の有無など)を把握し、水毒、お血、循環不全などの原因を考え処方を決定する。


痛み・ペインクリニック系-5
急性関節痛

概念
 関節痛は関節およびその周囲の組織の障害によって起こる。腫瘍、感染、外傷など局所的疾患による場合、痛風など代謝性疾患による場合、全身的疾患による場合、退行性変化による場合、捻挫や打撲など原因はさまざまである。とくに変形性頸椎症、変形性腰椎症、変形性膝関節症、などは関節痛のなかで頻度の多い疾患で、時に急性関節炎の症状を呈し非ステロイド系抗炎症剤の投与が行われるが、高齢者では胃腸障害など副作用の発現も多く西洋薬との併用や症例によっては漢方治療が優先されることも多い。また捻挫や骨折などの後遺症による関節痛も多くみられる。
 これらの関節痛は日常生活の制限につながりQOLの低下を招く原因ともなり、治療には総合的配慮が必要である。また鍼灸治療の併用も効果的である。


痛み・ペインクリニック系-6
急性神経痛

概念
 痛みといえばまず神経痛がすぐに頭に浮かんでくるほど馴染みが深い。しかし神経痛も原因はさまざまで、明らかな原因を診断できない場合もある。肩から背部にかけての筋肉の緊張が強いため循環不全をきたし上肢に痛みを訴えることもあれば、坐骨神経痛とよばれる臀部から下肢背面に沿った痛みの原因には、腰部脊椎管狭窄症、椎間板ヘルニア、変形性脊椎症などがある。そのほか肋間神経痛、後頭神経痛、舌咽神経痛などがある。
 腫瘍・神経症状を伴う椎間板ヘルニアなど手術を必要とする場合を除いて、ほとんどの神経痛とよばれる症状に対しては保存的治療が行われ、とくに冷えによって増強される痛みや循環障害がからんだ痛みには漢方治療の適応が多い。これらの神経痛に対しては消炎鎮痛剤、安定剤、筋弛緩剤、ビタミン剤などの投与が行われる。また疼痛が激しい場合には神経ブロックも行われる。しかし難治であることも多く、内服治療も長期にわたる場合にはその副作用に考慮する必要がある。そのため副作用の少ない漢方治療は有効な治療法となる。


痛み・ペインクリニック系-7
帯状疱疹後神経痛

概念
 帯状疱疹は癌患者、高齢者などの免疫能の低下や、過労などにより一次的な抵抗力の低下により発症することが多い。その原因は水痘=帯状ヘルペスウイルスによって起こり、一つまたはそれ以上の後根神経節の皮ふの分布に従って、痛みと小水疱を伴う炎症性変化を主体として発症する。帯状疱疹に対する治療としては、硬膜外ブロック、星状神経ブロック、抗ウイルス剤、γ-グロブリン、非ステロイド系消炎鎮痛剤、プロスタグランジンの投与などが行われる。早期からの抗ウイルス剤の投与や神経ブロックは疼痛の軽減とともに治療効果も高い。
 一般に1ヵ月以内には治癒することが多いが、50歳以上とくに60歳以上では皮疹の消退後も高率に後遺症として痛みが長期に残存する。免疫能の低下に対して全身状態の改善を行うこともその治療効果を補助する働きがあり、漢方治療は患者の病態に合わせて処方を選択することができその応用範囲も広い。また鍼灸治療の併用も効果的である。



精神科系-1
精神科疾患の漢方治療について

 ひと口に神経科疾患における漢方治療といっても、大きく分けて三つに分類されると考えられる。
 第一は、漢方薬単独での治療である。軽症の大うつ病エピソードや全般性不安障害(不安神経症)などの比較的軽症の(自殺や他害の恐れのない)精神疾患の症例に対しては、半夏厚朴湯のような気剤、柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤、参耆剤、駆お血剤といった方剤による、向精神薬を用いない漢方薬単独での治療が十分に可能である。
 第二は、向精神薬の作用を補う形での漢方薬併用治療である。精神分裂病や中等症以上の大うつ病エピソードなどの症例に対しては、通常は向精神薬による治療を優先し、漢方薬単独での治療は行わない。しかし、向精神薬のみの治療では完全に取り去ることができない各種症状の治療に漢方薬を併用することにより、その症例のQOLを高めたり、向精神薬の服用量を減量させたりといったことが可能となる。
 第三は、抗パーキンソン薬を含む向精神薬の副作用をもつ症例に対して、漢方薬を併用する方法である。向精神薬の副作用のなかでも重度のものは、休薬や薬剤の変更を余儀なくされるが、軽度の副作用に関しては、漢方薬の併用によって、その副作用を軽減することができる。
 精神科疾患における漢方治療としては、以上のような三通りの方法が考えられる。本書では、主に第一の方法、すなわち精神科疾患における漢方薬単独での治療について説明する。


精神科系-2
不眠

概念
 不眠の治療を行う際には、入眠障害、熟眠障害、早朝覚醒などのタイプに分類して漢方薬剤を選択するとよい。
 入眠障害に対しては、黄連解毒湯や三黄瀉心湯などの黄連剤、抑肝散や抑肝散加陳皮半夏などの抑肝剤、温胆湯類などを用いることが多い。
 熟眠障害に対しては、抑肝散や抑肝散加陳皮半夏などの抑肝剤、帰脾湯や加味帰脾湯などの帰脾湯類、柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤、加味逍遙散、半夏厚朴湯、酸棗仁湯などを用いることが多い。
 また、高齢者などによくみられる早朝覚醒に対しては、八味地黄丸、牛車腎気丸、六味丸などの地黄剤や、釣藤散、加味逍遙散などを用いることが多い。
 漢方薬と催眠鎮静薬の治療における最大の違いは、薬剤の投与時刻である。催眠鎮静薬は、ほとんどが就寝前一回投与であるのに対して、漢方薬を不眠症の治療に用いるときには、分2〜3での投与が原則である。


精神科系-3
うつ、不安

概念
 「うつ」と「不安」は混合して出現することが多いが、気うつや気虚と考えて漢方薬剤を選択するとよい。ただし、中等症以上の大うつ病エピソードなどの症例や、希死念慮などの患者本人の生命にかかわる恐れがある症状をもつ症例に対しては漢方薬のみによる治療はせずに、精神医学を専門としている医師に紹介すべきである。
 具体的には、柴胡桂枝乾姜湯、柴胡桂枝湯、柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤、補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯などの参耆剤、抑肝散加陳皮半夏、加味帰脾湯、加味逍遙散、釣藤散、半夏厚朴湯、香蘇散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、当帰芍薬散、桂枝加竜骨牡蛎湯などを用いる。
 抑肝散加陳皮半夏、加味帰脾湯、加味逍遙散、釣藤散、半夏厚朴湯、香蘇散は“不眠”の項で既述しているので割愛する。


精神科系-4
物忘れ、痴呆

概念
 [物忘れ」は、加齢とともに誰でも経験することであるが、これは病的なものではない。そこで、ここでは「痴呆」に関して述べる。
 痴呆は、血管性痴呆(脳血管障害後遺症)とアルツハイマー型痴呆の2つに大きく分かれるが、血管性痴呆に対しては漢方薬による治療により、痴呆の進行を防止したり、随伴症状を改善させたりすることが可能である。
具体的には、黄連解毒湯、釣藤散、抑肝散、八味地黄丸などを用いる機械が多い。アルツハイマー型痴呆に対しては、現代医学的にも有効な治療法はないが、当帰芍薬散が効果的であったという報告がある。


精神科系-5
せん妄

概念
 せん妄には、身体疾患によるもの、薬物によるもの、術後に起こるものなどがある。治療は、原因の除去(身体疾患の治療、原因薬剤の中止など)や、患者を静かで明るい部屋におくことなどが中心となる(原則として身体抑制はしない)が、薬物療法を必要とすることもある。精神病症状があればハロペリドールをはじめとした抗精神病薬を、鎮静が必要であればベンゾジアゼピン系薬剤をそれぞれ用いることが多い。その際、漢方薬を用いる機会はほとんどないといっても過言ではないが、軽症のせん妄であれば、黄連解毒湯や抑肝散などを用いることができるかもしれない。また、当帰芍薬散はコリン作動性の作用をもつことが知られているため、効果的である可能性はある。しかし著者らは、漢方薬がせん妄の治療薬にはならないと考えている。むしろ、せん妄の治療薬として用いる向精神薬(抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系薬剤)の副作用に対して、漢方薬を用いるべきであると考えている。例えば、便秘に対しては、麻子仁丸、潤腸湯、桂枝加芍薬大黄湯、大黄甘草湯などを用いる。せん妄患者には高齢者が多いので、麻子仁丸や潤腸湯を用いる機会が多いと考えられる。口渇に対しては、白虎加人参湯、五苓散、麦門冬湯、八味地黄丸、人参湯などを用いる。通常は白虎加人参湯、五苓散、麦門冬湯、八味地黄丸、人参湯などを用いる。通常は白虎加人参湯が第一選択となるが、せん妄患者には高齢者が多いので、五苓散や麦門冬湯を用いる機会のほうがむしろ多いであろう。


精神科系-6
神経症

概念
 現在、「精神障害の診断・統計マニュアル第4版(DSM-IV)」には「神経症」という診断名はない。通常、「神経症」という場合は、DSM-IVにおける、全般制不安障害(不安神経症)、気分変調性障害(抑うつ神経症)、パニック障害、強迫性障害(強迫神経症)、恐怖症、身体表現性障害(心気神経症など)、転換性障害や解離性障害(ヒステリー)、離人症性障害(離人神経症)などを指すと考えられる(カッコ内は旧名称)。
 神経症のなかでも、全般性不安障害と気分変調性障害に対しては、抗不安薬や抗うつ薬の服用と精神療法との併用による治療を行うことが多いが、一部の重症例を除けば、漢方薬による治療を行うことができる。具体的には、“うつ・不安”の項で紹介した漢方薬を用いる。
 軽症のパニック障害に対しては、非発作時には半夏厚朴湯や苓桂甘棗湯などの服用と、発作時には抗不安薬の頓服といった組み合わせによって治療できないことはないが、重症例に対しては、症状に応じて抗不安薬、抗うつ薬、β遮断薬などの服用と、精神療法との併用による治療が望ましい。
 強迫性障害や恐怖症に対しては、漢方薬のみでの治療は非常に困難であり、抗不安薬や抗うつ薬の服用と精神療法との併用による治療が望ましい。
 身体表現性障害に対してはあまり有効な治療法がないが、出現している身体症状に応じた漢方薬による治療が効果的であることがある。
 転換性障害や解離性障害に対しては、精神療法を中心とした治療が望ましいが、古くから甘麦大棗湯などの漢方薬を用いて治療してきたことより、場合によっては漢方薬による治療も考慮してよいかもしれない。
 離人症性障害に対しては、有効な治療法がほとんどないが、抗不安薬や抗うつ薬の服用がいくらかは有効であるとされている(精神療法は無効とされる)。漢方薬のみでの治療は、非常に困難であると考えられる。


精神科系-7
てんかん

概念
 てんかんの治療は、抗てんかん薬をもちいるのが原則であり(通常は1種類の抗てんかん薬を用いるが、難治例に対しては複数の抗てんかん薬を用いることがある)、漢方薬のみでの治療は行わない。とくに、てんかん発作には事故を伴う危険性もある(転落など、場合によっては死に至ることもある)ため、必ず抗てんかん薬による治療を行う。漢方薬では、古くより、小柴胡湯合桂枝加芍薬湯や柴胡加竜骨牡蛎湯などを用いた報告が知られているが、上述の理由より難治性のてんかんに対する併用療法に使用する以外は、単独では用いるべきではない。
 むしろ、抗てんかん薬の副作用に対して漢方薬を用いるべきである。例えば、便秘に対しては、大黄甘草湯は実証〜中間証患者の、桂枝加芍薬大黄湯は中間証〜虚証患者の、麻子仁丸や潤腸湯は虚証患者の便秘に対してそれぞれ用いる。口渇に対しては、白虎加人参湯、五苓散、麦門冬湯などを用いる。通常は白虎加人参湯が第一選択薬となるが、白虎加人参湯は「石膏」を多く含んでいるため、明らかに虚証とわかるものには用いないほうが望ましいと思われる。虚証患者の口渇に対しては、五苓散や麦門冬湯を用いる機会が多いと考えられる。薬剤性肝機能障害に対しては、小柴胡湯が最もよく用いられており、その効果は多くのオープンスタディにより証明されている。小柴胡湯は虚証の患者には用いるべきではない。虚証の患者の薬剤性肝機能障害に関しては、柴胡桂枝湯や補中益気湯を用いるべきである。



加齢疾患・在宅医療系-1
加齢疾患・在宅医療系の漢方治療について

▼加齢者の医学的特性
 老化の個体差は大きく、同一年齢の個体であっても医学的な特性が大きく相違するのが高齢者の特徴である。これは主に既往の疾病や生活習慣の相違によると考えられる。
 高齢者は一般的に臓器は萎縮し機能は低下しているが、その程度は各臓器間で一様ではない。生体反応の予備力低下は生理的平衡が乱されることにつながり、高齢者は容易にホメオスターシス障害を起こしやすい。発熱などの体温のわずかな上昇で精神症状を呈したりするのも脳の予備力低下によって理解される。
 薬物使用時に非定型的な症状を発現することも少なくない。高齢者は抑制的作用または刺激的作用を発揮する薬物に過剰に反応するのも特徴であり、漢方薬でも同様の配慮が必要である。
 高齢者の漢方治療にあたっては、「冷え」の存在を常に念頭に置く必要がある。
▼高齢者に対する漢方治療の考え方
 虚弱な高齢者の治療は青壮年の漢方治療の延長とするのではなく、異なる考え方に基づくものととらえるべきである。前段に述べた「冷え」を中心とする病態に対して、桂枝湯類、附子剤などが多く適用される。
▼在宅医療と漢方の役割
 在宅高齢者は多くが寝たきりで、生体の予備力低下はさらに進行している。医療は疾病治療よりも全身管理が主たる目的となり、全身状態の向上に附子剤や補気剤が適用される。
▼高齢者の漢方治療で注意すべき事項
 全身状態を視野においた治療計画を立てることがなにより大切であり、なかでも経口摂取の低下には敏感に対処する必要がある。
 その意味から、麻黄剤、大黄剤、さらに高齢者に汎用される地黄剤の使用なども慎重を期したいものである。


加齢疾患・在宅医療系-2
高齢者のうつ

概念
 高齢者のうつは軽症例から重症まで、さまざまな場合が想定されるが、社会活動から引退しているためか、青壮年期の症状に比してなんらかの身体症状を主訴とする軽症例が多いという印象がある。また脳の老化に伴う知的機能障害や痴呆症状の部分症状としてみられる場合もあり、その点も青壮年期のうつと内容を異にしている。
 定型的な症例は本格的な洋方の治療が必須であるので、ここでは身体症状を主とする軽中等症の症例の漢方治療について述べる。
 うつ状態の存在は、問診の過程において患者の心底の悲哀感が感得され、途中覚醒や早期覚醒などがあって、熟眠感を得られないことなどをもって診断されるものとした。高齢者の一般的内科の外来では、訴えの内容に違いはあっても、これらの要素が共通して見い出されることが多い。
 心底にうつ状態があって身体症状を訴える状態は、漢方医学の用語で、気うつ、心煩、心下悸、奔豚、虚煩、不得眠、煩躁、目眩、腹満(腹脹満)などと表現される病態と近似する内容である。
 漢方処方の解説書には、広い適応をうたっていて、どこまで臨床的に有効であるかが把握しにくい記述が多い。本稿ではその点に留意して実践的に漢方をしぼり込んだ。


加齢疾患・在宅医療系-3
高齢者のカゼ

概念
 カゼというと通常の内科診療では急性上気道炎を指すが、高齢者にあってはやや広い意味にとらえる必要がある。食欲が低下したり、体調が悪いという状態がしばしばカゼとして訴えられたり、理解されたりするからである。典型的な急性上気道炎と、ほかの疾患に由来する症状をカゼ症状と誤解した場合の対応方針は、当然のことに異なってくる。高齢者に多い既往の肺結核が再発した場合や悪性腫瘍関連の呼吸器症状などが問題となろう。
 ここでは、初期の基本的な鑑別を経た急性上気道炎や気管支炎に対する漢方的な治療について述べる。


加齢疾患・在宅医療系-4
高齢者の肺炎

概念
 肺炎は現在でも高齢者の死亡原因の第1を占めている。
 高齢者肺炎は典型的な臨床症状を示さないことが特徴である。発熱も8割弱にみられるにすぎず、代わって食欲不振や全身倦怠感などの全身症状が前景に立つようになるといわれている。
 肺気腫や胸郭変形などのために肺活量が低下し、聴診などの理学所見が評価しにくいことも特徴である。現在の高齢者は、既往に国民病であった結核に罹患したことのある人が多く、さらに診断を困難にしている。
 在宅で寝たきりの高齢者が発熱した場合には、半数以上が肺炎あるいはその周辺疾患として誤りは少ないと思われる。
 原因を大別すれば、細菌感染によるものとインフルエンザウイルスなどによるウイルス性肺炎とに分類される。
 ここでは、原因である病原微生物を適切な抗生物質や抗ウイルス薬を用いて直接排除しながら、漢方薬を補助的に使用して速やかな全身状態の改善をめざす場合を想定して論をすすめる。


加齢疾患・在宅医療系-5
高齢者の高血圧症

概念
 高血圧は高齢者に最も多い疾患である。一般的な正常血圧は、最高血圧140mmHg未満でかつ最低血圧90mmHg未満とされ、最高血圧140〜160mmHg未満でかつ最低血圧90〜95mmHg未満は境界域高血圧といわれている。
 血圧は年齢と密接な関連があり、年齢を考慮した血圧管理が必要とされている。高齢者における適切な血圧がどの程度であるのかは、専門家の間でも統一した見解は得られていないが、先の基準に既往歴や個人の老化度を考慮して個別に決められているのが現実である。
 高齢者は一般的に動脈硬化がある程度進展しているから、中枢神経系に必要な血液を送るためにも、ほかの年齢層に比してやや高めな血圧が必要とされている。
 高齢者の高血圧は収縮期の血圧が上昇する収縮期高血圧に分類され、動脈の壁の硬化により血圧値は変動しやすい特徴がある。患者の示す随伴症状の変化を、直ちに血圧変動に結びつけて理解することは慎重であるべきである。
 西洋医学では高血圧随伴症状を少量の向精神薬で治療することが行われるが、高齢社会の今日、代謝低下によるハングオーバーや蓄積による転倒、骨折の危険が無視できなくなった。この領域に適用を有する漢方薬の活用が望まれる理由である。


加齢疾患・在宅医療系-6
高齢者の糖尿病

概念
 わが国の青壮年者の糖尿病やその予備軍の増加を受けて、高齢者の糖尿病も増加している。高齢化の伸長が著しい今日、糖尿病は高血圧、高脂血症と並んで、動脈硬化を促進する基礎疾患としての重要性を高めている。
 高齢期糖尿病の特徴は自覚症状に乏しく、ほかの急性症の合併でケトアシドーシスや高血糖性昏睡を発して発見されることも少なくない。また予備力の低下のゆえか、経口血糖降下剤やインスリンなどに過剰に反応して、血糖が定まりにくいなどの特徴を有する。
 一般的には高齢者の血糖は下げ過ぎることなく、やや高めを維持するのが安全であるとされている。
 病歴の長い高齢患者では合併症が自覚症状の中心をなす場合が多く、治療もそれらの合併症対策が中心となる。
 漢方治療は血糖管理よりも合併症治療に優れており、長期にわたって安定した管理を可能とする。
 糖尿病は古典医書では消渇などと記載されている。


加齢疾患・在宅医療系-7
骨粗鬆症

概念
 骨粗鬆症は種々の原因によって、骨に含まれるカルシウムの量が減少するものであり、高齢になると程度の差はあっても、ほとんどの例にみとめられる。閉経後の女性は男性に比して急激に骨塩量の低下がみられるとされ、加齢に伴う病態に性差があることが知られている。女性の方が一般的に長寿であることからも、本症の発生率は男性に比して女性に圧倒的に多いとされている。
 骨粗鬆症は加齢とともに増加して骨折や寝たきりの原因となるだけに、今後の高齢社会では重要性を増す疾患である。
 本章の治療には、女性ホルモンをはじめ各種骨代謝改善薬が開発され、臨床応用されている。
 骨代謝および骨粗鬆症に対する漢方薬の効果については、今のところ詳細は明らかではない。骨粗鬆症の主症状が腰痛や背部痛、変形性関節症に伴う疼痛であり、それらに対し漢方薬の有効性は経験的に確認されている。またエストロゲンに骨塩量増加作用がみとめられることから、いわゆる女性らしさを保つような作用の漢方薬は骨粗鬆症治療には有利に働くのではないかという推測もなされている。
 古典的な漢方の考え方では、骨代謝は五臓六腑の腎の機能とされることから、いわゆる補腎剤の適応が考慮される。補腎剤の代表的な漢方である八味地黄丸は老化に起因する多くの病態を改善し、骨粗鬆症の有無にかかわらず腰痛症などに有効なことはよく知られている。
 長寿科学振興財団によれば、西暦2009年には骨粗鬆症の予防薬として漢方薬の応用範囲が確立され、臨床応用されると予測している。


加齢疾患・在宅医療系-8
痴呆

概念
 大友英一によれば、痴呆の定義は必ずしも統一されてはいないが、一定の水準に達した、または一度習得された知的能力の著明な低下であるとされている(大友英一著『老年病診療プラクティス』、1993)。
 老年期痴呆には、原発性、変性性のアルツハイマー型老年痴呆と、脳血管障害に起因する脳血管性痴呆の二つと、これらの混合型とに大別される。わが国では脳血管性痴呆の割合が高いとされていたが、最近ではアルツハイマー型が増加しているという報告がある。
 本症の治療薬は、西洋医学では脳代謝賦活剤や循環改善剤があり一部に有効とされているが、決め手に欠けるのが現状である。
 漢方では、富山医科薬科大学の寺澤捷年らが比較対照試験を行って、釣藤散に痴呆改善効果があることを示した。
 わが国の長寿科学振興財団によれば、西暦2008年には老人性痴呆の予防薬として漢方薬が臨床応用されると予測されている。




漢方治療
糖尿病の合併症予防・治療に漢方薬を駆使
     湯原内科医院院長 湯原淳良


 いまや日本で糖尿病を患う人は700万人を超え、病院で治療を受けている患者さんはその半数にのぼります。とりわけ40歳以上の中高年は、およそ5人に1人が糖尿病と診断されるほど増えています。
 血液中のブドウ糖濃度が高くなる糖尿病の怖さは、ひと言でいうと合併症にあります。糖尿病から網膜症を引き起こし、失明する人は年間3000人にのぼります。腎不全を発症させ、人工透析を受ける糖尿病患者さんは年間一万人にも達するのです。
 岡山県岡山市の湯原内科医院の湯原淳良院長は、国民長ともなった糖尿病に、西洋医学プラス漢方療法で確かな治療効果をあげている医師として広く知られています。とりわけ口の渇きや食欲の亢進など糖尿病特有の症状の抑制や、網膜症や手足のしびれなどの合併症の予防や治療に漢方薬を駆使し、めざましい成果をあげています。
 

口の渇きや食欲を抑え食事療法をスムーズに進める

 ご存じのように糖尿病は、血液中のブドウ糖をエネルギーに変えるインスリンが不足したり、インスリン自体の作用が効きにくくなることから高血糖となる病気です。高血糖になると、口の渇きや食欲の増進、疲労、頻尿など血糖の上昇に伴うさまざまな症状があらわれます。また、血液中に溢れた糖によって細小血管や動脈の血管が冒され、網膜症や腎症、末梢神経障害をはじめ、狭心症や脳卒中、閉塞性動脈硬化症などの合併症を引き起こしてしまいます。
 湯原先生がこうした糖尿病を治療するにあたって漢方を用いる目的は2つあげられます。1つは口の渇きや食欲の増進など高血糖に伴う症状を抑えることです。もう1つは細小血管の損傷による網膜症や腎症、末梢神経障害の進行を抑えることなのです。
「あくまでも糖尿病の治療は、西洋医学が教える食事療法と運動療法が基本です。カロリー制限を軸とした食事療法で血糖を高めないこと、運動療法で血糖を効率よく消費することが2大基軸で、それでも十分にコントロールできないときは薬で血糖値を下げる薬物療法が必要となります。漢方薬を処方する目的は、食事療法をスムーズに進めるための口の渇きや食欲増進などの自覚症状の改善と、糖尿病の「3大合併症」(網膜症、腎症、末梢神経障害)や動脈硬化(脳梗塞や心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症)を予防するところにあるのです」(湯原院長)
 糖尿病の西洋医学的治療と漢方薬の処方を組み合わせた新治療法といえるでしょう。
 漢方では、口の渇きや食欲の増進など高血糖に伴う糖尿病特有の病状を消渇といいます。消渇は、耐え難い口の渇きを覚える上消と、たくさん食べてもなお痩せてしまう中消、さらに舌が赤くなると同時に顔色もどす黒くなる下消の3つに分けられます。消渇は上消から中消、さらに下消へと進行しますが、まさにこれは糖尿病の進行と合致しているのです。
「消渇の中でも口の渇きは白虎加人参湯などの漢方薬がよく効きます。漢方薬で口の渇きがとれるため、糖分の豊富なジュースやコーラなどに手を出さなくなり高血糖の改善に役立つのです。体力がある実証タイプで、かつ暑がりの熱証タイプの人は白虎加人参湯がお勧めです。それほど実証、熱証タイプではないが、体重の減少が著しいタイプは桂枝茯苓丸。さらに体力のない虚証タイプの人は麦門冬湯が、口の渇きに効果的なのです」(湯原院長)
 また、食事療法をスムーズに進めるにあたって大きな役割を果たすのが、食欲を抑える防風通聖散です。
「防風通聖散を食前に服用すると食欲が低下し、カロリーが制限された糖尿病食でもさほどつらくありません」(湯原院長)
 食事療法を実行しようとしても、どうしても食欲を抑えられない患者さんにとって、防風通聖散はなくてはならない漢方薬です。


血流を改善し合併症を予防

 一方、糖尿病の進行が血管を傷めるのは、血液が血管から漏れ出たり、血液の凝固作用が強まって固まりやすくなす微小循環障害は漢方でいうところのお血と非常によく似た症状といえます。というのは、動脈から細小血管、毛細血管を経て身体の末端まで循環する血液が、細小血管や毛細血管のところでうっ血し、有害物質の漏出からあらわれるさまざまな症状の総称が、漢方におけるお血にほからならいからです」(湯原院長)
 西洋医学では、血液中のコレステロールを下げたりするなど血液脂質の改善などで微小循環障害を治療しますが、漢方では、血液を流れやすくする線溶活性を高めると同時に、血液を固まりやすくする凝固作用を低下させることでお血を治療します。つまり、線溶活性と凝固活性の微妙なバランスを維持する漢方薬を処方することで、血流を改善しお血を治すわけです。
 ご存知のように糖尿病性網膜症とは、目の網膜(カメラにたとえればフィルムに相当する部分)にはりめぐらせれている細小血管が詰まって失明にいたる病気です。糖尿病性腎症は、血流を濾過し尿をつくる、腎臓の毛細血管が冒されて腎不全におちいる病気です。さらに末梢神経障害は、原因の1つとして末梢神経に血液を送り込んでいる細小血管の血流障害から生じる麻痺やしびれなどをいいます。いずれも微小血管障害によって細小血管や毛細血管が損傷を受け、漢方でいうところのお血をきたすことによって発症する合併症なのです。
「漢方でお血をとるには、すぐれた駆お血薬が活用できます。患者さんの症状や体力、体質、性別、年齢などの証に合わせた駆お血薬を処方すれば、お血=微小血管障害が改善され、網膜症や腎症、末梢神経障害の進行を阻止できるのです」(湯原院長)
 駆お血薬は桃核承気湯や桂枝茯苓丸、大黄牡丹皮湯、当帰芍薬散、四物湯、加味逍遙散、七物降下湯など十数種類にのぼります。そのなかからもっとも適切な漢方薬を組み合わせて処方することによって、合併症を抑えることが可能となるのです。
 今日、生活習慣病に対しても、身体にやさしい漢方薬が積極的に処方されるようになりました。糖尿病の漢方治療はその最先端として大きな注目を浴びていますが、より多くの患者がその恩恵を受けられるように早く普及してもらいたいものです。



糖尿病性網膜症の進行が抑えられた

 主婦の麻生紀子さんが糖尿病と診断されたのは、1998年、50歳のときでした。空腹時血糖値が243mg/dlに達し、正常域の110mg/dl未満を大きく超えていたからです。
 血糖を抑えるのに食事療法と運動療法だけでは間に合わないので、血糖降下剤とインスリン注射の薬物療法が不可欠と宣告されました。しかし、当初は薬物療法で血糖値が抑えられていたのですが、しだいに上昇し始め、2年後から右目がぼやけたり、歪んで見え始めたのです。病院で検査を受けたところ糖尿病性網膜症の進行と診断され、病巣部をレーザーで焼いて出血を防止する光凝固療法を受けるように勧められました。
 麻生さんはまず右目の光凝固療法を受けたのですが、レーザーを照射したところが黒い斑点となって見えなくなり、周囲も暗くなるなど自覚症状がいっそう悪化してしまいました。そのため、麻生さんはもう一方の左目は、光凝固療法を受けるのを中止し、湯原先生の漢方療法を受けたのです。
「麻生さんには加味逍遙散のエキス剤と、七物降下湯の煎じ薬を処方しました。2年、3年と服用し続けたことによって、左目の網膜の細小血管の血流が改善し、出血も目立って減少していきました。網膜におけるお血が解消し、糖尿病性網膜症の進行を抑えることができたのです」(湯原院長)
 通常、網膜症が進行し前増殖型になると、光凝固療法を行いますが、いわば細小血管の破れ目をレーザーで継ぎはぎして補修するものといえます。漢方薬による治療は、正しい光凝固療法にとってかわるものではなく併用すべきものですが、血液を流れやすくすることで細小血管が破れないようにするため、より目にやさしい治療法といえるでしょう。


手足の痛みやしびれが徐々に改善

 白川和彦さんが糖尿病による末梢神経障害と診断されたのは1995年、69歳のときです。40代のころから尿に糖が出ていると注意されてきたのに、放っておいたツケが一挙にまわってきたのです。
 「手足の先がジンジンと痛んだりしびれたりする」「ときには手足が異常に冷えたりほてったりすることもある」と訴えていました。空腹時の血糖値が常時170mg/dl以上にのぼり、手足の末梢神経に血液を届ける細小血管がボロボロに傷んでしまった当然の結果です。
「白川さんも食事療法と運動療法に加え、血糖降下剤、ついでインスリン注射による薬物療法が行われました。低血糖を起こさないように食事のとり方も工夫されました。そのうえで手足のお血をとるために当初は桂枝茯苓丸を処方し、2ヵ月後に八味地黄丸に変更し服用してもらいました」(湯原院長)
 白川さんの手足の痛みやしびれが改善し始めたのは、漢方薬の服用3ヵ月後からです。最初は痛みが徐々に軽くなり、そのうちにしびれも解消していったのです。そのあとはほとんど症状が消失し、末梢神経障害が悪化する様子はまったく見られません。

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