小太郎


小太郎漢方の東日本学術大会
「不妊症と漢方」
講師:上海中医薬大学付属日本校客員教授
 高橋楊子 先生

 ご紹介いただいた高橋楊子です。今回、「小太郎漢方の東日本学術大会」にお誘いいただき本当にありがとうございます。以前から、漢方エキス剤を始めて日本の世に送り出したのは小太郎漢方さんと聞いております。ご縁があって、講演できますことを本当にうれしく思っています。どうぞよろしくお願いします。

《女性の身体の特徴》
 今日は不妊症と漢方の話です。今、女性の社会進出や、晩婚化につれて不妊症の患者さんが結構多くなりました。不妊の治療には、漢方は非常に有効な手段の一つになっています。不妊症をはじめ、女性の疾患の治療には、まず女性の体の特徴と、気、血、精、臓腑の関係を把握しなければいけません。女性の体の特徴は、ご存知のように月経、おりもの、妊娠、出産、母乳を与えるということです。それらの生理的な特徴を支えるものが、気、血、精というものです。
 『本草網目』の著者である李時珍に、こういう言葉があります。「女子、陰類也、以血為主」。女性は男性に比べると陰に属する、血を以って主と為る。血液には滋養や濡養などの働きがある。それらの働きが正常であれば、あるいは充実していれば、月経や妊娠は順調に行われます。ですから婦人疾患の治療としては、まず補血剤、あるいは活血剤がよく使われます。代表的な生薬は当帰です。当帰芍薬散の主薬でもある当帰です。
 血はご存知のように気によって作り出し、めぐらせて、統血されるl気と血は切っても切れない関係をもっています。ですから、婦人疾患の治療は補血薬、活血薬以外に必ず、補気薬、理気薬などが使われます。
 そして精。精は生長発育、生殖を主る、といわれています。卵巣機能が正常かどうか、女性ホルモンが正常に働いているかどうかは、実はこの精が充実しているかどうかに深く関係しています。
 一般の生理痛、あるいは生理不順なら、補血、補気、活血、理気でいいですが、不妊症の治療の場合、必ず精を益す益精という治療をしなければいけません。精が不足すると不妊症になりやすい。とくに今、薬局にくる不妊症の人は30歳後半になっている人も結構います。そういう人は基本として腎精が下り坂になって衰退しているにで精を益す益精が必要です。血、気、精を充実させて、よく行らせる。それは臓腑の腎、脾、肝、心と深く関係します。
 腎の働きは、精を蔵し、生長発育生殖を主る“気血生成の先天の本”となっています。2000年前に書かれた『素問』のなかに、女性の体の節目の変化について、女性は二七にして、腎気が充実して、天癸が成熟してから、衝任脈が盛んで、すると時をもって、月経がきて、子をつくることができるという論述があります。
 腎は性腺軸の司令塔のような存在です。この腎気が充実すれば、腎精も充実して、衝任、胞宮の気血が充実して、順調に月経、そして妊娠することができます。ですから不妊治療では補腎薬がよく使われます。
 次は脾です。脾は運化、昇清を主る、統血を主る、“気血生成の後天の本”といわれています。気血をたくさんつくるのは、消化器官である脾胃の働きと関係があります。ですから、健脾、益気などの働きがある処方もよく使われます。
 そして肝。肝は血を蔵し、疏泄を主るといわれています。『素問』のなかに、このような論述があります。人間が寝ている時、血液は肝臓へ貯蔵されて、起きる時、肝臓の働きによって、血液は全身に入る。もし目のところに血液が流れると目が開けて物が見える。指のところに血液が流れると、指がものを扱うことができる。ですから肝臓は血液の貯蔵と血液の配分に関係があります。実はこの配分は肝臓の疏泄を主る機能と関係があります。疏泄を主る、つまり気の流れをコントロールする。気の流れをコントロールすると、血液の流れをコントロールできます。衝任脈、あるいは胞宮のなかに、気血が充実しているかどうかは、実は肝の血液貯蔵、血液配分の機能と深く関係します。
 中枢の大家である「葉天士」にこういう言葉があります。「女子は肝を先天と為す」。つまり女性にとって、先天というのは2つある。1つは腎。もう1つは肝です。女性の生理、不妊に対しては、腎、肝がとても大事なことになります。
 そのほかには心。心は、“五臓の大主”。ですから、腎、脾、肝、すべてに関係があります。あと胞宮、衝脈、任脈、帯脈、督脈とも関係があります。
 今、話したことは、次のような図にまとめることができます。

ですから、不妊症の治療としては、基本は気、血、精を充実させ、よく行らせ、臓腑のなかの腎、脾、肝、心を治療すればいいのです。
 不妊症の原因は、1つは先天不足、腎虚。これは司令塔が弱くなると、そここら下のところはみんな弱くなる。ですから補腎薬をよく使う。
 そして2つ目は飲食不節、過労房労によって腎虚、脾虚になることも結構あります。
 3つ目は情志失調、ストレスなどによって肝の疏泄機能が悪くなって行りが悪くなることです。
 4つ目は邪気えある寒邪、熱邪、湿邪の侵入によって、臓腑機能が壊れて、乱れ、気、血、精の状態も悪くなることです。

 女性の体の節目の変化は7の倍数で現れています。これは2000年前に書かれた『素問』のなかにある言葉です。2000年経った今現在も、体の変化については大きな差はないです。今は栄養過多で初経がちょっと早くなったり、閉経が遅くなったりすることがありますが、基本としての7の倍数の変化は余り変わらないです。
 二七(14歳)のあたりに初潮があり、三七(21歳)、四七(28歳)の20代あたりには腎精がピークになります。ですから20代は妊娠にとっては一番理想の時期です。
 五七(35歳)、あるいは六七(42歳)、つまり30代後半から40代にいくと腎精は下り坂になり、どんどん衰退していきます。残念ながら、今の薬局に相談する不妊症の患者さんは、30代、あるいは30代後半の人が結構います。そういう人の場合、基本として腎精が衰えているので、20代と比べると治療の時間はかかります。難しくなります。時間がかかるし、補腎のもの、補腎精のものをたくさん使わなければいけないと思っています。

《不妊症の病因病機》
 不妊症の病因病機は次の図のようになります。

不妊症の病因病機
不妊症とは、避妊せずパートナーと2年間以上生活をしても妊娠ができなかったのを指す

虚証
 先天不足-
 後天失養-腎脾肝虚弱・精気血不足→衝任失養

実証
 情志不遂・肝気鬱結→気滞血お
 飲食不節(肥甘厚味)→痰湿内生
 久病・(気滞)→血液お阻 →阻滞胞宮胞脈

 虚証の場合は先天の不足、後天の失養によって腎脾肝の虚弱・精気血の不足となり衝任失養となります。
 実証は、まずストレスで情志不遂・肝気鬱結になることにより気滞血おになる、あるいは飲食不節による痰湿内生になる、あるいは久病、気滞による血液お阻になる。それらによって胞宮胞脈阻滞されると考えられます。

《不妊症の治療原則》
 根本治療の大きな原則は不妊症に対しても女性のほかの疾患に関しても同じです。虚・実・寒・熱をしっかり見分けて治療を行うことです。

不妊症の治療原則
虚・実・寒・熱を見分けて治療を行う
●虚証(精血気不足・腎虚脾虚)
→虚則補之(温腎益精・温補気血・滋補肝腎・健脾益気)
●実証(肝鬱気滞・お血・痰湿)
→実則瀉之(疏肝理気・活血化お・化痰利湿・通絡)
●実証(寒湿停留・脾腎陽虚・気血不足→宮寒不孕)
→寒者温之(温経散寒・温腎壮陽・温補気血など)
●熱証(温熱停留・陰虚内熱)
→熱者寒之(滋陰清熱・清熱解毒・清熱化痰など)

月経周期、経血量、色、質、月経痛性質、緩和要素及び全身の随伴症状(+舌・脈・基礎体温)

 虚証なら「虚則補之」の原則に従って、温腎、温補気血、滋補肝腎、健脾などを行います。実証なら「熱者寒之」の原則に従って、滋陰清熱、清熱解毒、清熱化痰などを行います。
 虚・実・寒・熱、これは漢方の治療としては、必ず分けなければいけない大きなカテゴリーです。不妊症の分け方は、女性の月経周期や、経血量、色、質、月経痛の性質、緩和要素や、全身の随伴症状、とくに舌・脈、もしできれば基礎体温、これもぜひ参考にして、虚、実、寒、熱を分けています。
 ここでちょっと不妊症の問診のときのポイントについて簡単に紹介します。

●不妊症や女性疾患の問診のポイント
 経 初経、周期(28日。25〜35日)、持続期間(5〜7日)、量(50〜100ml)、色(赤〜やや暗紅)、塊(無い)、月経痛(性質、緩和要素、部位、時間)、最終月経の日にちなど

 帯(量の多少及び分泌期間、色、湿、随伴症状など)
 産(出産歴、流産歴など)
 乳(母乳の期間、乳汁分泌量の多少、随伴症状など)

+全身症状・舌・脈・基礎体温及び男性の精子・運動率など

●基礎体温(BBT)の参考的な見方
@低温期が長い、高温期は低いが短い→腎陽虚、気血精不足
A低温期が短い、低温期からやや高い→温熱、陰虚内熱
Bラインの起伏は激しい→気滞、お血
Cゆっくり高温に移行する(時間がかかる)→腎陽虚、気滞血お
D-相性→腎虚、気血精不足、或は気滞血お・痰湿阻滞

 まず月経についてです。初経の年齢を聞くこと。今は11歳くらいから生理がくる人が多いですが、もし生理が9歳くらいからくる、あるいは14歳になっても初経しない、という場合は、実は腎虚(9歳なら腎精がまだ充実されなかった)と関係があります。
 周期の平均は28日、人によっては25日から35日だったりします。もし早すぎる場合は熱と関係がある。たとえば生理の周期が22〜23日だったらこれは熱と関係することが多い。もともと28日の周期が最近はずっと25日できているという場合、陰虚内熱と関係がある。遅くなる、たとえば28日の平均の周期が最近30日、35日、38日と遅れてくる場合は寒と関係があります。陽虚の内寒や、あるいは気血不足と関係があります。
 持続期間。一般的には5日間とか1週間あたりで、もし3日間で生理が終わるなら虚です。血虚や気血両虚と関係がある。もし7日になってもまだたくさんの血が出て、7日以上10日間くらい続くのなら、血の中に熱がある、血熱や熱と関係がある。
 あと量や色。色は正常の場合、赤いあるいはやや暗紅です。もし、経血の色が薄い、赤みが薄ければ気血不足と関係があり、鮮紅色で量が多いのは熱と関係がある。もし、色が濃くて、あるいは黒っぽくなるなら、気滞・お血と関係がある。
 塊は普通の場合はないはずです。あってもちょっとだけです。でも、もし塊が多く出る、毎回出る場合は、気滞、お血と関係がある。
 そして月経の痛み、生理通の性質。シクシクするお腹の痛みであれば虚証によるもの。気血両虚や血虚、あるいは陽虚など。もし脹っている痛みであれば気滞によるもの。針で刺されるチクチクした痛みであればお血によるものです。温めて痛みが緩和するのは、これは陽虚内寒、寒によるもの、生理通のとき、お腹が熱い感じで、温めるとかえって悪くなる場合は、熱によるもの、あるいは湿熱によるものです。痛みの部位も関係があります。もし腰が痛いのであれば、腎虚と関係があります。
 不妊症の場合、問診の時にぜひ最終月経の日にちを聞いてほしいです。周期が分かれば、現在、患者さんがきた時点では、それは低温期ですか、あるいは高温期ですか、あるいはそろそろ排卵ですか、そういうタイミングを把握することができます。
 そのほか、おりものの量が多いか少ないか、分泌期間など。おりものが何日くらいあるのが正常かということについて、中国の有名な不妊症治療の先生の意見では、おりものの分泌期間は、生理の持続期間と相応している、相応していればよい。つまり、生理がもし3日間で終わるなら、おりものの分泌期間も3日間必要です。おりものが3日間より少なければ、少ないということを参考にしていただければいいかなと思います。
 そして第2子がなかなかできない場合、ぜひ、第1子の出産歴や流産歴などを聞いてください。
 あと母乳の期間の状況も聞いてほしいです。今、母乳を与える期間が長くなる人が多いです。1年以上、2年間もまだ母乳を与えている人がいます。実は母乳期間は1年から2年以上になると、高プロラクチン血症になる恐れが高くなり、第2子を妊娠するのが難しくなる場合もあります。基本として母乳は1年間で十分です。1年を過ぎると母乳の中に栄養はそれほどなくなります。むしろ、赤ちゃんは離乳食を食べた方が栄養をとれる。問診のときは以上のようなポイントを聞いてほしいです。さらに全身症状、舌、脈、ときに薬局なら舌を診て、虚、熱、寒、実を分けてほしいです。
 今、不妊症は旦那さんの精子、運動率の異常ともすごく関係があります。ちなみに、中国では、不妊症の治療の場合に必ず夫婦ともに来てほしいと先生から要求します。嫌で来ない人も結構いますが。一緒に治療することによって妊娠の確立がかなり増えてきます。ぜひ、それも問診の時に聞いてほしいです。
 次に基礎体温です。今、西洋医学の不妊治療の場合、ほとんど基礎体温をみていない。直接、超音波で卵巣の状態、子宮内膜の状態をみています。漢方治療の場合は、まず基礎体温を患者さんにつけてもらうようにする。そして毎回、相談に来る時に持ってきてもらう。つけてほしい理由は、実は患者さんに自分の体の変化を把握してもらうためです。いつ生理がきて、もうそろそろ排卵なのか、いつ高温期かなど、ぜひ自分自身で把握してほしいのです。また、弁証の参考になります。
 基礎体温にはいろいろなパターンがあります。
 1つ目は低温期が長い、高温期の体温が低い、あるいは短い。これは腎陽虚や気血精不足と関係する場合が多いです。
 2つ目は低温期が短い、やや高い。普通低温期は36.2℃くらいですが、低温期から36.4℃以上になると、これはもう高いのです。高くなると卵胞の育ち方に悪い影響が出るのでよくないです。そういう場合は湿熱、陰虚内熱となります。
 3つ目はラインの起伏が激しい。高温期の中にもガタガタ、下ったり上がったり、低温期も下ったり上がったり、そういう起伏が激しい場合、気滞、お血と考えられます。
 4つ目は排卵のときにスムーズに高温期に移行できない。ゆっくり時間がかかって高温期に移行する。そういう場合は、腎陰虚、気滞血おと関係する場合が多いです。
 5つ目は基礎体温に二相性がない、一相性しかない、無排卵です。そういう場合は、腎虚、気血精不足の虚証、あるいは気滞血お、痰湿阻滞の実証と関係があります。
 不妊症の治療には参考になりますので、ぜひ患者さんに基礎体温をつけるように言ってほしいです。


《不妊症の弁証論治(虚証)》
 次に実際の不妊症の弁証論治に移ります。
 不妊症の治療の中で虚証には腎陽虚弱と肝腎陰虚の2タイプあります。

1.腎陽虚弱(宮寒不孕)
 まず1つ目は腎陽虚弱のタイプです。腎陽虚弱の症状は、周期が遅れ気味、経血量が少ない、経血の色が淡い、希薄、お腹がシクシク痛む、喜温喜按、おりものが少ない、あるいはない、顔色白い、冷え症、とくに腎陽虚の冷え性はお尻や、太股、下半身がすごく冷たい。そして倦怠無力、腰膝酸軟、腰膝酸軟は、腰膝がだるくて痛いことです。性欲淡白、夜間尿、頻尿、むくみ、軟便下痢、そして客観的データは舌、脈です。舌は薬局でも診られるので、ぜひ舌診を磨いて、舌診によって患者さんの本質を見分けてほしいです。腎陽虚の舌は淡い、そして胖大舌。むくんでいる感じ。両側に歯痕つまり、歯形がある、そして白っぽい苔、脈は沈細弱脈、尺弱。基礎体温は、低温期が長く高温期は低くて短い。あるいは排卵時、ゆっくり時間がかかって高温期に移行する。あるいは一相性。
 この腎陽虚の不妊症は、治療は補腎温陽、暖宮助孕、中国では右帰丸、毓麟丸をよく使います。日本の場合、八味丸+温経湯や当帰芍薬散、さらに動物薬の鹿茸、紫河車、阿膠などを加えて代用してもいいと思います。
 「八味地黄丸」は8つの生薬による処方。腎陽虚、命門火衰による冷え性、腰膝が痛い、頻尿、夜間尿、むくみに使います。先生方も使い慣れていると思います。処方のなかには熟地黄を主とする3つの補薬(熟地黄、山茱萸、山薬)が入っています。その中の熟地黄は補腎精、補血です。3つの補薬があって、そして3つの瀉薬(沢瀉、牡丹皮、茯苓)があり、そして附子、桂皮が入って温腎壮陽、温陽散寒の働きが加わります。腰が冷えて痛い、お尻とか冷えて痛い、なかなか妊娠できない場合にこの八味地黄丸を使います。
「右帰丸」。右帰丸は、八味地黄丸の加減によるものです。八味地黄丸の中の3つの補薬(熟地黄、山茱萸、山薬)と附子、桂皮が残ります。そして3つの瀉薬(沢瀉、牡丹皮、茯苓)を抜いて、+めん糸子、杜仲、これは温腎益精の働き。+枸杞子、当帰、これは補血益精の働き。+鹿角霜(動物薬)、これは温腎助陽、益精養血の働き。これらの配合でできたものです。
 つまり、八味地黄丸から邪気を瀉すものを抜いて、さらに益精のものを増やしている。ですから、腎陽虚の不妊症にはすごくいい。残念ながら日本にはないので、八味地黄丸+当帰芍薬散か温経湯、さらに鹿茸製剤を加えれば右帰丸の代用になります。
 「毓麟丸」。右帰丸と似ている点は、鹿角霜やめん糸子、杜仲など温腎益精のものを使っていることです。ただし右帰丸は八味地黄丸の加減によるものですが、毓麟丸は四君子湯、四物湯を合わせた八珍湯の加減によるものです。ですからこの処方は腎精不足、気血不足、疲れやすい、めまい、立ちくらみ、なかなか妊娠できない、生理の量も少ないときに使うものです。代用としては、十全大補湯+当帰芍薬散+鹿茸製剤を使えばこの処方の代用になります。
「当帰芍薬散」。日本ではよく婦人科疾患に使われますので、先生方も使い慣れていると思います。この当帰芍薬散は、養血調経、健脾利湿の働きです。適応症のポイントは、1つは血虚がある。血虚があると、顔色が白っぽい、冷え性、お腹がシクシク痛む、生理量が少ない、不妊になりやすい。血虚のほかにさらに脾虚もある。生理の前後がむくんだり、軟便、下痢しやすい、胃腸の消化機能がよくない、そういう場合、当帰芍薬散を使います。当帰、芍薬は養血調経、川きゅうは活血止痛、白朮、茯苓、沢瀉が健脾利湿。主薬の当帰は、婦人疾患治療のなかによく使われる生薬です。中国では婦人の聖薬、婦人疾患の重要な薬、大事な薬の意味です。実際、中国の婦人疾患の処方を見れば、10処方のなかの9処方には必ず当帰が入っています。このように当帰はとても大事です。ですから当帰芍薬散は生理通とか不妊症にもよく使われます。
 「十全大補湯」。この中には、四君子湯、四物湯、黄耆、桂皮が入っていますので、気血不足、血虚だけじゃなく気虚もある場合にこの処方を使います。
「温経湯」。温経湯も不妊症によく使います。これは12味の生薬(当帰、芍薬、川きゅう、牡丹皮、桂枝、呉茱萸、人参、半夏、阿膠、麦門冬、甘草、生姜)による処方です。もともと出典は『金匱要略』で、原文は「婦人五十所、下痢数十日止らない」。その下痢は、ある説ではこれは下血、つまり不正出血、続いて止らない。「夕方になると熱感がある、お腹が痛い、腹満、そして手は火照って、唇は乾燥する。この病気は帯下に属する」。ここの帯下は婦人疾患を指しています。昔、婦人科の医者が、帯下医といわれ、「温経湯之を主る」という原文から温経湯が出てきたんです。温経湯の適応症は、衝任虚寒、お血阻滞による冷え症がある。太股や臀部が冷えて、生理不順、不妊症、不正出血、そして場合によって、冷えもあるけど、少しのぼせ、ほてりも少しある。そういう場合に温経湯を使います。不妊症にもよく使う。あと実は、この原文が書かれている状態が、50歳あたりで不正出血がありのぼせなどがあるとするなら、これは更年期障害の症状です。更年期障害のときにもよく使います。処方のなかの呉茱萸、桂皮は温経散寒、通利血脈。当帰、芍薬、川きゅう、これは当帰芍薬散のなかにも含まれていますが、養血調経、活血化お。牡丹皮は活血涼血。阿膠、麦門冬。ここで阿膠は動物薬であり、補腎益精作用があるのです。阿膠によって、補腎、養血し、もし不正出血があるなら、止血作用もある。そして人参、半夏、生姜、甘草で健脾益気。ですから冷えがあって、少しのぼせがあって、なかなか妊娠できない、ときには不正出血も出ている、そういう場合、温経湯を使っていいと思います。
 腎陽虚の不妊症に、もし、生薬を加減できるのであれば、ぜひ『素問』の言葉に沿ってみてください。『素問』に、体不足、つまり?せて疲れる人は補気薬で温め、精が不足の場合は、厚味のものをもって補うと書いてあります。厚味というのは、血肉有情のもの、つまり動物薬を指しています。精を益すために動物薬が必要です。
 代表の1つは「鹿茸」。鹿の角について、『本草網目』にはこういう言葉があります。「精を生じ髄を補い、血を養い陽を益す、筋骨を強くさせる、一切の虚損を治療する」ことができると。精を益し血を増やす働きがある。あと『女科要旨』という本の中に「鹿茸は衝任督三脈に入り、大いに補血ができる、無情な草木の」、一般の生薬、一般の草や木の生薬の補血作用と「比べられないような」大きな補血作用がある、と書いています。
 実際に臨床では、鹿茸、鹿角、鹿角膠、鹿角霜のどれを使ってもいいですけれど、使った方が不妊症、腎虚の改善が早くなります。
 2つ目は胎盤、つまり「紫河車」、臍を坎気という。紫河車は補腎益精、大補気血の働きがあります。この30年前あたりから胎盤、あるいは臍のなかに含まれる臍帯血、幹細胞の働きがすごく注目されています。でも中国では昔から、不妊症や、免疫疾患によく紫河車が使われています。鹿茸と比べてこれには大補気血の働きがあります。鹿茸は精、髄を補う。こちらは精と気血を補う作用があります。腎虚や気血不足の不妊症やあるいは免疫性の不妊症、あるいは免疫異常による習慣性流産などによく使われます。胎盤のエキスがありますので、くわえて使ってもいいです。
 3つ目は「阿膠」。阿膠は補血止血、補腎作用があるので、血虚による不妊症、あるいは不正出血がある場合、阿膠をよく使います。以上は動物薬。
 さらに加減の動物性生薬として、まずは淫羊かく。日本の民間薬のイカリソウです。強壮強精の働きがあるので、腎陰虚の不妊症にはぜひ加えてください。そのほか、めん糸子、肉そう蓉、巴戟天などがあります。

2.肝腎陰虚
 次は虚証のもう1つのパターンである肝腎陰虚。これは周期が短い、経血量が少なくて紅い、濃い、お腹が隠痛、喜按、不正出血が時には出る、めまい、立ちくらみ、のぼせ、ほてり、目の疲れ、視力減退。舌を見るとこちらは舌色が紅い、舌体が薄い、裂紋がある、苔が少ないか全然ないという状態です。基礎体温は低温期が短い、あるいはやや高い、36.4℃以上、また高温期も短い場合。
 このタイプの治則は、滋補肝腎、養陰補血です。使う処方について説明します。
 「左帰丸」。中国なら左帰丸を使います。代用としては六味丸か杞菊地黄丸か知柏地黄丸や二至丸にプラスして温経湯あるいは当帰芍薬散、さらに動物薬をプラスします。左帰丸は六味丸の加減。六味丸の3つの補薬に枸杞子を加えて、補腎益精、固精斂汗の働きです。そして亀板膠、鹿角膠が入ることにより益精墳髄。そしてめん糸子、牛膝を入れています。真陰不足による腰膝がだるい、月経の量が少ない、月経の周期が短い、不妊症、あるいは男性の遺精滑精とか、そういう場合に使う処方です。残念ながら日本にはこの方剤がないので、代わりに杞菊地黄丸を基本処方に使います。
 「杞菊地黄丸」。これは六味丸+枸杞子、菊花。もともと肝腎陰虚によるめまい、立ちくらみ、血圧が高い、のぼせ、ほてり、あるいは目の疲れとか視力減退とか、もともとこういうタイプによく使う処方です。肝腎陰虚により月経の周期は短い、たとえば22〜23日で周期がきて、量も少ない、腰膝が痛い、不妊症、少しのぼせ、ほてりがある、基礎体温の低温期がやや高い、そういう場合にも杞菊地黄丸をよく使います。
 「知柏地黄丸」。滋陰降火、陰虚火旺。基礎体温の低温期が低くなければいけないのに、少し高い場合は知柏地黄丸を使った方がいいです。
 「二至丸」。これは2つの生薬、女貞子、早蓮草によってできた処方です。女貞子は、滋補肝腎、養陰除熱。早蓮草は滋陰補腎、涼血止血。滋陰作用があるので、肝腎陰虚により生理の周期がやや早い、不正出血が出やすい不妊症の場合に使います。ちなみにこの2つは、日本では健康食品として認められていますので、お茶として出してもいいです。
 そして肝腎陰虚の動物薬を使うとしたら鹿角膠、鹿角霜、阿膠のほかに亀板膠、鼈甲膠(スッポンの殻)。本当は、亀板は亀のお腹の所の板、腹部の甲羅、鼈甲ならスッポンの背中の甲羅が一番の肝腎陰虚には精を補うものです。


《不妊症の弁証論治(実証)》
 これまで虚証の2タイプの弁証論治で使う処方をお話しました。次は実証のタイプです。

1.肝気鬱結
 まず肝気鬱結。ストレスが溜まっていくと、女性の先天の肝の働きが悪くなって、肝気鬱結になりやすい。実際に不妊症の女性は、家庭と仕事の両方を抱えているので、仕事のストレスもかなり抱えています。また家庭のなかでも姑との不仲になるストレスや、不妊症のプレッシャーなど、そういうストレスで肝気鬱結になりやすい。肝気鬱結になると女性ホルモンのバランスが崩れやすいです。
 症状として、月経不順、早かったり遅かったり、月経の前の乳房や下腹部の脹痛、月経不暢、少量の塊、イライラ、怒りっぽい、あるいは生理前の憂鬱、不安、偏頭痛、肩こり、PMSの症状。舌質は両側が紅い、苔は薄苔、弦細脈。
  肝気鬱結の人の基礎体温は、どちらかというと、起伏の変動は激しいです。低温期も高温期もガタガタしている、そういうタイプが割合に多いです。
 月経周期は25日だったり35日だったり、そういう月経不順であれば、まずは疏肝理気、養血調経が必要です。
 朱丹渓には次のような言葉があります。「種子之道、莫先調経」(種子の道、まず調経)。月経不順の場合はいつ排卵かわからないのです。ですから疎肝理気、調経によって、月経の周期が正しく戻っていけば、実はすぐに妊娠する、そういうことは臨床では枚挙にいつまがありません。
 処方は、逍遥散、加味逍遥散、きゅう気調血飲第一加減。
 「逍遥散」は8つの生薬(柴胡・薄荷・白芍・当帰・白朮・茯苓・肝臓・生姜)による疎肝解鬱、健脾養血の処方です。柴胡、薄荷によって疎肝理気、これは肝の疏泄機能も影響する。白朮、茯苓は、健脾利湿。甘草、生姜は健脾和胃。気の行りをよくして、血液を増やす処方です。私は逍遥散を使って月経不順を治してからすぐ妊娠する、そういう経験が結構あります。月経不順であれば、あるいは生理痛が脹っている痛みであれば、あるいは胸が脹っている痛みがあればよく使います。PMSにもよく使いますし、高プロラクチン血症にもよく使います。
「柴胡疏肝散(柴胡疏肝湯)」。月経痛がひどく、脹って痛みがあれば、一番よく使う処方です。これは四逆散に香附子、川きゅう、青皮が入っています。もともと肝鬱気滞の脹痛に使っています。脹って痛みが強ければ、柴胡疏肝湯です。逍遥散と柴胡疏肝湯、つまり養血作用の生薬が入っていて、あと白朮、茯苓、つまり健脾作用の生薬が入っていることです。それから柴胡疎肝湯はどちらかというと、実証に使っていい。逍遥散は肝鬱気滞があって血虚もあって気虚もあってという場合です。その違いがあります。そして肝鬱が続くと必ず化火になる。肝鬱化火になると、イライラ、怒りっぽい、そしてニキビも生理前に紅くなって悪くなって、ちょっと喧嘩したくなる、そういう場合は加味逍遥散がとてもいいです。逍遥散に牡丹皮、山梔子を加える加味逍遥散は清熱涼血、疎肝理気の効能があります。
 「きゅう帰調血第一加減」。これは『万病回春』のきゅう帰調血飲の加減によるもの。日本の一貫堂の処方です。この処方をみると、まず桃紅四物湯、そして牛膝、延胡索が入っています。桃紅四物湯は活血化おの作用が強く、牛膝、延胡索、とくに延胡索は活血化お、止痛作用がかなり強い。これを加えることによって、刺されるような激しい痛み、子宮内膜症や子宮腺筋症、生理の時の強い痛みにとてもいいです。そして活血化おのほかに理気薬も沢山入っています。烏薬、香附子、枳実、木香、これら全てが理気薬です。理気解鬱、調経、とくに李時珍が香附子について「気病の総司、女科の主帥」といっています。婦人、女性の方はデリケートな人が多いので、割合に気鬱気滞になりやすいので、香附子をよく使うという意味です。理気薬もある、活血の薬もある、そのほかに、牡丹皮の活血涼血、益母草の活血きょお・利水消腫。益母草は婦人経産の要薬です。産後によく使います。お母さんに利益をもたらす薬草という名前があるように、産後の悪露不下のとき、あるいは生理痛がひどい、塊が多いとき、益母草をよく使います。そのほかに健脾益気の生薬もたくさんある。そして桂皮の温経散寒作用もあります。
 この処方の特徴は次のようになります。
 1つ目は活血理気の生薬がたくさんある、それと扶正補虚の生薬もある。つまり、虚実挟雑のタイプ、気滞血おもあり、気血不足もある、という人にこの処方を使ってください。気滞血おがある場合は痛みか、胸が脹って痛むか、そして塊が多いかなど。気血不足の場合は、患者さんが、生理が終わってから体がすごくだるい、眠りたくて、あるいは生理の2日目、3日目から眠りたくて、だるい、そういう気血不足もあるときにこの処方を使います。
 2つ目は、延胡索と香附子が加わっていることによって理気活血止痛の働きがかなり強くなっていることです。中国の婦人科では、生理痛の治療の場合、生理痛がすごくひどい場合、よく足す生薬は2つです。1つは延胡索、もう1つは香附子です。延胡索についてはこのような言葉があります。「専ら一身上下の諸痛を主る」。強い鎮痛、鎮痙、鎮静の働きがある。もし頭が痛い場合にも延胡索を足す。胃の痛みの場合も延胡索を足す。安中散のなかにも延胡索が入っています。生理痛の場合も延胡索を足す。あと、腰痛や膝痛、関節痛の場合も延胡索をよく足す。慢性のガンで最後は痛みがある、そういう場合も延胡索を足す。そういう強い鎮痛、鎮痙、鎮静作用があります。香附子と合わせると、理気活血止痛作用が更に強くなる。それがこのきゅう帰調血飲第一加減の2つ目の特徴です。
 3つ目の特徴は益母草が入っているので、産後もよく使うということです。


2.痰湿阻滞
 次は不妊症の実証の2番目のタイプの痰湿阻滞です。
 臨床では、結婚して仕事も辞めて家事に専念して、最初の2、3年は妊娠するつもりがなくて避妊してたのですが、2,3年してから体重が5キロ以上増えたとともに生理が少なくなって、あるいは生理がなくなって、不妊になる人が結構います。そういう人は仕事を辞めて家事に専念している間に、毎日おやつを食べたり、おいしいものを食べたりして、あまり身体を動かさないので、痰湿阻滞になることが多いです。こういうタイプの人が肥満し、生理がだんだん少なくなって、あるいは無月経になる。たとえば、あとで話しますが、多嚢胞性卵巣症候群がこういうタイプとよく関係があります。
 そして四肢がだるい、めまい、むくみ、多痰、吐き気、軟便下痢、おりものが少ないあるいは多い、臭いがする。舌質は、湿が溜まってむくんでいるので、胖大歯痕があって、そして白膩苔、白っぽいベトベトの苔がある。
 その場合の治則は、燥湿化痰、温通胞絡です。使う処方について説明します。
 「蒼附導痰湯」。中国ではよく使います。日本なら竹茹温胆湯、温胆湯、あるいは加味温胆湯などを使っています。蒼附導痰湯は、二陳湯(陳皮、半夏、茯苓、甘草、生姜)に胆南星、枳殻を加えて導痰湯になり、さらに蒼朮と香附子を加えた処方です。日本では温胆湯で代用します。温胆湯は二陳湯に竹茹と枳実を加えたもので理気化痰になる。こういう妊娠ができなくなる場合は、どちらかというと内分泌の乱れによって性ホルモンの乱れになっている。中医学からいうと痰湿のもの。そしてこの痰湿を解決するために理気、活血も必要。ですから温胆湯+桂枝茯苓丸がきゅう帰調血飲第一加減でいいと思います。竹茹温胆湯もよく代わりに使います。あと、薬局で使える煎じ薬125処方のなかの加味温胆湯のなかに熟地黄が入っていますので、それを使ってもいいと思います。


3.お血阻滞
 実証の3番目はお血阻滞。お血によって生理痛がかなり激しい場合です。刺される、絞られる、激痛。経血の色が黒っぽい。塊が多い。拒按、腹部ちょう塊、実際に子宮内膜症があるとか、卵巣嚢腫、子宮筋腫という気質的な病気が存在する。顔色や唇が紫っぽい。舌診すると一目瞭然、お血が存在すると舌質の色が紫か黒っぽい。あるいは紫の点とか斑とかお斑がある。あるいは舌下静脈が怒張する。舌質を診ればお血色が見られます。
 治則は活血化お、温経痛絡。血府逐お湯、桂枝茯苓丸、あるいは桂枝茯苓丸加よく苡仁、折衝飲、桃核承気湯、きゅう帰調血飲第一加減などを使います。
 「血府逐お湯」。この処方は桃紅四物湯と四逆散の加減です。桃紅四物湯は活血化お。四逆散は疏肝理気。そして牛膝と桔梗を加えることで、上下の気血の行りをよくします。一般的には、お血による生理痛や、脇の痛み、胸の痛み、慢性の肩こり、頭痛などによく使います。
「桂枝茯苓丸」。この処方はよくご存知にように、活血化お、緩消ちょう積の効能です。もともと『金匱要略』のなかに「婦人宿有ちょう病…当下其ちょう、桂枝茯苓丸主之」とあります。つまり婦人のお腹のなかにちょう病がある、子宮筋腫だとか卵巣嚢腫だとか、そういうような塊がある場合、ちょうを下すべき、桂枝茯苓丸を主ると書かれています。お血によって生理痛がひどい、子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣嚢腫、そういう病気があって、生理痛がひどい場合この処方を使っています。
 「折衝飲」。この処方は桂枝茯苓丸から茯苓を抜いて、当帰、川きゅう、紅花、牛膝、延胡索を加えたものです。桂枝茯苓丸は穏やかにちょう積をとる働きがありますが、折衝飲は、活血化おによって強い塊を取る処方です。ですからお血による月経痛がひどい場合には、あるいは子宮内膜症や子宮筋腫の場合に使います。処方のなかに先ほど話をしました延胡索が含まれています。痛みが強い場合には延胡索が入ります。牛膝もそうです。牛膝は血液を下に引っ張っていく働きがあります。牛膝が昔は死胎を下す働きで使われていました。たとえば生理のとき、塊が多い人は必ず生理痛がひどい。そういう場合、牛膝をよく加えます。こういう塊を下して下に降ろしていくという働きがあります。折衝飲は生理痛がひどい、塊も多い、そして子宮筋腫、内膜症がひどい場合に使う活血化お剤です。
 「桃核承気湯」。この処方は活血化お、破血下お血の働きがあります。桃仁が活血化お、止痛、桂枝は温め、そして調胃承気湯による通便作用、また大黄は便通でけではなくて活血化お、泄熱、熱毒など悪いものを通便によって外に出す、そういう働きもある。婦人科の場合、お血によって閉経、あるいは生理痛の刺痛、産後の悪露などにもよく使う処方の1つです。

《中医学の考え方》
 不妊症の弁証論治について、虚証と実証の5つのタイプを話しました。代表的な処方や加減について解説しました。次は、不妊症に関係する2つの病気について中医学の考え方を紹介したいと思います。

1.高プロラクチン血症
 不妊症に関係する病気の1つは高プロラクチン血症です。これはプロラクチンの過剰分泌によって性腺軸が抑制され、排卵障害を起こす病気です。症状としては、無月経や不妊あるいは、乳汁漏出、人によって生理の前に胸が脹ってみたり、あるいはひどくなると頭痛になる人もいます。検査では血中のプロラクチンは基準値の15ng/mlよりも高くなる(検査方法により基準値の違いがある)。
 この病気の原因は4つあります。
 1つ目は下垂体腫瘍。これはだいたい血中のプロラクチンがかなり高い100ng/ml以上になると、脳のCT検査をした方がいいです。下垂体の腫瘍と関係があるかもしれない。
 2つ目は甲状腺機能の低下。
 3つ目は薬剤性のもの。抗うつ剤、胃薬、降圧剤、経口避妊薬などをよく使う場合。若い女性は経口避妊薬あるいは胃薬、場合によって抗うつ剤など平気で使うことがあります。それによってこの病気になるかもしれません。
 そのほかには原因不明、でもストレスとはかなり関係があるのではないかといわれています。
 この病気について、中医学は乳汁自溢、閉経という範疇で論治しています。『胎産心法』という本のなかにこういう言葉があります。「肝経怒火上衝、故乳脹而自溢」、肝の経路が怒りによって火が上衝すれば、胸が脹って乳汁が自然に出てくる。厥陰肝経は足の親指のところから出発して、陰部に絡んで体の両側に走っています。乳頭のところは実は厥陰肝経が走行する場所です。そして乳房は陽明胃経が走行する場所です。
 また月経は赤い血、乳は白い血、月経と乳は同源といわれます。ですから中医学の観点からみれば、この病気は肝失疏泄、脾失運化、腎虚と関係があります。
 治則としては、まず1つ目は疎肝解鬱、疎肝清熱で逍遥散、加味逍遥散、きゅう帰調血飲第一加減。肝火が上昇していますので加味逍遥散のほうがさらにいいと思います。
 2つ目は健脾補腎養血、当帰芍薬散か十全大補湯か温経湯、鹿茸か紫河車などを1つ選んで使います。
 3つ目は回乳のもの。お乳が出ているのでお乳を血に戻します。お乳も血ですから、戻して血として子宮に降ろして月経として出してもらう。回乳として麦芽をよく使う。炒めた麦芽か生の麦芽か。実はどっちが回乳かどっちが催乳か、中国でも人によって意見が異なっています。私の経験では炒めた麦芽の方が回乳にはいいかなと思います。ある先生は半分炒めて半分生のものを一緒に使います。ちなみに炒めた場合は香りが出てくるので疎肝の作用がある。疎肝回乳。生の方が健脾回乳。胃が弱い人が生麦芽を使う。肝鬱、胸が脹って痛い場合に加味逍遥散のほかに炒麦芽という選び方もあります。
 高プロラクチン血症は臨床でよくある病気の一つで、私の経験では、もし不妊症、生理の前に胸がちょっと脹る、あるいは血液検査で高プロラクチン血症がある場合なら逍遥散、加味逍遥散と炒麦芽をよく使います。ほかの補腎薬ももちろんよく使います。気をつけるのは、潜在性の高プロラクチン血症もあること。プロラクチンというホルモンは、昼夜の変動があります。正常の場合、日中は低く夜間が高くなります。検査ではギリギリ15ng/mlくらいある場合、もしかしたら夜になると高くなる場合もありますので、そういうこともぜひ、逍遥散、加味逍遥散、炒麦芽を加えた方がいいかなと思います。

2.多嚢胞性卵巣症候群
 そしてもう1つ、不妊症に関係する病気は多嚢胞性卵巣症候群です。これはホルモンの分泌の異常によって排卵が阻害される病気です。卵巣の中に沢山の未熟な卵胞、だいたい2ミリから8ミリ以下の卵胞が15個以上溜まっている。主席卵胞、成熟卵胞になれない。成熟卵胞になる場合、だいたい20ミリ必要です。20ミリになれないと排卵できない。また卵巣の表皮もすごく厚くて排卵できないという病気です。
 症状は、排卵できないので稀発月経、無排卵周期症、無月経、不妊症にもつながっていく。超音波の検査では、卵巣が腫れて、そして未熟卵胞は最後閉鎖して卵巣の間質の中に溜まっている、多嚢性の変化、ネックレスサイン、表皮の白膜肥厚。血中のホルモンの異常もあります。
 この病気の中医学の見方は、未熟の卵胞が閉鎖して起こる多嚢性の変化を痰湿と理解しています。痰湿が溜まって、そして血お気滞が溜まって卵巣の表皮が厚くなって排卵を妨げるのは邪気(痰湿、お血、あるいは気滞)があるからです。根本は、もともと卵胞がうまく発育成熟できない。その原因は腎虚、血虚と関係がある。
 ですから中医学の治療は、化痰、活血、理気で邪気を取り除く。補腎補血で卵胞を成熟させる。
 化痰なら温胆湯とか竹茹温胆湯、場合によってはヨクイニン錠もよく使います。こういう人はニキビも出てくる。ヨクイニンエキス錠はニキビにもいいし、痰湿をとるのもいい。活血は血府逐お湯か桂枝茯苓丸、桃核承気湯。疏肝理気は逍遙散、加味逍遥散、きゅう帰調血飲第一加減。そして温腎、補血のものは八味地黄丸、温経湯、十全大補湯、当帰芍薬散と鹿茸製剤を使います。

《周期療法について》
 あと不妊症はよく周期療法を使います。

婦人科の周期療法
低温期(8〜10日間) 理気活血温経調経(逍遙散・加味逍+桂枝茯苓丸・血府・・きゅう帰調血飲第一加減・温経湯)
排卵←低温期(3〜5日間) 理気活血(四逆散・桂枝茯苓丸・牛膝)
高温期(12〜14日間) 補腎益精補血 温陽→八味丸+温経湯  滋陰→杞菊地黄丸 知柏地黄丸

全周期→補血補腎(当芍・十全大補湯・鹿茸・紫河車・阿膠)

 症例を2つご用意しておりますので、これを使って紹介したいと思います。

症例1
 女性、35歳、会社員、結婚5年目。
 なかなか妊娠できず、病院で検査したら、多嚢胞性卵巣症候群といわれた。排卵困難、月経不順、不妊。
 望診はやや痩せ型、顔色が白い。
 月経の周期を聞くと、よければ2ヶ月に1回くる。6ヶ月の場合も結構ある。なかなか生理がこない。ですからむくみになっている。生理がきたときも軽い生理痛があって塊がある。そして片頭痛が起こりやすい。慢性的な頑固な便秘、お腹が脹ってガスが多い。多分、卵巣が腫れて腸管を圧迫するので、本人は常にお腹が脹ってガスが多くなるという。そして食欲も減退する。婦人科ではすでにクロミッドなどの治療を受けている。

症状分析
・やや痩せ型、顔白…脾虚・気血不足
・軽い月経痛、血塊がある…お血
・片頭痛をしやすい、慢性頑固便秘、腹部脹痛、ガスが多い…気機阻滞
・排卵困難、月経不順(2〜6ヶ月)、不妊症+舌・脈…腎虚+気滞+痰お
・食欲減退…肺気虚・運化不足
・淡歯痕舌、厚白賦苔…脾虚湿停・痰濁内蘊
・舌根淡黄…化熱の傾向
・細弦脈…気機阻滞
・尺弱…腎虚

 この患者さんの訴える症状。客観的なデータは舌と脈です。舌苔を診ると痰湿邪気が結構溜まっている。厚白賦苔、根っこになるとちょっと黄色くなっている。これは痰湿、多分この人の便秘とも関係がある。これは邪気が溜まっていることを示している。舌質の色から診ると、ちょっと淡い、歯痕もある。これは虚証を示す。淡舌であれば血虚、歯痕があれば脾気虚と関係があります。
 脈は細弦、尺弱。尺弱なら腎虚と関係があります。
 症状を分析すると、やや痩せ型、顔色が白っぽいので、脾虚、気血不足があるかなと考えられます。軽い生理痛、塊がある。それならお血もあるかなと。片頭痛を起こしやすい。本人の自覚症状で一番辛いのは、頑固な便秘、お腹が脹って痛い、ガスが多い、これは気滞かなと。排卵困難、月経不順、不妊症と舌脈を合わせて、腎虚もあって気滞、そして痰湿、お血、邪気も存在すると考えています。
 弁証は、本としては脾腎不足があって、標としては気滞痰お内停。

弁証 脾腎不足(本証一虚)、気滞痰お内停(標証一実)
治則 補益肝腎・理気活血・健脾化痰(周期療法の薦め)
 毎日服用 参茸補血丸
       (代用鹿茸製剤+当帰芍薬散など)…補腎精・養血
 低温期 @逍遥散+枳実(柴胡疎肝湯)…疏肝理気
       A桃核承気湯+牛膝…活血化お
      B淫羊かく…補腎促排卵
 高温期 @逍遥散(柴胡疎肝湯)…疏肝理気
      A六味丸+淫羊かく…補腎促排卵
       B大黄甘草湯(少量)…通便化お
経過 排卵困難が改善し、月経周期は約1か月半〜2ヶ月になった。片頭痛、便秘、腹脹も改善した。服薬12ヵ月後、体外受精と合わせて待望の妊娠をした

 治療としては、補益肝腎、理気活血、健脾化痰。この人は35歳なので、周期療法を合わせて治療した方がいい。まず毎日、参茸補血丸をお勧めしたんです。もしそれがないならほかの鹿茸製剤+当帰芍薬散という併用もいい。
 低温期は@逍遥散+枳実(柴胡疎肝湯)で疏肝理気、A桃核承気湯+牛膝で活血化お、B淫羊かくを使って補腎促排卵を行いました。
 高温期は@逍遥散(柴胡疎肝湯)を使わないとお腹が脹って痛いのが辛いので、逍遥散を使って疏肝理気、A補腎薬の六味丸+淫羊かくで補腎促排卵、Bそして便を出してもらって、便通があることにょってお血や痰湿も出ると思って大黄甘草湯を使う。大黄甘草湯は最初はお勧めしなかったんですが、だけれど使わないと、本人が便秘がひどくて辛い、センナを飲みたくなるというので、それなら少量で一緒に使ってみました。
 そして、この治療によってまず排卵困難が改善されて、月経の周期は早い時は1ヵ月半、遅くても2ヶ月で必ず来るようになった。本人の自覚症状の片頭痛、便秘、腹脹も改善した。この理気活血のものを沢山使ったので改善された。
 飲み始めて10ヶ月あたり、もう36歳になっているので、婦人科ではこれが自然妊娠だけでは無理と体外受精を勧められて、体外受精を受けるときは費用がかかるので、漢方薬を減らしていいですか、と患者さんの要望があって、鹿茸を減らしてこれらの生薬も減らしたんです。減らしてから2回、ホルモン注射を受けたんですが、卵胞がとれなかった。無排卵の状態になった。本人に、漢方薬を飲まないと卵胞が発育できないので、先生、前に戻してくださいといわれ、戻して3回目のとき、ちょうど12ヶ月目のときに妊娠がうまくいった。元気な赤ちゃんが生まれました。

症例2
 2番目の症例は、黄体機能不全の妊娠症の患者さん。33歳の主婦で、結婚5年後、不妊があって、不妊治療のため婦人科にかかって、黄体機能不全といわれて、クロミット、デュファストンとか3年間も治療したんですけど、なかなか妊娠できず、人工授精を勧められたが、本人は漢方を一緒にしないといけないと思って相談にきた。

 生理の周期は25日、持続時間は2日間から5日間で経血量も少ない。生理の前は少し脹って痛みがある。あと塊が少しある。おりものは少ない。生理前はイライラ、お腹が脹って痛い、胸が脹って痛い。緊張しやすい。のぼせも少しある。冷え症がひどい、とくに腹部と臀部が冷えやすい。便秘気味。来られたときはちょうど、生理が終わったばかり。ご主人の精子は数が少ない、運動率がやや低い。
 舌質は淡でお点がある。薄白苔。脈は沈細脈、尺弱、というような状況。基礎体温は、二相性があり、高温期のラインは低い、ギザギザ、ガタガタしている。
 周期は割合に短い。月経の量も少ない。日にちも少ないのでこれは衝任血虚です。

症状分析
 ・月経周期25日、月経持続日数2〜5日経血量は少ない…衝任血虚
 ・初日に月経脹痛があり、血塊が少ない、月経前にイライラ、乳房脹痛…肝鬱気滞(緊張しやすい、ときにのぼせがある→少しの肝鬱化火)
 ・冷え症、とくにおなかと臀部が冷えやすい、おりものが少ない…腎陽虚、衝任虚寒
 ・やや痩せ、顔白無華、髪の艶が少なく白髪が少しある…血虚、腎虚
 ・やや便秘気味(1回/1〜2日)…気滞?
 ・淡舌、少しお点があり、薄白苔…血虚、気滞お血
 ・沈細尺弱…血虚、腎虚を示す

 初日のときに、生理の脹痛があって、生理前のイライラ、胸の脹りもあったので、これは肝鬱気滞です。のぼせも少しあるので肝鬱化火もある。
 冷え性、とくにお腹、臀部が冷えやすい、おりものも少ない、これは腎陽虚と衝任虚寒。まだ35歳なのに、髪の毛の艶が少ない、白髪も少し出ている。血虚、腎虚です。
 舌質からみれば、淡舌、お点がある。血虚と気滞お血がある。そして脈は血虚、腎虚を示している。
 弁証は衝任虚寒、肝鬱血虚。治則は温腎養血、疏肝理気。
 お尻からお腹から冷えがあるので、温経湯全量使い(補腎補血)、さらに当帰芍薬散(養血疏肝)も全量使いました。ちょうど生理が終わったところだったので、加味逍遥散(疏肝理気)は次回の整理の前に追加すればいいかなと思いました。
 2週間経って、冷えは改善されました。5日前に人工授精を受けた。そろそろ生理がくるので、加味逍遥散をちょっと追加しました。
 三診のとき、1回目の人工授精が失敗した。けれども排卵のときのおりものは少し増えてきた。とりあえず、同じ処方を使って、そして2回目の人工授精を受ける。間にちょっと風邪を引いて白っぽい鼻水がでているので、加味逍遥散を小青竜湯に変えました。
 2回目の人工授精も失敗に終わって、3回目の人工授精を受ける時に周期療法をしましょうと本人に勧めた。最初から勧めていたんですが、本人がちょっと面倒くさいから同じ処方を出してほしいといっていた。こうなると本人も、周期療法をやります、といわれました。
 高温期の時には、八味丸+加味逍遥散を全量で出しました。低温期の時には、当帰芍薬散+加味逍遙散を全量で出しました。
 3回目の人工授精も失敗して、すぐ4回目の人工授精を受けました。漢方治療を受けてから3カ月目あたりですね。高温期が続いて陰部の不快感があって、婦人科ではこれはカンジダ症だといわれて一時的処置を受けた。そのあと実は、妊娠につながった。九診のときは、もう第5週目になっていた。
 妊娠して本人も喜んで、ちょっとお腹に痛みがあるので、漢方は当帰芍薬散だけ、少量で養血安胎として使った。そのあと、腹痛もなくなって、食欲も出てきて、順調にいったので当帰芍薬散も止めた。
 漢方の治療、途中から周期療法に変わって、そして体外受精も合わせて約3カ月治療して妊娠したという症例です。

《まとめ》
 最後まとめになります。

 不妊症治療のまとめ
1.虚・実・寒・熱を見分けて弁証治療する
2.肝腎両虚、脾虚血虚は本となし、気滞・血お・痰湿は標とする。
  滋補肝腎・健脾養血→本治。理気・活血・→標治
3.ツボ療法と配合するとよい 三陰交、関元・気j海など
4.不妊症に薦める食材(養血、理気、活血、身体を温める)

 不妊症の治療は虚・実・寒・熱をしっかり見分けて弁証治療をすることが必要です。虚・実・寒・熱を見分けるには、患者さんの症状のほかに、舌、脈などの客観的なデータをぜひ使ってほしいです。
 ちなみに拙著 『[実用]舌診マップシート』 が昨年、東洋学術出版社から出ました。そのなかに寒、熱や虚、実などの代表的な舌のカラー写真が30枚載っています。もし弁証の参考になればうれしいと思います。
 そして滋補肝腎、健脾養血は本治。理気、活血、化淡は標治。
 不妊治療はぜひツボ療法と併用した方がいいです。たとえば三陰交、関元、気海など。
 あと、不妊症の体質改善のための食養生の指導をしてほしい。養血、理気、活血と身体を温める食材を薦めます。
 ちなみにこのマップシートの付録の小冊子のなかに、各タイプの患者さんのお勧めのツボとか食材を書いています。参考になればうれしいです。
 ご静聴ありがとうございました。

















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