PMS・PMDD

PMSおよびPMDDのメカニズム ―その診断・鑑別・治療について―


月経関連医学の提案
 女性の思春期の幕開けは二次性徴とともに訪れる初経である。人格発達の重要な時期に一致したこの大きな変化は必ずしも受け入れやすいことではない。ときに性への葛藤を生じ不安が強くなることもある。その象徴として摂食障害、特に拒食症を発症することがある。また閉経は更年期を意味する。この時期にはいわゆる自律神経失調症状を主体とする更年期障害に留まらず、空の巣症候群、うつ病、また認知症に発展することもある。
 この2つの時期に挟まれた数十年にわたって繰り返す月経周期は、生物学的リズム学的に考えると実に強靭なシステムによって実行されているといえる。多くの場合、この強靭なシステムによって女性は心身の健康が守られている。その証拠に、閉経を迎えることによって女性はさまざまな疾患に悩まされる。それまで女性に少なかった循環器疾患、消化器疾患、精神疾患に性差がなくなるか、もしくは男性より多く発症するものもある。
 しかし残念ながら月経周期に関連してさまざまな心身変調をきたすことも事実である。その病態形成には生物学的および社会心理的要因が関わっていることは間違いない。しかし定義や概念の不明確さのため、個々別々に論じられることが多かった。
 精神科領域では月経精神病(いわゆる広義の非定型精神病に含まれる周期性精神病)という古い概念がある。しかし、同じ病態のものがあたかも別々の独立疾患のように報告されたこともあった。そのなかでICD(International Classification of Diseases:国際疾病分類)やDSM(Diagnostic and Statistcal Manual Of Mental Disorders:精神障害の診断・統計マニュアル)による操作的診断法が導入され、短期間の病相期が周期的に出現するような疾患群は診断が困難なため、結果的には排除的に扱われてしまった。そのためなお一層この研究領域に混乱を与えてしまったのである。
 一方、産婦人科学領域では月経前症候群(premenstrual tension syndrome:PMS)、排卵障害および更年期障害などが、内分泌性(視床cal Manual of 下部‐下垂体系)、年齢、出産、運動性、栄養不良などの観点から検討されてきた。しかし女性のほとんどが月経周期に関連して何らかの心身変調を体験していると思われるが、仕方のない問題として扱われ未治療な場合が多いのである。
 こうした流れのなか、その重症度からDSM−Wでは月経前不快気分障害(prememstrual dysphoric disorder:PMDD)の診断基準が提示され、徐々にこの問題が注目されるようになってきた。PMS・PMDDや月経精神病以外にも「月経障害が手がかりとなる心身医学的疾患群」が少なからず存在している。筆者は月経関連疾患を独立した疾患として考えようとしているのではないが、以前より「月経関連医学」として研究対象を整理、分類して明確化することを提案している。そこで月経が病態生理や病状形成にかかわり、心身両面にわたる臨床症状を呈しているものを月経関連症候群(menstruation related syndrome:MRS)とあらためて定義した。これによってさらに月経に関連したまだ未解決な疾患の病態解明と治療法の開発をめざそうと考えている。
 本稿では特に本症候群の臨床的位置づけとその主軸であるPMS・PMDDの診断、病態生理および治療法について概説する。またその延長上に想定できるいわゆる非定型精神病についても付け加える。

 表1 月経関連症候群(menstruation related syndrome:MRS)

  1.初経周辺症候群
  2.思春期周期性精神病
  3.月経前症候群(menstruation related syndrome:MRS)
  4.月経前不快気分障害(prememstrual dysphoric disorder:PMDD)
  5.周期性精神病(月経周期に一致して)
  6.産褥期精神障害
  7.更年期障害
  8.非定型精神病(周期性精神病も含む)
  9.摂食障害
 10.季節性感情障害
 11.その他


月経関連症候群(MRS)の臨床的位置づけ
 本題のPMS・PMDDであるが、この本質を理解するにはまず、MRSの臨床的な位置づけを定義しておく必要がある。まずMRSに属すると考えられる疾患を表1に列挙した。このなかで9〜11は男性例もあるが、その中核群は女性であり、臨床症状と月経が密接に関係しているため取り上げている。これは意外に重要な病因研究に結びつく可能性がある。多くの疾患はその本質的な特徴を抽出された初期にみつかることが多い。しかし研究が進むにつれて、その概念が拡大され、曖昧になってせっかくのサインを失うことが多いのである。その意味では後述する非定型精神病はもともと女性という舞台で発症し、その原因もそこにかくされているのではないかと筆者は考えている。
 さてこれらの疾患群の精神症状に注目すると、全てではないが共通点が多い。それは発症が急激で、意識、情動、精神運動性障害が複雑に絡みあい、一過性および周期性の経過をとることが特徴である。臨床的にはボーッとして動作が鈍くなるものから、睡眠覚醒リズム異常、食行動異常、抑うつ、焦燥、いらいら感、抑えがたい衝動、興奮、多動、躁的気分および幻覚、妄想状態まで多彩な症状として現れる。この精神症状こそ、いわゆる「非定型精神病像」なのである。その精神症状と月経周期に主眼をおいて、MRSを再分類すると表2のようになる。まず全体を非定型精神病像群とした。この分類には多少の解説が必要となる。

1.月経関連症候群:MRS(狭義)
1)PMS・PMDDはこの症候群の主軸である。本稿の中心でもあるので、その臨床症状と治療法をまとめて後述する。
2)(前)思春期周期性精神病は思春期前後に発症する非定型精神病像を示す周期的精神病である。
3)周期性精神病(月経周期に一致して)の病像の特徴は典型的な非定型精神病像を示す。これは表2の2の1)にある周期性精神病と 2分しているのは周期性の全てが月経周期に一致しているわけではないので、両項目に表記している。
4)産褥期精神障害の精神症状は、非定型精神病像の典型例としてあげられている。
5)更年期障害は自律神経失調症状と精神症状及びさまざまな身体症状が発現する。
6)その他の摂食障害、季節性感情障害などがある。季節性感情障害はもともとPMSを持つ若い女性に多いとされた。その中核群は月  経障害を持つ女性である。また、両側卵巣摘出後や自然閉経後にみられる精神症状も月経関連の病因が予測される。

 表2  非定型精神病像群の分類からみた月経関連症候群(MRS)の位置づけ

  1.月経関連症候群  (狭義)
     1)PMS・PMDD
     2)(前)思春期周期性精神病
     3)周期性精神病(月経周期に一致して)
     4)産褥期精神病
     5)更年期障害
     6)その他(摂食障害)
  2.非定型精神病
     1)周期性精神病
     2)急性一過性精神病性障害
     3)統合失調感情障害
     4)屑篭的カテゴリー
  3.器質性精神病

2.非定型精神病
 非定型精神病はわが国でその概念が発達した。女性特有の疾患ではないが、そのほとんど(男性の約7〜8倍)が女性で、また月経前症候群や内分泌疾患を合併することが注目されてきた。そのため長い間の神経内分泌学的研究が行われた。その結果、間脳‐視床下部系の脆弱性の存在が指摘された。表1で本疾患を広義の意味でMRSに入れているのはこのためである。しかし非定型精神病像という症状学レベルでは男性例でも存在することがわかってきた。そのため中核群から周辺症例を含む広義の診断名として使用されるようになった。男性例が存在する以上、MRSに分類できないので、別枠で従来診断の非定型精神病の項目を設定した。
 その下位分類としては、よりMRSに近い@周期性精神病、DSMやICDで本疾患に相当すると考えられる、A急性一過性精神性障害、B統合失調感情障害、また特定不能であるが非定型病像を示すものをC屑篭的カテゴリーとした。実際このような病像を示す疾患群にとって操作的診断は適切ではない。その点、従来診断の非定型精神病は症状学と病相性に診断の基準をおいているため、臨床診断により合致し有用と思われる。

3.器質性精神病
 症状精神病や脳器質性精神病に伴う精神症状は主に非定型精神病像を示すことが特徴である。

 以上が非定型精神病像群からみた月経関連症候群の臨床的な位置づけである。この分類も完全ではなく異論も多いと思われるが、従来診断と操作的診断法を基礎にして、より臨床的で現実に即した分類になるようめざした。しかし今後さらにEBMに基づいて検討し、修正を加えていくつもりである。
 このようなMRSの基本概念を理解したうえで、本題のPMS・PMDDをとらえることは重要である。前述のようにこの疾患群は臨床的には大きな苦痛と障害を生じているにも関わらず、曖昧なアプローチしかされず、今日に至っている。筆者は臨床的にMRSを非定型精神病像の観点から長く観察してきた。その結果、PMS・PMDDと非定型精神病の関連は遺伝子レベルでの共通因子を持っているのではないかと考えるに至った。まだ病態解明や特異的な治療のない現在、重要な観点であると考えている。


月経前症候群・月経前不快気分障害(PMS・PMDD)について
1.PMS・PMDDの歴史
 1931年にFrankがPMSを提唱してから、1987年DSMV‐Rによって黄体後期の不機嫌障害(Late luteal phase dysphoric syndrome:LLPDD)として特定不能の精神障害の1つとしてはじめて診断基準が呈示された。それを受けて1994年DSM‐Wでは月経前不快気分障害(PMDD)として、またICD‐10は月経前症候群(PMS)として扱われている。

2.PMSとPMDDの相違点
 月経のある女性の約50‐70%にみられるというPMSは乳房痛、腰痛などの各種疼痛、むくみ、体重増加など身体症状が中心で、それに軽度のうつ状態、イライラ感、睡眠障害などがある。それに対してPMDDはPMSの約2‐8%に認められる重症型と考えられる。症状は身体症状に精神症状を合わせ持った形となる。その特徴的な症状は、著明な抑うつ感、不安感、情緒不安定、集中困難、食行動変化、睡眠障害(過眠)、各種疼痛などで、最も重要な症状として抑えがたい易怒性(制御不能感)である。また行動面の障害として仕事を含む社会活動、人間関係などに、うつ病に匹敵する大きな支障をきたす。

3.PMDDの病態生理
 PMDDに関する内分泌学的研究は長いが、結局のところ「ホルモン調節異常」の明確な証拠はない。この事実は意外と知られていない。多くの臨床家が月経関連ホルモンの測定に走る。症例によっては排卵困難症を合併していることがある。黄体ホルモン(LH)や卵胞ホルモン(FSH)の分泌異常やエスエストロゲン、プロゲステロンの分泌障害などを呈することがる。しかしPMDDに共通する内分泌異常は存在しないのである。
 Schmitらは、正常な性腺ステロイドホルモンの分泌に対する異常反応、たとえば神経伝達物質や受容体の過敏反応に問題があると報告している。そのなかでセロトニン作動性神経系の異常は以前より有力な仮説であった。その理由として以下のことがあげられる。
1)セロトニンはPMDDの主症状であるイライラ感、易怒性、抑うつ気分や食欲(過食)、睡眠(過眠)に対して抑制的に作用している。
2)PMDDに対するセロトニン機能異常の研究では、血小板セロトニン再取り込みの低下や血小板セロトニン含有量が低下しているとされている。
3)セロトニン作動性薬が有効であることは、それまでの仮説を臨床的に証明した。@各種選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)での治験で有意に改善している、Aセロトニンアゴニストで改善、Bセロトニンアンタゴニスト(metergoline)で効果が消失するなど相次ぐ報告があった。
 以上よりPMDDはセロトニン機能が性腺ステロイドホルモンをtigger(引き金)にして機能異常を呈し、結果として気分、身体、行動障害を引き起こしていると考えられる。

4.PMDDの治療
 PMDDに対する治療を簡単に説明すると、その骨子は排卵を抑制するか、SSRIsを使用するかということになる。その概要を表3にまとめた。

表3  PMDDの治療法

1.向精神薬
1)選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)
2)三還系抗うつ薬(TCA)
3)抗不安剤(アルプラゾラム)
4)5HT1aアゴニスト(ブスピロン)

2.排卵抑制薬
1)ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)類似物質
2)抗ゴナドトロピン剤
3)エストロゲン・プロゲストロン

3.その他の薬物
1)ブロモクリプチン
2)フェンフルラミン
3)カルシウム
4)ビタミンB6

4.薬物療法以外
1)認知行動療法
2)集団支持療法
3)有酸素運動
4)食事療法
5)高照度光療法



1)向精神薬
 @各種抗うつ薬の有効性
 SSRIs(シタロプラム、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、フルポキサミン)と三還系ではあるがセロトニン作動性のクロミプラミンはプラセーボより有意に有効であり、その他の非セロトニン作動性薬との比較でも有意な有効性を認められている。その治療効果には幾つかの特徴がある。まず即効性があること、投与して次の予測された病相に対して速やかに効果が発現する。低用量でも有用であること、精神症状のみならず身体症状にも有用であること、SSRIsを中断すると症状が再燃する、また間歇投与でも有用であるなどがあげられる。しかし、最近この投与法に問題が起きてきた。SSRIsの中断で離脱症状が出現することがわかったからである。その症状の特徴は、めまい、浮遊感など平衡感覚障害と電撃様の知覚障害である。また投与初期にアクチベーション・シンドローム(acivation syndrome)と呼ばれる不安、焦燥感、衝動感などPMDDの症状と区別が困難な症状が出現することもわかってきた。当初副作用の少ない抗うつ薬として臨床に導入されたが、やはり専門医のもとで慎重に投与されることが望ましい。
 A抗不安薬
 アルプラゾラムや5HT1aアゴニストのブスピロン(本邦ではタンドスピロンしかない。他は治験はされていない。)では特にいらいら感に対して有効とされている。

2)排卵抑制法
 PMDDのTriggerである排卵を抑制することで治療効果を得ようとするものである。その種類は豊富で、GnRHアンタゴニストでは、リュウプロライド、ゴセレリン、ナフレリンがあり、そのほか抗ゴナドトロピン作用を持つダナゾール、また経口避妊薬としてエストロゲン/プロゲステロン製剤がある。しかしこれらの臨床効果は期待されたほどではなく、その結果は一定ではないが、無効、悪化するという報告もある。

3)その他の薬物
 セロトニン作動性のフェンフラミンの有用性は、SSRIsの有用性から予測はつくが、ドーパミン作動性のブロモクリプチンは排卵に関してはむしろ促進的である。排卵調節では相反する方法が有効である可能性があるが、一般には精神病性の症状が出現する、周期性精神病には排卵抑制が有効な用である。いずれにしても排卵の促進と抑制法が症例によって違って作用することは、この類似した疾患群のなかでも複雑な病態生理があることをうかがわせている。またその他カルシウムやビタミンB6、加味逍遥散、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸などが有用であるとされている。

4)薬物療法以外の治療
 社会心理療法として、認知行動療法、集団支持療法、有酸素運動や糖質を多く含む食事療法などがある。また筆者は高照度光療法の有効性を1例であるが経験した。その要点は黄体期に照射すべきであり、卵胞期に照射すると排卵には抑制的に作用すると考えられた。

まとめ
 月経周期と関連して発現する心身両面にわたるさまざまな障害は、軽度な場合はあきらめて治療の現場には現れない。なかには重症でも月経随伴症状であることから治療されないことも多いのが現状である。もちろんその病像が精神病性の色彩を帯びたときは、治療が開始される。しかしその場合、従来の薬物療法に抵抗したり、最終手段と思われがちな、排卵抑制法を用いても無効であったりするのである。また生物学的背景には予想に反して特異的な性腺ホルモンの異常は存在しないこともこの分野の病因研究に立ちはだかる大きな壁となっている。結局治療法の展開も限界があるのである。
 SSRIsの導入は大きな期待をもたらせた。しかし多くの治験結果と同等の有効性の存在には疑問がある。その理由はやはりPMS・PMDDの診断にあると思う。PMSと自覚している女性の一部は、月経前という心理的に刷り込まれた時期に心因反応的に情緒不安定になっていることがある。また黄体期以外にも精神状態を呈していて、それが月経前に悪化する場合もある。これらはPMS・PMDDから除外されなければならない。中核群の抽出はまだまだ困難である。PMS・PMDDの研究はそれだけに焦点をあわせると発展が見込めない。本稿で提案した月経関連医学、月経関連症候群全体から広くアプローチしていく必要があると考えている。
 最後にその観点から前述した非定型精神病との関連を、図1に示したので理解を深めていただきたいと思う。過去の研究からこれらの疾患群の生物学的背景に「視床下部-下垂体系の脆弱性という曖昧なひょうげんでこの分野の研究が減衰してしまった感がある。筆者らはあらためてこれら中核群に焦点を当てて、その病態生理や治療法について研究を進めていきたいと考えている。






図1  症状スペクトラムからみたPMS・PMDDの位置づけと概念の基本構造


                             初経周辺症候群
                                    ↓
                             前思春期周期性精神病
 月経関連症候群(MRS)               ↓      ↓

 月経前症候k群(PMS)                  ⇔  (月経精神病)
                                      思春期周期性精神病
                                        ↓
月経前気分不快障害(PMDD)              ⇔  周期性精神病(月経周期に一致して)
                                        ↓         ↓
                                              周期性精神病⇔気分障害
                                      非定型精神病







   はじめに
 思春期、性成熟期、更年期という女性のライフサイクルにおいて、生活環境や社会環境などの変化のみならず、ホルモン環境は刻々と変化している。多くの女性には月経に伴い憂うつ感や情緒不安定、不眠、眠気、記憶力の減退、下腹部痛、便秘、下痢、悪心、頭痛、めまい、心悸亢進、浮腫、体重増加、発汗促進、乳房痛などの精神身体症状が認められる。
 月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)は黄体期に反復して出現する身体並びに精神症状を特徴とする症候群で、月経発来とともに減退ないし消失する。これらの症状の軽重はあるものの有経女性の20〜50%に認められるとされる。しかし、多くの女性が経験することや間欠的な症状であることから疾患としての認識を低下させ、受診するまでに至らないケースが多いと想定される。
 近年では、DSM-W(「アメリカ精神医学会」による精神疾患の分類と診断のマニュアルと基準)においてPMSのうち精神症状が強い症例を月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder;PMDD)としてうつ病性障害に含め、PMS患者のうち3〜5%がPMDDであると指摘されている。PMDDは症状やその重症度によりPMSとは明らかに区別できるが、本邦ではPMSとPMDDがいまだ混同されているのが現状であり、PMSに関する報告は多く散見されるもののPMDDに関する報告は少ない。
 本稿ではPMSとPMDDに対する鍼灸治療の症例と鍼灸師が行えるPMSおよびPMDDの鑑別について述べる。

考察:PMSの症状は、イライラや抑うつ感といった精神神経症状と、乳房緊満感、むくみ、頭痛、疲労感といった身体症状、そして集中力・意欲の低下、強い眠気といった社会的行動上の変化に至るまで広範囲にわたり、その症状の数は150〜300ともいわれている。
 本患者は月経前の強い倦怠感、眠気、足のむくみのために、月経前の14日間ほどは毎日ロキソニンを服用して対応している症例であった。また、月経の約10日前頃より機能性出血(黄体期出血の疑い)が起こり、そのまま月経へと移行することが特徴的であった。中医学的弁証に基づく治療を行ったところ、月経2周期目(治療回数4回目)でPMS症状は軽減し、ロキソニンも必要なくなり、同時に月経痛も軽減したが、機能性出血は不変であったので鍼通電療法を行うこととした。鍼通電療法中もPMS症状は軽く、ロキソニンを全く必要としなくなり、機能性出血も消失したが、鍼通電療法を中断すると再び機能性出血が起こる傾向にあった。
 この鍼通電療法は多嚢胞性卵巣症候群の患者に対して行った際に排卵を促進させたとStener Victrin らにより報告されている。我々も月経不順や無月経に対して本治療を行ったところ、月経周期が正常化されたり、基礎体温が二相性になったことを確認している。このことから本鍼通電療法は視床下部-下垂体-卵巣系のホルモン動態になんらかの影響を及ぼしていることが推察される。また、月経10周期目(治療回数20回目)ではPMS症状はほとんど消失し、日常生活への支障はなくなった。このように、鍼灸治療は月経痛のみならず、PMSに伴う全身倦怠感や眠気、足のだるさなどの症状に対しても有効であることが示唆された。



表1 月経前不快気分障害の研究用基準案(DSM-W)

A.過去1年の間の月経周期ほとんどにおいて、以下の症状の5つ(またはそれ以上)が黄体期の最後の週の大半に存在し、卵胞期の開始後2,3日以内に消失し始め、月経後1週間は存在しなかった。(1)、(2)、(3)または(4)のいずれかの症状が少なくとも1つ存在する。
(1)著しい抑うつ気分、絶望感、自己卑下の概念
(2)著しい不安、緊張、“緊張が高まっている”とか“いらだっている”という感情
(3)著しい情緒不安定性(例:突然、悲しくなる、または涙もろくなるという感じ、または拒絶に対する敏感さの増大)
(4)持続的で著しい怒り、易怒性、または対人関係の摩擦の増加
(5)日常の活動に対する興味の減退(例:仕事、学校、友人、趣味)
(6)集中困難の自覚
(7)倦怠感、易疲労感、または気力の著しい欠如
(8)食欲の著明な変化、過食、または特定の食物への渇望
(9)過眠または不眠
(10)圧倒される、または制御不能という自覚
(11)ほかの身体症状、例えば、乳房の圧痛または腫脹、頭痛、関節痛または筋肉痛、“膨らんでいる”感覚、体重増加
注:月経のある女性では、黄体期は排卵と月経開始の間の時期に対応し、卵胞期は月経とともに始まる。月経のない女性(例:子宮摘出を受けた女性)では、黄体期と卵胞期の時期決定には、循環血中性ホルモンの測定が必要であろう。

B.この障害は、仕事または学校、または通常の社会的活動や他者との対人関係を著しく妨げる(例:社会的活動の回避、仕事または学校での生産性および効率の低下)。

C.この障害は、大うつ病性障害、パニック障害、気分変調性障害、または人格障害のような、ほかの障害の症状の単なる悪化ではない(ただし、これらの障害のどれに重なってもよい)。

D.基準A、B、およびCは、症状のある性周期に少なくとも連続2回について、前方視的に行われる毎日の評定により確認される(診断は、この確認に先立ち暫定的にされてもよい)。



表2 PMSの診断基準

過去3回の月経周期においてそれぞれ月経前5日間に以下の精神症状および身体症状を1つ以上認める。
      精神症状          身体症状
   抑うつ           乳房痛
   怒りの爆発        腹部膨満
   いらいら          頭痛
   不安            四肢の浮腫
   判断力の低下
   社会的ひきこもり

○上記症状が月経開始4日以内に軽快し、月経12日目までに再発しない
○症状の発症は、ホルモンの摂取、薬やアルコールの摂取なしに症状が存在する。
○2周期以上の前方視的な追跡で症状の再現が認められる。
○患者が明らかに日常生活に支障をきたしている。



鍼灸師が行える鑑別法
 PMSとPMDDの診断基準や治療法は十分に確立されていない部分もあるが、これらの症状の多くが不定愁訴とされており、鑑別法には器質的疾患、機能的疾患などの除外が不可欠である。我々鍼灸師がこれらを診断することはできないが、予測することは可能であることから、ここでは鍼灸師が行えるポイントをいくつか紹介する。
 PMSについてはまだ統一された診断基準はないが、表2にMortolaによる診断基準を示す。PMSの診断は問診による症状の聴取が最も重要となる。特に、症状の出現時期と月経周期との関連を確認することが重要であり、(1)最低でも2周期にさかのぼり症状が出現しているか、(2)月経周期後半の黄体期に一致して症状が出現しているか、(3)症状の程度が日常生活を障害しているか、などの項目に該当する場合はPMSを疑う。PMSの場合は月経開始後の卵胞期に症状が消失するが、症状が軽くはなるものの継続して認められる場合や月経周期と症状の発現が曖昧なときは基礎疾患の存在を強く疑う。
 PMDDについてはDSM-Wの研究用基準案が標準的診断基準とされている(表1)。著しい抑うつ気分、著しい不安、著しい情緒不安定、活動に対する興味の減退を基本とする11項目の症状のうち5項目以上をほぼ同時に満たし、さらに社会的生活に支障を来し、連続2回以上前方視的に症状が確認されて初めて診断される。両疾患は特にうつ病などの精神疾患や甲状腺機能障害などとの鑑別が必要であることから、服薬歴や家族歴をはじめて十分な病歴聴取が重要である。その他の予測できる検査として、各種の心理テストがあげられる。心理テストには質問紙法としてCornel Medical Index (CMI)、矢田部ギルフォド性格検査(Y-G)、Self-rating Depression Scale(SDS)などがある。これらはいずれも患者の精神状態や性格特性などを知る1つの手段となる。
 このように鍼灸師としてまずは十分な問診や病歴聴取、心理テストなどにより、PMSであるのかPMDDなのか、もしくは別の疾患が疑われるのかを区別することが可能である。また、PMDDについてもDSM-Wの研究用基準案に従い判断できる。PMSは「30歳代からの病気」ともいわれるように、危険因子として「30歳代」や「経産婦」が挙げられる。つまり、日常生活の中でストレスを感じているほどPMSの確率が高まり、PMSの予測因子にはストレスが最も重要であることから、鍼灸師としてストレスの程度を把握することも重要となる。近年では、従来のPMSでは説明できない症候群として「周経期症候群」(perimenstrualsyndrome:PEMS)も提唱され、これは「月経前期から月経期にかけて起こり、月経中に最も強くなる精神的、社会的症状で、月経痛症に起因する症状である」と定義されている。今後は、PEMSをも含めた鑑別も必要となるであろう。



PMSとPMDDに対する鍼灸治療の適応と不適応

 現在、PMSとPMDDに関する鍼灸治療のエビデンスは未だ確立されていないが、基本的には鍼灸治療は月経に伴う様々な不定愁訴のコントロールに適応であると考える。










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