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10組に1組 不妊に悩む
 子どもを望んで夫婦生活を行っても2年間妊娠しない場合を「不妊」という。不妊に悩むカップルは10組に1組とされる。一般的に35歳以上の女性は不妊症になりやすく、晩婚化などに伴い、不妊治療を受ける人は年々増えている。
 読売新聞は今年2〜3月、高度な不妊治療を行う施設として日本産科婦人科学会に登録している全国588医療機関に対して、昨年1年間の治療実績などをアンケートし、282施設(回収率48%)が回答。延べ妊娠数が50件以上の施設を掲載した(該当がない県は最も件数が多い施設)。
 不妊治療は、子宮筋腫や卵管閉塞など、原因と考えられる疾患が検査で見つかれば、薬による治療や外科治療を行う。明確な原因が見つからない場合は、超音波検査などで排卵日を予測し、当日か前後の性交を指導する「タイミング法」を最初に行うことが多い。
 男性の精子の数が少ない、動きが悪い、といった時に行われることが多いのが「人工授精」。射精によって取り出した精子を洗浄・濃縮し、子宮内に注入する。
 これらの治療で妊娠しない場合は、「腹腔鏡検査(手術)」を行ったり、「体外受精」など高度治療に進んだりすることが多い。
 腹腔鏡検査(手術)は、腹部に数ミリの穴を開け、内視鏡で腹腔内を観察し、子宮内膜症などの治療を行う。腹腔内を洗浄するため、妊娠率が上がるとされる。
 体外受精は、注射で取り出した卵子をシャーレに入れ、精子をふりかけて受精させ、培養器で数日間育ててから子宮に戻す。「顕微授精」は、状態の良い精子を一つだけ選んで卵子に注入し、やはり培養後に子宮に戻す。「凍結融解胚移植」は、体外受精や顕微授精によってできた受精卵をいったん凍結、子宮の状態の良い時を選んで融解して移植する。











減食による無月経を治療して結婚、妊娠した婦人
 木本多美子。未婚。月経がないから治してもらいたいといって、昭和54年10月27日に栃木県より来院。
 患者さんは中学1年(13才)のときに初潮があり、高校3年までは順調にあったが、やせようと思って食事を急に制限したために、月経がなくなってしまったという。
 ホルモン剤を内服すると月経はあるが排卵はない。漢方薬の当帰芍薬散エキスと実母散を飲んだという。
 身長162cm、45kgと、スマートでスタイルがよい。しかし、そのためにたいせつな子宮と卵巣の機能を台なしにして、月経がなくなっている。これでは健康な女性とは言いがたいと思う。
 食事をすると腹が張り、眠くなる。便通は1日1回あるが、小水は回数が多くて日中は10回、夜間1〜2回で、1回量は少ない。冷え症。脈は弱く、腹診すると下腹部が突っ張っている。乳房と乳頭も勢いがなく、未熟である。
 無月経、未熟な乳房から考えて、まず当帰芍薬散を与えようと思ったが、「食後眠い」という点に目をつけ、胃腸機能の衰えた虚証(漢方では脾胃の虚という。)であると勘案し、胃腸に活力をつける人参を主薬とする四君子湯を与えて体をつくり、そのあとで当帰芍薬散を投与しようと二段階の方法を計画した。
 そこでまず四君子湯を与えた。冷え症であるため附子を加味する。この薬方をつづけて8カ月間服用して11月13日来院。体調がよくなり、食後眠いという症状もなくなっていた。
 そこで月経異常をポイントに、当帰芍薬散に変えた。これをつづけて4カ月間飲んで、翌55年4月に鼻血が出るようになった。この鼻血は月経が始まるきざしとしての代償月経である。
 さらにつづけて3カ月間服薬すると、ついに月経があるようになった、という連絡があったので、もう少しつづけて飲むように指示した。その後、何の音さたもなかったが、1年たった56年8月4日に、「前年11月1日に結婚し、現在妊娠2ヵ月でつわりがひどい、漢方薬を送ってください」という電話が入った。
 さっそく、小半夏加茯苓湯を送る。その後順調に経過し、57年3月18日に男子(3440g)を無事分娩した。
〔漢方的考え方〕
 若い女性は、スタイルを気にして無理な食事制限をする人が多い。この婦人もその一人で月経までなくしてしまった。つまり、減食により脾胃が虚してしまって、子宮・卵巣の機能不全をきたしたのである。
 脾胃が虚になっている場合は、血行をよくする薬方よりも、脾胃に活力をつける薬方が必要となる。
 『脾胃論』という医書に、中国の名医、李東垣は「婦人脾胃久シク虚シ、気血トモニ衰エテ経水断絶シ行ラザルコトヲ致ス」と述べている。
 婦人の脾胃(今日の胃、膵臓、脾臓をさす)が長く虚してしまうと、気血がともに衰えて月経がなくなってしまう、と東垣が述べているように、この患者さんは全くこのとおりの症状であった。
 それで、まず脾胃に活力をつける四君子湯を与えて体力を充実させ、次いで血行をよくする薬方である当帰芍薬散を用いて、無月経を治した。
 この患者さんも、婚前の無月経を治して結婚し、無事愛児を得た症例としてあげた。


子宮発育不全で月経不順に悩む婦人が妊娠に成功
 日田清子。26才。結婚歴2年6カ月。昭和52年10月1日初診。神奈川県から来院。
 月経が不順で、だらだらと10日間もつづき、基礎体温は2ヵ月に1回高温期がある程度。婦人科にかかり、ホルモン剤を飲むようになってからは、服薬しないとその高温期もこなくなり、低温期がつづくようになったという。婦人科で、子宮発育不全と言われ、薬を飲むと月経時に痛むという。冷え症である。
 身長156cm、体重43kg。脈は弱く、腹診すると腹直筋が突っ張っている。
 そこで、腹直筋の緊張から考えて、当帰建中湯を与えた。冷え症があるため附子を加味。50日分服用したあと、11月25日に電話があり、妊娠2カ月とのうれしい知らせがあった。
 流産防止のため当帰芍薬散を服薬して、翌53年7月1日に女子(2590g)を分娩した。
〔漢方的考え方〕
 当帰建中湯は、婦人の血虚、貧血を治す漢方で、腹直筋が緊張している場合に用いる。
 これを用いるヒントは『金匱要略』に記述してある。それは、
 「婦人産後、虚るい不足、復中刺痛止まず、あるいは少腹中急、摩痛に苦しみ、腰背に引き、食欲する能わざるを治す」と。
 この患者さんは「産後」ではなく「産前」であったが、虚るい(虚弱)で少腹中急(腹直筋の緊張)しているのを目標に用いた。すると血行がよくなり、卵巣機能が回復し、短時日の服用で妊娠に成功したのである。


冷え症、肩こり、貧血を治して妊娠
 小林寿美子。30才。結婚して2年になるが子宝に恵まれないといって、昭和55年11月10日に来院。
 C大学病院で夫婦そろって検査を受けたが、夫も本人も異常はないと言われたという。また、きょうまで1年間、当帰芍薬散を服用したけれども効果がなかったともいう。
 月経の周期は順調であるが、冷え症で、肩がこって、疲れやすいタイプ。
 身長150cm、体重45kgで、脈は弱く、腹診すると軟弱無力で、乳房が陥没している。
 まず、妊娠を促す当帰芍薬散を与えて様子を見ようとおもい、いま一度患者さんの顔をみると、顔色がすぐれない。普通の貧血顔ではなく、もう少し青白味を帯びた貧血顔で、さえない。
 この顔色、疲れやすい点、軟弱無力の腹証などから考えて、加味帰脾湯を投与。この薬方を42日間服用して、12月22日に来院。顔色が非常によくなっていて、下腹部があたたかい。本方をそのままつづけて服用させる。
 すると、1カ月たった翌年1月26日に来院。顔色が非常によくなっていて、下腹部があたたかい。本方をそのままつづけて服用させる。
 すると、1カ月たった翌年1月26日に来院し、「妊娠しました。分娩予定日は9月25日で、現在つわりです」というので、小半夏加茯苓湯を投与する。
 その後何の連絡もなかったが、1年たって57年2月21日に、次にような便りが届いた。
「立春を過ぎたとはいえ、まだまだ寒い日がつづいております。先生には漢方薬でたいへんお世話になりましたのに、育児に追われ、ご報告が遅れて申し訳ありません。9月25日(昭和56年)が予定日だったのですが、妊娠中毒症のため、40日早く、8月14日に帝王切開で生まれました。1824gと小さかったのですが、順調に体重もふえ、無事6カ月を迎えました。女の子です。私も異常なく、元気です。薬を飲み始めてこんなに早く妊娠できたのも、先生のおかげだと、夫婦ともども感謝しております。ほんとうにありがとうございました。」と。
〔漢方的考え方〕
 この患者さんは、大学病院で不妊の治療に成功せず、妊娠を促す当帰芍薬散を1年間服用しても成功しなかったのが、加味帰脾湯をわずか40日間服薬しただけで妊娠した。
 加味帰脾湯の妊娠例は少ない。矢数道明先生が、4回も早産してすっかり貧血に陥り、衰弱した主婦に帰脾湯を3週間与えて妊娠に成功した症例を、『臨床三十年・漢方百話』に記載されている。
 いまから750年前の中国の宗時代に、陳自明という著明な漢方医学者がいた。彼の『婦人良方大全』という産婦人科の専門書に、次のような症例が書いてある。
 「漢学者銭思習先生の夫人は30余才であるが、月経不順で、何年も子宝に恵まれない。そこで、銭先生は著明な婦人科医である陳先生を訪ね、夫人に子どもが授からないから、第二夫人をめとりたいと相談された。陳先生は言われた。『夫人は鬱怒して肝脾が破られて月経が不順であるのだと考えられます。そこで、加味帰脾湯と逍遥散の二方を服薬されれば必ず治癒して受胎されるでしょう。第二夫人をめとる必要はありません』と。はたして翌年、夫人は妊娠し、子どもが授かった」と。


※真武湯
 虚弱な体質を改善して、あきらめていた子どもまで得る

 村田京子。25才。昭和48年2月1日初診。右の脇腹が重苦しくて、油っこいものをとると下痢しやすいといって来院。
 5年前から慢性胆嚢炎と胃炎でG病院に通っているが、よくならないといい。また子宮発育不全でこどもも生まれていという。月経は不順で、量も少なくて2日しかなく、しかも痛みがある。
 カゼをひきやすく、貧血ぎみで冷え症。下痢をするのに油もの、肉類を好み、湯茶をよく飲む。
 身長155cm、体重45gk。脈は弱く、腹診してみても特別の所見はない。脇腹が重苦しいというが胸脇苦満の腹証もない。
 胆嚢炎と脇腹の重苦しい点を考えて、小柴胡湯を与えた。冷えがあるため附子を加味する。その後、3月24日に来院し、まだ下痢するという。そこで真武湯に転方。
 2カ月後の5月25日に来院し、まだ下痢するという。そこで真武湯に転方。
 2カ月後の5月25日に来院し、下痢は止まったが右の脇腹の重苦しさはとれないというので、小柴胡湯に戻す。
 ところが、6月26日に来院し、また下痢が始まったという。再び真武湯の粉末を与える。7月26日に来院し、粉末では効かないと訴える。煎薬を投与。その後引きつづいて服用する。
 翌49年4月26日に来院し、おなかの調子がよくなったので、子どものことはあきらめていたが、なんとかしてほしいと懇願された。
 そこで妊娠を促す当期芍薬散を与えたところ「3日間飲んだが、たちまち胃腸の調子が悪くなってしまい、とてもつづけられない。前の薬がよかった」という。真武湯を投与。この真武湯が効いたのであろう。7月2日に「妊娠したらしいけど、この薬をつづけてよいですか。分娩予定日は来年2月です」といううれしい知らせがあった。妊娠中もずっと飲むように指示した。
 11月26日に来院。妊娠8カ月でおなかがだいぶ大きくなっている。食欲がないというので、六君子湯を与える。その後順調に経過し、50年2月16日に男子(2800g)を無事分娩した。
〔漢方的考え方〕
 神経質な婦人であったが、真武湯で胃腸に停留していた水毒をとり去って、胃腸に活力をつけ、その結果、自然と妊娠できる母体を築いたのであろう。
 胃腸と子宮・卵巣は深い関連があることが、この症例によってわかると思う。


※半夏瀉心湯
 みずおちのつかえを解消して妊娠
 藤田祐子。34才。結婚して6年になるが、子どもができないといって、昭和52年9月27日に埼玉県から来院。
 月経の周期は不順であり、基礎体温は高温期が短く、低温期が長い。月経痛があり、寒がりの冷え症。
 常に胃が重苦しくて、みずおちに痞えを感じ、肉食すると下痢するという。食欲、大小便ともに普通である。
 患者は、身長152cm、体重52kgの中肉中背型。脈は平で、舌をみると少し白苔がついている。腹診すると、みずおちの部分に抵抗感(痞え)があってかたい。
 そこで、舌の白苔とみずおちの痞えを目標に、半夏瀉心湯を与えた。
 2週間後の10月11日に来院して、胃の症状がおちついてという。腹診してみると、みずおちはまだ痞えているが、不妊症によく用いる当帰芍薬散を与える。
 ところが、それから2カ月ほどたった12月14日に、患者さんからの紹介だといって、その友人が来院し、「藤田さんは妊娠なさいましたよ」という。計算してみると、妊娠を促す当帰芍薬散を与える前、胃の薬である半夏瀉心湯を服用している間に、妊娠したものと思われる。
 翌53年6月17日に男子(2600g)を分娩した。
〔漢方的考え方〕
 これは、胃の状態が悪くて6年間も不妊だった婦人が、半夏瀉心湯で胃の痞えを解消しただけで妊娠した症例である。
 胃腸と子宮・卵巣が密接な関係にあることが、この症例からよくわかる。これが偶然のことではないのは、次の例を見てもわかるであろう。

胃のつかえを治して結婚5年目に愛児を得る
 山本文枝。30才。結婚して4年2カ月になるが、子宝に恵まれないといって、昭和54年7月13日に茨城県から来院。
 月経は32〜33日目にあり、7日間つづき、痛みがある。基礎体温は、高温期になるときだらだら上がるという。子宮内膜症と黄体機能不全がある。夫は精液の検査をしてもらったが、量、数とも異常なしとのことである。
 慢性の胃炎があるためか、神経質。冷え症で、ときどき下腹部が張ったり、腹が鳴ったりするという。
 食欲は普通で、甘いものを好み、湯茶はあまり飲まない。便通は1日1回、小水は日中5回、夜間に1回起きる。
 身長152cm、体重46kgの中肉中背で、脈は弱く、腹診すると軟弱無力で弾力がない。
 まず当期芍薬散を与えて、様子をみることにした。冷え症のため附子を加味する。
 本方を50日間服薬して、9月22日に来院。胃の調子が悪いという。舌を見ると白苔がべっとりとついている。腹診すると、みずおちの部分が痞えてかたい。
 そこで、白苔とみずおちの痞えを目標に、半夏瀉心湯を与える。
 この薬方を60日間服用すると、胃の調子がよくなり、そのうえ、月経の周期が28日型になって正常化してきた。いよいよ妊娠の可能性が出てきたわけである。
 意を強くして、同方をつづけて与える。すると、翌年の2月9日に、「現在妊娠3カ月の初めでつわりがあり、分娩の予定日は9月20日です」という電話があった。さっそく小半夏加茯苓湯を送る。
 初診から1年2カ月目の55年9月20日、予定日より12日遅れて男子(3600g)を分娩した。
〔漢方的考え方〕
 幕末から明治初期にかけての名医、山田椿庭の『椿庭先生夜話』に、興味ある一文が記載されている。
 「経閉の婦人ありて、心下痞甚し。経閉はあとにして、まず痞を治すべしと案じて、半夏瀉心湯を投ずるに、痞、解するに従って、経ちまち来れり」と。
 この患者さんは、初診時から慢性胃炎のあることを承知していたが、症状が軽いと診断したので、受胎を目標として当帰芍薬散を与えた。ところが胃の不調を訴えたので、みずおちの痞えをポイントに、胃の薬である半夏瀉心湯を投与した。
 その結果、みずおちの部分で痞えていた気が上下に通ずるようになって、月経の周期が順調になり、妊娠したものと考えられる。
 この症例からわかるように、胃と子宮・卵巣とは非常に密接な関連があると言ってよいと思う。


みずおちから脇腹にかけて張るタイプ  ●柴胡型

※柴胡桂枝湯
 胃の不調を治して妊娠に成功

 土屋好子。28才。結婚して1年半になるが妊娠しないといって、昭和50年4月24日に横浜市から来院。
 常に胃が重く、刺すような感じがあり、背中が痛み、げっぷが出て吐き気がするという。月経は不順で、痛みが少しあり、冷え症である。食欲はまあまあだが、食事は辛い物を好み、飲み物を多くとるという。便通は2〜4日に1回しかなく、小水は普通である。
 体格は身長163cm、体重50kgで、脈は弦。腹診すると軽い胸脇苦満があり、腹直筋が少し緊張している。腹診の結果、柴胡桂枝湯を与える。冷えがあるため附子を、便秘を治すため大黄をそれぞれ加味する。また食事は辛い物を禁じ、飲み物も減らすよう指示した。
 約1年間、本方を飲みつづけていくうちに、いろいろな症状が軽くなり、初診後11カ月目の51年3月26日に母親が来院して、妊娠3カ月であるとのうれしい報告があった。
 現在つわりが少しあり、せきが出るということなので、つわり止めに小半夏加茯苓湯、妊娠咳に麦門冬湯を与えた。
 6月23日に本人来院。食欲がなく疲れているという。10月27日が分娩予定日とのこと。体全体のことを考慮して、十全大補湯を投与する。本方を90日間服用して、10月25日に女子(3045g)を無事分娩した。
 〔漢方的考え方〕
 この症例では、胸脇苦満と腹直筋の緊張を柴胡桂枝湯によって解消したことが、胃腸症状を円滑にし、それが妊娠しやすい方向へプラスに働いたものと思われる。西洋医学が、妊娠に関して子宮や卵巣、卵管など、生殖器といわれる面だけを重視するのに対し、漢方では、患者の体全体を総合的にとらえて治療していくという点を、この症例はみごとに証明している。


※小柴胡湯合当帰芍薬散
 ステロイド療法による副作用を克服して妊娠

 浦田しのぶ。29才。結婚歴6年。昭和52年8月26日初診。結婚後2カ月で妊娠したが、40度のリウマチ熱のために中絶。それから半年ほどたつと、全身に紫斑ができ、ステロイド療法を今日まで5年間つづけているが、子どもがほしいといって、長野県から来院。
 本人は顔や手足がほてるのに、貧血ぎみであるという。全身がだるく、肩がこり、口が渇き、頭が重いともいう。
 月経周期は27日型で順調であるが、月経痛があり、中間出血があるという。
 身長152cm、体重40kgと小柄で、顔色はすぐれず、脈は弱い。乳頭は小さく、生気がない。腹診すると胸脇苦満があり、下腹部は軟弱である。
 望診、脈診、腹診の総合診断の結果から、小柴胡湯と当帰芍薬散をいっしょに合わせて与えた。
 2ヶ月間服用すると、不正出血がなくなり、月経痛も解消。なおもつづけているうち、12月6日に、「妊娠2カ月半でつわりです」といううれしい便りが来た。さっそく、小半夏加茯苓湯を送る。その後流産防止のために当帰芍薬散を服用し、翌53年7月19日に男子を分娩した。
 54年2月3日に、「予定日より2週間早く、53年7月19日に男子を出産いたしました。体重2100gの未熟児でしたが、6カ月の現在、7300gと順調な成育です。」という便りが届いた。
〔漢方的考え方〕
 この患者さんは、貧血ぎみといい、全身がだるいといい、不正出血があるという。これらは、5年間のステロイド療法によって、女性ホルモンの分泌異常が起こってるためではないかと考えた。そこで、小柴胡湯によって脱ステロイドを行い、同時に当帰芍薬散による治療を行ったのが効を奏して、妊娠、分娩へと無事運んだのであろう。


※小柴胡湯合大黄牡丹皮湯
 不順な月経を治して結婚12年目に妊娠
 
 八田喜美子。32才。代議士秘書。結婚歴8年。昭和55年2月4日初診。
 患者さんは私と同郷の薩摩(鹿児島県)の生まれで、知人の紹介で来院。これまで大学病院をはじめいろいろな病院で治療を受けたが、一向に妊娠しないという。
 身長157cm、体重55kg。一見健康そうで体格もよい。しかし月経は1年に数回しかなく、基礎体温も、排卵誘発剤を使用すると二相性になるが、使用しないと高温にならない。それで現在も使用している。月経痛がある。
 また、便秘のせいか、くびや肩がこり、足がだるく、むくむという。職業柄か腰も痛む。診察すると、脈は平、腹診の所見は左右の下腹部に抵抗と圧痛を認める。
 この下腹部の抵抗と圧痛から、桂枝茯苓丸と大黄牡丹皮湯が考えられたが、腰の痛みを目標に、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を与えてみた。便秘があるので大黄を加味する。
 2週間飲んでとても飲みにくいという。やはり最初の見立てどおりであったかと、桂枝茯苓丸料に転じた。もちろん大黄は加味した。この薬方を50日間服用して、5月10日に来院。状態はあまりかんばしくなく、相変わらず排卵誘発剤を使用しているという。
 腹診すると、下腹部に脂が乗っている感じがあるが、妊娠を促す当帰芍薬散に切りかえてみた。2ヵ月間服用してそれきり来院しなくなった。
 ところが、翌56年5月19日にもう一度漢方薬を飲みたいとやってきた。実は最近、月経の期間が長くなり、ことし2月からないと不安そうに訴える。
 くびや肩がこり、足がむくみ、便秘などは去年と変わらず、そのうえ2kg太っている。腹診すると、去年はみられなかった胸脇苦満と右下腹部の圧痛を目標に、小柴胡湯と大黄牡丹皮湯とを合わせて用いた。4週間服用して6月20日に来院。2月以来初めて月経が5日間あったと喜ぶ。これはよいきざしだと励まして、同方を与えた。さらに7月21日に来院して、今月も昨日から月経が始まったという。引きつづき同方を1ヵ月分投与した。
 すると12月11日に電話があり、「妊娠4カ月です。分娩予定日は来年の7月1日」と、はずんだ声で伝えてくれた。同月22日にご主人が流産止めの薬をもらいに来て、次のような感謝の言葉を述べた。
「先生、10年ぶりに妊娠できてうれしいです。正直言ってはじめは漢方を疑っていましたが、その威力に驚きました。大学病院をはじめ、いろいろな病院にかかってだめでしたので、あきらめていたものですから・・・・・ 先生のところも一度はやめようかと考えたのですが、思い直して飲んでみてほんとうによかったと思います。故郷の父母たちも涙を流して喜んでくれました。ほんとうにありがとうございました」と。
 流産止めの当帰散を服用し、57年6月23日に男子(3268g)を自然分娩した。
〔漢方的考え方〕
 一般に不妊や月経不順に悩む婦人は、体の衰えている虚のタイプが多い。この場合は当帰芍薬散で補う処方を用いる。ところがこの患者さんは、体格がよく、左右の下腹部に抵抗と圧痛のみられる実のタイプである。この場合は、桂枝茯苓丸か大黄牡丹皮湯で瀉(排泄)する処方を用いるべきである。

 それにもかかわらず、最初、一般によく用いる妊娠を促す当帰芍薬散を与えて補ったところ、効果がなく、患者さんは来院しなくなった。ところが、大黄牡丹皮湯に転じると月経が順調になり、まもなく妊娠した。いま考えると、最初から大黄牡丹皮湯で瀉すべきであったろう。このように、当帰芍薬散で補うべきか、いつも悩まされているのが臨床家である。
 大黄牡丹皮湯で妊娠した症例が、明治初期の名医、尾台榕堂の『方伎雑誌』という医書に次のように記述してある。「月経の止まった婦人に、この薬方を与え、20日間お血が下がった後、妊娠し一子を挙ぐ」と。


※大柴胡湯合桂枝茯苓丸
 肥満を治し体調をととのえ、流産癖を克服して妊娠

 川井智恵子。27才。結婚歴1年6カ月。昭和53年11月10日初診。
 52年5月に結婚して、同年12月と53年9月にそれぞれ3カ月で流産している。この習慣流産を治して、ぜひとも子どもがほしいといって、埼玉県から来院。
 初潮は13才のときだったが、20才前後から月経がなくなり、漢方薬を飲むようになってから、再び月経があるようになった。しかし、現在も月経不順で、2カ月に1回ある程度である。基礎体温は高温期が短く、低温期が長い。肩がこり、汗かきで冷え症。怒りっぽいたちである。
 身長155cm、体重66kgの肥満体である。脈は弦で、腹診すると胸脇苦満の症状が強く、右下腹部にお血の圧痛点を認める。 
 望診、脈診、腹診の総合診断の結果から、大柴胡湯合桂枝茯苓丸を与えた。
 1ヵ月間服用して、12月23日に来院。月経が7日間あったという。それは薬が効いた証拠であると話し、引きつづいて両方を投与する。患者さんは毎月来院し、この薬方を1年間服用。すると月経は1カ月ごとにコンスタントにあるようになったが、体重は減少しない。
 55年1月22日の腹診で、胸脇苦満の症状が少し軽くなっているので、小柴胡湯に転じ、下腹部が冷たいので、妊娠を促す当期芍薬散を合わせて投与する。2カ月間服ようして、4月2日に来院し、前の薬のほうがのみやすいというので、大柴胡湯合桂氏茯苓丸料に戻した。
 1カ月間服用して5月7日に来院。この薬方は飲みやすいという。下腹部がなんとなくあたたまっている。よいほうに向かってきたことを話し。つづけて服用するよう指示する。
 すると間もなく、8月29日に、妊娠4カ月とのうれしい電話が入った。その後順調に経過し、56年3月12日に男子(3940g)を分娩した。
 〔漢方的考え方〕
 なんといっても肥満はいけない。体内に余分の脂肪、その他不純物が蓄積して、体調をくずす原因となっている。漢方では、これらを除く漢方の代表が大柴胡湯であり、桂枝茯苓丸料である。この患者さんは、この二つの薬方を合わせたものがぴったり体質に合ったのであり、その効果が妊娠という形で証明されたのである。
 大柴胡湯の妊娠例について、江戸時代の名医、和田東郭は『薫窓雑話』に、「一婦人久しく孕を受けざりしを、その脈、腹を詳らかにして大柴胡湯を用いるたるに、やがての中に妊娠したる事あり」と述べている。


のぼせるタイプ、汗が多いタイプ、膀胱炎を繰り返すタイプ  ●気水型

※桂枝加竜骨牡蛎湯
 疲れやすく、ふけの多い女性が流産壁を治して妊娠
 
 石崎裕美。26才。結婚歴5年1カ月。昭和55年11月26日初診。結婚歴2年目に女子を分娩。その後、流産を繰り返すこと3回。この習慣流産を治して、もう一人子どもがほしいと、Y新聞の記事を読んで、石川県から上京、来院した。
 月経の周期は順調で、基礎体温は高温期、低温期の二相性、冷え症である。顔色がすぐれず、疲れやすく、カゼをひきやすい。そして、ふけの多いたちである。
 身長152cm、体重42kgで、脈は弱く、腹診すると腹直筋が突っ張っている。
 そこで、すぐれない顔色、腹直筋の突っ張り、ふけのある点を考え合わせて、桂枝加竜骨牡蛎湯を与えた。冷え症があるため、附子を加味する。この薬方を2ヵ月間服用して、翌年2月に次のような便りが届いた。
「1月中に一度伺いたかったのですが、雪のため電車が普通になり、2月にと思っていましたら、先生のおかげで妊娠し、2月5日の現在で2カ月半です。いままで流産を3回しておりますので、よろしくお願いいたします」と。
 さっそく、流産止めと安胎の効果のある当帰散を送る。
 その後順調に経過し、流産することもなく、56年10月3日に男子(3240g)を無事分娩した。
〔漢方的考え方〕
 桂枝加竜骨牡蛎湯は、男子の不妊症に用い、しばしば成功している。女子に使うことはめったにないが、証に合えば効果のある事を、この症例は証明している。
 この薬方を用いるヒントは、『金匱要略』に次のように書いていある。
「それ失精家は、小腹弦急し、陰頭寒く、目眩し、髪落つ。桂枝加竜骨牡蛎湯これを主る」と。遺精早漏の人は、下腹部が突っ張っていて、亀頭が冷たく、めまいがし、髪が抜ける。こういう場合は、桂枝加竜骨牡蛎湯がぴたり治療効果があるという意味。
 この患者さんの場合は、腹直筋の突っ張りを「小腹弦急」とみ、ふけの多いのを「髪落つ」とみて、桂枝加竜骨牡蛎湯を与えて成功した症例である。
 流産止めに効果のある当帰散も、これを用いるヒントはやはり『金匱要略』に書いてある。
「婦人妊娠、常に服するに宜し。当帰散これを主る。妊娠常に服すれば、即ち産を易くし、胎に苦疾なし」と。


冷え症、腹部に動悸のある症状を治して妊娠
 滝洋子。30才。結婚歴9年半。昭和56年3月24日初診。結婚の翌年に男子を分娩したが間もなく事故により死亡した。その後人工流産1回。どうしても子どもがほしいといって、埼玉県から来院。
 月経の周期は順調であるが、子宮後屈があるために腰が痛むという。寒がりで冷え症。そのほかにくびがこり、目が疲れて立ちくらみするという。
 ふけが出やすいたち。食欲は普通で、塩辛い物と好む。便通は3日に1回で、小水は1日に5〜6回程度。
 身長160cm、体重46kgで、脈は弱く、腹診すると下腹部が突っ張っていて、へその上部に動悸がふれる。
 これまでに顆粒の当帰芍薬散を飲んでいたという。下腹部の緊張、動悸、冷えを目標に、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を与えた。冷えと便秘があるので、附子と大黄を加味する。
 2週間服用して4月8日に来院。早く子どもができないかとあせってノイローゼぎみ。下腹部の緊張、動悸、ふけにポイントをおき、ノイローゼぎみの点を考慮して桂枝加竜骨牡蛎湯に転方した。
 この薬方を2週間服薬して4月21日に来院し、この薬は飲みやすいというので、そのままつづけて与える。
 5月20日に来院。月経の前後に腰が痛むという。子宮後屈のためであろうと思い、桂枝茯苓丸を投与。
 すると、6月12日に来院し、妊娠2カ月であるという。最終月経は5月3日であった由。
 子宮後屈がひどいために流産のおそれがあると言われたので、流産止めのよい漢方薬がほしいと訴える。
 腹診すると、腹直筋が緊張している。そこでこの緊張をポイントに、当帰建中湯を与え、一方では流産防止のために当帰散(当帰芍薬散とは違う薬)を与え、交互に服薬するように指示した。
 その後順調に経過し、流産することもなく、57年2月4日に女子(3200g)を無事分娩した。
〔漢方的考え方〕
 この患者さんは最終月経が5月3日であるから、妊娠は5月17日ごろと推定される。そのころは、逆算してみると、桂枝加竜骨牡蛎湯を40日分飲み終わったころである。
 この薬方は男子不妊症に用いられるもので、『金匱要略』にそのポイントを記述してあるが、これは前例に述べたとおりで、この患者さんは、下腹部の緊張を「小腹弦急」、ふけの出るのを「髪落つ」とみて、これを用いた。
 不妊というものが、すべて子宮・卵巣などに原因があると考える西洋医学は、この症例をみて一考を要すると思う。この症例は、局所よりも全体像をつかむ漢方治療の特徴を示したものであろう。


7回も人工授精を試みた夫婦が、ともに治療して愛児を得る
 大林由美。24才。結婚歴4年6が月。昭和51年10月2日初診。これまで夫婦間で7回も人工授精を試みたが、子宝に恵まれないといって千葉県から来院。
 患者さんは、子宮が小さく、発育不全であり、それに月経が狂い、基礎体温も高温期、低温期がはっきりしないという。ひ弱なタイプで、顔は細くて色が白い。冷え症で立ちくらみがあり、肩こり、頭痛持ちで、胃も弱く、ガスがたまりやすい。食事は普通にとるが、飲み物をよくとり、果物も多くとる。大便は1日1回だが小水は近いという。
 ひ弱なタイプ、色白、冷え症、立ちくらみにポイントをおいて、当帰芍薬散を与え、胃弱のため人参、ガスを取るために蜀椒、冷え症のために附子を加味。それから、飲み物と果物を少し減らすように指示した。
 本方を5か月間服用しても妊娠しないというので、夫も診察してみようということになった。翌52年3月12日に、夫がひとりで来院。見ると顔色がすぐれない。これは、「男子面色薄キ者ハ、亡血ヲ主ル」(『金匱要略』の亡血(貧血)の顔色だ、虚労の男子だと思った。
 精子数を聞いてみると、1000万で、運動率は60%という。精子数は、1ml中8000万から1億が正常値、1000万以下は絶対不妊値、1000万から4000万は比較的不妊値といわれている。この患者は1000万であるから、妊娠は望めない数値である。
 体格は中肉中背のタイプで、脈は弱く、腹診すると腹直筋が突っ張り、下腹部がかたい。ふけがよく出るという。
 すぐれない顔色、ふけ、腹直筋の緊張などを考慮して、「虚労」と診断し、桂枝加竜骨牡蛎湯を与えた。
 こうして、夫婦ともども1年ほど服用をつづけているうち、53年4月には、夫の精子数が4倍以上ふえて4500万となり、運動率は70%になった。
 それから5カ月後の9月22日に、妊娠8カ月とのうれしい知らせがあり、12月26日に待望の男子を分娩したとの報告があった。
 のちに次のような便りをもらった。
 「前略、先生大変ご無沙汰したおります。おかげさまで無事出産できました。九州で出産したので、ご報告が遅れて申し訳ありません。昭和53年12月26日分娩。男子で体重3500g、身長51pでした。30時間の難産でしたが、母子ともに元気で、いまは育児に頑張っております。先生、今後ともよろしくお願い申し上げます。名前は信也とつけました」と。
〔漢方的考え方〕
 この症例は、逆算してみると、妊娠は3月末ごろとなるから、精子数がふえたころと一致する。
 この夫婦の不妊の原因は、女性ばかりでなく、男性側にもあり、夫婦ともに漢方の治療が効を奏した症例である。


※防已黄耆湯から当帰芍薬散へ
 水気の多い体質を改善して続発性不妊を克服
 
 渡部珠子。30才。結婚歴5年6カ月。昭和55年11月15日に、もう一人子どもがほしいといって来院。
 1年半ほど前に男子(3890g)を出産して以来、月経不順に悩むようになったという。月経が2カ月に1回あるくらいで排卵がなく、基礎体温が低く、だらだらとつづくという状態。このままではとても次の子宝に恵まれそうもないとあきらめムードであった。
 身長166cm、体重56kgの大柄な女性で、色白。汗をよくかくという。診察すると脈は弱く、腹は全体的にフワフワしていて水けが多い。
 色白、汗かき、水気の多い肌から考えて、防已黄耆湯を与えてみた。しかし、当帰芍薬散のほうがよいのではないかと迷った。これを2週間飲み、11月29日に来院。少し水けがとれたように見えるので、妊娠を促す当帰芍薬散に転じた。
 この薬方を9週間飲み、翌年2月21日に来院して「月経周期が短くなり、排卵がはっきりわかるようになりました」とうれしように話した。「それはよい兆候です。きっと妊娠します」とはげまし、同方をつづけて与えた。
 患者さんは毎月1回来院し、12月まで服薬すること9カ月間。57年3月30日に来院し、「妊娠4カ月で分娩予定日は9月20日です」と伝え、12月25日に排卵があったという。逆算してみると12月末に妊娠したということになる。
 流産防止のため、当帰散を与える。その後順調に経過し、57年9月17日に男子(3600g)を無事分娩した。
〔漢方的考え方〕
 この患者さんは、最初に水けを防已黄耆湯でさばき、受胎しやすい環境をつくり、次いで当帰芍薬散を与えて妊娠へと導き、最後に当帰散で流産をくい止め無事分娩させた症例である。


水気の多い体質を治して結婚8年目に妊娠
 桜井文子。36才。美容師。結婚歴6年7カ月。昭和55年10月21日に子どもがほしいといって横浜市より来院。
 1年ほど前に妊娠3カ月で流産。月経は順調で、基礎体温も高温期、低温期と二相性を示すが、高温期がちょっと低い。冷え症。食事は普通であるが辛い物が好きで、湯茶をよく飲む。便通は1日1回、小水は日中8回、夜3回で、汗かきである。
 身長164cm、体重63kgと大柄で色白。脈は弱く、腹診すると水気の多い肌で、へその上部で動悸が触れ、下腹部が冷たい。
 色白、水気の多い肌、汗かきなどに目をつけて、防已黄耆湯を与えた。それと、塩分や香辛料を控え、飲み物を減らすように指示する。これを14日間飲み、 11月4日に来院。夜の小水が1回になり、楽になったという。
 ここで妊娠を促す当帰芍薬散に転じた。これに冷えを治すため附子と、水気が多いため黄耆を加味する。この薬方を8カ月間服用し、翌年9月1日に電話があり、「妊娠しました。分娩予定日は来年の4月20日です」といううれしい知らせであった。
 その後も流産防止のために当帰芍薬散を飲みつづけ、57年4月20日に待望の女子を無事分娩した。5月末に次のようなお礼状が届いた。
「4月20日に無事女の子を出産いたしました。体重が3140g、身長49cmと、女の子としてはまあまあの大きさで、高齢のわりには楽なお産だったようです。
 母乳も出て、1カ月健診で体重も身長も順調にふえ、母子ともに健康に過ごしております。夜3回ほど授乳があるので睡眠不足に悩まされておりますが、先生のおかげで10年ぶりに子どもに恵まれたのですから、ぜいたくも言っていられません。
 少しおちつきましたらごあいさつに伺いたいと思います。とりあえずお知らせまで。ほんとうにありがとうございました。
〔漢方的考え方〕
 この患者さんも、最初に余分な水けを防已黄耆湯でさばいて受胎しやすい状態をつくり、そのあと当帰芍薬散を与えて妊娠へと導いて、流産することなく分娩した症例である。


太りすぎを治しお血をとって妊娠
 小池道子。32才。結婚歴2年。子宝に恵まれないといって、昭和55年11月8日に来院。
 月経周期は不順で、60日から70日に一度あり、量は一定せず、痛みは多少ある程度、基礎体温は高温期が短く、低温期が長い。寒がりで冷え症。
 食事は普通だが湯茶はよく飲み、果物はなんでもよくとるという。
 身長143cm、体重54kgと小太りで、色白、汗かきである。脈は弱く、腹診すると水けの多い肌で、乳頭は陥没している。
 色白、水けの多い肌、汗かきを目標に、防已黄耆湯を与えた。冷えるため附子を加味する。それと、飲み物、果物を少し減らすように指示。
 この薬方を2カ月間服用して、翌年2月21日に来院したときは、体重が2kg減少していた。
 腹診すると、右下腹部に抵抗と圧痛を認める。いわゆるお血の証である。初診のときには隠れていたのか、見つけることができなかった。乳頭をみると少し勢いづいている。下腹部のお血ポイントをあて、桂枝茯苓丸料を2カ月間投与。
 5月8日に来院。お血の圧痛がなくなっている。そこで妊娠を促す当帰芍薬散に転じた。冷えがあるため附子を加味する。この薬方を6カ月間服用すると妊娠し、57年7月2日に女子(2460g)を、さかごであったため帝王切開により、無事分娩した。
〔漢方的考え方〕
 この患者さんは、最初に余分な水けを防已黄耆湯でさばき、次にお血を桂枝茯苓丸料でとり除いて、最後に妊娠を促す当帰芍薬散を与えて成功した症例である。3段階をへて妊娠したケースといえよう。


※清心蓮子飲
 膀胱炎の治療で不妊が治り、女子出産 

 宮野久美子。36才。大学講師。昭和52年4月15日初診。膀胱炎にかかりやすく、年じゅう悩まされている。なんとか治してもらいたい、また、結婚して5年になるが、子宝に恵まれないともいって、千葉県より来院。
 身長165cm、体重54kgの大柄なタイプであるが、胃腸が弱くて冷え症。食欲は普通で、湯茶を多くとる。便通は3日に1回、小水は日中10回、月経は早くなりがちという。また、冬はしもやけができ、夏は夏負けするたちだとのこと。
 脈をみると弱く、腹診すると下腹部に弾力がない。
 不妊のことは後回しにして、まず膀胱炎を先に治すことを考え、胃弱をポイントに清心蓮子飲を与えた。冷えと便秘があるため附子と大黄を加味し、湯茶を少し控えるよう指示した。
 この薬方を6カ月間つづけて服薬すると、さしもの膀胱炎も起こらなくなり、しかも妊娠に気付いた。同僚の教師たちはもちろん、母親も想像妊娠だといってほんとうにしなかったらしい。
 翌53年1月20日に来院。12月末にはっきり妊娠とわかり、現在3カ月のはじめで、分娩予定日は8月29日という。つわりでむかむかするというので、小半夏加茯苓湯を与えた。
 妊娠中に少し尿タンパクが出たので、当帰芍薬散を服用して、53年8月22日に無事女子(2700g)を分娩する。
 10月末に来信。「お礼が遅れて申し訳ございません。おかげさまで、細長いこれど元気な女子が生まれました。高齢にもかかわらず、自然分娩でした」と。
〔漢方的考え方〕
 この症例は、慢性の膀胱炎の治療が不妊症に効果のある事を実証したものである。膀胱炎が治って腎の働きが活発になったことが、妊娠を可能にしたと考えられる。
 漢方でいう「腎」とは、今日の腎臓ばかりをいうのではなく、子宮・卵巣などの生殖器および副腎までさすのである。


慢性の膀胱炎を治し内臓の働きをよくして妊娠へ
 本山美江子。27才。結婚して3年になるがこどもができないといって、昭和53年9月29日に来院。
 月経は不順で生理痛があり、基礎体温は高温期が短い。冷え症で、よく膀胱炎を起こすという。胃腸が弱く、神経質で根つきも悪い。
 身長157cm、体重52kgで、脈は弱く、腹診すると腹全体が少し緊張していてかたい。
 この、かたいということが問題である。不妊症の患者さんを長年診察しているうちに、おなかのかたい婦人が多いことに気がついた。反対に5人も6人も子どもを生んだ婦人のおなかは、実にふっくらとして弾力性があるものだが、この患者さんのおなかは、緊張していてかたい。これは内部の機能がよわいために、表面の筋肉が突っ張って保護している状態である。そこで、内部の機能を補う薬方として、加味逍遥散を考えた。ところが、患者はこれを飲むとのぼせて動悸がするという。
 それではまず膀胱炎を直し、次に妊娠を促す薬方を用いようと考えた。胃腸が弱くて神経質であるという点に目をつけ、虚証に用いる膀胱炎の薬方、清心蓮子飲を考えた。冷え症であるために附子を加味する。
 その後、附子の量をふやすうちに、下腹部があたたまっておなか全体がやわらかくなり、膀胱炎が起こらなくなった。
 6カ月間服用して、翌54年6月12日に電話があり、腹痛のため産婦人科へ行くと、妊娠2カ月と言われ、切迫流産のおそれがあるという。すぐにきゅう帰膠艾湯を送る。
 その後、妊娠中毒症で入院したが、昭和55年2月16日に男子を分娩した。
〔漢方的考え方〕
 多年の悩みである膀胱炎を治すことによって、妊娠した症例である。
この患者さんのように、おなかが緊張してかたい場合、二とおりのことが考えられる。1つは内外ともに充実してかたい場合であり、これを漢方では実(真実)という。もう1つは、内部が軟弱で、それを保護するために外側が緊張してかたくみえている場合があり、これを外実内虚(または仮実真虚)という。
 おなかがかたい場合には、このように真実と仮実があり、この鑑別が、診察の際非常にむずかしくて、惑わされやすい。
 この点を間違えると、治療法は全く逆になる。この点(真実と仮実)を的確に診断し、薬方をきめるのが、漢方専門医のポイントである。


月経不順と冷え症を治し妊娠に成功
 山本登美子。26才。昭和55年9月9日初診。結婚して1年6カ月になるが子宝に恵まれないといって、札幌市から来院。
 月経は20才までは順調であったが、会社に勤めるようになってから不順となり、現在はホルモン剤を内服しないと月経がこない、冷え症で寒がりであるという。
 身長162cm、体重55kgと大柄であるが、血圧は最高100、最低70ミリ。脈も腹も弱く、乳房にも勢いがない。
 まず月経を順調にし、妊娠を促す当帰芍薬散を与えて様子をみることにした。冷え症があるため附子を加味する。この薬方を90日分服用して、翌年1月9日に膀胱炎になったとの連絡があったので、清心蓮子飲を送る。
 それから1カ月以上たった2月27日に、妊娠2カ月とのうれしい知らせが入り、分娩予定日は10月中旬という。その後順調に経過し、56年10月20日に女子(3200g)を無事分娩した。
〔漢方的考え方〕
 この患者さんは、逆算すると、膀胱炎で清心蓮子飲を服用していたところ妊娠したが、それは月経を順調にしようとして用いた当帰芍薬散をで卵巣および子宮の機能が改善されて、受胎しやすい条件が出来上がっていたから成功したのである。


膀胱炎体質を改善して結婚3年目に出産
 相川順子。28才。結婚歴1年9カ月。昭和56年1月9日初診。
 年じゅう膀胱炎に悩まされ、1カ月から1カ月半ごのに1回起こすという。この膀胱炎を治して子どもがほしいといって来院。
 月経周期は不定で、30日から60日と一定せず、基礎体温も低温期が長く、高温期は短い。月経痛もあり、婦人科で卵巣機能不全と診断されたという。
 身長159cm、体重57kgの大柄なタイプであるが、疲れやすく冷え症。くびや肩がこり、のぼせていらいらし、寝つきが悪く、眠りも浅い。食欲は普通であるが、塩辛い物を好むため湯茶を多くとる。便通は1日1回でかたく、小水は7〜8回程度。
 脈は弱く、腹診すると左下腹部に圧痛を認める。いわゆるお血の証である。たとえお血の証があっても、ここはまず膀胱炎の治療が先と考えて、のぼせていらいらし、疲れやすく冷える点をポイントに、清心蓮子飲を与えた。冷え症と便がかたいということで附子と大黄を加味し、食事は塩辛い物を少なめにし、湯茶を少し控えるように指示した。
 この薬方を6週間服用して3月13日に来院。たいへん調子がよいという。そのままつづけて70日間服薬して、6月20日に来院し、現在妊娠3カ月で、分娩予定日は翌年の1月19日であるとのうれしい報告があった。
 しかし、切迫流産のおそれがあるという。そこで、止血と安胎に効きめのある地黄と艾葉、子宮止血に効果のある阿膠を配合したきゅう帰膠艾湯を与えた。
 この薬方が効いたのであろうか、その後流産することもなく、無事経過し、57年2月14日、予定日よりだいぶ遅れて、男子(3474g)を自然分娩した。
 〔漢方的考え方〕
 清心蓮子飲は、中国の『万病回春』という医書に、「心中煩燥、思慮憂愁あり、夜、夢遺精し、上盛下慮して、四肢倦怠し、男子五淋、婦人帯下を治す」とあり、膀胱炎、腎盂炎、遺精、帯下などに「上盛下虚」を目標に用いる薬方である。この患者さんは、上はのぼせていらいらし、下は冷えて腎が弱く膀胱炎を起こす。これはまさに「上盛下虚」であるので、清心蓮子飲を与えたところ、多年の悩みであった膀胱炎が治り、そのうえ妊娠したのである。このように、漢方治療は常に大局的な着眼が必要である。
 それゆえ、「卵巣機能不全」がすべて当帰芍薬散で治癒されるものではないということをこの症例は証明している。


下腹部の圧痛、腰痛を治して10年目に愛児を得る
 藤島君代。31才。結婚して8年7カ月になるが、子宝に恵まれないといって昭和55年10月24日に、埼玉県より来院。
 月経周期は順調であり、基礎体温も高温期、低温期の二相性を示し、痛みもないが、冷え症である。養豚業を営む主婦で、身長160cm、体重55kgとやや大柄で健康そうに日焼けしているにもかかわらず、肩こりがひどく、腰が痛み、冬はしもやけができやすいたちという。
 食事は普通、塩辛い物を好み、湯茶を多く飲む。便秘がちでガスがたまりやすい。
 診察すると脈は弱く、下腹部が冷たい。下腹部の冷え、腰の痛み、しもやけなどを目標に、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を与えた。
 冷えがあるため、附子と、便秘するため大黄を加味する。それと、塩辛い物と湯茶を制限するように指示した。
 1カ月分服用して12月2日に来院し、体調はあまり変わらないといい、月経が2週間できたという。腹診すると、右の下腹部にかなりの圧痛が認められる。そこで大黄牡丹皮湯に転じた。
 この薬方を2週間飲み、12月19日に来院し、前の薬の方が調子よく、冷えも少なかったという。再び当帰四逆湯に戻した。この際、呉茱萸と生姜は飲みにくいというので除いた。
 この薬方を50日分服用して56年2月13日に来院。月経が3日間しかなく、少し太ってきたという。腹診すると、前にみられなかった右の下腹部の圧痛とともに、左の下腹部にも圧痛が認められる。そこで桂枝茯苓丸料を与えたが、3カ月間飲んで効果が見られなかった。
 6月12日に来院し、相変わらず腰が痛むと訴えるので、また当帰四逆湯に戻す。3週間服用して7月10日に来院し、腰の痛みは少し良くなったが、冷えは変わらないという。
 これまでいろいろと薬方を変えたきたが、いまひとつうまくいかない。思いあぐねて当帰芍薬散を与えてみた。
 すると8月28日に「妊娠6週目です」とうれしそうに来院した。これで一安心。あとは分娩までと、流産防止のため当帰散、食欲がないというので六君子湯を交互に与えて、57年4月16日に男子(2665g)を無事分娩した。
 結婚して10年目に得た子宝である。
〔漢方的考え方〕
 この患者さんは、最初に当帰四逆加呉茱萸生姜湯を与え、次いで大黄牡丹皮、再び当帰四逆湯、それから桂枝茯苓丸料、三たび当帰四逆湯と漢方を変えていき、最後に当帰芍薬散を与えて、やっと妊娠にこぎつけた症例である。
 このように迷いに迷って処方する場合もある。最初から当帰芍薬散を与えていたら、もっと早く妊娠したかもしれない。私の証のとり違いか。ほんとうに不妊症の治療は一筋なわではいかぬと痛感させられた症例である。


さまざまな症状を訴え、薬を変えた婦人が1年足らずで妊娠
 武田博子。29才。結婚歴2年2カ月。子宝に恵まれないといって昭和55年7月9日に来院。
 月経の周期は順調であるが、基礎体温は高温期がなく低温期ばかりという。胃が弱く、神経質で冷え症のタイプ。身長155cm、体重45kgの中肉中背で、脈は弱く、腹診すると軟弱でへその上に動悸がふれる。舌に少し苔がある。
 まず胃弱にポイントをおき、六君子湯を与えた。冷え症があるため附子を加味。胃弱の患者さんに、最初から妊娠を促す当帰芍薬散を与えると、胃腸障害を訴えることが多いので、このかたにも胃に活力をつける六君子湯を用いた。
 この薬方を一カ月半服用して8月22日に来院。胃腸の調子は少しよくなったようであるが、基礎体温は高温期になっても上がらないという。
 そこで少し早いかなと思ったが、当帰芍薬散を投与。まだ胃の調子が十分に回復していないので人参を、冷え症があるため附子をそれぞれ加味した。二カ月半服用して11月8日に来院。胃がむかつき、月経時には食欲が半減するという。
 やはり当帰芍薬散は合わなかったと思いながら腹診。みずおちが痞えているので、半夏瀉心湯に転じた。
 これを1カ月間服用して12月6日に来院。胃の症状はおさまったが手足が荒れ、頭が痛いという。そこで手足の荒れを目標に温経湯を与えた。
 年が明けて1月13日に来院し、月経の前後に腰が重いといい、しもやけができたというので、当帰四逆加呉茱萸生姜湯に転方する。これを1カ月服用して2月17日に来院。こんどは、すわっていてもめまいがし、すぐいらいらしし、腰が重いという。
 これまで患者の訴えによって、いろいろと薬方を与えたが、ここで初診(初心にも通ずる)に帰り、脈をみ、腹をあらためてみた。脈は弱く、へその上部に動悸がふれる。胃腸を丈夫にするよりほかにないと考え、補中益気湯を与える。冷え症であるため附子を加味する。
 これを1カ月分服用して3月17日に来院。これまで基礎体温が高温期になるべき時期に上がらなかったが、今回高温になったということで、それはおめでたい、薬が効いたのでしょうと答え、つづいて同方を与える。それから2週間たった4月14日に、きょうまで高温が17日間つづいているといって来院した。
 それは妊娠に違いないから、婦人科の先生にみてもらうように話し、同方を与えた。
 6月20日に電話があり、現在妊娠4カ月で、分娩予定日は12月4日であるといううれしい知らせが入った。その後順調に経過し、56年12月9日に女子(2760g)を分娩した。
〔漢方的考え方〕
 この患者さんの場合、来院するたびごとに薬方を変えたが、1年もたたないうちに妊娠にまでこぎつけた。
 神経質な婦人は、症状の訴えがしばしば変わるため、数段階の薬方をへて、徐々に最終薬方に達することも必要と思われる。
 妊娠したときの最終薬方は補中益気湯であったが、初めからこの薬方で、同様の結果が出たかどうかはわからない。


卵巣機能不全といわれていた婦人が10年目に妊娠
 佐田友子。36才。結婚歴8年8カ月。昭和54年6月5日に、子宝に恵まれないといって千葉県より来院。
 B大学病院の婦人科で卵巣機能不全と診断され、いろいろな治療を受けたが妊娠しない。32才のときに右の卵巣嚢腫の手術を受けている。
 月経周期は不順で、2〜3カ月に1回あるくらいで、量は多く、基礎体温は高温期が短く、低温期が長い。
 身長158cm、体重48kg。寒がりの冷え症で顔はほてる、いわゆる冷えのぼせ型で、下痢しやすい。
 診察すると、脈は弱く、下腹部に抵抗と圧痛はあるけれど、腹全体は軟弱である。血圧は最高105、最低70ミリと低い。脈が弱く、血圧も低く、腹全体が軟弱で下痢しやすい点を考えて、当帰芍薬散を与えてみた。冷えがあるため附子を加味する。
 2週間この薬方を服用させてみたものの、何か証に合っていない気がする。そこで、下腹部の抵抗と圧痛、冷え症にポイントをおき、疝の病か、お血かと考えた。まず疝とみて、当帰四逆加呉茱萸生姜湯加附子に転じたところ、7月4日来院して、この薬方は飲みにくいという。
 そこでこんどはお血とみて、桂枝茯苓丸加附子を投与した。
 すると7月20日に来院し、帯下(おりもの)があったという。まもなく月経が始まると思うと答え、つづけて投与する。
 8月11日に来院、5月以来、7月に月経が7日間あったという。なおも同方をつづけて投与する。
 10月16に来院。腹診すると、下腹部のかたい圧痛がピンとした圧痛に変わっている。ガスとみて気血に滞りに用いる折衝飲に変えた。
 この薬方を服薬すると、まもなく妊娠し、11月6日に電話があり、「妊娠しました。分娩予定日は来年の7月12日です」といううれしい知らせが入った。さっそく流産防止と安胎のために、当帰芍薬散を送った。
 昭和55年7月7日、帝王切開によって女子(3930g)を分娩した。結婚10年目にして得た子宝である。
〔漢方的考え方〕
 この患者さんの不妊の原因は、現代医学では卵巣機能不全と診断されたが、漢方的診断によればお血と気滞であった。
 しかし、最初はこれに気づかず、一般に妊娠を促す当帰芍薬散を与えた。この患者さんは実証とも虚証とも判断しにくい症状と体質があったため、疝とみたり、お血とみたりして、薬方をきめるのに迷った。一般に妊娠を促す当帰芍薬散を与えた。この患者さんは実証とも虚証とも判断しにくい症状と体質があったため、疝とみたり、お血とみたりして、薬方をきめるのに迷った。一般に当帰芍薬散は虚証タイプに用いる薬方であり、桂枝茯苓丸料は実証タイプに用いる薬方である。折衝飲はその中間タイプに用いる薬方で、前出の二方を合わせたものに、気滞を解消する紅花と延胡策を加えた薬方である。
 はじめから折衝飲を服用していたならば、もっと早くから妊娠していたかもしれないと考えられるが、実際は、桂枝茯苓丸料でお血の大部分を解消してのちに、折衝飲を与えて妊娠したのである。
 最初に患者の虚実をしっかりと見定めて薬方をきめることは、ほんとうにむずかしい。
 江戸時代の名医、山田椿庭の『段長補短記』に、次のような一文がある。
「余、常に青年白面の医、某薬、某病に即効あり、その病は速やかに癒ゆるなど明解あきらかなるを聞くごとに、甚だその説を信ぜず。それ死生を辨じ、虚実を分かつこと、古人賢哲の士もこれを難しとする。然るに容易にこれを談ずるは憎むべきの至りなり」と言い、「趙括の兵法」を引用し、「吾が子弟の容易に治療を談ずるごとに、このことを引いて、以て戒めとす」とある。
 それでは「趙括の兵法」とは何か、といえば、これは「戦いの理論や理屈の講釈はうまいが、実際に戦うとからへたである」ことをいう。
 いまから2200年前、中国の春秋時代に魏という国があった。その魏の大将の趙奢は、戦いがじょうずで、いつも秦の大軍と戦って大功を立てたが、息子の趙括と戦いのことで議論をすると、いつも負けていた。しかし趙奢は、職場の模様は机上の議論とは違うといって「「趙括の兵法」を気づかっていた。
 その後趙奢は逝くなり、魏王は兵法家として知られている趙括を大将に抜擢した。趙括は40万の大軍を引き連れて秦の白起将軍と戦い、一戦で攻めくずされ、趙括は自殺してしまった。
 父親の趙奢は、地についていない議論ばかりする趙括の兵法を憂慮していたが、ついにそれが現実となり、敗れてしまい、天下の笑いものとなった-という故事である。


卵管不全、無排卵性月経を5年かかって克服、妊娠
 小山信子。29才。結婚歴2年6カ月。子宝に恵まれないといって、昭和52年9月20日に千葉県より来院。
 月経の周期は不順で、20日から40日とさまざま。ときに中間出血もある。月経量が多いときには下腹部が痛む。基礎体温は高温期はなく、低温期のみの一相性。したがって無排卵性月経である。
 C大学病院婦人科で、卵巣の働きが悪いと言われ、右の卵管は閉鎖し、左の卵管も狭窄していると診断された。
 身長155cm、体重55kg。胃弱で冷え症。手掌はほてり、手が荒れ、冬には指紋が消える。食事は普通。油っこい物が好きなためか、口がよく渇く。
 診察すると脈は弱く、腹診荷はとくにこれといった所見はない。口渇、手の荒れ、冷え症を目標に温経湯を与えた。冷えがあるために附子を加味する。附子は前期間を通じてどの薬方にも加えた。
 3カ月間服用して、翌53年2月15日に来院。口の渇き、手の荒れはよくなったが、寒い日には腹が張り、右のこめかみが痛いという。腹診すると、右下腹部に圧痛を認める。いわゆる「疝」の病である。当帰四逆加呉茱萸生姜湯に転じた。
 2週間飲み、3月4日に来院し、こめかみの痛みはとれたが、車に酔うという。右下腹部の圧痛は訴えない。そこで月経不順に用いる当帰芍薬散を投与してみた。
 3月18日に来院して、依然として基礎体温は高温期がなく、中間出血が3日間あったという。腹診すると胸脇苦満の症状が見られるので、小柴胡湯に当帰芍薬散を合わせて用いた。
 14日分飲み、4月4日に来院し、さっぱりよくならないという。腹診すると、両下腹部に圧痛と抵抗を認める。これを目標に桂枝茯苓丸料を与えた。右に下腹部痛があるため冬瓜子を加味した。
 すると5月9日に来院し、今度の薬は飲みやすい。これまで排卵誘発剤のクロミッドを使用しても基礎体温は上昇しなかったが、今回は上昇し、高温期が14日間つづいたという。
 これに意を強くして3カ月間投与。よくなっていると思いきや、9月8日に来院して、朝夕寒さを覚え、膀胱炎になったという。清心蓮子飲を与える。
 9月30日に来院して、こんどは冷えるとおなかが張り、痛むという。疝とみて、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を与える。
 10月14日に来院し、おなかの痛みと張るのはとれたが、車に乗ると気持ちが悪いといい、月経が20日目に来て量が少ないという。
 そのつど訴えが変わり、漢方を転ずる。この1年間に、温経湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、当帰芍薬散、小柴胡湯合当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、清心蓮子飲、当帰四逆加呉茱萸湯と転じた。まさに「医、自ら転ずる」である。
 この語は、江戸中期の名医、山脇東洋が弟子たちに言った言葉で、患者の訴えに振り回されて薬方を転ずる医術のうまくない医師のことをいう。
 ここで初診に帰り、いろいろと勘案して、月経不順によく用いる当帰芍薬散を与えた。これを1年間服用。効果無しとみたが、それきり来院しなくなった。
 ああやっぱり成功しなかったか。卵管狭窄の不妊症は漢方の治療にも限界があるなと思い、その後どうしているのかと案じた。
 ところが、56年11月13日、2年ぶりに来院。この間、大学病院に通ったが妊娠しないので、もう一度漢方薬を飲みたいという。
 腹診すると、胸脇苦満の症状と、左下腹部に軽い抵抗がある。体重は2kgふえて52kg。そこで腹証により、小柴胡湯と桂枝茯苓丸とを合わせて用いた。
 これを60日間服用して、57年2月27日に来院。診察すると下腹部の抵抗はなくなっがいるが、胸脇苦満はまだわずかに残っている。
 そこでいろいろと勘案して、当帰芍薬散を与え、胸脇苦満がわずかにあるので、柴胡と黄ごんを加味した。
 60日間服薬して5月15日に来院。大学病院で通気法を行おうとしたが、血沈が高いとのことで中止したという。軽い膀胱炎があるので、当帰芍薬散加柴胡黄ごんと清心蓮子飲を、それぞれ15日分ずつ交互に飲むように指示する。
 7月3日に来院。胸脇苦満をふれないので、柴胡、黄ごんを除いて当帰芍薬散を60日分与えた。
9月18日に、同方をつづけて6日分投与した。
 すると、10月27日に、妊娠2カ月半で分娩予定日は来年6月13日という電話が入り、一瞬びっくりしたが、反面、ついに成功したかと非常にうれしかった。
 その後順調に経過し、流産することもなく、58年6月3日に男子(3200g)を自然分娩した。結婚後8年目にして得た愛児である。
〔漢方的考え方〕
 まず、希望を失わず根気よく服薬しつづけたこの患者さんの努力-これが妊娠に成功した第一のポイントであろう。
 次に、子宮、卵管、卵巣が妊娠に適応する条件を備えるには長い時間がかかる。その時点、時点において、適切に漢方をきめていってことが結果的によかった。これが第2のポイントであろう。
 漢方は、人間の体のひずみを内部からととのえてゆくもので、それも無理なく時間をかけて少しずつ調整して目的に近づく。
 この患者さんのように、漢方が絶えず転変しているときは、まだ目標に遠いことを示し、1つの薬方におちついてきたときに体調がととのえられ、成功するように感じられる。
 不妊の原因は多岐にわたっているが、この患者さんは、漢方治療でなければ解決できなかった不妊だと思う。


 日本東洋医学会で発表した不妊症治療の30例
これまで、7つのタイプに分けて77人のかたと結婚前の無月経を治療した2人のかたの実例を述べたが、私はそれ以前の昭和51年5月に、30人の症例を第27回日本東洋医学会の実例を述べたが、私はそれ以前の昭和51年5月に、30人の症例を第27回日本東洋医学会総会で発表している。
 のちに同学会誌に「不妊・不育症の漢方治験例」という標題で、30人すべての症例を要約してあげ、考察を試みた。その中の数例を原文のまま次にあげてみよう。

〔学会誌発表論文から〕
 はじめに
 不妊・不育症(流産・早産)の症例に漢方治療を行ったところ、妊娠成立に関連があったと思われる30例を経験したので、その概要を報告する。
症例
第1例(谷・和)原発性不妊症
29才 主婦 月経不順 結婚年数2年
〈初診〉昭和40年11月15日〈主訴〉腰が冷えてだるい、よく膀胱炎を起こす。いまだ妊娠しないという。患者は大柄なタイプ。腹診すると臍下が冷たい。
 当帰芍薬散を14日分服用、膀胱炎となる。しもやけがあるとのことで、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を28日分服用して軽くなる。そこで最初の当帰芍薬散に戻し、70日分投与。昭和41年3月25日に来院し、1月28日に月経が終わり、それ以来ないという。腹診すると臍下があたたまっている。おそらく妊娠であろうと思う。専門医に診察していただくように指示す。4月21日に妊娠3カ月の末であると話す。以後、流産防止のために同方を86日分服用し、11月4日に男子を分娩した。投薬日数198日分。

第12例(沢・美)続発性不妊症
30才 主婦 月経順調で2日間 少量 人工流産1回
〈初診〉昭和46年0月13日〈主訴〉子どもがほしい。
 昭和42年3月に胃腸が弱いため、2カ月で人工流産した。その後妊娠しない、片方の卵巣が癒着しているという。患者は50kgで顔色すぐれず、いつも胃がもたれて、舌苔がある。下腹部が張って腰が痛く、ガスがたまり、冷え症である。腹診すると左下腹部に圧痛を認める。ガス腹、腰痛、冷え症にポイントをおいて、折衝飲を14日分投与し、次に温経湯を74日分服用して妊娠し、翌47年4月21日に男子を分娩した。投薬総日数88日分。

第22例(長・道)不育症(習慣性流産)
29才 主婦 月経順調で少量 結婚年数5年 流産3回
〈初診〉昭和48年5月23日 〈主訴〉子どもがほしい。流産3回あり、無排卵で黄体機能不全と言われ、ホルモン注射を行ったことありという。
 患者は59kg。冷え症で、腹診すると臍下は冷たい。右乳頭は陥没している。当帰芍薬散加附子黄柏を投与。90日分服用すると、11月26日妊娠したとの知らせあり、翌49年7月12日に男子(3500g)を分娩した。投薬総日数90日分。

第30例(関・淑)原発性不妊症
31才 主婦 月経不順であったが現在は順調で少量 結婚年数3年2カ月
〈初診〉昭和50年6月7日 〈主訴〉子どもがほしい。昭和48年9月に子宮筋腫と言われて手術するも、筋腫ではなかった由。
 患者は47kg。腰が冷える。これをポイントに当帰四逆加呉茱萸生姜湯加附子を投与。21日分服用す。飲みにくい、舌がピリピリするという。そこで当帰芍薬散加附子に切りかえる。14日分与える。8月1日に来院し、7月には月経がなく、胃の調子が悪いという。おそらくつわりであろうと思う、専門医に診察してもらいなさいと話し、同方を28日分投与。翌51年3月16日に男子(3450g)を分娩した。投薬総日数63日分。

むすび
 症例を当帰芍薬散型、桂枝茯苓丸料型、建中湯型、温経湯型、胃アトニー型の五つの型に分け、使った薬方をあげた。なお、その薬方は13種類になる。


 不妊治療に用いた薬方と、漢方用語を簡単に解説しました。
「不妊と漢方」の章とあわせてお読みになれば、いっそうよく理解できると思います。

治療に用いた漢方薬方と漢方用語の解説


漢方薬方

温経湯(うんけいとう)〈出典〉『金匱要略』(漢時代)
 処方 半夏 麦門冬 当帰 川きゅう 芍薬 人参 桂枝 阿膠 牡丹皮 生姜 甘草 呉茱萸
虚弱体質の冷え症で、常に足腰が冷え、血色がすぐれず、皮膚は魚鱗のごとくカサカサし、口唇は乾き、手のひらが荒れてほてるものに用いる。子宮、卵巣が冷えているため、月経不順、腰痛、帯下(おりもの)、下腹部の膨満感あり、冬は指先が荒れる。以上の症状を目標に、不妊症に用いる。

加味逍遥散(かみしょうようさん) 〈出典〉『和剤局方』(宗時代)
 処方 当帰 芍薬 白朮 茯苓 柴胡 甘草 牡丹皮 梔子 生姜 薄荷
虚弱体質の婦人で、神経症状を伴う血の道症に用いる。顔色がすぐれず、貧血ぎみで、足腰が冷え、頭痛、頭重、肩こり、不眠、不安を訴え、気分がおちつかず、いらいらし、年じゅう不定愁訴の多い婦人。
 血の道症、更年期障害、月経不順、不妊症、ヒステリーに用いる。

帰脾湯(きひとう) 〈出典〉濟生方』(宗時代)
 処方 黄耆 人参 白朮 茯苓 酸棗仁 竜眼肉 当帰 生姜 大棗 遠志 甘草 木香
虚弱タイプで、顔色が青く、貧血状を呈し、不眠、物忘れ、動悸、出血を目標に用いる。
種々の出血、腎出血、腸出血、子宮出血に用いられ、再生不良性貧血、白血病、老人性健忘症、不眠症、神経症、月経不順、不妊症に応用される。

きゅう帰膠艾湯〈出典〉『金匱要略』(漢時代)
 処方 川きゅう、甘草、艾葉、当帰、乾地黄、阿膠
 下半身の出血がつづき、貧血の傾向のあるもの。主として子宮出血、痔出血、腎・膀胱出血、腸出血、流産の前兆に用いる。養血安胎に効きめのある四物湯(当帰、川きゅう、艾葉、地黄)に止血の薬を加えたもので、妊娠中の出血、切迫流産、分娩後の持続出血に用いる要薬。

桂枝加竜骨牡蛎湯〈出典〉『金匱要略』(漢時代)
 処方 桂枝 芍薬 大棗 生姜 甘草 竜骨牡蛎
 虚弱タイプで疲れやすく、神経質で、足が冷えてのぼせ、ふけを生じ、へそで動悸がふれるものに用いる。以上の症状を目標に、男女の不妊症に用いて成功する場合がある。
 一般に神経症、精力減退、遺尿(尿失禁)、夢精に用いられる薬方。

桂枝茯苓丸〈出典〉『金匱要略』(漢時代)
 処方 桂枝 茯苓 牡丹皮 桃仁 芍薬
 中肉中背のタイプで、血色がよく、頭重、肩こり、のぼせなどを訴え、下腹部に抵抗や圧痛がある、いわゆるお血の証に用いる。
 月経不順、月経困難症、子宮内膜炎、卵巣炎、卵管炎、子宮筋腫、不妊症、尿路結石、ジンマ疹に用いられる。

柴胡桂枝湯〈出典〉『傷寒論』『金匱要略』(漢時代)
 処方 柴胡 半夏 桂枝 黄ごん 人参 芍薬 生姜 大棗 甘草
 中肉中背のタイプで、胸脇苦満と腹直筋の緊張を目標に用いる薬方で、応用範囲が広い。感冒、気管支ゼンソク、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、肝炎、胆嚢炎、胆石症、潰瘍性大腸炎、テンカン、夜尿症、神経症、不妊症に用いられている。

四君子湯〈出典〉『和剤局方』(宗時代)
 処方 人参 白朮 茯苓 甘草 生姜 大棗
 胃腸の機能が衰えて、薄い水け(水飲)が胃にたまり、食欲がなく、少し食べただけでもみずおちが張るものに用いる。一般には胃腸虚弱症、胃アトニー、胃下垂症に用いる。
 この薬方で胃腸に活力をつけると、気力が充実し、子宮、卵巣の働きがよくなる。そこで胃アトニータイプの婦人に与え、妊娠しやすい環境づくりをする。

小柴胡湯〈出典〉『傷寒論』『金匱要略』(漢時代)
 処方 柴胡 半夏 生姜 黄ごん 大棗 人参 甘草
 中肉中背のタイプで、胸脇苦満があり、食欲不振、吐き気、疲労倦怠を訴えるものに用いる。非常に応用範囲の広い薬方で、感冒、咽喉炎、耳下腺炎、肺炎、胸膜炎、気管支炎、肺結核、肝炎、薬剤性肝障害、胆嚢炎、腎炎、ジンマ疹に応用される。
 熱の出る病気に用いるときは、胸脇苦満のほかに往来寒熱(寒気がやむと熱が上がり、その熱が下がると、また寒気がする熱型)を目標とする。
 胸脇苦満を目標に不妊症に用いる機会もある。

真武湯〈出典〉『傷寒論』(漢時代)
 処方 茯苓 芍薬 生姜 朮 附子
 平素から胃腸が弱く、冷え症で、疲れやすくて元気がなく、下痢しやすいなど、全体的に生気に乏しいものに用いる。
 手足の冷える慢性下痢、慢性腸炎、腸結核、低血圧症に用いられる。冷え症で下痢する不妊症に用いて成功する場合がある。

清心蓮子飲〈出典〉『和剤局方』(宋時代)
 処方 蓮肉 麦門冬 茯苓 人参 車前子 黄ごん 黄耆 地骨皮 甘草
 胃腸の弱い人で、血色が悪く、疲れるとすぐ小水が混濁したり、排尿時に痛みを覚えたり、残尿感を訴えるものに用いる。一般に神経質の傾向があり、慢性膀胱炎や腎・膀胱結核、帯下(おりもの)に用いるが、膀胱炎を繰かえす不妊症にもよく効く。

折衝飲〈出典〉『産論』賀川玄悦(江戸時代)
 処方 牡丹皮 川きゅう 芍薬 桂枝 桃仁 当帰 延胡策 牛膝 紅花
 当帰芍薬散と桂枝茯苓丸料を合わせたものに、気血の滞りを解消する生薬を加えた薬方。気をめぐらし、血行をよくして、腰をあたため、腹痛、腰痛、疝痛、月経痛、月経不調を訴える不妊症に用いる。夫婦関係の際、腹痛を訴えるものにもよい。

大黄牡丹皮湯〈出典〉『金匱要略』(漢時代)
 処方 大黄 牡丹皮 桃仁 芒硝 冬瓜子
 体のがっちりしたタイプで、右下腹部に抵抗や圧痛のある、お血を目当てに便秘の傾向があるものに用いる。
 本方は虫垂炎に用いられるが、そのほかに肛門周囲炎、子宮および付属器の炎症、不妊症、尿管結石、膀胱炎、湿疹などにも応用される。

大柴胡湯〈出典〉『傷寒論』『金匱要略』(漢時代)
 処方 柴胡 半夏 生姜 黄ごん 芍薬 大棗 枳実 大黄
 肉づきのよい肥満タイプで、強い胸脇苦満と心下急(みずおちの詰まった感じ)があり、頭重、肩こり、便秘を訴えるものに用いる。胃炎、肝炎、胆嚢炎、胆石、高血圧症、喘息、肥満症に応用される。胸脇苦満を目標に不妊症に用いる機会がある。
 江戸中期の名医和田東郭は本方を不妊に用いて成功した例を『蕉窓雑話』に述べている。

当帰建中湯〈出典〉『金匱要略』(漢時代)
 処方 当帰 桂枝 生姜 大棗 芍薬 甘草
 虚弱体質で疲れやすく、貧血ぎみで、腹直筋が緊張しているものに用いる。
 本方は虚弱体質の改善薬である小建中湯に血行をよくし、貧血を治す当帰を加えたもの。月経困難症、子宮付属器炎、不妊症、産後の腰痛に応用される。

当帰散〈出典〉『金匱要略』(漢時代)
 処方 当帰 川きゅう 芍薬 黄ごん 白朮
 流産、早産の傾向のある場合、特に難産癖に効果のある薬方。当帰芍薬散よりすぐれている。
 胎児を養い、胎を安らかにするには、二つの条件が必要。一つは妊娠と密接な関係にある仁脈経と衝脈経を盛んにすること。二つには血熱(手足がほてって気持ちの悪い状態)を冷まし、血行が妄動せぬことが大事。
 当帰、川きゅう、芍薬はよく血を養って、任脈・衝脈経を盛んにする生薬、黄ごんは血熱を冷まして胎動不安を解消する生薬、白朮は脾に働いて血行をコントロールし妄動させぬ生薬である。
 それで、本方は安胎の聖薬といわれ、『金匱要略』に「妊娠常に服すれば、すなわち産やすく、胎に苦疾なし」と述べている。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯〈出典〉『傷寒論』(漢時代)
 処方 当帰 桂枝 芍薬 細辛 甘草 木通 大棗 呉茱萸 生姜
 虚弱体質の冷え症で、平素から手、足、腰が冷えるものに用いる。冷えると腹が張ってガスがたまり、寒い日や雪の降る日に腹が痛む、俗に言う寒腹によく効く。当帰芍薬散よりも体をあたため、血行を盛んにする働きが強く、しもやけのできやすい不妊症によい。夫婦関係のあとの腹痛や疝による腹痛にも用いる。

当帰四逆湯〈出典〉『衛生宝鑑』(元時代)
 処方 当帰 桂枝 柴胡 芍薬、茴香 延胡索 川楝子 茯苓 沢瀉 附子
 冷え症で、冷えると下腹部から腰、股にかけてひきつれるように痛む疝の病に用いる。『傷寒論』の当帰四逆湯によく似ているが、この方には疝を治す茴香と気血の滞りを解消する延胡索、冷えを治す熱薬の附子が配合されている。疝による腹痛、不妊症、座骨神経痛に用いる。

当帰芍薬散〈出典〉『金匱要略』(漢時代)
 処方 当帰 川きゅう 芍薬 茯苓 白朮 沢瀉
 虚弱体質で疲れやすく、顔色がすぐれず、貧血ぎみで、足腰が冷え、頭痛、頭冒(頭がボーっとして帽子をかぶったように重い感じ)、まめい、動悸、月経痛、月経不順を訴え、腹部が軟弱しているものに用いる。
 体をあたため、血を増し、体液を調節して、子宮、卵巣に力をつける働きがあり、不妊症に広く用いられる聖薬。また流産防止にも役立つ「産前産後の良薬」である。

半夏瀉心湯〈出典〉『傷寒論』『金匱要略』(漢時代)
 処方 半夏 黄ごん 乾姜 甘草 大棗 黄連
 みずおちの痞えとを目標とし、胃の痛み、胸やけ、げっぷ、むかつきなど、胃の存在感のあるものに用いる。舌に白苔がついている。胃酸過多症、胃・十二指腸潰瘍の代表的薬方。不妊症でみずおちが痞えている場合、本方を用いて成功する例もある。胃と子宮・卵巣とは密接な関連があると思われる。

防已黄耆湯〈出典〉『金匱要略』(漢時代)
 処方 防已 黄耆 白朮 生姜 大棗 甘草 
 水太りの体質で、疲れやすく、汗の多いものに用いる。肌は色白で湿りけを帯び、筋肉はやわらかくて締まりがない。
 一般に肥満症、多汗症、変形性膝関節症、腎炎、妊娠腎に応用されるが、汗の多い水太りの不妊や流産しやすいものに用い、余分な水けをさばき、受胎しやすい状態づくりをする薬方。

補中益気湯〈出典〉『内外傷弁惑論』(金時代)
 処方 黄耆 人参 白朮 当帰 陳皮 生姜 大棗 柴胡 甘草 升麻
 体全体に活力がない、疲れやすい、手足がだるい、言葉や目に勢いがない、口に白い泡がたまる、食べ物に味がない、熱い物を好む、へそで動悸がふれる、脈に力がない、これらのうち、二、三の症状が揃ったものに用いる。体の「中」である脾・胃を補い、元「気」を益す薬湯で、別名、「医王湯」ともいう。
 胃アトニー、胃下垂、虚弱体質、病後の体力回復、夏やせ、痔核、脱肛などに広く用いられる薬方である。

 胃アトニー型の不妊症に、まず本方を与えて脾・胃を補い、気力、活力をつけ、妊娠しやすい母体づくりをしてのち、当帰芍薬散を投与するケースもある。

六君子湯〈出典〉『和剤局方』(宋時代)
 処方 人参 白朮、茯苓、甘草 半夏 陳皮、生姜、大棗
 胃腸の機能が衰えて、ねばりのある水け(痰飲)が胃にたまり、食欲がなく、少し食べただけでもみずおちが張るものに用いる。
 四君子湯との違いは、半夏と陳皮の二味であり、四君子湯の舌は湿りけがあっても舌苔はないが、六君子湯の舌は湿りけと舌苔がある。この舌苔の有無によって、二つの薬方の使い分けをし、胃アトニー型の婦人に用いて胃腸に活力をつけ、妊娠しやすい環境づくりをする。


漢方用語
●証
 漢方医学では「証に随って之を治す」とか、「証によって薬方を決める」という言葉が絶えず出てくる。
 それでは「証」とはなにか。「証」というのは、証拠とか確証とかの「証」で、この患者にはどんな治療(薬方)を行うべき証拠があるか、とく意味の「証」である。つまり、薬方をきめる「あかし」である。
 この証をつかむことが漢方の診断治療の原則である。

●腹証
  腹診によって証をきめることをいう。以下その主なものについて述べる。

●胸脇苦満
 漢方の腹証で、重要なものの一つ。みずおちから脇腹にかけて、患者自身つまったように感じを覚え、医師が肋骨弓の下から指を内上方へ押し上げるようにして押すと、抵抗を感じ、患者は苦痛を訴える。これを胸脇苦満という。
 その強弱の程度により、大柴胡湯、小柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯など、用いる薬方が違う。

●心下痞(硬)
 みずおちが痞えて、抵抗のある状態をいう。半夏瀉心湯を用いる腹証。

●腹皮攣急(腹直筋の緊張)
 へその両側の筋肉が棒状に緊張している状態をいう。芍薬甘草湯、小建中湯を用いる腹証。

●臍下不仁
 へそ下三寸の臍下丹田に力がなく、ふわふわして空虚な状態をいう。不仁とは均しくないとの意。臍下不仁は、腎虚の腹証で、八味丸、桂枝加竜骨牡蛎湯を用いる腹証。

●臍下拘急(小腹拘急)
 腹直筋が下腹部で突っ張っている状態をいう。これも腎虚の腹証で、腎が弱っているのに、空威張りして突っ張っている状態。八味丸、桂枝加竜骨牡蛎湯を用いる腹証。

●小(少)腹急結(お血の腹証)
 この腹証は、左側の腸骨窩にあらわれ、こすったとき急迫的な痛みを感じる筋状のものがみられる。小腹急結を診察するには、患者の両足を伸ばして仰臥位で行う。医師は患者の右側に位置し、指頭で腹壁に軽くふれたまま、へその脇から斜めに腸骨結節に向かってこする。急結の証があれば、患者はひざをかがめて痛みを訴える。
 急結の症状が強いときは桃核承気湯を用い、中等度のときは桂枝茯苓丸を用いる。
●陰・陽
 漢方の世界では「この患者は陰証だ」「あの婦人は虚証だ」というように、陰・陽、虚・実の言葉が日常茶飯事に出てくる。
 一般の人々には古くさく、カビの生えた言葉と感じられ、もう少しスマートな言葉はないものかと思われるかもしれないが、いまのところこれに該当する言葉はない。
 陰陽を、−(マイナス)と+(プラス)と考え、あるいは消極的、積極的と考えるならば、容易に理解されると思う。
 陰とは、病の勢いが消極的で、内部に隠れていてあらわれにくい状態をいう。このような場合には、乾姜や附子などの温薬を用いる。
 陰とは、病の勢いが積極的で、外部にあらわれやすい状態をいう。このような場合には、黄ごんや石膏などの寒薬を用いる。

●虚・実
 虚実という言葉も、陰陽と同じくわかりにくい言葉である。
 虚とは気力、体力ともに不足している状態で、今日の無力体質のタイプといえる。このような患者には人参・黄耆などで〈補〉する治療を行い、体力を補ってやる。
 実とは気力、体力ともにあり余っている状態で、今日の肥満体質のタイプといえる。このような患者には大黄、芒硝などで〈瀉〉の治療を行い、あり余っているものを体外へ瀉出(排出)する。
 漢方では、「虚する者はこれを補い」「実する者はこれを瀉する」というのが、その治療方針である。しかし、実際に患者さんをみる臨床の場では、虚と思ったものが案外に実であったり、実のように見える虚がある。
 虚実の判定は、漢方の診断治療の根本であるが、この診断はなかなか容易ではない。

●表実
 漢方では、病の位置を、表裏、内外、上中下に分ける。表とは体表をさし、この部にあらわれる症状を表証という。
 表実とは、体表が充実している状態をいう。

●表虚
 表虚とは、体表が衰えている状態をいう。

●裏の寒虚
 裏とは深部内臓(消化器)をさし、寒とは新陳代謝が衰えて寒冷になっている状態。
 裏の寒虚とは、消化器が冷えて虚衰している状態をいう。温補剤の四逆湯を用いて振起、回復させる。

●脾胃の虚
 漢方でいう脾は、今日の膵臓・脾臓にあたり、胃の機能を助けるものとされている。そこで、「脾胃の虚」とは、脾臓・膵臓・胃の機能が弱っている状態をいう。四君子湯、六君子湯、補中益気湯、帰脾湯などを用い、補う。

●腎、腎虚
 漢方医学でいう腎は、今日の西洋医学で言っている腎臓一つをさすのではなく、内腎・副腎・外腎の三つを総合したもの。内腎は今日の腎臓をさし、外腎は男子では睾丸、女子では卵巣を意味する。この三つの内腎・副腎・外腎を合わせて、漢方では腎という。
 性機能の弱っていることを腎虚というが、これは文字の示すとおり、腎が虚しいということ、役に立たないという意味である。これを現代流に解釈すれば、副腎からの性ホルモンの分泌障害による性機能の衰弱ということになる。腎虚の腹証は、「臍下不仁」「臍下拘急」としてあらわれる。

●お血
 ウっ滞している血液。古血をいう。

●気滞
 気の滞り。治療には気のめぐりをよくする薬を用いる。

●疝(寒疝)
 下腹部の痛みをいう。寒い日には特に痛み、下腹部が突っ張る。

●久寒
 文字どおり「久しく寒する」すなわち体の内外が長い間冷えて腹痛、腰痛、背痛、四肢痛、陰部痛などがあり、その痛みが冷えによって増悪する状態をいう。










あなたの腸年齢をチェック!
チェックリストを確認してあなたの腸年齢をチェックしてみましょう!予想通りの結果でしょうか?

カンタン腸年齢チェック!
体調・症状は?
 □ 風邪をひきやすい
 □ 体調を崩しやすい
 □ 花粉症である
 □ 肌荒れや吹き出物が出やすい

ストレスは?
 □ 仕事や家族、人間関係でストレスを感じる
 □ くよくよと思い悩むことがある
 □ イライラしやすい

生活習慣は?
 □ 寝つきがよくない、睡眠不足
 □ タバコを吸う
 □ 運動をあまりしない
 □ 朝食を抜いてしまうことが多い
 □ 食事の時間が不規則
 □ 肉中心、野菜をあまりとらない
 □ 水分をあまりとらない

便通は?
 □ 大便・おならがくさい
 □ 大便の時間が不規則
 □ 排便後もすっきりしない

 18項目中  個

 0〜3個   今は安心   実年齢と腸年齢がほぼイコールです。
 4〜7個   要注意    腸年齢が実年齢を上回っている可能性があります。
 8〜10個  危険信号   このままだと、さらに腸年齢が急速に老け込みます。
 11〜18個 深刻な状況  腸年齢の老化が深刻、免疫力が極端に低下しています。

濃縮乳酸菌(FK−23菌)で、腸年齢を若く保ちましょう!



腸が大切です!
免疫細胞が弱体化し、外敵やガン細胞を撃退する力が低下
悪玉菌が増え老廃物や有害物質を排除できない
腸の粘膜成分が減り、外敵が侵入しやすくなる
         ↓
老いた腸はさまざまな病気のもとに!

免疫力の低下
便秘がち 
肌が荒れやすい
風邪をひきやすい また治りにくい
疲れやすい
慢性的な微熱がある

あなたの「腸年齢」だいじょうぶ? 人は“腸”から老化する!

目指すのはこんな若々しい腸!
きれいな腸
ハツラツとした腸
うるおいのある腸

腸の働きが活発になれば・・・
いつもイキイキとした元気な体に!
病気になりにくい体に!
気持ちも行動もアクティブに
いつも笑顔でいられる
腸元気!

腸能力
免疫力が高まる
いつも元気で笑顔でいられる
気持ちも行動もアクティブに



免疫力を強化し、ガンと闘える体になると評判の免疫療法!
ガンに負けない!気力を高める!
私たちの体に備わっている免疫システムは、体内に侵入してきた細胞などの異物を排除し、ガンの芽がガン細胞にならないように封じ込める働きがあります。

体内最大の免疫臓器である小腸を強化する「濃縮乳酸菌」。

体の免疫の中心[腸]を鍛えて免疫力をアップさせガン体質を一掃、末期でもガンが消失と医師も使う[濃縮乳酸菌]
濃縮乳酸菌は体内最大の免疫臓器・小腸の腸管粘膜を強化しガンの再発・転移防止

免疫細胞の70%は腸に集中していて免疫力を発揮するには善玉菌増やしが必要
 私たちは、体内に侵入してきた細胞などの異物を排除する「免疫システム」を持っています。免疫システムで活躍するのは、胸腺や骨髄で作られているT細胞、B細胞、樹状細胞といった免疫細胞です。異物である抗原を見つけるのが、樹状細胞の役割。
抗原を察知すると、樹状細胞は抗原情報をT細胞に知らせます。T細胞はB細胞に抗原情報を伝え、抗原を攻撃する抗体が作られます。このような免疫システムを、「全身免疫系」といいます。
 全身免疫系の主役のT細胞、B細胞は、リンパ節や脾臓で待機しています。しかも、免疫細胞のおよそ70%は、異物の入り口である腸に存在しているのです。
 腸には、無数の細菌が存在します。500種類以上、100兆個を超える常在菌(腸内細菌)のほか、食べ物といっしょに細菌などの異物もたくさん運ばれてきます。体外から運ばれてくる異物から体を守るため、腸粘膜にはパイエル板というリンパ組織などの腸管関連免疫組織があり、腸は独自の「腸管免疫」というシステムを持っています。
 腸管免疫の働きを活発にするには、善玉菌、悪玉菌、日和見菌からなる腸内のバランスをよくすることが大切です。具体的には、善玉菌優位な腸内環境を維持する必要があるのです。腸内細菌の割合は、本来、善玉菌と悪玉菌がそれぞれ15%ずつ、日和見菌が残りの70%程度だとわかっています。
 乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌は、食べ物の消化・吸収をよくし、ビタミンの合成や腸管運動の活性化に役立っています。免疫力を強くするのも、善玉菌のとても大切な役割です。ウェルシュ菌をはじめとする悪玉菌は、腸の内容物を腐敗させ、アンモニアなどの有害物質を作り出します。
















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