ツボ療法3

メニエール症候群
 周囲がぐるぐるまわるように感じる回転性のめまいに、耳鳴りや難聴、吐き気、冷や汗などをともなうのが、メニエール病です。
 これらの症状のすべて、あるいは一部がみられる病気を総称して、メニエール症候群と呼ぶことがあります。
 メニエール症候群の発作が起こったら、首の天柱、風池、完骨、耳の後ろの竅陰などを指圧することで、だいぶ症状をやわらげることができます。とくにこれらのツボは、患者が自分で指圧できる位置にあります。落ち着いて、もむように押してみましょう。


半身不随患者の関節の運動
 半身不随患者は、手足のひきつりのためにまっすぐからだを伸ばして寝ることができません。しかも、ひきつったからといって同じ姿勢を長時間続けていると、ほかの病気を併発する原因にもなりかねません。患者が自分ひとりで自由に動くことができない場合は、介護者が数時間おきに患者のからだの向きや手足の位置を変える必要があります。
 患者の体位変換を介護者が正しくおこなうことが、患者の関節のひきつりや変形を防ぐことにもつながります。
  また、患者の手足の関節を動かす運動を介護者が手伝っておこなうと、からだの機能回復を早めるのに役立ちます。

@ひきつった手足をまっすぐにするには
あお向けに寝た患者の、まひしている側の肩を横に開き、腕とわきの間に筒状に丸めた毛布をはさんで固定する。まひしている側の足の裏には、ベッドや壁にもたせかけた板を当て、足が内側や外側に向かないよう、枕や毛布、座ぶとんなどで固定する。手にはタオルなどを握らせる。

A手の関節を動かす運動
介護者は、患者の手首を持って腕を伸ばす。患者が痛がらない程度にゆっくり少しずつ動かすのがコツ。最初はひじを押さえて前腕と上腕が直角になるまで動かし、次に押さえる場所を腕のつけ根に移し、腕をまっすぐに伸ばす。これをゆっくりとくり返す。ひきつってちぢまった手の指を1本ずつほぐして開いたり、手首をゆっくりとまわす運動を加えてもよい。

B足の関節を動かす運動
介護者は、患者の足首を持って足を曲げ伸ばす。患者が痛がらない程度にゆっくり少しずつ動かすのがコツ。最初は膝を押さえて徐々に足を曲げていき、ある程度まで曲げたら次に徐々に戻す。これを静かにくり返す。足首を押さえてつま先を外側に向けたり、足首をゆっくりとまわす運動を加えてもよい。


眠気をさましたいときは
 不眠症の治療をおこなって健康な眠りを取り戻すことは大切です。しかしその逆に、眠ってはいけない車の運転中や作業中などに、突然、眠気が襲ってきたらどうすればよいでしょうか。
 まずは運転や作業の手を休め、一人でできるツボ療法で気分をリフレッシュさせてみましょう。
 頭の百会、首の天柱、風池、目のまわりの睛明、瞳子リョウ、太陽などを指圧すると、とくに目をすっきりさせる効果があります。腰を軽くたたいたり、腎兪を親指で押したり、胸の鳩尾やみぞおちの巨闕を軽く圧迫するのも、自律神経の機能を整えて、眠けをとり、すっきりとさせます。


頭重をともなう場合には
 目が疲れてくると、首や肩がかたくこわばり、ひどい場合には、頭を重く感じて気分が悪くなってきます。とくに仕事中や乗り物の運転中にこうした症状が起こるとたまりません。そんなとき、症状をやわらげるための、自分でできる簡単なツボ療法を知っていると安心です。
 ポイントになるツボは頭の百会、首の天柱、風池などです。椅子に座って上半身の姿勢を正し、両手で自分の頭をかかえるようにして、もむように押し込みます。
 また、こめかみのマッサージも効果的です。仕事の休憩時間などに、さっそく試してみましょう。


肩こりをやわらげるマッサージ
 首から肩にかけてのこりがひどいときは、次のような手順でマッサージをおこなうとよいでしょう。まずはじめに治療者は、患者の首すじを、天柱の位置から大杼の方向へ向かって手のひらと指先を使ってさすります。
 次に大杼から肩先の方へ肩をつかむようにしてもんでいき、続いて肩甲骨の周囲を、手のひらでなでます。背骨に沿って腰のあたりまで丹念にマッサージを加えると、さらに効果的です。
 最後は、肩を軽くリズミカルにたたいたり、肩甲骨を手のひらで軽く押したりするとよいでしょう。たたくときは、げんこつをつくってはいけません。五本の指を軽く開き、手のひらの小指側のへりで、手首のスナップをきかせてたたくようにします。

@治療者は患者をうつぶせに寝かせ、首のつけ根から肩にかけてなでさする。それと同時に、ときおり肩をつかむようにして軽くもむ。
Aうつぶせに寝た患者の肩甲骨の周囲をさすり、仕上げに肩甲骨の上に手のひらをついて、軽く圧迫する。この場合は、あまり治療者の重心がかかりすぎないように注意する。


つき指の治療
 発症後はすぐに患部を冷やすこと。そして、指をしっかり伸ばし、しばらくは固定しておくことが大切です。
 痛みと腫れがおさまってきたら、つき指した指をつまんで軽くまわしたり、伸ばしたまま前後に揺らしたり手の甲全体をもんだりするとよいでしょう。
 これらを入浴時などにゆっくりおこなうと、回復が早まります。


消化不良のときは
 胃弱をはじめ、消化器系の機能がおとろえてくると、食べたものがうまくからだに吸収されません。そのため、個人差はありますが、ひどくやせたり下痢を起こしたりしがちになります。
 こうした障害を防ぐには、規則正しい食生活と適度な運動が大切です。さらに、背中の胆兪、脾兪、胃兪、腹部の天枢、足の三里などへふだんから指圧やお灸を続けていると、消化器系の機能が高まり、消化不良を起こさない体質への改善に効果があらわれます。ストレスが原因で起こる消化不良の場合は、背中の身柱の指圧も加えます。


便秘の家庭療法
 適度な運動と規則正しい食生活はもちろん、ふだんからよくおなかや腰をもんでおくのもよい方法です。就寝前に自分であお向けに寝ておなかをもめば、翌朝、健康なお通じが期待できます。
 また、洋式便座を使用しているときには、排便しながらおなかをさすったり、腰の後ろ側を押したりしていると、楽に排便ができるようになります。
 便秘がちの人は、便意を感じたらなるべく我慢せず、トイレに行きましょう。毎日時間を決めて、習慣的にトイレに行きましょう。毎日時間を決めて、習慣的にトイレに腰かけるのも、お通じをよくするコツです。


フケ・かゆみを防ぐには
 頭皮の清潔を保つことが最も大切です。しかしどんなにシャンプーをこまめにしても、フケが出てしまうことはよくあります。こんなときは、抜け毛の予防にならって、頭皮刺激を根気よくおこなうと効果があります。
 頭皮にはたくさんのツボが集中しており、まんべんなく刺激をしていれば、体調もよくなります。刺激の方法は、ほどほどのかたさのブラシでポンポンと軽く、頭全体をたたくのが最も簡単で確実です。


母乳の出をよくするマッサージ
 母乳の出をよくするマッサージをおこなうときは、あらかじめ温めたタオルで乳房全体をおおうなどして10〜15分ほど温湿布します。
 温湿布がすんだら患者をあお向けに寝かせ、乳房のまわりの各ツボをポイントにしてマッサージをおこないます。大まかには、乳房の上と下にそれぞれ半円を描くようにして手のひらでマッサージし、次に乳房の裾から乳頭に向かってなでもむようにします。それから乳頭を刺激し、背中のマッサージも加えます。所要時間は、温湿布の時間も含めて20〜30分ぐらいが適当です。

@乳房のふくらみの裾の部分を手のひらでマッサージ。左右の手でそれぞれ数回、半円を描くようにおこなう。それがすんだら乳頭の方向へ向かって乳房のふくらみを集めるようになでる。
A乳頭の方向へ向かって乳房のふくらみを集めるようにしてなでるときは、同時にわきの下や乳房の外側などもていねいになでる。それがすんだら次は両手で軽く乳房のふくらみをもむ。
B親指と人差し指で乳頭をつまんでもみ、引っぱったり振動させたりして刺激を加える。乳頭がすんだら乳房全体を振動させる。
C乳房の治療がすんだら患者のからだを横向きにして背中を軽くさすってマッサージを終える。この@〜Cを、片方の乳房のマッサージ1回分の基本手順とし、これを両方におこなう。


健康づくりに大切な百会・長強・湧泉のツボ
 頭のてっぺんにある百会、お尻の尾骨先端にある長強、足の裏の湧泉・・・・・。この三つのツボは、お年寄りの健康づくりにはもちろん、あらゆる人間の健康づくりを進めるうえで、とくに大切なツボです。
 人間の生きるエネルギーである「気」のすべてが集まるといわれている百会。強く長生きするという文字があてはめられた長強。そして「気」の湧き出ずる泉といわれる湧泉。東洋医学では、気の流れの活性化が健康づくりの主体であると考えられていますが、この三つのツボは、まさに気の流れの要所を押さえたものです。
 この三つのツボをときどき押したりもんだりして異常がなければ、からだは丈夫で健康といえます。つまり、頭のてっぺんからお尻の先、足の先まで、気の循環がからだのすみずみに行き渡っていることを、このツボで確かめることができるのです。
 逆に、ふだんからこの三つのツボをよく刺激しておけば、気の循環が活調になって、健康維持に役立ちます。



ツボ豆知識

自然の理をふまえた東洋医学と「陰陽五行説」
 ツボ療法に代表される東洋医学は、素朴な自然の理をふまえたものです。その根本には、自然界が大きく陰と陽の現象に分けられることをはじめ、すべての現象が陰陽どちらかに属しているという考えがあります。

基本となる「陰陽五行説」の自然観
 また、東洋医学の自然観として「陰陽五行説」があります。これは、自然界は植物、熱、土壌、鉱物、液体という五つの物質で構成されるとして、それぞれを木、火、土、金、水というように表現するものです。自然界のすべてのものはそのいずれかによって構 成されているとみなしているのです。
 人間も、この自然界に属する小自然のひとつであり、これらの自然観がそっくりあてはまると考えられています。つまり、からだの臓器にもすべて陰と陽があり、木、火、土、金、水のいずれかにあてはまるというわけです。
 自然界は、いつもうららかな日ばかりが続くというものではありません。雨が降ったり嵐が吹き荒れることもあります。これと同じように、人間のからだにも好調、不調があり、栄枯盛衰があります。こうした人間の状態を、あくまでも自然界の現象のひとつの姿 としてとらえるのが東洋医学の基本的な考え方です。また、それが西洋医学とはまったく異なん独特の視点を生み出したともいえます。

ツボ名の由来もこの自然観から
 ツボ療法で用いられるいろいろな効果のあるツボは、こうした考え方をもとに発見され、命名されてきました。ツボ名に陰陽の文字が使われていたり、池や丘、泉、谷などといった。木、火、土、金、水の五行のどれかに意味の通じる文字が使われているのは 、このような東洋医学の基本的な考え方に由来しているのです。また、木、火、土、金、水それぞれに順に角、徴、宮、商、羽の文字をあてはめたものを五音、同じように青、赤、黄、白、黒の色をあてはめたものを五色といい、これらを用いたツボ名も多くみら れます。


五行説から生まれた「五臓六腑」
 東洋医学では、陰陽五行の自然観を人間のからだにあてはめています。これによると陰は静なるもの、すなわち女性、陽は動なるもの、すなわち男性というように考えられています。
 からだの外の部分についても、手のひらや足の裏など内側の静的な部分を陰、手の甲や足の甲など外側の動的な部分を陽といっています。からだの中の部分では、生命をいとなむ主体となる「臓」というものに木、火、土、金、水の五行をそれぞれあてはめています。すなわち、自然界の木は肝にあたり、火は心にあたり、土は脾にあたり、金は肺にあたり、水は腎にあたるというわけです。そしてこの肝、心、脾、肺、腎の臓をまとめて五臓と呼んでいるのです。

臓腑の組み合わせで生命を維持
 しかし、人間の生命活動は五臓だけでなく、これを助ける存在がそろってはじめて順調におこなわれます。その助ける存在となるのが「腑」というものです。いうなれば、臓と腑のコンビネーションが整って、生命が維持されるということになります。
 たとえば、肝の臓に対する対する腑は胆とされています。「肝胆相照らす」ということわざは、こうしたところから出たものです。
 そのほか、心の臓に対する腑は小腸、脾の臓に対する腑は胃、肺の臓に対する腑は大腸、腎の臓に対する腑は膀胱となっています。

現代医学の臓器名は東洋医学に由来
 肝の臓、脾の臓などというとすぐ、現代医学でいう肝臓、脾臓そのものと受け取られがちです。しかし、東洋医学でいう臓腑と現代医学でいう内臓は、名称に同じ文字を用いていても、すべて同じものとは限りません。
 つまり、オランダの「解体新書」が現代医学の書物として初めて日本に入ってきたとき、これを翻訳した杉田玄白らが、ゼロから言葉を生み出すことはできないので、当時、日本で使われていた東洋医学の用事用語を使用したために、臓器と内臓には同じ文 字が用いられているというわけです。


「五臓五腑」と「六臓六腑」
 人間の生命維持にとって大切なからだのしくみを五行になぞらえたものを五臓五腑といいます。
 ところが、実はこの五つの臓腑のほかにも、東洋医学ではもうひとつ大切な組み合わせがあるとしています。

五行にあてはめないもうひとつの臓腑
 それは、心包という臓と、これに対する三焦という腑の組み合わせです。五臓五腑のひとつに心の臓がありますが、これは人間のからだの中でも一生、一定のリズムで動き続ける大切なものなので、これをしっかり包んで保護している袋があるはずだ、という考え方から名付けられたものが心包です。
 一方、三焦のほうは、三つの熱源という意味があります。これは、人間のからだは生命があるかぎり、外界がどんなに寒かろうが熱かろうがいつも一定のあたたかさがあるから、熱をつくるもとがあるのだろうと考えられて出てきたものです。
 これを五臓五腑にプラスして六臓六腑というわけです。

東洋医学の基本は六臓六腑の考え方
 この六臓六腑の考え方は、現代医学、西洋医学の体系とまったく異なるものです。つまり、東洋医学の体系は、ひとつひとつの臓器が解剖学的に実在するというよりも、「自然界における人間が、生命活動をいとなんでいくために必要な、複雑かつ微妙な機能のあらわれとして臓器がある」という考えのもとにあるのです。
 そして、人間のからだはすべて、この六臓六腑でコントロールされ、臓腑のどれかひとつでも機能がくずれると、からだの調子が悪くなって、いろいろな症状が起きてくると考えるわけです。


六臓六腑に対する「経絡」
 東洋医学では、「六臓六腑の機能が正常に保たれ、それぞれの調和がとれていることが人間の健康につながると考えています。反対に六臓六腑の機能と調和が乱れると、病気になりやすいというわけです。
 したがって、六臓六腑には、常にその機能を正常に保ち続けるためのエネルギーが循環していると考えられています。つまり、人間の六臓六腑へ通じるからだじゅうのあらゆる場所に、たくさんのエネルギーがめぐっていると考えているのです。
 そしてこのエネルギーの流れる道すじは、「経絡」と呼ばれています。経絡の「経」は縦の流れ、経脈を意味し、「絡」は横の流れ、絡脈を意味するもので、文字どおり頭のてっぺんからつま先まで、からだじゅうにエネルギーの流れがあることを示しています。
 さらに経絡の種類は六臓六腑の十二の臓腑の機能に関連してそれぞれに対応しており、臓腑の数と同じ十二の経絡があると定められています。すなわち、肺経、大腸経、胃経、脾経、心経、小腸経、膀胱経、腎経、心包経、三焦経、胆経、肝経の「正経十二経」といわれるものがそれです。それらは順番にそれぞれの臓腑を経たうえで、最後の肝の臓をめぐる肝経から肺の臓をめぐる肺経へと再び戻ります。こうして全体の流れがひとつに」まとまってつながるというわけです。また、六臓の経絡を陰、六腑の経絡を陽と区別しています。
 東洋医学で用いるからだのツボは、エネルギーの道すじにあり、それぞれの臓腑の機能に対応する経絡に沿って並んでいます。足のツボなのにおなかの症状に効いたり、手のツボなのに頭の症状に効く、という独特の効果は、臓腑に対応してからだじゅうをめぐる経絡と深い関係があるのです。


「正経十二経」と「奇経八脈」
 六臓六腑にはそれぞれの機能に対応した十二のエネルギーの道すじがあります。これは「経絡」と呼ばれ、東洋医学のツボ療法の考え方をすすめるうえで、大切なものとされています。
 からだじゅうの経絡をエネルギーが順調にめぐっていれば、人間のからだは健康に保たれることになります。しかし、そのエネルギーに過不足があると、健康は保たれにくくなってしまうと考えられているのです。
 そこで登場するのが、エネルギーの過不足を助け補う役割をもつもうひとつの道すじというわけです。これは、任脈、督脈、陽キョウ脈、陰キョウ脈、陽維脈、陰維脈、帯脈、、衝脈、の八つで、「正経十二経」に対し、「奇経八脈」といわれています。
 これらのうち任脈は、からだの全面中央、あごから腹部にかけての中心線を縦に走っています。また、督脈は、からだの背面中央、背骨の上を走っています。この任脈と督脈は、エネルギーの流れが過不足ないように循環器系の機能を調節しているものとして、とくに重要視されています。
 したがって「五経十二経」には、「奇経八脈」のうちからこの任脈と督脈が加えられ、十四経として、さらに重要なものと考えられています。
 そして、これらの経絡に沿って東洋医学の治療で用いる「ツボ」がからだじゅうに点在するというわけです。しかもその数は、一年すなわち一二カ月の日数になぞらえられ、全部で三百六十数個あるとされています。


からだのエネルギー循環を支える「気血」
 東洋医学における人間のからだの基本である五臓六腑には、その機能が正常に保たれるためのエネルギー循環が絶えず起きています。このエネルギーの通る道すじが「経絡」と呼ばれるもので、そこにはたくさんのツボ(経穴)が存在しています。逆にいえば、人間のからだに並んでいるツボの道すじは、からだを流れるエネルギーの道すじであるわけです。
 では、このエネルギーとは、具体的にはいったいどのようなものなのでしょうか。
「気」と「血」の流れは生命維持に不可欠
 そもそも東洋医学では、人間のからだには経路を通って「気」と「血」が流れていると考えています。この「血」は、血液とほぼ同じように考えてよいものとされています。一方、「気」のほうは、いまでいうエネルギー、活力といった意味で理解されるものです。これらは合わせて「気血」と呼ばれることもあり、気血こそが経路を流れる心身のエネルギーであるといえるのです。
 また、このエネルギーは、経路を川になぞらえると、水のように絶え間なく流れていることから、「経水」とも呼ばれています。
 こうした気血あるいは経水と呼ばれるエネルギーの流れは、現代医学の循環や神経系とはまったく異なるものです。しかし、東洋医学の見地からすれば、それは人間が生命を維持するために必要不可欠なものなのです。そして、どうすればこのエネルギーの流れをとどこおりなく順調にすることができるのかと考えられた治療法のひとつが、現代に伝わるツボ療法というわけです。


人間がもっている先天・後天二つの「元気」
 人間のからだの中には、「気血」あるいは「経水」と呼ばれるエネルギーの流れが絶え間なくあって、生命を維持していると考えられています。つまり、このエネルギーの流れが少しでもとどこおると人間のからだは健康を保てなくなって病気になってしまい、流れが止まると死に至ってしまうというわけです。
 したがって、この「気血」あるいは「経水」と呼ばれるエネルギーは、人間の生命力の源ともいえます。その順調な流れが六臓六腑の機能をコントロールして、人間のからだを健康に保っているのです。
先天の元気を補う後天の元気
 さらに、古代の東洋医学では、気血の「気」について次のような説明をしています。
 すなわち「気」には、人間が生まれながらにしてもつ「先天の元気」と、生まれた後に取り入れる「後天の元気」とがあるということです。「元気」は「原気」ともいいます。
 そもそも先天の元気は、父母から子へと受け継がれることから、生まれながらにして備わっているものとされています。そして、それはやがて、生後、体内に取り入れられた自然界のエネルギーが後天の元気というわけです。
 こうして先天の元気は後天の元気によって補われ、強められて、全身をくまなく流れるエネルギーとして、人間のからだの健康を維持していると考えられているのです。
 現代でも「気力でがんばる」「元気を出す」「気合を入れる」などと言うことがありますが、この「気」のもともとは、先天・後天両方の元気に通じんものといえるでしょう。


東洋医学の病気の概念と「邪気」
 東洋医学で考える健康の概念は、経絡にエネルギーがとどこおりなく流れ、六臓六腑が正しく機能することとされています。逆に、このエネルギーの流れと六臓六腑の機能に何らかの異常があれば、健康状態は保たれず、病気になってしまうといわれています。
 自然界の現像が、いつも穏やかな晴れの日ばかりではないのと同じように、人間のからだや心にも、雨の日や風邪の日などがあり、体調が崩れるようなこともある、というわけです。
病気の原因は七つの邪悪な気
 ところで病気の原因となるものを考える場合に、東洋医学では、「邪気」と呼ばれるものが登場します。邪は邪悪の邪を意味し、気は気血の気を意味します。つまり、この邪悪な気がからだの中に入ってくることによって、邪気が引き起こされると考えるのです。
 邪気の種類は自然界の現像になぞらえて、七つあります。すなわち、寒の邪気、暑の邪気、風の邪気、湿の邪気、熱の邪気、燥の邪気、火の邪気がそれです。
 たとえば「風邪」と呼ばれる風邪の邪気は、風門というツボからからだに入って人間に「かぜ」をひかせます。そして、これがどんどん風池というツボに池のようにたまり、風府という後頭部のツボに集まって、かぜをこじらせると考えられています。
 このようにからだのいったん入った邪気は、気の流れ、エネルギーの流れにまぎれて知らない間に人間のからだをめぐっているのです。そして、その流れがとどこおったときにどんどんたまって、病気や症状を引き起こすといわれています。
 これらの流れの道すじである経路には、ところどころ邪気のたまりやすいところがあるといわれており、それがツボ(経穴)というわけです。したがってツボ療法とは、こうしてツボにたまった邪気を取り除いたり、押し流したりすることで、病気や症状の回復・改善をはかろうとする治療法といえます。


病気の原因となる「内因・外因・不内外因」
 東洋医学の病気の概念のひとつに、からだの中に「邪気」が入ってい病気や症状を引き起こすという考え方があります。邪気は自然界の現像になぞらえたもので「寒・暑・風・湿・熱・燥・火」の七つがあり、科学的には気候や気温、湿度などの変動という「外因」として受け止めることができます。
 しかし、すべての病気と症状は、このような外因だけでひき起こされるものではありません。外因・内因・不内外因と呼ばれる三つの原因によって、さまざまな病気や症状が引き起こされるというのが、東洋医学の総合的な病気の概念なのです。
 人間のからだの機能には、いろいろな精神的・情緒的動揺が知らない間に影響しており、これが重なって、病気や症状が引き起こされる場合も少なくありません。そこで、この精神的・情緒的動揺による場合を、前述の邪気を「外因」としたのに対して、「内因」としています。人間の情緒的動揺を、主に「喜び・怒り・憂い・思い・悲しみ・驚き・恐れ」という七つに分け、七情の乱れと呼びます。東洋医学では、この七情の乱れを、病気の内因の主体として考えているのです。
 七つの邪気が「外因」、七情の乱れが「内因」となり、さらにそのほかに、内因にも外因にも属さない「不内外因」(暴飲暴食や過労など)があいまって、複雑な病気や症状が起きたり、こじれたりすると考えるのです。
 こうした病気の原因は、現代医学でいうウイルスや細菌類とはまったく異なる概念です。したがって、東洋医学では、感染症や激症の急性病を治癒させるのは困難です。
 しかし、季節の変わり目や気候の変化、精神的ストレスなどが原因で起こる病気と症状に、東洋医学の治療法が驚くほど効果をあげるのは、こうした概念から病気と症状を研究し、臨床経験を重ねてきたからなのです。


臓腑と経路は水道とホースの関係
 六臓六腑を結んで人間のからだをめぐっている主な経絡は、正経十二経に任脈と督脈を合わせて十四経あります。
 これはからだを流れる気血、つまり経水と呼ばれるエネルギーの道すじであると同時に、ツボの道すじでもあります。
 ツボは正確には経穴といいますが、別にからだに穴があいているわけではなく、経路の重要なところという意味をあらわしています。エネルギーの流れがとどこったり、さまざまな反応があらわれる場所と考えてもよいでしょう。
 経路とツボの関係を考えるときの最もわかりやすい方法は、それぞれの臓腑を「水道」、経路を「水道に接続したホース」と考えることです。
 水道から勢いよく流れ出た水は、ホースに異常がなければ勢いよく流れ続けます。しかし、ホースのある部分を押さえたり離したりすると、水は勢いが弱まって出にくくなったり、急に噴き出したりします。この水の流れにたとえられるのが気血、経水とも呼ばれるからだのエネルギーの流れです。そして、押さえたり離したりしていた部分がツボにあたります。
 したがって、体内に異常があって水の勢いに変化があるとき、おのずとツボに反応があれわれるので、逆に体内の異常を取り除くには、そのツボを刺激するとよい、ということになるのです。


正しくツボ療法を利用するために
 東洋医学のさまざまな概念と、長い歴史、数多くの臨床経験が生み出したツボ療法は、正しい知識のもとにおこなってこそ効果をあげられます。臓腑と経絡の関係や、多くの研究によって、どんな病気と症状のときにどのツボを使用すればよいかということが、現代ではツボごとにくわしくわかっているので、これを正しく理解することが、ツボ療法の第一歩になります。
 あるツボひとつだけを単独に刺激するだけで、すべて治ってしまうという病気や症状はなく、また、ある病気と症状にだけ用いて、ほかの病気と症状にはいっさい用いられないというツボもありません。いくつものツボが相乗作用で効果をあらわしたり、一見、幹部と無関係と思われる部位を刺激したら、実は経絡がつながっていて効果をあげたりする…。これがツボ療法の奥の深いところなのです。
 たとえば、さまざまな治療の際に、背中や腰の緊張をほぐす指圧を加えたりするのは、ツボの相乗作用を狙ったものです。
 また、ひとつの病気や症状の治療方法として、効果的なツボがいくつもあげられていることがあります。そんなときも、必ずしもすべてのツボに治療をおこなわなくては治らない、ということではありません。患者のからだの反応が出るツボを的確に選び、各人それぞれに合った治療をおこなうことが大切なのです。ツボに触れたときに、圧痛やひびくような感じがあっても、やがて患者自身が気持ちよく感じるような刺激をそこに与えることが重要なのです。
 正しい知識を得ることはもちろんですが、ツボ療法においては、知識と同じくらいに個人個人の差、個性を考慮した治療法が大切です。












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