子宮内膜症と不妊との関係
不妊原因の第1位は子宮内膜症
 定期的に夫婦生活があって、避妊をしていないのに2年以上妊娠しない場合を不妊といいます。夫婦10組のうち1組といわれるほど、不妊で悩んでいるカップルは多いようです。不妊が子宮内膜症の大きな症状であり、不妊の治療をきっかけとして子宮内膜症が見つかる場合も多いことは前述しました。実際、不妊症により腹腔鏡検査あるいは手術を行った患者さんの術後診断では、子宮内膜症が第2位の卵管障害の倍にもなるパーセントを占めて第1位になっています。
 ただ、子宮内膜症があると必ず不妊症になるかといえばそうではなく、子宮内膜症があっても妊娠する人はたくさんいます。月経がある女性の10人に1人はいるといわれている子宮内膜症ですから、ほとんど自覚症状もないまま過ごしている人も多いでしょう。不妊の原因の第1位とはいっても、子宮内膜症と不妊の因果関係は、まだはっきりしていないのです。

黄体機能不全
 黄体機能不全になると黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が十分ではなくなるため、高温期が短くなり、着装障害にもつながる。

多嚢胞性卵巣症候群
 卵胞の皮がかたくて、卵子を卵巣の外に排出できない状態。卵巣に多数の小嚢胞が存在する。

高プロラクチン血症
 出産後、乳汁を出す作用があり、排卵を抑える働きを持つ、プロラクチンというホルモンがたくさん分泌されてしまう。

クラミジア感染症
 STD(性感染症)の1つ。放っておくと子宮頚管、子宮、卵管…と炎症が広がっていく。

子宮奇形
 子宮が中で半分に仕切られていたりする形成異常。胎児の時期に性器がうまく形成されずに起こる。

不妊の原因
 不妊の原因となることはさまざまあげられますが、おもな原因は次のようなものです。
排卵障害…良い卵子が育たない、排卵しにくい。黄体機能不全や多嚢胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症など、原因はいろいろ。
卵管障害…卵管が炎症で詰まったり、狭窄になっている。クラミジア感染症による炎症や、子宮内膜症も原因の一つ。
着床障害…受精卵がうまく着床できない。子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮奇形などが原因に。
子宮頸管通過障害・造精機能障害…精子がつくれない、数が少ない、運動性が悪いなど、男性側の原因。
精管通過障害…精子はつくられているのに、外にでてこられないなど、男性側の原因。
機能性不妊…男女どちらにも原因が見当たらない不妊。


なぜ、子宮内膜症で不妊になるの?

さまざまな要因が妊娠のじゃまをする
 不妊と子宮内膜症の因果関係がはっきりしていないように、なぜ、子宮内膜症が不妊の原因になるのかということも、いくつかの説があり、どれも一つの説だけでは子宮内膜症が起こす不妊を説明しきれません。
 様々な要因があり、そのどれか、あるいはいくつかがかかわりあい、妊娠の邪魔をしていると考えられます。

考えられる3つの大きな原因
 子宮内膜症による不妊の原因としていくつか説のある中で、まずあげられるものに、卵巣・卵管の機能障害という物理的な原因があります。卵巣のチョコレート嚢胞やおなかの中の炎症に伴う癒着などのために、卵管の通りが悪くなったり、卵巣での卵胞発育が障害を受けたりしてしまうのです。
 2つ目は免疫異常です。子宮内膜症の人の中には、抗核抗体や抗リン脂質抗体などの、自分自身の組織をやっつけようとする抗体(自己抗体)を持つ人がいて、これが不妊の原因になる場合もあります。
 3つ目は、腹水の影響です。腹膜病変のみの軽症の子宮内膜症でも、腹水のリンパ球の活動や分泌が亢進していて、それによって卵子と精子の受精や、受精卵の発育が障害を受けたりすることが知られています。マクロファージという細胞は活性化すると精子を食べてしまいますが、この細胞が増加したりするのです。
 また、子宮内膜症の人の腹水にはサイトカインといわれる化学物質が多い傾向がみられ、サイトカインはプロスタグランジンの放出を促します。このプロスタグランジンは平滑筋を収縮させる働きがあるため、卵管が強く収縮し、卵管采が卵子をうまくピックアップできないことから不妊になるのではないかといわれているのです。

自己抗体
 血液の中には、ウイルスや細菌、他人の臓器などの異物を認識して拒絶する体を守るための抗体が存在する。ところが、自分の組織も攻撃してしまう異常な抗体がある場合があり、これを自己抗体という。子宮内膜症の患者では、正常な人にくらべて自己抗体の陽性率が高いという報告があり、この自己抗体により受精や着床が妨げられる可能性がある。

プロスタグランジン
 高温期の中ごろから月経時にかけて分泌量が多くなり、月経時の痛みや不快な症状を引き起こす。

黄体化無破裂卵胞
 ふつう、卵胞は成熟すると破裂して卵子が卵巣の外に飛び出すが、子宮内膜症に伴う炎症による癒着で卵胞が破裂できず、中の卵子が飛び出せない状態。卵胞は卵子が中にあるのに黄体化するので、基礎体温は二相性となる。毎月起こるとは限らない。

子宮内膜症から起こる不妊の原因
1 卵巣・卵管の機能障害
1)卵管・卵管の機能障害
 1)卵管・卵巣周囲の癒着
 2)排卵障害  
  ・黄体か無破裂卵胞
  ・卵胞発育障害
2 免疫の異常
 自己抗体の出現

3 腹水の影響
 1)活性化マクロファージの増加
2)サイトカインの産生亢進

病変のある場所で違う不妊への影響
比較的影響が少ない腹膜病変
 全身にできる可能性のある子宮内膜症ですが、できやすい場所が3カ所あることをPART1で説明しました。病変のある場所により、症状が違ったように、不妊への影響のしかたも変わってきます。
 腹膜病変の場合、子宮内膜症としての症状も軽い場合が多く、不妊への影響も少ないようです。不妊症の人に腹腔鏡検査をすると腹膜病変が見つかることもよくありますが、腹膜にできるこの病変と不妊とは直接の因果関係はないと考えられます。
 腹腔鏡検査で腹膜病変が見つかった場合は、電気メスやレーザーで病変部を焼いて治療します。でも、放っておいても自然治癒し、またできては治癒するということを繰り返します。

排卵のじゃまをするチョコレート嚢胞
 卵巣に子宮内膜の組織ができて増殖するのがチョコレート嚢胞。嚢胞が大きくなっていくと卵巣も大きくはれ、排卵のじゃまをします。不妊への影響は最も大きいと考えられ、回復、あるいは腹腔鏡手術でのう胞を取り除けば、4割程度の人が自然妊娠できます。
 また、手術のほかに、膣から入れた針で嚢胞にたまっているドロドロになった血液を吸い取り、そのあとアルコールを注入して内膜組織の再生を防ぐ、アルコール固定療法という方法もあります。
 この方法は体への負担が少なく、おなかに傷が残らないということが大きな長所ですが、両方の卵巣に嚢胞があると、治療に時間がかかってしまうという短所もあります。
 最近では、腹腔鏡手術がどんどん進歩し、数もふえていますが、まだアルコール固定療法も有効な治療法の1つです。たとえば、何度もチョコレート嚢胞を繰り返す場合など、そのたびに手術をするわけにはいかないので、アルコール固定を行います。

性交痛が妊娠のじゃま
ダグラス窩深部病変
 ダグラス窩深部病変は不妊症とは直接関係がないといわれています。まったく自覚症状がない人もいますが、とても強い性交痛がある人もいて、そのような場合、性交自体が苦痛になってしまうことが大きな問題です。
 痛みの解消のために手術で癒着をはがし、病変部を取り除きます。開腹しても見にくく、手術もやりにくい場所のため、腹腔鏡での手術が主流となっています。

子宮腺筋症と不妊
 子宮内膜症とは別の病気として扱われている子宮腺筋症ですが、できた部位や大きさにより、不妊の原因となる受精卵の着床障害を起こすので、治療や手術が必要です。幸いなことに一部分がふくれる局所型が多いので、その場合は手術で病巣を切除します。病巣を切除したあとは、痛みなどの症状もよくなり、妊娠率も上がります。ただ、手術をしても、再発する可能性が高いので、不妊に悩んでいてなおかつ子宮腺筋症の人は、手術から再発までのきかんを不妊治療にあてるといいでしょう。

不妊症の治療と子宮内膜症の治療
 子宮内膜症の治療が不妊症の対症療法になる
 不妊症の治療は通常、排卵誘発と媒精の2つの組み合わせで行われます。
 排卵誘発は排卵誘発剤を使用して複数の卵子を排卵させる方法で、飲み薬(クロミフェン)で行う方法と、hMGの注射を7〜10日間行う方法があります。
 媒精は精子を女性の体内または卵子に導く方法で、性交、人工授精、体外受精、顕微授精などによって行われます。基本的に、妊娠の確立を高めることが不妊の治療法なのです。内膜症という病気の治療ということでなく、不妊という症状に対する対症療法として内膜症を治療するのです。
 でも、不妊の原因が子宮内膜症であれば、手術などにより内膜症を除去することがいちばん根本的な治療になります。これにより、不妊の治療と同時に月経痛などの痛みも改善します。

腹腔鏡検査だけで妊娠する場合も
 場合により、腹腔鏡検査をして子宮内膜症の診断を確定してから、特に内膜症の治療をせずに様子をみる、待機療法を行うこともあります。
 腹腔鏡検査では、検査時のプロセスとして卵管を通したり、最後に生理食塩水で腹腔内の洗浄をしたりします。検査だけでなく、腹膜病変が見つかれば、病変部を焼くような処置もします。
 内膜症の患者さんの場合、卵管が通っていることが多いので、腹腔内の洗浄だけで約2割が妊娠し、その後不妊治療をつづけた場合、検査後1年以内に3割の人が自然に近いかたちで妊娠するというデータもあるのです。

手術後1年以内がゴールデンピリオド
 子宮内膜症を手術により治療する場合、できるかぎり病巣を取り除くので、内膜症の症状はとてもよくなります。また、不妊症の場合、腹腔鏡による手術では、3泊4日と短い期間で治療がすみ、身体への負担も少ないことが大きなメリットです。術前療法としてGnRHアゴニストを投与し、内膜症の症状を改善してから手術することはありますが、薬物のみでの内膜症の治療は時間もかかるため、おすすめしません。
 しかし、いくら手術で病巣を取り除いいても、内膜症は再発の可能性が高いもの。手術後妊娠しやすい時期をゴールデンピリオドといい、手術後1年以内です。ゴールデンピリオドの間に妊娠のための努力をしていきましょう。

人工授精
 採取した精液を、女性の子宮内に直接送り込む方法。

体外受精
 卵巣から卵子を採取して体外で精子と受精させ、、その受精卵を子宮内部に移すもの

顕微授精
 卵生と精子を体外で顕微操作装置を使って人為的に受精させること。

治療プログラムの具体例
 不妊症で子宮内膜症が疑われる場合の具体的な治療プログラムを、次ページの順天堂医院の例でみてみましょう。腹腔鏡手術に重点をおいて、なるべく自然に近い形で妊娠できるようにすることが指針とされています。
 不妊症のスクリーニング検査で内膜症が見つかった場合、タイミング法やAIHで自然な妊娠をめざしたあと腹腔鏡手術を行い、内膜症の病巣の除去を治療の第一選択とします。
 不妊症のスクリーニング検査で内膜症が見つからず、人工授精などの不妊治療を行っても妊娠しなければ、細型腹腔鏡による日帰り腹腔鏡検査を行います。この時点で軽症の腹膜病変が見つかった場合には、細型腹腔鏡下で焼灼後、さらに人工授精を3周期ぐらい行います。
 体外受精や顕微授精などの配偶子操作は、健康保険の適応がなく、経済的、精神的、肉体的にも大きなストレスを伴います。そのため、内膜症に伴う不妊治療は体の負担の少ない腹腔鏡手術による内膜症の病巣の除去がなにより重要ですが、すでに内膜症の手術を受けていたり、高齢だったりするときは速やかな配偶子操作が必要になる場合もあります。

不妊症のスクリーニング検査
 不妊外来で行われる基本的な検査は、尿検査、血液検査、内診、超音波検査です。子宮内膜症の腹膜病変はここまでの検査では見つかりませんが、卵巣のチョコレート嚢胞は超音波検査と内心でわかります。ダグラス窩深部病変は血液検査と内診で見つかることもあります。


不妊症で子宮内膜症の場合の治療チャート
子宮内膜症が見つかる

AIHなど3周期ぐらい
タイミング法やAIHでできるだけ自然な妊娠をめざす。
↓ホルモン療法 手術に備えて薬で病気の進行を止め、炎症の程度を軽くする。
腹腔鏡手術
全身麻酔をしての手術。
数日の入院が必要。

AIHなど3周期ぐらい行う
個々人の状況により、AIHなどの方法で妊娠をめざす。

体外受精など
AIHなどの方法では妊娠しない場合、配偶子操作などを行うこともある。


子宮内膜症が見つからない

AIHなど6周期ぐらい
タイミング法やAIHでできるだけ(人によって)自然な妊娠をめざす。

腹腔鏡検査
細い径の腹腔鏡(径2〜3mm)で腹腔内の状態をチェック。この検査後に約2割が妊娠。
子宮内膜症が見つかる
↓重症 ホルモン療法 手術が必要な炎症や癒着の程度を、手術前に薬で軽くする。
腹腔鏡手術?
検査につかうものより径の太い腹腔鏡(径5〜10mm)で癒着をはがしたり、取り除いたりする。

子宮内膜症が見つかる
↓軽症
検査と同時に治療
腹膜病変は見つかったその場でレーザーで病変日を焼くなどの治療をする

子宮内膜症が見つからない
↓AIHなど3周期ぐらい行う
卵巣のチョコレート嚢胞を手術で取り除いた場合、約4割が自然妊娠というデータも。

子宮内膜症治療体験談
手術後すぐに!
 妊娠しなかったのは私が子宮内膜症、双角子宮、黄体機能不全、高プロラクチン血症で、夫が妻子が少なかったからです。タイミング法を1年近くし、転院。そしてAIH(配偶者間人工授精)を5回、体外受精を2回受けましたが、どれもだめで、腹腔鏡検査を受けました。その結果、子宮内膜症がひどいといわれたのです。治療は約半年間生理を止めることに。
 生理がやってきて、まず、AHIで挑戦。夫と「あと1回体外受精をして、凍結受精卵がなくなったらあきらめよう」なんて話していたときに、なんと様子見のAIHで妊娠することができたのです。

アルコール固定療法は痛みもなく処置も簡単
 子宮内膜症と診断されたのは、少しお休みしていた不妊治療を再開したときのこと。内診、血液検査とMRIで右の卵巣に嚢胞があることが判明。痛みなどの自覚症状がなかったので、ちょっと驚きました。1か月後にアルコール固定という治療を行いました。「卵巣の中にたまっているものが液体ならば問題ないが、もしかたまっていたら悪性腫瘍の可能性もある」と聞いていたので、処置を受けるまでは少し不安でしたが、処置そのものは痛みもなく、先生が話かけたりしてくださったので、リラックスして受けられ、あっという間に終わりました。
 その後約半年ですが、再発もなく、きちんと排卵もあり、特に問題はなさそう。今はタイミング法にトライしているところです。

生理を止めて手術。AIHで妊娠・出産
 生理痛のほか、性交痛、排便痛などがあったので、もしかして……と思ってはいました。5年前に腹腔鏡検査で子宮内膜症と診断され、生理を薬で3〜4カ月止めてから腹腔鏡手術を受けることに。全身麻酔ははじめてだったので、やっぱり不安でした。私の場合、部位はどこか忘れましたが比較的軽い内膜症とのことで、手術は案外簡単に終わったよう。それでも5日間の入院でした。生理が再開してからは以前よりも生理痛が軽くなったみたい。
 手術前に薬で整理を止めていたときは、妊娠を望んで通院しているのに内膜症の治療はその逆だと、かなりあせりを感じました。でも、手術後AIHで無事子どもにも恵まれたので、生理を止めたことにも意味があったと思います。













































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