婦人科


きゅう帰調血飲第一加減について
 一貫堂三大証(解毒症、臓毒症、お血症)の分類は大変分かりやすい考え方である。用いられている五処方(柴胡清肝散、荊芥連翹湯、一貫堂竜胆瀉肝湯、防風通聖散、通導散)も漢方薬局においてはよく利用されている。薬味が多いと効き目が悪いという人もいるが、よく考え工夫された物であり、良い効果を得ている。本日のきゅう帰調血飲第一加減も一貫堂の繁用処方の一つである。

【症例】初診時20歳。色白、中肉中背。主訴は月経痛。学生時代から市販の鎮痛薬を服用していたが、それほど効果がなく婦人科の検診を受けたところ子宮内膜症の徴候がみられ、定期的に検診をして様子によってはホルモン療法でもしましょうと言われた。また痛みが強かったり進行するようであれば摘出手術をした方がよいかもしれないと言われたそうである。相談されて当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、折衝飲などを服用し、腹痛のひどい時には芍薬甘草湯、桂枝加芍薬湯などを兼用した。その内に妊娠して(21歳)男児を出産した。出産後の月経は暫くよかったのであるが、また痛みがきつくなり受診したところ(24歳)、子宮はキレイになっていると言われ桂枝茯苓丸と鎮痛薬を処方された。その後、縁があってまた相談を受けることになった。今回は前回の時とは違い月経期になると不安感、いらいら、焦燥感、こわい夢を見る、冷えを強く感じる、そして月経痛は月経開始直前位から2-3日がピークで太鼓のようにポンポンになって爆発しそうだという。食生活は肥満になるのを恐れ控えめにしているという。そのためか立ちくらみや眩暈が時々起こる。またイロイロ慣れない結婚生活のせいか精神的な疲労もあるようである。月経痛の時期やその他の状態から、肝鬱気滞と血虚症と考えた。治療には活血、利気、補血を兼ねた本方を選択した。3ヶ月以上はしっかりと服用することと、三色をきちんと摂って子育ての体力を作るように勧めた。20日分を1ヵ月位かけてであるが服用し、7カ月余りで廃薬した。
 先日七五三の写真を見せてくれ、今は5歳の子供との会話と自分の趣味や家事を楽しんでおり薬を飲むのを忘れているとのこと。学生時代から頑張り屋であるが食が細いことや神経質であることが気になっていたが、随分落ち着いてきてお母さんらしくなってきた気がする。これは勿論食生活の改善も一因であろうが、本方も少なからず手助けになったと思う。あの太鼓のような腹脹痛がなくなった。そういえば彼女の母親が39歳の出産の後で貧血と産後疲労が激しく、不安感やひどい浮腫を訴えた時に、帰脾湯やきゅう帰調血飲でよくなり感謝されたことを思い出した。その娘さんであることもありその第一加減!が効いたというのも何かの縁かもしれないと思った。きゅう帰調血飲は『万病回春』の産後門にあるきゅう帰補血湯が原方であり、その加減方の第三番目にある処方が第一加減の出典であるといわれている。原方には童便と姜汁を加え熟地黄を除くとあるが、一貫堂の第一加減には地黄と芍薬が入っている(なお芍薬を除いた物もある。)
 松浦薬業(株)のきゅう帰調血飲第一加減は地黄と芍薬の入った21味の処方である。産後の調理薬であるきゅう帰調血飲に比べ活血作用と利気作用が強められている。ある先生は本方は補血薬の四物湯、去寒利湿の苓姜朮甘湯、活血化おの桂枝茯苓丸と折衝飲に、利気薬の烏薬や香附子などを加えたもので、血虚、寒湿、お血、気滞を同時に治療するために工夫されたすぐれものであると言っているが、そのとおりだと思う。


2 きゅう帰調血飲第一加減と不妊症

 きゅう帰調血飲第一加減は、血の道症や産後の諸症状、月経痛などに加え、子宮筋腫や子宮内膜症、不妊症に対しても効果を発揮します。
 不妊の原因には様々ありますが、子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症は不妊症の大きな原因として不妊症関連疾患とも総称されます。
 古くから、これらの疾患のある人は不妊しやすいといわれますが、子宮筋腫の3割程度、子宮内膜症の3〜5割り程度が不妊で、また、不妊に悩む人の約半数に子宮内膜症が認められています。子宮内膜症の一種である子宮腺筋症は、かなり強い月経痛と月経血の量が増える過多月経を伴い、これも不妊の原因となることもあります。
 さらに、ダイエットなどによる卵巣機能不全などがあることに加え、最近は子宮内膜症が若い女性で急増していることや出産の高齢化など、今後ますます不妊で悩む人たちが増えることが予想されます。

お血と不妊
 不妊症患者の多くで循環障害(お血)が認められ、子宮筋腫や子宮内膜症などもお血との関連で据えられることから、不妊症の治療に際してはお血の改善が重要なポイントとなります。それと同時に腎精や気血を補うほか、子宮を温めるなどの漢方治療が併用されます。また、これらはホルモン療法が合わない場合などにも効果的です。
 お血を改善する活血化おは、子宮や卵巣など骨盤内臓器周辺の血流を改善して、不妊の原因となる子宮筋腫や子宮内膜症、癒着などが起こるのを防ぐように作用します。


お血が関連する症状
○下腹や鼠径部に凝りと痛みがあり、生理の前や生理中に痛みが強くなる。
○月経中にレバー状あるいはゼリー状で粘りのある黒褐色の血の塊が混じる。
○顔色や肌の色が悪く、くすみや肌荒れがある。
○唇や舌に紫色の斑(お斑)がある。

きゅう帰調血飲第一加減は、お血・冷え(寒滞)・気滞という“血・寒・気の滞り”を改善するはたらきが特徴であり、上記の症状に加え、イライラしたり精神的に振るわず、顔色が青白く元気のない状態の不妊症などに応用されます。


きゅう帰調血飲第一加減の不妊症における応用例
○基本的には:月経後から排卵までの基礎体温の低い低温相を中心に応用
○排卵のためには:排卵予定日の数日前から約10日ほど集中して応用

 一般に、きゅう帰調血飲第一加減の使用により月経量の増加が認められますが、やがて痛みや血の塊が少なくなり、妊娠しやすい状態になると言われています。また、体調が上向くと肌荒れなどの改善も実感されます。

 なお、妊娠の可能性がある場合、高温期に入った段階で、きゅう帰調血飲第一加減など活血化おの薬は中止します。
 その他、不妊の治療に際しては、排卵と妊娠を維持する体をつくるために、参茸栄衛丸などの腎精・気血を補う処方を中心に、体の状態に合わせた処方を組み合わせて、総合的に行うことが重要です。




マツウラのオリジナル漢方処方  きゅう帰調血飲第一加減

 きゅう帰調血飲第一加減は、虚証における血の道症+お血の処方として、婦人の諸症など適応範囲は広く用いられ、有効かつ便利な処方とされます。
 一貫堂漢方では、お血の認められない婦人病の諸症にはきゅう帰調血飲を用い、きゅう帰調血飲第一加減は産後の血の道症と言われるものを初めとして、婦人お血やお血の痛みなどに用いられています。
【効能・効果】血の道症、産後の体力低下、月経不順
【使用目標(一貫堂漢方)】腹内が一般にブワブワとしてお血膨満で、それでいて腹筋の拘攣をふれないのを特徴とする。下腹部において特にお血を認める。
【適応(一貫堂漢方)】産後の血の道症と言われるものを初めとして、婦人お血による胃腸病、子宮内膜炎、肺結核などに用いる。また、お血による頭痛、耳鳴り、目眩、動悸或は眼病にもこの方で治しうるものがある。
【薬能(中医学)】活血化お、理気、補血、利水
【適応と応用(中医学)】血虚の気滞血おには男女を問わず使用可能で、非常に適応範囲は広い。一般には虚弱者で、軟便傾向を持つ血おを目標に使用する。


きゅう帰調血飲第一加減の来源:“第一加減”という名前は矢数格先生の命名とされ、《万病回春》産後門に収載されるきゅう帰補血湯(きゅう帰調血飲)の処方の後書き部分にある加減法の第三法に地黄と芍薬を加えたものと一致します。

《万病回春》産後門
(きゅう帰補血湯の加減法の第三として)悪露尽きず、胸腹飽悶疼痛、或は腹中に塊あり、悪寒発熱し、悪血有るものは、本方に桃仁、紅花、肉桂、牛膝、枳穀、木香、延胡策、童便、姜汁少々を加え、熟地黄を去る。

※処方の構成と応用の目安
 本方は当帰芍薬散+桂枝茯苓丸+八珍湯の合方から人参と沢瀉を去り、活血化おの益母草、理気の陳皮、香附子、枳実、木香、烏薬を加えたものとみなす事ができ、当帰芍薬散・桂枝茯苓丸・八珍湯の症状を複合した更に血の道症の神経症状が加わったものを目標にします。また、古来「女科の主帥」といわれ疏肝解鬱・調経止痛の働きを示す香附子など理気止痛薬の他、活血化お、利水きょ痰などの生薬が多数配合されており、月経不順や月経前緊張症などの神経障害(血の道症)の抑うつ・憂鬱を伴うお血による痛みなどに応用されます。また、男性でも痔や潰瘍の出血、或は術後などの気血両虚の気滞血おを目安に、幅広い応用が可能です。


※類似処方との鑑別:折衝飲
 折衝飲は、月経不順や月経痛などの腹や腰などが痛むものを目標に用いられます。
 虚証(血虚)で血のめぐりが悪い(血虚血お)状態の痛みには折衝飲を用い、更に血の道症などの精神症状を伴う様な場合には、きゅう帰調血飲第一加減が用いられます。


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